【完結】かつて勇者だった者

関鷹親

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 春輝はそれから洗脳が解けていると悟られないように気を遣いながら、体力の回復に努めた。城にいる全員が敵の可能性もある中で生活するのはとても骨が折れる。
 良かったことと言えば、春輝の態度と性格が元より洗脳されていても、歴代勇者達のようにキラキラしいものではなかったと言うことだろう。
 洗脳されている時は素直で、解けたら元に戻る。もしそうであったならば、早々に洗脳が解けたと知られてしまったていたはずだ。
 だが実際はそうではなかったし、春輝が下手な行動や言動をしなければ露見するようなことはない。

 オーバンは献身的なほどに春輝の回復に助力していた。部屋に来るのはオーバンを除けば、神殿から派遣される神官や、宮医達、それに細かな世話をする侍従達だ。
 朝と夜に診察され、治癒を施される。部屋には常に侍従が控え、煩わしさしかない。討伐へと向かう以前も侍従は部屋に常にいたのだが、春輝はいちか以外に意識を向けていなかったのでそんな煩わしさを感じなくて済んでいた。
 だがいちかが居なければ同じ空間に居る侍従にどうしても意識が言ってしまう。
 頻繁に出入りしてくる神官達や宮医達もそうだ。治癒は遅々としてしか進まず、衰えすぎた体はベッドから降りるにも一苦労だ。

 毎朝カーテンが開けられ、無駄に豪勢な朝食を取らされる。その間に寝室をメイド達が整え、朝食が終われば診察と治癒を受ける。
 夜は再び悪夢に溺れ、朝をひたすらに待つ生活。あの夜以降、ガベルトゥスが春輝の元に訪れることはなかった。
 夢の中ですらあの声は聞こえない。人を協力者として巻き込んでおきながら、一週間姿を見せないガベルトゥスに春輝は苛ついていた。
 体の自由は利かず、悪夢に魘され朝まで起きれず、常に人が控えている状況にストレスを感じないわけがない。

 そこから更に二週間も経てば、ガベルトゥスが入れ込んだ魔族の魔力が薄らいだのか、聖剣が無くとも悪夢は増幅しているようだった。
 ギリギリと悪夢に抗っていた春輝は微かな声を捉え、意識を急速に浮上させた。

「酷い顔だ」

 目を開ければ、近い距離で春輝の顔を覗き込んでいるガベルトゥスが居る。その姿を認識した春輝は、苛立ちのまま盛大に舌打ちをした。

「なんだ、折角来てやったのに随分な挨拶だな」
「来るのが遅いんだよ」

 下から睨み付ける春輝にはお構いなしに、ガベルトゥスは春輝の顔を更に覗き込んでくる。繁々と眺められ一向に魔力をくれようとはしないガベルトゥスに痺れを切らした春輝は、ガベルトゥスの胸倉を掴むと勢いよく自分の方へと引き寄せた。

「っと、なんだいきなり、危ないだろうが」
「とっとと魔力をよこせよ、魔王様。お前が来ないせいで悪夢に魘されて最悪な気分なんだよ」

 そう言った春輝は、更にガベルトゥスを引き寄せると、その唇に食らいつく。そんな春輝の行動に驚き、目を見開いたガベルトゥスは喉の奥でくつくつと笑いながら、春輝の要求通りに自身の魔力を流した。
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