26 / 123
26 提案
しおりを挟む
暫くして涙を押しとどめた春輝は、うさぎのぬいぐるみを抱いたままガベルトゥスに視線を向ける。だがその時、またもや収まった筈の痛みが春樹の頭を襲ってきた。ガベルトゥスが言っていた通り、聖剣を壊したところでやはり一時凌ぎにしかならないのだろう。
「もう痛み出したか」
「どうやったら収まるんだ、早く教えろ」
顎に手を当てながら、僅かに考える素振りを見せたガベルトゥスはしかし、次の瞬間にはにやりと笑い、春輝との距離を縮めてきた。
「言うより実践した方が早い、そう思うだろう?」
有無を言わさぬ勢いでガベルトゥスは再び春輝の唇を塞いでくる。目覚めた時もそうだったが、痛みは確かに和らいでいた。こんなふざけたことがガベルトゥスの言う収まる方法だというのか。
春輝をベッドに縫い付け拘束し、口内をいいように弄ぶガベルトゥスを睨みつけた春輝は、その舌を思い切り噛んでやった。
「ッ! っとに、じゃじゃ馬だな」
「自業自得だろう、とっとと口で説明しろ」
春輝の素っ気ない態度に苦笑しながらも、ガベルトゥスは怒る素振りは見せず、寧ろ楽しそうにしている。
「仕方ないな。その洗脳は聖剣から入り込んだ核が原因だ。その核は例え聖剣が破壊されようとも消滅することはない。魔王討伐で剣が折れることもあるからだろうな。所謂保険をかけているわけだ。その核を壊せば洗脳も悪夢も、ついでに押し付けられている魔力も綺麗さっぱりなくなる」
「それはわかった。だけど態々キスする意味がどこにあるんだよ」
「核を壊すのに一番いい方法は、相反する力をぶつけること。つまりは人間が持つ魔力とは別の、魔族の力をぶつければいい。だが直にぶつけて破壊すればお前自身も壊れることになる。一気に壊すのではなく、少しづつ壊さなければ脳が損傷するぞ? 今は、死んだらお互いに困るだろう? 血を飲むのが次に手っ取り早いが魔族の血なんて不味くて飲めたもんじゃない。それに……情緒がないと思わないか?」
そう言いながら春輝の髪を弄んでくるガベルトゥスの手を横目に、嫌そうに視線を投げるがその手が止まることはない。
それどころか緩慢な動きで春輝の耳の後ろから首筋を撫でてくる。ごくごつとした大きな手にた肌の奥がざわりと粟立った。
「俺はお前を気に入っている。それこそ仲間に引き入れるくらいにはな。まぁそう言う意味でも気に入ってるんだが」
くつくつと笑いながら、騎士達から襲われていた場面は良かったと言われ、春輝は思わず渋面を作る。
「俺にはそんな趣味はない」
「そうなのか? それは残念。だったらハルキは…そうだな、人工呼吸とでも思っていればいい。俺は楽しめるし、ハルキは核を壊せる。まさにWIN-WINだろう?」
「クソみたいな提案だな」
「でもお前はこの提案を呑むだろう?」
――復讐のために。
そう言われてしまえば春輝は確かにガベルトゥスの提案を呑むしかない。だが一人楽し気にしているガベルトゥスには悪いが、春輝自身にはそんな趣味など一切ないのだ。むしろ性欲すらも持ち合わせてはいないといった方が正しい。妹を守ることだけに尽力してきた春輝には、年相応のそういった感情が欠如している。
愛情は妹ただ一人に向けるもので、当然ながら恋愛などもしたことがない。自身が他人からどう見られているかを正しく理解はしているが、いちか以外からの評価など春輝にとっては無いに等しく、ただただ煩わしいだけだ。
目の前にいるガベルトゥスもまた、春輝に対してどういったわけかそう言った欲を持っているという。だが他の人々との違いを上げれば、ガベルトゥスに恋愛感情を持たれているわけではないといったところだろうか。
何がいいのか春輝にはさっぱりわからないが、ガベルトゥスは性欲処理として春輝を使いたいらしかった。春輝は顔立ちが良いとはいえ、ガベルトゥスには劣るが体格はしっかりとしているほうで、決して女性のように線が細いわけでもない。
春輝を襲ってきた騎士達もそうだが、女を抱いた方がよほどマシではないのかと思わずにはいられない。
男らしさの中に妙な艶を持ち合わせるガベルトゥスなら引く手あまただろうと本人に言えば、面倒だから下手な人間に手を出したくないと返される。
手近で信用に足りえる人間の方が好ましいのだと。ガベルトゥスの考えに春輝はいくら言っても仕方がないことだと悟る。どの道ガベルトゥスから与えられる物がなければ、核は壊せはしない。
「とっとと終わらせろ」
「この俺にそんなこと言えるのはお前だけだぞハルキ」
「そうかよ、嬉しくもなんともないな」
諦めたような態度の春輝にガベルトゥスが再び口づけようとすれば、途端に春輝のお腹が盛大に鳴った。
「……情緒って言葉を知ってるか?」
「目覚めたばっかりの人間に言うことじゃないだろ」
やれやれと軽く頭を振ったガベルトゥスは、興が削がれたと言うと、春輝の前から姿を消した。静けさが重く圧し掛かるような部屋の中で、春輝は肺の中の空気を全て出すような溜息をついた。
突然やってきては突然消え、忙しい奴だなと春輝は独り言ちる。だがそのお陰で、春輝は現状を理解できた。いちかが殺されたかもしれない可能性も、洗脳や力のことも。
何故魔王であるガベルトゥスがそこまで知っているのかも疑問だが、それはおいおい聞けばいいだろう。お腹の音は一度鳴り出したら止まらない。確かに空腹ではあるが、それよりも眠気が勝り、春輝はそのままうさぎのぬいぐるみをまるで妹のように抱きしめると、ゆっくりと眠りに落ちていった。
「もう痛み出したか」
「どうやったら収まるんだ、早く教えろ」
顎に手を当てながら、僅かに考える素振りを見せたガベルトゥスはしかし、次の瞬間にはにやりと笑い、春輝との距離を縮めてきた。
「言うより実践した方が早い、そう思うだろう?」
有無を言わさぬ勢いでガベルトゥスは再び春輝の唇を塞いでくる。目覚めた時もそうだったが、痛みは確かに和らいでいた。こんなふざけたことがガベルトゥスの言う収まる方法だというのか。
春輝をベッドに縫い付け拘束し、口内をいいように弄ぶガベルトゥスを睨みつけた春輝は、その舌を思い切り噛んでやった。
「ッ! っとに、じゃじゃ馬だな」
「自業自得だろう、とっとと口で説明しろ」
春輝の素っ気ない態度に苦笑しながらも、ガベルトゥスは怒る素振りは見せず、寧ろ楽しそうにしている。
「仕方ないな。その洗脳は聖剣から入り込んだ核が原因だ。その核は例え聖剣が破壊されようとも消滅することはない。魔王討伐で剣が折れることもあるからだろうな。所謂保険をかけているわけだ。その核を壊せば洗脳も悪夢も、ついでに押し付けられている魔力も綺麗さっぱりなくなる」
「それはわかった。だけど態々キスする意味がどこにあるんだよ」
「核を壊すのに一番いい方法は、相反する力をぶつけること。つまりは人間が持つ魔力とは別の、魔族の力をぶつければいい。だが直にぶつけて破壊すればお前自身も壊れることになる。一気に壊すのではなく、少しづつ壊さなければ脳が損傷するぞ? 今は、死んだらお互いに困るだろう? 血を飲むのが次に手っ取り早いが魔族の血なんて不味くて飲めたもんじゃない。それに……情緒がないと思わないか?」
そう言いながら春輝の髪を弄んでくるガベルトゥスの手を横目に、嫌そうに視線を投げるがその手が止まることはない。
それどころか緩慢な動きで春輝の耳の後ろから首筋を撫でてくる。ごくごつとした大きな手にた肌の奥がざわりと粟立った。
「俺はお前を気に入っている。それこそ仲間に引き入れるくらいにはな。まぁそう言う意味でも気に入ってるんだが」
くつくつと笑いながら、騎士達から襲われていた場面は良かったと言われ、春輝は思わず渋面を作る。
「俺にはそんな趣味はない」
「そうなのか? それは残念。だったらハルキは…そうだな、人工呼吸とでも思っていればいい。俺は楽しめるし、ハルキは核を壊せる。まさにWIN-WINだろう?」
「クソみたいな提案だな」
「でもお前はこの提案を呑むだろう?」
――復讐のために。
そう言われてしまえば春輝は確かにガベルトゥスの提案を呑むしかない。だが一人楽し気にしているガベルトゥスには悪いが、春輝自身にはそんな趣味など一切ないのだ。むしろ性欲すらも持ち合わせてはいないといった方が正しい。妹を守ることだけに尽力してきた春輝には、年相応のそういった感情が欠如している。
愛情は妹ただ一人に向けるもので、当然ながら恋愛などもしたことがない。自身が他人からどう見られているかを正しく理解はしているが、いちか以外からの評価など春輝にとっては無いに等しく、ただただ煩わしいだけだ。
目の前にいるガベルトゥスもまた、春輝に対してどういったわけかそう言った欲を持っているという。だが他の人々との違いを上げれば、ガベルトゥスに恋愛感情を持たれているわけではないといったところだろうか。
何がいいのか春輝にはさっぱりわからないが、ガベルトゥスは性欲処理として春輝を使いたいらしかった。春輝は顔立ちが良いとはいえ、ガベルトゥスには劣るが体格はしっかりとしているほうで、決して女性のように線が細いわけでもない。
春輝を襲ってきた騎士達もそうだが、女を抱いた方がよほどマシではないのかと思わずにはいられない。
男らしさの中に妙な艶を持ち合わせるガベルトゥスなら引く手あまただろうと本人に言えば、面倒だから下手な人間に手を出したくないと返される。
手近で信用に足りえる人間の方が好ましいのだと。ガベルトゥスの考えに春輝はいくら言っても仕方がないことだと悟る。どの道ガベルトゥスから与えられる物がなければ、核は壊せはしない。
「とっとと終わらせろ」
「この俺にそんなこと言えるのはお前だけだぞハルキ」
「そうかよ、嬉しくもなんともないな」
諦めたような態度の春輝にガベルトゥスが再び口づけようとすれば、途端に春輝のお腹が盛大に鳴った。
「……情緒って言葉を知ってるか?」
「目覚めたばっかりの人間に言うことじゃないだろ」
やれやれと軽く頭を振ったガベルトゥスは、興が削がれたと言うと、春輝の前から姿を消した。静けさが重く圧し掛かるような部屋の中で、春輝は肺の中の空気を全て出すような溜息をついた。
突然やってきては突然消え、忙しい奴だなと春輝は独り言ちる。だがそのお陰で、春輝は現状を理解できた。いちかが殺されたかもしれない可能性も、洗脳や力のことも。
何故魔王であるガベルトゥスがそこまで知っているのかも疑問だが、それはおいおい聞けばいいだろう。お腹の音は一度鳴り出したら止まらない。確かに空腹ではあるが、それよりも眠気が勝り、春輝はそのままうさぎのぬいぐるみをまるで妹のように抱きしめると、ゆっくりと眠りに落ちていった。
11
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
魔王様が子供化したので勇者の俺が責任持って育てたらいつの間にか溺愛されてるみたい
カミヤルイ
BL
顔だけが取り柄の勇者の血を引くジェイミーは、民衆を苦しめていると噂の魔王の討伐を指示され、嫌々家を出た。
ジェイミーの住む村には実害が無い為、噂だけだろうと思っていた魔王は実在し、ジェイミーは為すすべなく倒れそうになる。しかし絶体絶命の瞬間、雷が魔王の身体を貫き、目の前で倒れた。
それでも剣でとどめを刺せない気弱なジェイミーは、魔王の森に来る途中に買った怪しい薬を魔王に使う。
……あれ?小さくなっちゃった!このまま放っておけないよ!
そんなわけで、魔王様が子供化したので子育てスキル0の勇者が連れて帰って育てることになりました。
でも、いろいろありながらも成長していく魔王はなんだかジェイミーへの態度がおかしくて……。
時々シリアスですが、ふわふわんなご都合設定のお話です。
こちらは2021年に創作したものを掲載しています。
初めてのファンタジーで右往左往していたので、設定が甘いですが、ご容赦ください
素敵な表紙は漫画家さんのミミさんにお願いしました。
@Nd1KsPcwB6l90ko
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
アンチに悩んでいた高校生インフルエンサーのおれ、どうやらヤバい奴に相談してしまったようです
大圃(おおはた)
BL
高校生ながら動画で有名になっているふたりのインフルエンサーのお話。
執着攻めの短編。キスまでのゆるーいBLです。
【あらすじ】
歌やダンスが得意で小さな事務所に所属している高校生インフルエンサーの相野陽向(16)は急に増えたアンチコメントと誹謗中傷に頭を悩ませている。幼馴染から「ほかのクラスに個人でやってる弾き語り系の配信者がいる」と聞いた陽向は5組の南海斗(16)のもとを訪れ、アンチについて相談。しっかり対応してくれた彼といっしょにコラボ動画を撮るなど、次第に仲良くなっていくふたりだが、ある日、陽向は屋上で海斗に関する衝撃の事実を知ってしまい――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
[完結]嫁に出される俺、政略結婚ですがなんかイイ感じに収まりそうです。
BBやっこ
BL
実家は商家。
3男坊の実家の手伝いもほどほど、のんべんだらりと暮らしていた。
趣味の料理、読書と交友関係も少ない。独り身を満喫していた。
そのうち、結婚するかもしれないが大した理由もないんだろうなあ。
そんなおれに両親が持ってきた結婚話。というか、政略結婚だろ?!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる