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24 聖剣
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洗脳と言われたが、春輝はピンとこない。ガベルトゥスの発言がよく分からず、僅かに首を傾ければ、ガベルトゥスはドカリとベッドに腰を下ろしてきた。
「この世界に来てすぐに、あの剣を触らされただろ? アレに持ち主を洗脳する力があるのさ。それと同時に、本来使えないはずの力も使えるようになる。身に覚えがあるだろ?」
「確かに身に覚えはあるけど……それを洗脳に結びつけるなんて無理矢理すぎるんじゃないか?」
「まぁ、まぁ、最後までよく聞け。お前は妹が死ぬほど大事だった、そうだな? それが如何に事情があれど、異世界に来たばかりの状態で置いてくるなんて普通は選択しないだろうよ」
ガベルトゥスの言う通りだった。いちかが刺され瀕死の状態であったが、治ればトンズラをしても良かったのだ。だが春輝はそうはせず、まるで当然のように魔王討伐を受け入れたままだった。
記憶の中で普段の自身の思考との矛盾点を探していれば、ガベルトゥスは更に春輝の知らない話を続ける。
異世界から来た人間はこれも考えてみれば当然なのだが、そもそもの体の構造がこの世界の人間とは違う。
この世界の人間が生まれながらに大なり小なり持っている魔力を当然の如く転移者は持ってはいない。本来ならば魔法など使うことができないはずなのだ。
だが聖剣を通し、都合の良い情報を植え付けられ、洗脳されるのと同時に、魔力も無理矢理体内に留めさせられる。それも常人が持ちえないほどの魔力をだ。
異世界から召喚されるのは「勇者」なのだから、一般人と同じ魔力量でいいはずがない。体の中にあふれるほど、限界まで入れられた魔力の量が、その勇者の力の強さの度合いとなるのだ。
春輝の場合、魔力が体の限界値ギリギリまで留めることができたために、歴代の中で最強に近い力を得ていた。
「お前は運がいいんだ、ギリギリまで魔力を入れた状態で生きていられるんだから」
「どういうことだ?」
「風船に空気を入れすぎたら最後、どうなるかぐらいわかるだろう?」
ぼんっと手を爆発に見立てて開いたガベルトゥスは愉快そうに笑う。召喚された挙句、魔力が限界値を超え死を迎えた転移者は何人もいるという。
力が発現する前に死んだ者、訓練中に死んだ者、それらは全て闇に葬り去られ、新たな勇者が密かに召喚され、魔王討伐へと向かわせられるのだ。
春輝が剣を手にしたあとに意識を失い、数日倒れたのはこのためだ。この世界に来てから見続けた悪夢もまた、この聖剣のせいであったのだ。
朝まで自力で目覚められないのは、夢の中でより強固に洗脳を施されるためで、日々感じていた頭痛も、身体の中を這い回る気持ちの悪い感覚も、本来あるはずがない魔力という異物が入り込んでいるからだ。
聖剣に触ればそれらが和らいだのは、魔力が一時的にでも聖剣へ流れるため体内の魔力量が減り和らいだだけのこと。しかし聖剣と言われている物に対し、人はどうしたって不思議な力があると信じてしまう。この剣があれば……と剣への依存を高めさせることで、安易に手放すことをさせず、着実に洗脳を深めていくのだ。
「証拠をみせてやろう」
ガベルトゥスはベッドの横に立てかけてあった剣を手に取ると、春輝に見せつけるように鞘からゆっくりと抜く。
途端に春輝に頭を貫くような激痛が走り、顔を顰めた。痛みで手が震え、まるで警告音が鳴るように、頭の中はガンガンと痛んでいく。
――取り返さなくては。春輝の思考がそれ一色に染まりかけたころ、魔力を体の外にまで揺らめかせ青筋を立てる春輝を見ながら、ガベルトゥスはその刀身を躊躇いなく魔力を纏わせた拳でバキリと叩き折ったのだ。
それと同時に春輝を襲っていた激痛が嘘のように四散し消え去る。唖然としてたままガベルトゥスを見上げれば、そこには得意げに笑みを深めた顔があった。
「この世界に来てすぐに、あの剣を触らされただろ? アレに持ち主を洗脳する力があるのさ。それと同時に、本来使えないはずの力も使えるようになる。身に覚えがあるだろ?」
「確かに身に覚えはあるけど……それを洗脳に結びつけるなんて無理矢理すぎるんじゃないか?」
「まぁ、まぁ、最後までよく聞け。お前は妹が死ぬほど大事だった、そうだな? それが如何に事情があれど、異世界に来たばかりの状態で置いてくるなんて普通は選択しないだろうよ」
ガベルトゥスの言う通りだった。いちかが刺され瀕死の状態であったが、治ればトンズラをしても良かったのだ。だが春輝はそうはせず、まるで当然のように魔王討伐を受け入れたままだった。
記憶の中で普段の自身の思考との矛盾点を探していれば、ガベルトゥスは更に春輝の知らない話を続ける。
異世界から来た人間はこれも考えてみれば当然なのだが、そもそもの体の構造がこの世界の人間とは違う。
この世界の人間が生まれながらに大なり小なり持っている魔力を当然の如く転移者は持ってはいない。本来ならば魔法など使うことができないはずなのだ。
だが聖剣を通し、都合の良い情報を植え付けられ、洗脳されるのと同時に、魔力も無理矢理体内に留めさせられる。それも常人が持ちえないほどの魔力をだ。
異世界から召喚されるのは「勇者」なのだから、一般人と同じ魔力量でいいはずがない。体の中にあふれるほど、限界まで入れられた魔力の量が、その勇者の力の強さの度合いとなるのだ。
春輝の場合、魔力が体の限界値ギリギリまで留めることができたために、歴代の中で最強に近い力を得ていた。
「お前は運がいいんだ、ギリギリまで魔力を入れた状態で生きていられるんだから」
「どういうことだ?」
「風船に空気を入れすぎたら最後、どうなるかぐらいわかるだろう?」
ぼんっと手を爆発に見立てて開いたガベルトゥスは愉快そうに笑う。召喚された挙句、魔力が限界値を超え死を迎えた転移者は何人もいるという。
力が発現する前に死んだ者、訓練中に死んだ者、それらは全て闇に葬り去られ、新たな勇者が密かに召喚され、魔王討伐へと向かわせられるのだ。
春輝が剣を手にしたあとに意識を失い、数日倒れたのはこのためだ。この世界に来てから見続けた悪夢もまた、この聖剣のせいであったのだ。
朝まで自力で目覚められないのは、夢の中でより強固に洗脳を施されるためで、日々感じていた頭痛も、身体の中を這い回る気持ちの悪い感覚も、本来あるはずがない魔力という異物が入り込んでいるからだ。
聖剣に触ればそれらが和らいだのは、魔力が一時的にでも聖剣へ流れるため体内の魔力量が減り和らいだだけのこと。しかし聖剣と言われている物に対し、人はどうしたって不思議な力があると信じてしまう。この剣があれば……と剣への依存を高めさせることで、安易に手放すことをさせず、着実に洗脳を深めていくのだ。
「証拠をみせてやろう」
ガベルトゥスはベッドの横に立てかけてあった剣を手に取ると、春輝に見せつけるように鞘からゆっくりと抜く。
途端に春輝に頭を貫くような激痛が走り、顔を顰めた。痛みで手が震え、まるで警告音が鳴るように、頭の中はガンガンと痛んでいく。
――取り返さなくては。春輝の思考がそれ一色に染まりかけたころ、魔力を体の外にまで揺らめかせ青筋を立てる春輝を見ながら、ガベルトゥスはその刀身を躊躇いなく魔力を纏わせた拳でバキリと叩き折ったのだ。
それと同時に春輝を襲っていた激痛が嘘のように四散し消え去る。唖然としてたままガベルトゥスを見上げれば、そこには得意げに笑みを深めた顔があった。
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