【完結】かつて勇者だった者

関鷹親

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12 魔獣2

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 春輝に追い立てられるように魔獣達の前へと行くことになった男達は、たった数人で魔獣達と対峙する羽目になっていた。目の前に迫り来る魔獣達は通常であればこんな少人数で対峙するような魔獣ではない。
 先行して魔獣と戦っていた騎士達は、既にトビアスの指示で隊列まで戻ってきていた。生贄のように選ばれた男達に皆哀れみの目を向け、自分達の命が長らえたことに安堵しているようだ。
 春輝からしてみれば、どこに安堵する余地があるのかわからない。彼らは皆春輝を目の敵にしていたのだから、今この場で全員を魔獣の餌食にしたいくらいなのだ。

 聖剣を抜いた春輝に抗議できるわけもなく、男達は怯えながらも魔獣に向かっていくしかなかった。魔法を駆使し、剣を突き立て、男達は魔獣に絶え間なく攻撃を与えていく。
 討伐部隊に組み込まれるだけはあるのか、男達はやはり強かった。巧みに魔獣の攻撃を避けながら戦っていく。
 しかし所詮は人間。大きく強靭な魔獣達の前では、その力も非力なものだ。
 先行していた騎士達が与えていたであろうダメージを、まったく感じさせない動きを見せる魔獣達は、有り余る力で男達を追い詰める。
 一体であれば勝算はまだあったのかもしれないが、魔獣の数は五体。早々に男達の声は雄々しい怒声から、なんとも情けない悲鳴にとって代わってしまう。

「助けてくれっ……たすけろ、勇者ぁぁ!!」
「俺がお前を助けると思うか?」

 こてんと首を傾げた春輝は、薄く口端を吊り上げながら答える。男達は一瞬絶望したような表情を見せたがすぐに怒りに塗り替え、春輝に魔法で作り上げた炎を投げつけてきた。
 あまりにも幼稚な行動に、春輝は聖剣の剣先を上げ、軽く剣を一振りする。すると男が放った炎はいとも簡単に消えさってしまった。
 お返しとばかりに春輝が剣を男に向ける。唖然とする男めがけて、春輝は躊躇いなく高温度の青い炎を放つと、その炎は男を包み込んだ。

 炎に包まれた男の悲鳴はなかなか収まることはなかった。吸い込んだ熱気と炎は男の喉を焼き尽くし、のたうち回りながら草の上を、転がり回る。
 その間も魔獣達は他の男達を攻撃していき、ついには春輝以外その場に立つ者はいなくなった。

 蹂躙されつくした男達の死体から、獲物を春輝へと変えた魔獣達は再び咆哮を上げながら突進してくる。
 握る聖剣の柄に力を込めれば、体中を這いまわる異物が力を増幅させたように膨れ上がった。
 フッと息を軽く吐き腰を落とし春輝は、地面を強く蹴り低い姿勢のまま、弾丸のように魔獣に突っ込んでいく。大きな巨体から見れば一瞬姿を消したように見えただろう。
 そのまま魔獣の足元に滑り込むと、横凪ぎに聖剣を滑らせ、太く毛の覆われた魔獣の足を切りつけた。
 途端に溢れ出した魔獣の血は赤ではなく青だ。その色合いに一瞬目を見開いた春輝だがしかし、すぐに気を取り戻す。
 振り払った勢いのまま、今度は下から聖剣を振り上げ魔獣の腹を切り裂く。瀕死の傷を負った巨大な魔獣が一体、大きな音と砂埃を舞い上げ地面に倒れ伏した。

 その後も春輝は休むことなく、残りの四体の魔獣に迫る。体内で荒れ狂う異物に吐き気がするが、聖剣はそんなことはお構いなしに力を発揮した。
 俊敏な動きで魔獣達を混乱させ、自身に攻撃する隙を一切与えず、春輝は次々に魔獣達を切り刻んでいく。
 最後の一体が大きな地響きと共に倒れる頃には、春輝は魔獣達の血で全身を真っ青に染め上げていた。



 騎士達が何十人と束になっても倒せなかった魔獣達をいともたやすく屠った春輝に、騎士達は尊敬の念よりも畏怖を感じてしまう。
 トビアスもまた、唖然とその様子を見ているしかできなかった。
 まさかこれほどまでの力を持っているとは。春輝を侮っていた騎士達も、今や皆そう思っているだろう。
 勇者はやはり勇者なのだと。
 訓練は力の発現以来、あまりやらなかった。最初のインパクトがあまりにも強く、そしてその力が安定して出せるのならば大丈夫だろうと思い、訓練はあまりしなかったのだ。
 だから、と言うのもあるのだろうが、皆が春輝の勇者としての実力を見誤ったのだ。
 嫌がる春輝を無理矢理にでも実践形式での模擬戦でもやっていれば、もしかしたら騎士達の態度も違ったものになっていたかもしれない。
 そして部下達も無駄死にせずに済んだかもしれないのだ。しかし後悔しても過ぎたことは今更戻しようもない。
 静かに目を瞑り少しの間、死んだ部下達を弔ったトビアスは、目を開けると気持ちを切り替え春輝が戻るのを待つのだって。

 一人で隊列まで戻って来た春輝に、トビアスは慌てて魔獣の血で汚れを拭うためのタオル差し出してくる。
 頭から血を浴びていた春輝は、タオルで顔を拭くと騎士達に顔を向けた。

「俺は遠慮なくお前達を肉塊にできるだけの力がある。俺に反発するだけ無駄だと思うけど? こんなところで無駄死にはしたくないはずだ、そうだよな?」

 騎士達を冷たく見渡しながら春輝はゆっくりと語りかけるように話す。騎士達は誰も口を開くこともなく、皆春輝の言葉を青ざめながら聞いていた。
 恐怖は全てを支配できる。春輝は両親のお陰でそのことを身をもって知っていた。
 同じように振舞うのは心底癪に障るが、無用なストレスをこれ以上与えられたくはない。なによりも春輝は、いちかの元へと無事に戻らなければならない。
 足を引っ張ってくるような人間は必要ないのだ。

「さぁ先を急ごう。俺は早く妹の所に戻らないといけないんだからな。皆協力してくれるだろ?」

 にっこりと笑みを作った春輝は、トビアスに血まみれのタオルを渡すと元居た荷車へと乗り込んですぐに目を閉じた。
 拭った顔以外は未だに血まみれの状態であったが、力を振るったおかげで体は悲鳴を上げている。
 いくら聖剣の力を借りて戦えようとも、体は多少鍛えた程度の肉体でしかなく、無理矢理動かされる体はボロボロだ。
 目を閉じればあっという間に暗闇に包まれ、春輝はすぐに意識を落とした。
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