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第二部-失意の先の楽園
75. 取引
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千尋がフレディの元から救出されてから一週間。
薬も抜けきり、体力も回復した千尋は漸く退院することが許された。
普段よりも厳重な警備に守られながら、改めて用意されたホテルへ車で向かう。
ホテルのエントランスに入れば、一般人に紛れている者達の存在に千尋は気が付きレオと視線を交し合った。
通された部屋があるフロアに辿り着けば、エントランスにいた者達よりもっと明確にその職業が分かる者達が配備されていて物々しい雰囲気だ。
ご丁寧にも、与えられた部屋の前にも屈強な男達が立っている。
通された先はシンプルモダンで統一でされた空間で、リビングには予想道理の人物がまるで自分の部屋のようにソファで寛いでいた。
「やぁ千尋。今回はとんだ災難だったね」
ジャケットを脱いでネクタイも緩めた状態のブライアンにそう話しかけられ、千尋は対面にあるソファに腰を下ろしながら苦笑する。
部屋の中に居たブライアンの護衛達は、千尋が席に着くのを確認すると部屋の外に出ていった。
「そろそろ来る頃かと思いましたが、まさか先にここにいるなんて。びっくりするじゃないですか」
「私も忙しい身だからね、ここで待っていた方が都合が良かったんだよ。それに、大事な話もある」
そう言って低いテーブルに置かれたのは、小さな薬の瓶だ。
「はいこれ。番を亡くした用の薬だよ」
「これが……」
手に取った瓶には小さな錠剤がぎっしりと詰まっていた。
それと共に手渡された紙には使用法も書いてある。これで番を求めて悪夢を見たりすることも、死を望んでしまうこともなくなるのだ。
「一応安全性は確認済みだけど、君は特殊体質だからね。定期検査は受けてもらうよ」
「ありがとうございます、ブライアン」
「それと、レオのことだけれど――」
千尋がレオからコーヒーのカップを受け取っている間に放たれた言葉に、二人は動きを止めてブライアンを見た。
「そんな怖い顔しないでくれ。千尋が拉致されたことでレオの護衛としての能力が疑われているだなんて、予想の範疇だろう?」
「そうですね……」
カップに口を付けながら、千尋は視線を下げる。
護衛として護衛の対象者を拉致されるなど失態以外の何物でもない。
複数人で守りを固めているのであれば、そのうちの誰かに責任を押し付けられるかもしれないが、レオは単独で守っていると言っても良い。
あの日千尋につけられていた他の護衛達は既に処分されているのだろうが、レオはまた立場が違う。
千尋唯一の専属護衛というのは地位的にも、そして能力的にも魅力的なのだ。
「薬を製造していたフレディが捕まったけれど、またあぁいう薬が出ないとも限らないからね。あれが効かないレオを欲しがる連中の思惑も存分に含まれている」
「勿論貴方は突っぱねてくれているのでしょう? ブライアン」
「一応ね。だが私としても、君が危険に晒されたのはいただけないと思ってるんだよ」
「レオ以外が傍にるなんて、私は嫌ですよ」
カップをテーブルに置きブライアンを睨みつければ、彼は呆れたように溜息を吐いて肩を竦めて見せた。
「君たちの関係をとやかくは言わないけれどね……わかるだろう? 彼らを黙らせるのも大変なんだ」
「では、やる気を出してもらいましょうか」
一体何だとばかりに怪訝な表情をしたブライアンに、千尋は笑みを深める。
「貴方の子供の運命の番を見つけてあげますよ」
「長男の運命は既に見つけてくれる契約を交わしてあるだろう?」
「彼の運命ではありませんよ、ブライアン。ファビアンのお腹の子の話です」
「なんだって?」
まだ産まれてもいない腹の子だ。性別すらも、ましてやバース性など分かるわけもない。
信じろというの言うのも無理な話だろう。
顔を顰めたままのブライアンに微笑みかけながら、千尋は内緒話をするかのように口に人差し指を当て話を続けた。
「実は新たな能力が備わりまして。Ωの運命の番の居場所が分かるようになったんです」
そう言い放てば、ブライアンは驚愕に目を見開いた。
何度か口を開け閉めし目線を彷徨わせてから、ソファの背に体を預け天を仰いだ。
その様子にくすくすと声を上げて千尋が笑っていれば、ブライアンに恨みがましそうな目で見られてしまう。
「冗談ではない……んだろうな」
「そんなわけないじゃないですか。ただこちらも譲歩はしますよ。この能力があると教えるのはブライアンにだけですし」
「公表はしないと?」
「これ以上仕事が忙しくなっても困りますし。……それにこれは切り札になる。そうでしょう?」
全くその通りだと疲れたように目元を揉むブライアンに、千尋は一安心した。
レオを千尋から外そうという話が出ることは分かっていた。
だからこそ、もしもの時は新たな能力を明かして
「それで譲歩とは?」
「レオと同等の能力を獲得できた者が現れれば、私はそれを受け入れます」
「また無茶を言う」
「それまでは、フレッドとその部下数人であれば常に身の回りに置いてもいいですよ?」
千尋が出した提案にぐっと眉根を寄せたブライアンだったが、しかしすぐに千尋の提案に乗ってきた。
また仕事が増えると嘆きつつも、しかしどこか嬉しそうにしているのは自身の子供のことがあるからだろう。
子供に確約された未来があるというのは、親にとっては喜ばしいことらしい。
何よりもΩに産まれて尚、運命の番と出会えることが保証されているのだから、その喜びは大きいだろう
面倒な話はお終いだとばかりに、ブライアンは早速護衛や体制を整えなければと嬉々として話し出す。
その様子を見て、ブライアンが味方でいる限りは大丈夫だろうと、千尋とレオを安堵するのだった。
薬も抜けきり、体力も回復した千尋は漸く退院することが許された。
普段よりも厳重な警備に守られながら、改めて用意されたホテルへ車で向かう。
ホテルのエントランスに入れば、一般人に紛れている者達の存在に千尋は気が付きレオと視線を交し合った。
通された部屋があるフロアに辿り着けば、エントランスにいた者達よりもっと明確にその職業が分かる者達が配備されていて物々しい雰囲気だ。
ご丁寧にも、与えられた部屋の前にも屈強な男達が立っている。
通された先はシンプルモダンで統一でされた空間で、リビングには予想道理の人物がまるで自分の部屋のようにソファで寛いでいた。
「やぁ千尋。今回はとんだ災難だったね」
ジャケットを脱いでネクタイも緩めた状態のブライアンにそう話しかけられ、千尋は対面にあるソファに腰を下ろしながら苦笑する。
部屋の中に居たブライアンの護衛達は、千尋が席に着くのを確認すると部屋の外に出ていった。
「そろそろ来る頃かと思いましたが、まさか先にここにいるなんて。びっくりするじゃないですか」
「私も忙しい身だからね、ここで待っていた方が都合が良かったんだよ。それに、大事な話もある」
そう言って低いテーブルに置かれたのは、小さな薬の瓶だ。
「はいこれ。番を亡くした用の薬だよ」
「これが……」
手に取った瓶には小さな錠剤がぎっしりと詰まっていた。
それと共に手渡された紙には使用法も書いてある。これで番を求めて悪夢を見たりすることも、死を望んでしまうこともなくなるのだ。
「一応安全性は確認済みだけど、君は特殊体質だからね。定期検査は受けてもらうよ」
「ありがとうございます、ブライアン」
「それと、レオのことだけれど――」
千尋がレオからコーヒーのカップを受け取っている間に放たれた言葉に、二人は動きを止めてブライアンを見た。
「そんな怖い顔しないでくれ。千尋が拉致されたことでレオの護衛としての能力が疑われているだなんて、予想の範疇だろう?」
「そうですね……」
カップに口を付けながら、千尋は視線を下げる。
護衛として護衛の対象者を拉致されるなど失態以外の何物でもない。
複数人で守りを固めているのであれば、そのうちの誰かに責任を押し付けられるかもしれないが、レオは単独で守っていると言っても良い。
あの日千尋につけられていた他の護衛達は既に処分されているのだろうが、レオはまた立場が違う。
千尋唯一の専属護衛というのは地位的にも、そして能力的にも魅力的なのだ。
「薬を製造していたフレディが捕まったけれど、またあぁいう薬が出ないとも限らないからね。あれが効かないレオを欲しがる連中の思惑も存分に含まれている」
「勿論貴方は突っぱねてくれているのでしょう? ブライアン」
「一応ね。だが私としても、君が危険に晒されたのはいただけないと思ってるんだよ」
「レオ以外が傍にるなんて、私は嫌ですよ」
カップをテーブルに置きブライアンを睨みつければ、彼は呆れたように溜息を吐いて肩を竦めて見せた。
「君たちの関係をとやかくは言わないけれどね……わかるだろう? 彼らを黙らせるのも大変なんだ」
「では、やる気を出してもらいましょうか」
一体何だとばかりに怪訝な表情をしたブライアンに、千尋は笑みを深める。
「貴方の子供の運命の番を見つけてあげますよ」
「長男の運命は既に見つけてくれる契約を交わしてあるだろう?」
「彼の運命ではありませんよ、ブライアン。ファビアンのお腹の子の話です」
「なんだって?」
まだ産まれてもいない腹の子だ。性別すらも、ましてやバース性など分かるわけもない。
信じろというの言うのも無理な話だろう。
顔を顰めたままのブライアンに微笑みかけながら、千尋は内緒話をするかのように口に人差し指を当て話を続けた。
「実は新たな能力が備わりまして。Ωの運命の番の居場所が分かるようになったんです」
そう言い放てば、ブライアンは驚愕に目を見開いた。
何度か口を開け閉めし目線を彷徨わせてから、ソファの背に体を預け天を仰いだ。
その様子にくすくすと声を上げて千尋が笑っていれば、ブライアンに恨みがましそうな目で見られてしまう。
「冗談ではない……んだろうな」
「そんなわけないじゃないですか。ただこちらも譲歩はしますよ。この能力があると教えるのはブライアンにだけですし」
「公表はしないと?」
「これ以上仕事が忙しくなっても困りますし。……それにこれは切り札になる。そうでしょう?」
全くその通りだと疲れたように目元を揉むブライアンに、千尋は一安心した。
レオを千尋から外そうという話が出ることは分かっていた。
だからこそ、もしもの時は新たな能力を明かして
「それで譲歩とは?」
「レオと同等の能力を獲得できた者が現れれば、私はそれを受け入れます」
「また無茶を言う」
「それまでは、フレッドとその部下数人であれば常に身の回りに置いてもいいですよ?」
千尋が出した提案にぐっと眉根を寄せたブライアンだったが、しかしすぐに千尋の提案に乗ってきた。
また仕事が増えると嘆きつつも、しかしどこか嬉しそうにしているのは自身の子供のことがあるからだろう。
子供に確約された未来があるというのは、親にとっては喜ばしいことらしい。
何よりもΩに産まれて尚、運命の番と出会えることが保証されているのだから、その喜びは大きいだろう
面倒な話はお終いだとばかりに、ブライアンは早速護衛や体制を整えなければと嬉々として話し出す。
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