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第二部-失意の先の楽園
72. 救出2
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「待ってください、レオも……マークス、も……」
息も絶え絶えに何とか声を上げれば、二人が一斉に千尋に意識を向ける。
「その話は、あとでお願いします……薬を、飲まされました……レオ、お願い……助けて」
レオにしっかりと目を合わせ、手を伸ばせばレオが躊躇いなくその手を握り返してくれる。
自身の手より大きなレオの手に顔を寄せると、千尋はするりと自身の頬に擦り付けた。
「わかった、早めに離脱しよう」
痛みで動けていなかったフレディを気絶させ拘束したレオは、別の場所を捜索している隊員達に連絡を飛ばし、フレディの回収を命じる。
それらが終わると、慣れたようにレオは千尋を抱き上げた。
レオの首元に顔を摺り寄せる。既にフェロモンを出していないレオだが、彼特有の香りを吸い込めば安堵感がさらに広がり、衝動が少しは抑えられる気がした。
その間、本能と葛藤しているマークスは悔し気な表情を浮かべて千尋とレオを見ている。
「千尋……」
マークスに呼びかけられ、千尋は視線にゆるりとマークスに向ける。
今、彼の中には絶望と困惑が広がっているのだろう。
千尋は彼の目の前で、ハッキリとレオを呼び、その手を取ったからだ。
剥き出しにされた彼の本能であればその光景は絶望的で、そう感じてしまった心に理性は困惑するしかない。
そうなってしまうのは抗う者にとっては当然のことだ。
だからこそ、千尋は気力を振り絞りマークスに言葉を紡ぐ。
「理性で番を、選びたいなら……マークス。ここを出たらすぐに、ライリーにαであると明かして、番にするしかないですよ」
「でも、僕は……僕にはその資格がない。彼女に愛されるわけが……」
「それでも、です。ねぇ、マークス。今その衝動に耐えているのは……貴方だけだと思ってませんか」
その問いにマークスは首を少しばかり傾げた。
しかし千尋がレオの服を力強く握りしめ、すぐにマークスから視線をそらしたことで漸く質問の意味を理解したらしいく、驚きに目を見開いていた。
千尋とてこの場に運命の番であるマークスが目の前にいるのだ。危機的状況に本能が騒めかない訳がない。
薬の影響を受けていることもあり、その騒めきや衝動は耐えがたいものだった。
レオもそのことを理解しているようで、千尋が万が一にでもマークスを求めてしまわないようにと、抱えた腕には力が籠められている。
きっと今この時、千尋もレオもお互いに思い出しているのはアーヴィングとのことだ。
あの時とは違う状況だが、極限状態で運命の番と対峙しているということは変わらない。
「レオは、私を選んだ貴方を許さない。きっと……この場で排除するでしょう。そうしたら、そうしたら私は……」
拒否感が出ていた時ならいざ知らず、こうして本能が剥き出しになって引き合ってしまった今は違う。
千尋はまた、目の前で運命の番を失うことになる。
いくら薬が開発されているとはいえ、一人失うのも耐えがたいというのに二人ともなればどうなるか。
薬が効かない可能性が高かくなることはどうしても避けたかった。
レオは自らの手で多数の運命を切り離しているが、それでもこうして安定していられるのは、レオの精神力が並ではないからだ。
千尋はレオと同じだけのものを持ち合わせていない。
だからこそ、この場でマークスが消されることは望んでいないし、とある考えからマークスにはライリーと必ず番ってほしかった。
運命の番を失った者がどうなるかを簡潔にレオが話せば、マークスは顔を青ざめさせる。
「……お前が運命の番で、千尋を心配する心があるならば。千尋のためにここを出たらライリーと番え。ライリーと番わず千尋から離れたところで、その執着は消せるものじゃない。分かるだろう」
マークスには既に理性で選んでいるライリーがいる。
彼が彼女の前で自らが真に運命の番だと示せば。
そうでなくても助けられたと恩を感じ心を寄せる様子を見せるライリーであれば、マークスのことを心から番にとそう望むだろう。
望みがないわけではないのだ。
歯をガチガチと鳴らして耐えながら話を聞いていたマークスは、意を決したようにレオの目を真っ直ぐに見る。
「ここを出たら、すぐに、ライリーに打ち明けます。それで、千尋も助かる……」
歪な笑みを何とか浮かべたマークスに、レオは盛大に溜息を吐いてから複雑な感情を隠すように顔を顰めた。
マークスが、千尋の運命の番が生きることが不愉快なのだろう。
だがそれでも千尋がこれ以上精神的に追い詰められることがなくなることを考え、感情を押させてくれているのだ。
勿論、場合によってはそれでも排除するのだろうがーー
そんなレオに千尋は小さくお礼を言う。それに応えるようにレオが一度千尋の頭に唇を落とした。
「腕を出せマークス。気休めだが、精神安定剤を打ってやる。本当に気休めにしかならんがな。それとも一発、腕か足に撃ち込んでしまおうか? 痛みで多少は本能をまぎれさせることもできるが?」
「は、ははっ……安定剤にしてください。でも、僕が耐えられそうになかったら、腕を……撃ってほしいです」
マークスに安定剤を投与している最中、漸く他の隊員達が部屋に到着し、意識を飛ばしているフレディを数人で抱えて運び始めた。
レオはついてきていたフレッドに全ての指揮を任せると、千尋を抱えながらもそれを感じられないほどの早い足取りで外を目指しだした。
マークスは他の隊員達と共に戻ってくるだろう。
遠ざかる運命の番の気配に心が引き裂かれそうになりながら、千尋はレオの首元に顔を寄せ全ての衝動に耐え続けるのだった。
息も絶え絶えに何とか声を上げれば、二人が一斉に千尋に意識を向ける。
「その話は、あとでお願いします……薬を、飲まされました……レオ、お願い……助けて」
レオにしっかりと目を合わせ、手を伸ばせばレオが躊躇いなくその手を握り返してくれる。
自身の手より大きなレオの手に顔を寄せると、千尋はするりと自身の頬に擦り付けた。
「わかった、早めに離脱しよう」
痛みで動けていなかったフレディを気絶させ拘束したレオは、別の場所を捜索している隊員達に連絡を飛ばし、フレディの回収を命じる。
それらが終わると、慣れたようにレオは千尋を抱き上げた。
レオの首元に顔を摺り寄せる。既にフェロモンを出していないレオだが、彼特有の香りを吸い込めば安堵感がさらに広がり、衝動が少しは抑えられる気がした。
その間、本能と葛藤しているマークスは悔し気な表情を浮かべて千尋とレオを見ている。
「千尋……」
マークスに呼びかけられ、千尋は視線にゆるりとマークスに向ける。
今、彼の中には絶望と困惑が広がっているのだろう。
千尋は彼の目の前で、ハッキリとレオを呼び、その手を取ったからだ。
剥き出しにされた彼の本能であればその光景は絶望的で、そう感じてしまった心に理性は困惑するしかない。
そうなってしまうのは抗う者にとっては当然のことだ。
だからこそ、千尋は気力を振り絞りマークスに言葉を紡ぐ。
「理性で番を、選びたいなら……マークス。ここを出たらすぐに、ライリーにαであると明かして、番にするしかないですよ」
「でも、僕は……僕にはその資格がない。彼女に愛されるわけが……」
「それでも、です。ねぇ、マークス。今その衝動に耐えているのは……貴方だけだと思ってませんか」
その問いにマークスは首を少しばかり傾げた。
しかし千尋がレオの服を力強く握りしめ、すぐにマークスから視線をそらしたことで漸く質問の意味を理解したらしいく、驚きに目を見開いていた。
千尋とてこの場に運命の番であるマークスが目の前にいるのだ。危機的状況に本能が騒めかない訳がない。
薬の影響を受けていることもあり、その騒めきや衝動は耐えがたいものだった。
レオもそのことを理解しているようで、千尋が万が一にでもマークスを求めてしまわないようにと、抱えた腕には力が籠められている。
きっと今この時、千尋もレオもお互いに思い出しているのはアーヴィングとのことだ。
あの時とは違う状況だが、極限状態で運命の番と対峙しているということは変わらない。
「レオは、私を選んだ貴方を許さない。きっと……この場で排除するでしょう。そうしたら、そうしたら私は……」
拒否感が出ていた時ならいざ知らず、こうして本能が剥き出しになって引き合ってしまった今は違う。
千尋はまた、目の前で運命の番を失うことになる。
いくら薬が開発されているとはいえ、一人失うのも耐えがたいというのに二人ともなればどうなるか。
薬が効かない可能性が高かくなることはどうしても避けたかった。
レオは自らの手で多数の運命を切り離しているが、それでもこうして安定していられるのは、レオの精神力が並ではないからだ。
千尋はレオと同じだけのものを持ち合わせていない。
だからこそ、この場でマークスが消されることは望んでいないし、とある考えからマークスにはライリーと必ず番ってほしかった。
運命の番を失った者がどうなるかを簡潔にレオが話せば、マークスは顔を青ざめさせる。
「……お前が運命の番で、千尋を心配する心があるならば。千尋のためにここを出たらライリーと番え。ライリーと番わず千尋から離れたところで、その執着は消せるものじゃない。分かるだろう」
マークスには既に理性で選んでいるライリーがいる。
彼が彼女の前で自らが真に運命の番だと示せば。
そうでなくても助けられたと恩を感じ心を寄せる様子を見せるライリーであれば、マークスのことを心から番にとそう望むだろう。
望みがないわけではないのだ。
歯をガチガチと鳴らして耐えながら話を聞いていたマークスは、意を決したようにレオの目を真っ直ぐに見る。
「ここを出たら、すぐに、ライリーに打ち明けます。それで、千尋も助かる……」
歪な笑みを何とか浮かべたマークスに、レオは盛大に溜息を吐いてから複雑な感情を隠すように顔を顰めた。
マークスが、千尋の運命の番が生きることが不愉快なのだろう。
だがそれでも千尋がこれ以上精神的に追い詰められることがなくなることを考え、感情を押させてくれているのだ。
勿論、場合によってはそれでも排除するのだろうがーー
そんなレオに千尋は小さくお礼を言う。それに応えるようにレオが一度千尋の頭に唇を落とした。
「腕を出せマークス。気休めだが、精神安定剤を打ってやる。本当に気休めにしかならんがな。それとも一発、腕か足に撃ち込んでしまおうか? 痛みで多少は本能をまぎれさせることもできるが?」
「は、ははっ……安定剤にしてください。でも、僕が耐えられそうになかったら、腕を……撃ってほしいです」
マークスに安定剤を投与している最中、漸く他の隊員達が部屋に到着し、意識を飛ばしているフレディを数人で抱えて運び始めた。
レオはついてきていたフレッドに全ての指揮を任せると、千尋を抱えながらもそれを感じられないほどの早い足取りで外を目指しだした。
マークスは他の隊員達と共に戻ってくるだろう。
遠ざかる運命の番の気配に心が引き裂かれそうになりながら、千尋はレオの首元に顔を寄せ全ての衝動に耐え続けるのだった。
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