運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

73. 求める者は

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 外に出て、住人達が生活していた場所近くまで戻れば、すでに木々の合間から日の光が差し込み始めていた。
 朝日をうけ淡く光る霧が、まるでこの場所を浄化するかのように辺りに立ち込めている。
 千尋を抱えたレオが、その中を速度を緩めることなく進んで行った。

 鼻にこびりついて離れない重く甘い香りを何とか逃そうと、千尋は外気を思い切り何度も吸い込んだ。
 すると風に乗って新鮮で澄んだ空気に交じり、燃える木の香りが一緒に流れていることにきがつく。
 マークスがあの家に火を放ったせいだろう。

 夜のような喧騒は既になく、燃えたはずの家も消火され、半壊し黒ずんだ家が残されているのみ。
 家々の扉は開かれたまま、外には物が至る所に散乱していて、昨夜の混乱がよく分かる。
 それらを薄く開いた目で見ながら、レオが拠点として置いていたのであろう場所まで戻ってきた。

「連絡した通り、既にヘリが待機済みです」
「分かった。他の者達とあの男はあとから来る。以降の指示はフレッドに仰げ」

 駆け寄ってきた隊員が、歩みを止めないレオへ歩調を合わせて報告してくる。
 慣れたようにレオが指示を飛ばしていれば、興味を惹かれたのか、隊員が千尋の様子を伺おうと視線を向けてきた。

 今の状態を極力見られたくない千尋が体を強張らせれば、レオが隊員を人睨みしてからさらに速度を早め待機するヘリに乗り込んだ。
 すると然程待たずにフワリと機体が浮き上がりるのがわかる。

 狭くはない機内。無機質なその場所には、操縦席にいる者達以外には誰もいない。
 窓からは朝日が差し込んでいて、猛スピードで雲が通り過ぎていった。
 漸くあの場所から解放されたことに安堵感を覚えつつも、千尋は完全に気を緩めることができなかった。

「あまり腕を噛むな千尋。痕が残る」
「こうでもしないと……意識が飲まれそうで……」

 朦朧とする意識の中、必死に頭を働かせるのは苦痛以外の何物でもない。
 だがこの場で意識を飛ばせば、間違いなくレオを求めてしまうだろう。
 だがレオとの関係がバレてしまっては困るのだ。
 きっとそうなれば、千尋を囲う者達はレオを排除するように動くだろう。
 もしくは手の者を千尋の護衛として千尋の元に侍らせ、恩恵を受けさせるように仕向けるかだ。
 そんな者など望まないし、レオが排除されることも望まない。
 レオを手放すという選択肢は千尋の中に欠片も存在していないのだ。

 どれほど空の上を飛んでいただろうか。
 漸く辿り着いた先の病院で胃の中を洗浄をされると、飲まされた薬が中和されるであろう成分が含まれている薬を打たれる。
 それで幾分かマシになりはしたが、衝動の全てが納まることはなかった。

 検査が終わり、噛んでいた腕の手当ても受けた千尋は与えられた個室に通され、広めのベッドに寝かされる。
 広く重厚な家具が揃えられた病室は、普段は要人しか使用が許されていない場所だ。
 今は千尋のために部屋の外に警備が複数配置され、厳重に守りを固められている。

 この場所は特別仕様の場所だ。壁は分厚く中の音は扉を開けない限り聞こえない。
 もう気を抜いても良いのではないか。そのために与えられた部屋でもあるのだからと、千尋は考える。
 煮えたぎるような欲が燻り続ける中、千尋は傍に居たレオに声を掛けた。

「暫く……外に出ていて貰えますか」
「何故だ?」

 ここまで我慢すればもういいはずだと千尋はレオに出ていくように言ったのだが、レオはどこ吹く風といった様子を示して見せた。
 聞かずどもわかるだろうにと、レオを思わず睨みつければ、僅かに眉を下げたレオがベッドの端に腰掛ける。

「一人で処理するつもりか、千尋」
「っ! そうです。だから、レオは……」
「何故俺を求めない」

 寝かされた状態で真上から覆い被さられ、ベッドに縫い留められて千尋は、レオからすぐに目を逸らした。
 本当はレオを求めて仕方がない。しかし和らいだとはいえ薬の影響を受けている今、レオを求めてしまえばどうなるか。
 レオを運命の番だと認識して、番として求めてしまうのではないかという恐怖が千尋の中で渦巻いているのだ。
 それ故に、心の底から求めていたとしても受け入れることはできなかった。

「俺を見ろ千尋」

 顔を両手で固定され、強制的に見せられたレオの瞳には有無を言わせぬ力がある。

「一人で耐えるな」
「……っ!! でもっ……でもレオを、偽りの認識で歪めたくないんです」

 泣くつもりはないのに、堪えきれず目から涙がぽろぽろと溢れてしまう。
 そんな千尋の目を優しく指で拭い、頬を柔らかく撫でるレオは先ほどまでの真剣な表情を変え、千尋を安心させるように微笑んだ。

「きっと大丈夫だ千尋。アーヴィングのことも乗り越えた。他の番のことも乗り越えられた私達なら。いつも理性で選び、勝ち取ってきた私達であれば」

 そう言って近づいてきたレオの唇に、千尋は抗うことができずそのまま受け入れることしかできなかった。








*11月12日(日)の日付変わるまでには完結予定!
最終日は複数話更新予定なので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!!
よろしくお願いします!!!
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