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第二部-失意の先の楽園
67. レオとマークス
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「久しぶりだなライリー」
レオの呼びかけに、ニコール達の出会いを羨ましそうに、そして切なそうに見ていたライリーがハッと我に返る。
すると今度は慌てたようにレオの元に駆け寄り声を上げた。
「レオっ千尋を、早く千尋を助けて!! あの男に連れて行かれたの!!」
必死の形相で叫ぶライリーに、レオの神経がピリついたのはいうまでもない。
千尋がライリー達と一緒ではない時点で、千尋だけがどこかに連れてだろうことは分かっていた。
苛立ちと焦りが漏れ出し、冷たい空気を纏うレオに気が付いたのか、ライリーは小さくごめんなさいと零して体を震わせ始めてしまう。
するとマークスが後ろからライリーを安心させるようにの肩を撫でて落ち着かせ始め、レオのことを真正面から見た。
「貴方がレオですか?」
「お前は……」
「マークス……と言えばわかりますか?」
声をかけられれば、途端にざらりとした嫌な予感がレオの肌を撫でる。
そして目の前の男を警戒するようにと、別の警告音が頭に鳴り響き始めた。
敵意は微塵も感じない。だというのに、何故ここまで神経が騒ついて仕方がないのか。
彼の顔に広がる火傷のせいではない。そんな人間など過去山ほど見てきた。
ではなぜ警戒してしまうのか。
理由の一つは、αであるはずなのに彼から一切そのフェロモンを感じないからだろう。
周りに漂う薬の濃い香り阻まれている訳ではなく、自身や千尋のように一切感じないのだ。
だが同じバース性だからだろうか、目の前の男が紛れもなくαであるとレオは確信を持っていた。
自身や千尋と同じように、フェロモンを消せる者がいることに驚きはある。
フェロモンを分泌する器官が壊れているのか、それとも同じように自在に操れるのかは不明だがしかし、それ以外でも警戒してしまう理由があった。
頭の中で響いてやまない警告音に、レオは既視感があったからだ。
危険とはまた違う、それはアーヴィングの時に感じたような感覚で――
そこまで思考が及ぶと、レオは皮肉気に口端を上げ自身をせせら笑う。
こんな場所で、しかもフレディという黒幕の息子だと言う彼が千尋の運命の番であろうとは。
フェロモンは感じないが、きっと千尋はそれに気が付いたに違いない。
だがこの男はどうだろうか。
暫くの間、千尋と共に居たであろうこの男は、千尋が運命の番だと気が付いてしまっているのだろうか。
思い出したくもないアーヴィングとのやり取りを思い出しながら、レオは手にした銃のグリップを強く握り込む。
もし気が付いていたとすれば、みすみすフレディなどに千尋を取られたりするだろうか。
運命の番と出会ったαもΩも、番が害されることに関して寛容ではいられない。
それは半身を亡くすことへの恐怖と、本能で自身の精神が脅かされることが分かっているからではないかとレオは考えている。
そこまで考え、千尋以外のΩであるライリーに付き添っているマークスを観察する。
顔の火傷の痕に目がいくが、他に外傷となるようなものは見受けられない。
運命の番だと気が付いていれば、身を挺して、それこそ自分自身が死に直面したとしても番を守ろうとするはずなのだ。
しかしマークスにそんな様子は見られなかった。
なによりも、千尋の前にマークスが再び姿を見せるなど不愉快以外のなにものでもない。
――どさくさに紛れて殺してしまおうか。
そんな物騒な思考を巡らせていれば、マークスはそんなレオに何を思ったのか困ったように眉を下げ、そして肩を竦めて見せた。
「僕が貴方を千尋のところに案内します」
「……正確な場所がわかるのか?」
「恐らくですが……無作為に探すよりは、確実に早く千尋を助けられると思うんです」
マークスによれば、フレディは千尋を入り組んだ場所にある隠れ家か、地下室に連れて行った可能性が高いという。
暗く広大な森の中では、そこまでレオ達だけで到達するには時間が掛かりすぎるのも事実。
提案された通りに案内を任せた方が得策だと考え、レオはそれに乗ることにした。
「こっちです」
不安げに揺れるライリーを他の隊員に任せると、レオ達はすぐに千尋を救出するべく動き出す。
マークスを先頭に、レオ達は周りを警戒しながら燃える家の横を通り過ぎると、足場の悪い暗い森の中を進んでいく。
徐々に遠ざかり始める背後の騒めきを聞きながら、レオは万が一に備えてマークスに警戒心を向けていた。
それに気が付いたのだろう。道なき道を歩きながらレオと横並びになったマークスが小声で話しかけてくる。
「安心してください。僕は千尋に興味はありませんよ」
突然放たれたその言葉に、信用できるものかとレオは鼻白む。
「僕は確かに千尋の運命だけれど、僕が選びたい運命の番はライリーなので」
ライリーもまた、己の運命の番だというマークスに、レオはそれでも彼を信用しようとは思わなかった。
そうであるならば、ライリーの項に噛み痕があるはずだ。
しかし千尋より先にこの場所に来ていて、長い時間を共に過ごしていたはずの彼女の項はちらりと見えただけだが綺麗なものだった。
なによりも、ライリーはマークスを運命の番だとも、αだとも認識している様子は見られなかったのだ。
そんな状態で、どうして黒幕の息子であり、千尋の運命の番である男の言葉が信用できるだろうか。
返答をせず、無言を貫くレオにどうあっても納得しないのだろうと悟ったらしいマークスは、それ以上何も言うことはなかった。
レオの呼びかけに、ニコール達の出会いを羨ましそうに、そして切なそうに見ていたライリーがハッと我に返る。
すると今度は慌てたようにレオの元に駆け寄り声を上げた。
「レオっ千尋を、早く千尋を助けて!! あの男に連れて行かれたの!!」
必死の形相で叫ぶライリーに、レオの神経がピリついたのはいうまでもない。
千尋がライリー達と一緒ではない時点で、千尋だけがどこかに連れてだろうことは分かっていた。
苛立ちと焦りが漏れ出し、冷たい空気を纏うレオに気が付いたのか、ライリーは小さくごめんなさいと零して体を震わせ始めてしまう。
するとマークスが後ろからライリーを安心させるようにの肩を撫でて落ち着かせ始め、レオのことを真正面から見た。
「貴方がレオですか?」
「お前は……」
「マークス……と言えばわかりますか?」
声をかけられれば、途端にざらりとした嫌な予感がレオの肌を撫でる。
そして目の前の男を警戒するようにと、別の警告音が頭に鳴り響き始めた。
敵意は微塵も感じない。だというのに、何故ここまで神経が騒ついて仕方がないのか。
彼の顔に広がる火傷のせいではない。そんな人間など過去山ほど見てきた。
ではなぜ警戒してしまうのか。
理由の一つは、αであるはずなのに彼から一切そのフェロモンを感じないからだろう。
周りに漂う薬の濃い香り阻まれている訳ではなく、自身や千尋のように一切感じないのだ。
だが同じバース性だからだろうか、目の前の男が紛れもなくαであるとレオは確信を持っていた。
自身や千尋と同じように、フェロモンを消せる者がいることに驚きはある。
フェロモンを分泌する器官が壊れているのか、それとも同じように自在に操れるのかは不明だがしかし、それ以外でも警戒してしまう理由があった。
頭の中で響いてやまない警告音に、レオは既視感があったからだ。
危険とはまた違う、それはアーヴィングの時に感じたような感覚で――
そこまで思考が及ぶと、レオは皮肉気に口端を上げ自身をせせら笑う。
こんな場所で、しかもフレディという黒幕の息子だと言う彼が千尋の運命の番であろうとは。
フェロモンは感じないが、きっと千尋はそれに気が付いたに違いない。
だがこの男はどうだろうか。
暫くの間、千尋と共に居たであろうこの男は、千尋が運命の番だと気が付いてしまっているのだろうか。
思い出したくもないアーヴィングとのやり取りを思い出しながら、レオは手にした銃のグリップを強く握り込む。
もし気が付いていたとすれば、みすみすフレディなどに千尋を取られたりするだろうか。
運命の番と出会ったαもΩも、番が害されることに関して寛容ではいられない。
それは半身を亡くすことへの恐怖と、本能で自身の精神が脅かされることが分かっているからではないかとレオは考えている。
そこまで考え、千尋以外のΩであるライリーに付き添っているマークスを観察する。
顔の火傷の痕に目がいくが、他に外傷となるようなものは見受けられない。
運命の番だと気が付いていれば、身を挺して、それこそ自分自身が死に直面したとしても番を守ろうとするはずなのだ。
しかしマークスにそんな様子は見られなかった。
なによりも、千尋の前にマークスが再び姿を見せるなど不愉快以外のなにものでもない。
――どさくさに紛れて殺してしまおうか。
そんな物騒な思考を巡らせていれば、マークスはそんなレオに何を思ったのか困ったように眉を下げ、そして肩を竦めて見せた。
「僕が貴方を千尋のところに案内します」
「……正確な場所がわかるのか?」
「恐らくですが……無作為に探すよりは、確実に早く千尋を助けられると思うんです」
マークスによれば、フレディは千尋を入り組んだ場所にある隠れ家か、地下室に連れて行った可能性が高いという。
暗く広大な森の中では、そこまでレオ達だけで到達するには時間が掛かりすぎるのも事実。
提案された通りに案内を任せた方が得策だと考え、レオはそれに乗ることにした。
「こっちです」
不安げに揺れるライリーを他の隊員に任せると、レオ達はすぐに千尋を救出するべく動き出す。
マークスを先頭に、レオ達は周りを警戒しながら燃える家の横を通り過ぎると、足場の悪い暗い森の中を進んでいく。
徐々に遠ざかり始める背後の騒めきを聞きながら、レオは万が一に備えてマークスに警戒心を向けていた。
それに気が付いたのだろう。道なき道を歩きながらレオと横並びになったマークスが小声で話しかけてくる。
「安心してください。僕は千尋に興味はありませんよ」
突然放たれたその言葉に、信用できるものかとレオは鼻白む。
「僕は確かに千尋の運命だけれど、僕が選びたい運命の番はライリーなので」
ライリーもまた、己の運命の番だというマークスに、レオはそれでも彼を信用しようとは思わなかった。
そうであるならば、ライリーの項に噛み痕があるはずだ。
しかし千尋より先にこの場所に来ていて、長い時間を共に過ごしていたはずの彼女の項はちらりと見えただけだが綺麗なものだった。
なによりも、ライリーはマークスを運命の番だとも、αだとも認識している様子は見られなかったのだ。
そんな状態で、どうして黒幕の息子であり、千尋の運命の番である男の言葉が信用できるだろうか。
返答をせず、無言を貫くレオにどうあっても納得しないのだろうと悟ったらしいマークスは、それ以上何も言うことはなかった。
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