81 / 98
第二部-失意の先の楽園
65. 不気味な場所
しおりを挟む
レオは万全の準備を整え、森の中に来ていた。
かつて特殊部隊に所属していた時とメンバーが殆ど変わらないチームは、レオの指揮で作戦を立てる。
記憶を取り戻したマチルドに内部情報をできる限り聞き出していたレオは、情報を隊員達と共有するためにタブレットを見ながら話しだした。
おかしなカルト教団だと顔を顰める者、騙されたΩ達を思い悲壮な顔をする者、そして怒りを露わにする者。
話を聞いた反応は様々だった。
レオはそんな面々を見ながら、淡々と話を続けていく。
彼らが拠点としている森の中には家点在していて、そのほぼ中央にあたる場所にある一際大きな建物。
それがあの不気味な楽園を作ったフレディという男が暮らす場所であるらしい。
突入は夜に設定し、作戦を練り隊員達と動きを入念に確認しながら、レオ達は夜の帷が訪れるのを待った。
常に特殊な任務を熟す彼らと共にあるのはとても心強い。
無駄のない各々の動きと、意思疎通の速さ。背中を安心して任せられることへの安堵感。
臨時の護衛達と連携をとらなければならない時よりも、長年慣れ親しんだ感覚がしっくりと体に馴染み、心地よさすらあった。
周りの緑がオレンジの光に照らされ始めた頃。
暗い森の中に溶け込めるように全身を黒い装備で固めたレオは、千尋の状況を確認しようとネックガードで通信を試みていた。
だがその通信が取られることがないまま、時間だけが過ぎていく。
千尋に何かあったのだろうかと不安と焦りが募る。しかしここで冷静を欠いて良いことはないと、レオは自身に言い聞かせた。
「千尋君と連絡はまだ取れないのかレオ」
フレッドにそう問われ視線を通信機から上げれば、不安そうに揺れる瞳でレオのことを見つめているフレッドとニコールがいた。
彼らもまた、己の娘と運命の番が心配なのだろう。
千尋との連絡手段はレオしか持っていないうえに、彼らが捜しているアイリスは千尋と一緒にいることになっている。
故に千尋と連絡が取れないということは、アイリスの安全も分からないということなのだ。
レオは目を一度眇めると、フレッドとニコールに釘を刺す。
「何度も言うが、最優先は千尋だ。アイリスじゃない」
口を開こうとしたニコールは、ここに来るまでの道中で散々レオに言い含められていることを思い出したのか、耐えるように唇を噛みしめた。
「もし千尋を優先しないことがあれば、私は迷わずお前達を撃ち殺す」
ごくりと息を呑んだのはどちらだろうか。フレッドかもしれないし、ニコールかもしれない。
彼らにしてみればかつての仲間を躊躇いなく殺すというレオに怒りが湧いていることだろう。
四つの目が、引き締め戦慄く口が、握りしめた拳がそれを如実に表していた。
だがそんなことには構いやしない。
千尋の救出が最優先であるのはレオが望んでいることでもあるが、千尋を囲む権力者や狂信者達が望んでいることでもあるからだ。
銃撃戦になっても盾にできる装甲車両の前、チームの全員を集めたレオは突入前の仕上げにかかる。
「奴らは強制的にβであっても運命の番だと思い込ませることのできる薬を持っている。これは最近頻発しているフェロモンアタックで使用されていたものだ」
僅かに震える隊員達には怯えが見て取れる。
誰だってこんな場所で強制的によく知りもしない、犯罪に手を染めている者と番にはなりたくはないだろう。
レオは軍で使用する強力な抑制剤をケースから取り出すと、それを隊員達に配る。
同時に予備の緊急用抑制剤も配ると、隊員達からようやく安堵の空気が流れた。
「行くぞ」
薬が回り切り周辺の暗さが丁度良くなった頃合いを見計らうと、レオ達はバラけて森の中へ足を踏み入れていく。
手入れされていない場所は草の背が高く普通であれば足を取られて動きづらい。
しかしその中でも装備で重たい体を難なく動かし、できるだけ音を立てないようにしてレオ達は一番近くの家に忍び寄る。
ハンドサインで合図を出しながら窓から家の中を覗けば、先に広がっていた光景にレオは思わず眉を顰めた。
一緒についてきているフレッドとニコールも、レオとは別の窓から中を覗くと同じような反応を見せる。
半分に開かれていたカーテンの隙間から見えたのは、複数の男女が入り乱れてことに及んでいる光景だった。
その光景はまるで理性が外れた獣のような有様で、ただでさえ他人のそういった行為を見ることも嫌であるのに、さらに上をいくような光景に嫌悪感しか感じない。
その次に見た家の中も、その次も。どこもかしこも家の中は似たようなもので、精神が地味に削られていくのレオは感じていた。
「もうやだ、なんなのよここ」
それはどうやらレオ意外も同じであるようだった。
とうとう小さく悪態を吐いたニコールは、気分が悪いとばかりに顔を歪めている。
それに同意するようにレオが頷けば、隣にいたフレッドだけは顔を青ざめさせ体を震わせていた。
「しっかりしろフレッド。千尋から連絡を受けた時のアイリスの声は明るかった。お前が想像していることは起きていないだろう」
「そう……そうだ、そうでなければ……私は自分が許せなくなってしまう」
目にしたくはない光景の数々に、アイリスが同じような目にあっているのではないのかと心配しているのだろう。
フレッドの言葉にニコールもその考えに至ったらしく、口元に手を当て顔を青ざめさせはじめた。
「そんなに心配なら早く千尋を見つけるんだ。しっかりしろ、遅くなればなるほど良くないと分かっているだろう」
レオの言葉に呼吸を整えた二人は目つきを鋭くして、かつての時の同じような真剣さを漸く纏う。
内心呆れ果てていたレオだったが、いつまでも腑抜けて居られても困るので内心で溜息を吐くに留め、歩みを更に進めた。
*X(旧Twitter)で先日叫んでいたのですが……
ちるちるさんで開催される BLアワード2024に
ノミネートされてみたいッ!!!
ということで、運命に抗えの書籍が今回対象となっていますので、是非とも!!!
ちるちるさんにある作品ページから運命に抗えの評価をしていただけると嬉しいです!!
詳細?や近況など、Xで日々呟いてますので気になる方はフォローしてもらえたら嬉しいです✨
→@seki_takachika
よろしくお願いします!!🙏✨✨
かつて特殊部隊に所属していた時とメンバーが殆ど変わらないチームは、レオの指揮で作戦を立てる。
記憶を取り戻したマチルドに内部情報をできる限り聞き出していたレオは、情報を隊員達と共有するためにタブレットを見ながら話しだした。
おかしなカルト教団だと顔を顰める者、騙されたΩ達を思い悲壮な顔をする者、そして怒りを露わにする者。
話を聞いた反応は様々だった。
レオはそんな面々を見ながら、淡々と話を続けていく。
彼らが拠点としている森の中には家点在していて、そのほぼ中央にあたる場所にある一際大きな建物。
それがあの不気味な楽園を作ったフレディという男が暮らす場所であるらしい。
突入は夜に設定し、作戦を練り隊員達と動きを入念に確認しながら、レオ達は夜の帷が訪れるのを待った。
常に特殊な任務を熟す彼らと共にあるのはとても心強い。
無駄のない各々の動きと、意思疎通の速さ。背中を安心して任せられることへの安堵感。
臨時の護衛達と連携をとらなければならない時よりも、長年慣れ親しんだ感覚がしっくりと体に馴染み、心地よさすらあった。
周りの緑がオレンジの光に照らされ始めた頃。
暗い森の中に溶け込めるように全身を黒い装備で固めたレオは、千尋の状況を確認しようとネックガードで通信を試みていた。
だがその通信が取られることがないまま、時間だけが過ぎていく。
千尋に何かあったのだろうかと不安と焦りが募る。しかしここで冷静を欠いて良いことはないと、レオは自身に言い聞かせた。
「千尋君と連絡はまだ取れないのかレオ」
フレッドにそう問われ視線を通信機から上げれば、不安そうに揺れる瞳でレオのことを見つめているフレッドとニコールがいた。
彼らもまた、己の娘と運命の番が心配なのだろう。
千尋との連絡手段はレオしか持っていないうえに、彼らが捜しているアイリスは千尋と一緒にいることになっている。
故に千尋と連絡が取れないということは、アイリスの安全も分からないということなのだ。
レオは目を一度眇めると、フレッドとニコールに釘を刺す。
「何度も言うが、最優先は千尋だ。アイリスじゃない」
口を開こうとしたニコールは、ここに来るまでの道中で散々レオに言い含められていることを思い出したのか、耐えるように唇を噛みしめた。
「もし千尋を優先しないことがあれば、私は迷わずお前達を撃ち殺す」
ごくりと息を呑んだのはどちらだろうか。フレッドかもしれないし、ニコールかもしれない。
彼らにしてみればかつての仲間を躊躇いなく殺すというレオに怒りが湧いていることだろう。
四つの目が、引き締め戦慄く口が、握りしめた拳がそれを如実に表していた。
だがそんなことには構いやしない。
千尋の救出が最優先であるのはレオが望んでいることでもあるが、千尋を囲む権力者や狂信者達が望んでいることでもあるからだ。
銃撃戦になっても盾にできる装甲車両の前、チームの全員を集めたレオは突入前の仕上げにかかる。
「奴らは強制的にβであっても運命の番だと思い込ませることのできる薬を持っている。これは最近頻発しているフェロモンアタックで使用されていたものだ」
僅かに震える隊員達には怯えが見て取れる。
誰だってこんな場所で強制的によく知りもしない、犯罪に手を染めている者と番にはなりたくはないだろう。
レオは軍で使用する強力な抑制剤をケースから取り出すと、それを隊員達に配る。
同時に予備の緊急用抑制剤も配ると、隊員達からようやく安堵の空気が流れた。
「行くぞ」
薬が回り切り周辺の暗さが丁度良くなった頃合いを見計らうと、レオ達はバラけて森の中へ足を踏み入れていく。
手入れされていない場所は草の背が高く普通であれば足を取られて動きづらい。
しかしその中でも装備で重たい体を難なく動かし、できるだけ音を立てないようにしてレオ達は一番近くの家に忍び寄る。
ハンドサインで合図を出しながら窓から家の中を覗けば、先に広がっていた光景にレオは思わず眉を顰めた。
一緒についてきているフレッドとニコールも、レオとは別の窓から中を覗くと同じような反応を見せる。
半分に開かれていたカーテンの隙間から見えたのは、複数の男女が入り乱れてことに及んでいる光景だった。
その光景はまるで理性が外れた獣のような有様で、ただでさえ他人のそういった行為を見ることも嫌であるのに、さらに上をいくような光景に嫌悪感しか感じない。
その次に見た家の中も、その次も。どこもかしこも家の中は似たようなもので、精神が地味に削られていくのレオは感じていた。
「もうやだ、なんなのよここ」
それはどうやらレオ意外も同じであるようだった。
とうとう小さく悪態を吐いたニコールは、気分が悪いとばかりに顔を歪めている。
それに同意するようにレオが頷けば、隣にいたフレッドだけは顔を青ざめさせ体を震わせていた。
「しっかりしろフレッド。千尋から連絡を受けた時のアイリスの声は明るかった。お前が想像していることは起きていないだろう」
「そう……そうだ、そうでなければ……私は自分が許せなくなってしまう」
目にしたくはない光景の数々に、アイリスが同じような目にあっているのではないのかと心配しているのだろう。
フレッドの言葉にニコールもその考えに至ったらしく、口元に手を当て顔を青ざめさせはじめた。
「そんなに心配なら早く千尋を見つけるんだ。しっかりしろ、遅くなればなるほど良くないと分かっているだろう」
レオの言葉に呼吸を整えた二人は目つきを鋭くして、かつての時の同じような真剣さを漸く纏う。
内心呆れ果てていたレオだったが、いつまでも腑抜けて居られても困るので内心で溜息を吐くに留め、歩みを更に進めた。
*X(旧Twitter)で先日叫んでいたのですが……
ちるちるさんで開催される BLアワード2024に
ノミネートされてみたいッ!!!
ということで、運命に抗えの書籍が今回対象となっていますので、是非とも!!!
ちるちるさんにある作品ページから運命に抗えの評価をしていただけると嬉しいです!!
詳細?や近況など、Xで日々呟いてますので気になる方はフォローしてもらえたら嬉しいです✨
→@seki_takachika
よろしくお願いします!!🙏✨✨
0
お気に入りに追加
1,634
あなたにおすすめの小説
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。