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第二部-失意の先の楽園
63. 忍び寄る者達
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日が完全に沈み、再び闇が辺りを包み込んでいった。
アルコールの臭いが充満する部屋の中、ポケットの中で震え続けるネックガードは少し前に動きを止めた。
電池が切れたのか、レオが何かを察して千尋と連絡を取ることを諦めたのか。
恐ろしいほどにゆっくりと流れる時間の中、千尋はレオからの連絡を取りたくて仕方がなかった。
どの道両手が拘束されているし、目の前で酒盛りをする二人がこの部屋を離れる気配がないのでどうにもできないのだがーー
酒のボトルが開けられていく中、夕食も兼ねているだろうつまみを持って部屋に入ってきた。
淡々と彼らの前に皿を並べていく中、マークスが不安げに視線を寄越してきた。
マークスに助けがくると伝えてから時間がかなり経っている。
すぐに助けが来なかったことで、不安になっているのだろう。
大丈夫だと伝えるために軽く微笑めば、少しは安心したのか目元を和らげてから部屋を出ていった。
必ず来てくれると分かっている千尋ですら、多少の不安を覚えるのだから、レオがどれ程千尋に忠実か知らない彼らからすれば、どれほどの不安を募らせているだろうか。
不快感しか湧かない下卑た笑い声が室内に響き渡る中、千尋の耳は不意に別の音を拾った。
それは遠くで聞こえた誰かの悲鳴。
千尋はそれが気になり、室内が反射で映って外が見えない窓に視線を向けた。
だがそれを目敏くフレディに気づかれてしまう。
「何か見えるのかな千尋」
けらけらと笑い声を上げていたフレディは、窓の向こうに何かあるのかと近寄ると目を細めた。
「今日は誰かが悲鳴を上げるくらいぶっ飛んでるのかな?」
「ほほう、随分楽しそうだ」
窓の外を見ようと楽しそうに近づいていった二人に、千尋は歓喜に湧きそうになるのを堪え、静かに目を閉じ呼吸を整えた。
外から聞こえる悲鳴は徐々に大きく、そして声の数も多くなっていく。
漸く異常事態に気が付いたフレディとαの男が、さらによく見ようと窓に顔を近づけ暫くすると、αの男が悲鳴を上げた。
「あぁクソったれ!! ここがバレた!!」
αの男は慌てたように顔を青ざめさせ頭を掻きむしりだす。
「フレディ!! 早く千尋をこちらに渡せっ!!」
盾にすると宣言していたことを実行するのだろうαの男は、フレディに唾を飛ばしながら命令する。
だが当のフレディは歯を剥き出しにし怒りの表情を浮かべていて、αの男など視界に入っていない様子を見せていた。
「早く手錠の鍵を寄越せ!!」
さらに詰め寄り、フレディの胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたその時ーー
「ごちゃごちゃと煩いッ!!」
急に大声を上げたフレディは、固く握り閉めた拳を振り上げ、男の顔面に思い切り殴りつけたのだ。
「なっ!!」
驚いて席を立とうとするが、手錠に阻まれ千尋は僅かに腰を浮かせただけだった。
鼻が折れたのだろう。大量の血を流しながら背中から倒れたαの男は、痛みで起き上がることができないようで、絨毯の上で蹲り苦悶に喘ぐ。
「あぁ僕の……僕だけの楽園がッ!!」
頭を盛大に掻き毟り大声を上げたフレディは、怒りが収まらないようで、床に足を何度も叩きつけ始めた。
呻き声を上げながら床を這いずるαの男を忌々し気に見たフレディは、近くにあった石で出来ているだろうオブジェで後頭部を殴りつけた。
骨が砕けたのではないだろうかというほどの鈍い音が立ち気絶した男を一瞥すると、今度は千尋を部屋に残したままフレディは大股で部屋を出ていった。
唖然としたまま視線をαの男に向ければ、絨毯には赤い染みが先程より多く滲んでいる。
目の前で起きた出来事に早まる鼓動を落ち着かせようとしていれば、外から聞こえる悲鳴が別のものに切り替わり始めたのだ。
「あぁイラつくイラつく!! 僕の楽園にあんなに大量の人間が来るだなんてッ」
暫くして戻ってきたフレディは、額に青筋を浮かべ憤怒の表情で千尋の手錠を外しだす。
苛立ちで上手く外せないことにさらに苛立ちを見せながらも、なんとか両手の拘束を解いたフレディは、千尋が立ち上がるのを待たずに腕を強く引っ張りながら歩き出した。
足がもつれるようになり上手く体勢が立て直せないまま、千尋は引き摺られるようにして歩かされる。
「薬を大量にばら撒いてきた。これで逃げる時間は稼げる。君は僕の人質だ」
大量に薬がばら撒かれたということを聞いて、血の気がザっと引いた。
レオは耐性があるお陰で多少なりとも大丈夫だろうが、他の者達はどうだろうか。
流石に何の対策も取っていないと言うことはないだろうが、あの薬の強力さを実際に見て知っているからこその恐怖が千尋を襲う。
レオ以外の人全てが薬の影響を受けてしまったら、レオが薬を吸い過ぎて影響を受けてしまったら。
ぐるぐると頭の中を不安が浸食していく。
千尋を連れて部屋を出ようとしたフレディだったが、廊下に出た途端に鈍い音が聞こえると同時に、フレディが頭を抱えながら廊下に蹲った。
「千尋、今のうちに!」
フライパンを手にしたマークスが、焦った様に声を掛けてくる。
その背後には怯えたように体を縮こませる、ライリーとアイリスの姿があった。
アルコールの臭いが充満する部屋の中、ポケットの中で震え続けるネックガードは少し前に動きを止めた。
電池が切れたのか、レオが何かを察して千尋と連絡を取ることを諦めたのか。
恐ろしいほどにゆっくりと流れる時間の中、千尋はレオからの連絡を取りたくて仕方がなかった。
どの道両手が拘束されているし、目の前で酒盛りをする二人がこの部屋を離れる気配がないのでどうにもできないのだがーー
酒のボトルが開けられていく中、夕食も兼ねているだろうつまみを持って部屋に入ってきた。
淡々と彼らの前に皿を並べていく中、マークスが不安げに視線を寄越してきた。
マークスに助けがくると伝えてから時間がかなり経っている。
すぐに助けが来なかったことで、不安になっているのだろう。
大丈夫だと伝えるために軽く微笑めば、少しは安心したのか目元を和らげてから部屋を出ていった。
必ず来てくれると分かっている千尋ですら、多少の不安を覚えるのだから、レオがどれ程千尋に忠実か知らない彼らからすれば、どれほどの不安を募らせているだろうか。
不快感しか湧かない下卑た笑い声が室内に響き渡る中、千尋の耳は不意に別の音を拾った。
それは遠くで聞こえた誰かの悲鳴。
千尋はそれが気になり、室内が反射で映って外が見えない窓に視線を向けた。
だがそれを目敏くフレディに気づかれてしまう。
「何か見えるのかな千尋」
けらけらと笑い声を上げていたフレディは、窓の向こうに何かあるのかと近寄ると目を細めた。
「今日は誰かが悲鳴を上げるくらいぶっ飛んでるのかな?」
「ほほう、随分楽しそうだ」
窓の外を見ようと楽しそうに近づいていった二人に、千尋は歓喜に湧きそうになるのを堪え、静かに目を閉じ呼吸を整えた。
外から聞こえる悲鳴は徐々に大きく、そして声の数も多くなっていく。
漸く異常事態に気が付いたフレディとαの男が、さらによく見ようと窓に顔を近づけ暫くすると、αの男が悲鳴を上げた。
「あぁクソったれ!! ここがバレた!!」
αの男は慌てたように顔を青ざめさせ頭を掻きむしりだす。
「フレディ!! 早く千尋をこちらに渡せっ!!」
盾にすると宣言していたことを実行するのだろうαの男は、フレディに唾を飛ばしながら命令する。
だが当のフレディは歯を剥き出しにし怒りの表情を浮かべていて、αの男など視界に入っていない様子を見せていた。
「早く手錠の鍵を寄越せ!!」
さらに詰め寄り、フレディの胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたその時ーー
「ごちゃごちゃと煩いッ!!」
急に大声を上げたフレディは、固く握り閉めた拳を振り上げ、男の顔面に思い切り殴りつけたのだ。
「なっ!!」
驚いて席を立とうとするが、手錠に阻まれ千尋は僅かに腰を浮かせただけだった。
鼻が折れたのだろう。大量の血を流しながら背中から倒れたαの男は、痛みで起き上がることができないようで、絨毯の上で蹲り苦悶に喘ぐ。
「あぁ僕の……僕だけの楽園がッ!!」
頭を盛大に掻き毟り大声を上げたフレディは、怒りが収まらないようで、床に足を何度も叩きつけ始めた。
呻き声を上げながら床を這いずるαの男を忌々し気に見たフレディは、近くにあった石で出来ているだろうオブジェで後頭部を殴りつけた。
骨が砕けたのではないだろうかというほどの鈍い音が立ち気絶した男を一瞥すると、今度は千尋を部屋に残したままフレディは大股で部屋を出ていった。
唖然としたまま視線をαの男に向ければ、絨毯には赤い染みが先程より多く滲んでいる。
目の前で起きた出来事に早まる鼓動を落ち着かせようとしていれば、外から聞こえる悲鳴が別のものに切り替わり始めたのだ。
「あぁイラつくイラつく!! 僕の楽園にあんなに大量の人間が来るだなんてッ」
暫くして戻ってきたフレディは、額に青筋を浮かべ憤怒の表情で千尋の手錠を外しだす。
苛立ちで上手く外せないことにさらに苛立ちを見せながらも、なんとか両手の拘束を解いたフレディは、千尋が立ち上がるのを待たずに腕を強く引っ張りながら歩き出した。
足がもつれるようになり上手く体勢が立て直せないまま、千尋は引き摺られるようにして歩かされる。
「薬を大量にばら撒いてきた。これで逃げる時間は稼げる。君は僕の人質だ」
大量に薬がばら撒かれたということを聞いて、血の気がザっと引いた。
レオは耐性があるお陰で多少なりとも大丈夫だろうが、他の者達はどうだろうか。
流石に何の対策も取っていないと言うことはないだろうが、あの薬の強力さを実際に見て知っているからこその恐怖が千尋を襲う。
レオ以外の人全てが薬の影響を受けてしまったら、レオが薬を吸い過ぎて影響を受けてしまったら。
ぐるぐると頭の中を不安が浸食していく。
千尋を連れて部屋を出ようとしたフレディだったが、廊下に出た途端に鈍い音が聞こえると同時に、フレディが頭を抱えながら廊下に蹲った。
「千尋、今のうちに!」
フライパンを手にしたマークスが、焦った様に声を掛けてくる。
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