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第二部-失意の先の楽園
60. 運命の番はいらない2
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「勿論、千尋にともそうなりたいとは思ってないよ。安心して?」
マークスにそう言われ、毛並みを逆立てる猫のように一気に肌が粟だ立つ。
ライリーに想いを寄せている様子から、千尋もまたマークスの運命の番であると気がつかれていないと思っていたが、そんなことはなかった。
すぐさま警戒心を強めた千尋にマークスが両手を上げ、なにもする気はないと示す。
「言ったでしょ? 千尋ともそうなりたいとは思わないって。それに、同じ能力を持っているからかな、千尋にはライリーに感じるような衝動は感じないんだよ」
確かに千尋自身も、マークスと話せば経験から肌が騒めく。
しかしブライアンやアーヴィングの時のような、運命の番を本能で追い求めてしまう衝動、離れがたさや求めてやまない飢えのようなものもは欠片は一切感じなかった。
あるのはただただ、己の運命の番だということへの嫌悪感と悍ましさだけだ。
黙り込んだ千尋にマークスは何を思ったのか、予期せぬ問いかけをしてきた。
「それとも千尋は……僕とどうにかなりたかったの?」
「まさか!」
慌てて否定すれば、良かったとマークスが安堵の息を吐く。
だが僅かに疑念の色が浮かんでいるのを見て取った千尋は逡巡したが、マークスに本音で話すことにした。
「私も貴方と同じで、運命の番と番う気は欠片もありません。寧ろ私は、運命の番だからと理性を塗り替える程の本能が嫌で嫌で堪らない」
「運命の女神って呼ばれているのに?」
「過去に色々ありまして……運命に抗えるαがいるのかどうか、今の仕事をしながら探していたらいつの間にかそう呼ばれていただけですよ」
千尋は掻い摘んで運命の番を嫌悪するに至った理由を話す。
マークスはそれを興味深く聞き千尋の評判とは違う一面に驚きながらも、最終的に共感していた。
お互い内容も程度も違うが、運命の番に、そしてバース性に思うところがあるからだろう。
一通り聞き終えたマークスは、どこか嬉しそうに千尋を見て微笑む。
お互いがの持つ能力のお陰で、自分の選びたい者が選べることが嬉しくて堪らないと笑う彼に千尋も同意する。
それと同時に、あのつらく苦しい思いを三度体験せずに済んだことに千尋も安堵を覚えていた。
「まさか千尋も僕の運命の番なのはビックリしたけど、彼女以外に惹かれなくて良かったって心から思えたよ」
理性で選び取れるのは素晴らしいと言うマークスは、けれどもライリーを諦めることに変わりはないようだった。
確実にこの場所から逃がして、そして見えている別の運命にライリーを導こうとしていたのだ。
その手助けをして欲しいと千尋に頭を下げるマークスに、なんとも言えない気持ちになる。
「ライリーを逃したあと、貴方はどうするんですか?」
「そうだね……きっと父が千尋を連れ去ったことでここも終わりだろうから、最後にあの人を処分して、僕も消えたらいいよね」
迷いなく笑ったマークスは、未来を全て諦めていた。
「僕は彼女が幸せになれるならなんだっていいし、どんなことでもするよ。したくはないけれど、千尋のことを脅してもいいし。それとここに来てしまったΩ達は確かに可哀想だけど……うん。ライリーが助かれば他はどうでもいいと思ってる。……こんな考え、酷いと思う?」
その考えがよく分かる千尋は、困った様に微笑んでマークスに同意する。
千尋にはレオとそして成瀬がいる。彼ら以外がどうなろうと同情こそすれ、そこまで心を痛めることはない。
家族を切り捨てたように、運命の番を物理的に切り離したように、そうできるだけの非情さを千尋は持っているからだ。
――選び取れる力が羨ましい。と彼は千尋を怖がるどころか、どこか眩しそうに見てくる。
こんな場所で出会っていなければ、こんな場所に生まれていなければ、あんな親でなければ。マークスは憤りを零す。
運命の番が目の前に傍にいるというのに、本能に狂わずライリーを逃がそうとする。
そして理性でもってライリーを求め、それ以外を切り捨てようとするマークスは他のαとは違うように千尋は感じていた。
「ここを脱出したあとのことは、千尋にお願いしてもいいかな? 運命の番のよしみってことで」
脅すと言いつつも、お願いしてくる彼の心根の優しさが千尋には眩しく見える。
「……請け負いますよ」
「よかった。助けがくるまであと数時間くらいかな? でもそれまでは、あと少しだけ、彼女の傍にいたいんだ。我儘かなぁ」
我儘とも言えない小さな願いは、僅かに陽の光が差し込み始めた室内に虚しく落ちていった。
マークスにそう言われ、毛並みを逆立てる猫のように一気に肌が粟だ立つ。
ライリーに想いを寄せている様子から、千尋もまたマークスの運命の番であると気がつかれていないと思っていたが、そんなことはなかった。
すぐさま警戒心を強めた千尋にマークスが両手を上げ、なにもする気はないと示す。
「言ったでしょ? 千尋ともそうなりたいとは思わないって。それに、同じ能力を持っているからかな、千尋にはライリーに感じるような衝動は感じないんだよ」
確かに千尋自身も、マークスと話せば経験から肌が騒めく。
しかしブライアンやアーヴィングの時のような、運命の番を本能で追い求めてしまう衝動、離れがたさや求めてやまない飢えのようなものもは欠片は一切感じなかった。
あるのはただただ、己の運命の番だということへの嫌悪感と悍ましさだけだ。
黙り込んだ千尋にマークスは何を思ったのか、予期せぬ問いかけをしてきた。
「それとも千尋は……僕とどうにかなりたかったの?」
「まさか!」
慌てて否定すれば、良かったとマークスが安堵の息を吐く。
だが僅かに疑念の色が浮かんでいるのを見て取った千尋は逡巡したが、マークスに本音で話すことにした。
「私も貴方と同じで、運命の番と番う気は欠片もありません。寧ろ私は、運命の番だからと理性を塗り替える程の本能が嫌で嫌で堪らない」
「運命の女神って呼ばれているのに?」
「過去に色々ありまして……運命に抗えるαがいるのかどうか、今の仕事をしながら探していたらいつの間にかそう呼ばれていただけですよ」
千尋は掻い摘んで運命の番を嫌悪するに至った理由を話す。
マークスはそれを興味深く聞き千尋の評判とは違う一面に驚きながらも、最終的に共感していた。
お互い内容も程度も違うが、運命の番に、そしてバース性に思うところがあるからだろう。
一通り聞き終えたマークスは、どこか嬉しそうに千尋を見て微笑む。
お互いがの持つ能力のお陰で、自分の選びたい者が選べることが嬉しくて堪らないと笑う彼に千尋も同意する。
それと同時に、あのつらく苦しい思いを三度体験せずに済んだことに千尋も安堵を覚えていた。
「まさか千尋も僕の運命の番なのはビックリしたけど、彼女以外に惹かれなくて良かったって心から思えたよ」
理性で選び取れるのは素晴らしいと言うマークスは、けれどもライリーを諦めることに変わりはないようだった。
確実にこの場所から逃がして、そして見えている別の運命にライリーを導こうとしていたのだ。
その手助けをして欲しいと千尋に頭を下げるマークスに、なんとも言えない気持ちになる。
「ライリーを逃したあと、貴方はどうするんですか?」
「そうだね……きっと父が千尋を連れ去ったことでここも終わりだろうから、最後にあの人を処分して、僕も消えたらいいよね」
迷いなく笑ったマークスは、未来を全て諦めていた。
「僕は彼女が幸せになれるならなんだっていいし、どんなことでもするよ。したくはないけれど、千尋のことを脅してもいいし。それとここに来てしまったΩ達は確かに可哀想だけど……うん。ライリーが助かれば他はどうでもいいと思ってる。……こんな考え、酷いと思う?」
その考えがよく分かる千尋は、困った様に微笑んでマークスに同意する。
千尋にはレオとそして成瀬がいる。彼ら以外がどうなろうと同情こそすれ、そこまで心を痛めることはない。
家族を切り捨てたように、運命の番を物理的に切り離したように、そうできるだけの非情さを千尋は持っているからだ。
――選び取れる力が羨ましい。と彼は千尋を怖がるどころか、どこか眩しそうに見てくる。
こんな場所で出会っていなければ、こんな場所に生まれていなければ、あんな親でなければ。マークスは憤りを零す。
運命の番が目の前に傍にいるというのに、本能に狂わずライリーを逃がそうとする。
そして理性でもってライリーを求め、それ以外を切り捨てようとするマークスは他のαとは違うように千尋は感じていた。
「ここを脱出したあとのことは、千尋にお願いしてもいいかな? 運命の番のよしみってことで」
脅すと言いつつも、お願いしてくる彼の心根の優しさが千尋には眩しく見える。
「……請け負いますよ」
「よかった。助けがくるまであと数時間くらいかな? でもそれまでは、あと少しだけ、彼女の傍にいたいんだ。我儘かなぁ」
我儘とも言えない小さな願いは、僅かに陽の光が差し込み始めた室内に虚しく落ちていった。
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