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第二部-失意の先の楽園
55. 千尋の行方2
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何度かコール音が鳴ったあと、繋がった先はアーロン・クロバンスのだった。
常であればアーロンからのマチルドに関する定期連絡は千尋の元に送られてきていて、レオが直接彼と連絡を取ることはない。
『レオ? 一体どうしたんだい、君が直接こちらに連絡してくるだなんて』
「緊急事態だ。マチルドに今送った写真をすぐに見せて欲しい」
緊迫した空気が伝わったのか、アーロンは電話を切らずにそのままマチルドを呼びに行ってくれた。
暫くすると小さな走る音が聞こえてきて、アーロンとの話し声とスマホを手に取り写真を見る音が聞こえてくる。
『あっ、これっ……これ!!』
スマホ越しでも動揺がありありと分かるその声音に、レオはやはりと一人頷くとマチルドに対して問いかけた。
「マチルド、君はそこから逃げてきた……ということでいいか」
『そう、そうです! そこから逃げてきて……でもどうしてこれをレオさんが?』
「千尋を攫った奴が持っていた」
『千尋さんが!?』
「君がいた場所を思い出せるか、マチルド」
ペンダントの写真を見て思い出せたのだ。そのまま他のことまで思い出せるのではないかとレオはマチルドに言い募る。
彼は記憶の断片を思い出しながら、少しずつ言葉を紡いでいく。
その遅さに若干苛立ちはしたが、レオはそれを鎮めるように呼吸を繰り返しながら辛抱強く待った。ここで焦ってマチルドの記憶が閉ざされては堪らない。
少しづつ断片的にマチルドの口から出される街の名前や通ってきた道の名前を聞いたレオは、近くに落ちていたペーパーナプキンにペンで乱雑に綴っていく。
詳しい場所や位置は覚えてないと言われたが、マチルドが辿ったルートから大まかに場所は絞り込めた。
『あの場所は、僕らΩにとって最初は理想郷みたいな場所なんです。でもその実態は……』
――Ωを食い物にする男が支配する場所。
そこでは薬物が横行し、あちらこちらでΩは本能をそのままに性交を繰り返しているという。
住んでいるのはあらゆる年齢のΩと、バース性に憧れを持ったβ達。
薬物は特殊なもので、それを服用すればΩはフェロモンを嗅覚とフェロモンを分泌する器官を破壊される。
正常にフェロモンの香りを感知できなくなったΩはαから解放されたとして、その場所でのリーダー的存在であるフレディ・マーキンスに認められるのだとか。
その話を聞いたレオは、背筋に言い知れない寒気が電気のように走るのを感じた。
耳にしたその症状が、ここ最近頻発しているフェロモンアタックで使用されているものと酷似する。
そんな偶然があるだろうか? と自身に問いかけるが、すぐさまこれは偶然とは言えないものだとレオは結論付けた。
そもそもこの新しい薬物に関しては未だ世間に公表されていない。
いくらアーロンが力を持つ上流のαだとしても、この情報だけは知らないはずであった。ましてや番であるマチルドに言うはずもない。
となれば、フェロモンアタックの際に使用された薬物も、マチルドが居たというその場所で使用されているという薬物は同一の物だと考えていいだろう。
「――Ωの幸せか」
『マチルド、君はそれを使ったのか!?』
電話口で血相を変えたアーロンが、マチルドに問いただしている。番がそのような怪しい薬物に手を出していた可能性に驚いたのだろう。
だがそんなアーロンの心配をよそに、マチルドは一切使用していないと言い切った。
『僕はあの場所が楽園にはどうしても見えなかった。それで、怖くなって隠れていたらある人に助けてもらったんです。僕にレオさんの家の住所が書かれた紙を渡して逃がしてくれたのもその人です』
「ソイツの名前は」
『マークスって人です。もし千尋さんがそこに連れていかれたのだとしたら、マークスが助けてくれると思うんです。僕以外にも匿ってる人もいたので……』
どこまでそのマークスを信用していいのかはこの場で判断はつくものではない。だが一番に警戒するべき人物ではなさそうだった。
千尋が攫われたのに加え、フェロモンアタックの首謀者だろう人物にも行き当たった。
レオはマチルドに他に思い出したことがあればすぐに連絡するように指示を出すと、頭の中でどこに連絡するべきかを素早くリストアップしていくのだった。
常であればアーロンからのマチルドに関する定期連絡は千尋の元に送られてきていて、レオが直接彼と連絡を取ることはない。
『レオ? 一体どうしたんだい、君が直接こちらに連絡してくるだなんて』
「緊急事態だ。マチルドに今送った写真をすぐに見せて欲しい」
緊迫した空気が伝わったのか、アーロンは電話を切らずにそのままマチルドを呼びに行ってくれた。
暫くすると小さな走る音が聞こえてきて、アーロンとの話し声とスマホを手に取り写真を見る音が聞こえてくる。
『あっ、これっ……これ!!』
スマホ越しでも動揺がありありと分かるその声音に、レオはやはりと一人頷くとマチルドに対して問いかけた。
「マチルド、君はそこから逃げてきた……ということでいいか」
『そう、そうです! そこから逃げてきて……でもどうしてこれをレオさんが?』
「千尋を攫った奴が持っていた」
『千尋さんが!?』
「君がいた場所を思い出せるか、マチルド」
ペンダントの写真を見て思い出せたのだ。そのまま他のことまで思い出せるのではないかとレオはマチルドに言い募る。
彼は記憶の断片を思い出しながら、少しずつ言葉を紡いでいく。
その遅さに若干苛立ちはしたが、レオはそれを鎮めるように呼吸を繰り返しながら辛抱強く待った。ここで焦ってマチルドの記憶が閉ざされては堪らない。
少しづつ断片的にマチルドの口から出される街の名前や通ってきた道の名前を聞いたレオは、近くに落ちていたペーパーナプキンにペンで乱雑に綴っていく。
詳しい場所や位置は覚えてないと言われたが、マチルドが辿ったルートから大まかに場所は絞り込めた。
『あの場所は、僕らΩにとって最初は理想郷みたいな場所なんです。でもその実態は……』
――Ωを食い物にする男が支配する場所。
そこでは薬物が横行し、あちらこちらでΩは本能をそのままに性交を繰り返しているという。
住んでいるのはあらゆる年齢のΩと、バース性に憧れを持ったβ達。
薬物は特殊なもので、それを服用すればΩはフェロモンを嗅覚とフェロモンを分泌する器官を破壊される。
正常にフェロモンの香りを感知できなくなったΩはαから解放されたとして、その場所でのリーダー的存在であるフレディ・マーキンスに認められるのだとか。
その話を聞いたレオは、背筋に言い知れない寒気が電気のように走るのを感じた。
耳にしたその症状が、ここ最近頻発しているフェロモンアタックで使用されているものと酷似する。
そんな偶然があるだろうか? と自身に問いかけるが、すぐさまこれは偶然とは言えないものだとレオは結論付けた。
そもそもこの新しい薬物に関しては未だ世間に公表されていない。
いくらアーロンが力を持つ上流のαだとしても、この情報だけは知らないはずであった。ましてや番であるマチルドに言うはずもない。
となれば、フェロモンアタックの際に使用された薬物も、マチルドが居たというその場所で使用されているという薬物は同一の物だと考えていいだろう。
「――Ωの幸せか」
『マチルド、君はそれを使ったのか!?』
電話口で血相を変えたアーロンが、マチルドに問いただしている。番がそのような怪しい薬物に手を出していた可能性に驚いたのだろう。
だがそんなアーロンの心配をよそに、マチルドは一切使用していないと言い切った。
『僕はあの場所が楽園にはどうしても見えなかった。それで、怖くなって隠れていたらある人に助けてもらったんです。僕にレオさんの家の住所が書かれた紙を渡して逃がしてくれたのもその人です』
「ソイツの名前は」
『マークスって人です。もし千尋さんがそこに連れていかれたのだとしたら、マークスが助けてくれると思うんです。僕以外にも匿ってる人もいたので……』
どこまでそのマークスを信用していいのかはこの場で判断はつくものではない。だが一番に警戒するべき人物ではなさそうだった。
千尋が攫われたのに加え、フェロモンアタックの首謀者だろう人物にも行き当たった。
レオはマチルドに他に思い出したことがあればすぐに連絡するように指示を出すと、頭の中でどこに連絡するべきかを素早くリストアップしていくのだった。
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