運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

57. 希望の光

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「千尋?」

 レオからの通信を告げるネックガードに気を取られていれば、それに目敏く気が付いたマークスが千尋に問うてきた。
 マークスが居るこの場でレオと連絡を取り合ってもいいか千尋は判断に困る。

「……マークス何故、そんなに彼女を。ライリーを助けたいんですか」

 本当に味方なのだろうかと疑念を滲ませながらマークスに問えば、僅かにその瞳が揺らいだのが分かった。

「何故疑うの千尋! 彼はここまで親切にしてくれているのに」
「落ち着いてライリー」
「でもっ」

 ライリーを落ち着かせるように何度かポンポンと背を叩いたマークスが、その場を離れ千尋の目の前まで歩いてくるとそっと小声で話してきた。

「僕も君と同じ力を持ってる。それに彼女は……」

 そう言ったマークスは、ごく微量のフェロモンをふわりと漂わせた。
 それは一瞬で消える程のもので、けれども千尋が彼のフェロモンから運命の番を見るには充分なものだった。
 まさかフェロモンを自在に操れる者がいるとは思いもよらず、またそれと同時に見えた運命に千尋は驚愕し目を見開く。
 
「分かってくれる……?」

 どこか悲しそうな表情で眉を下げながら聞いてきたマークスに、千尋は何故彼がライリーを助けたいのか理解した。
 頭がぐらりと一度揺れるような感覚に襲われ、不快感が体を舐める。
 顔を僅かに顰め千尋が口を開こうとした途端、彼女には内緒にしてくれと小声で懇願された。

「……分かりました」
「よかった!」
「彼女と離れてからそのことで話をしたいのですが」
「そう、だよね。うん、きちんと貴方に話すよ」

 心の底から安堵したように笑みを零したマークスに演技をしている様子は見受けられない。
 ライリーの元に再び戻ったマークスは目に見えて表情が柔らかく、心から彼女のことを想っていることが見て取れた。

 今はマークスを信用するしかないだろうと千尋はネックガードを取り出すと、静かにするようにジェスチャーしてから通話ボタンを押す。

「レオですか?」
『千尋っ! 繋がって良かった、無事か?』
「えぇ、なんとか。レオは?」
『こちらも何ともない。アロンは捕らえてある。千尋、今いる場所は森の中にある集落のような場所か?』
「そう……ですけど、どうやって……」
『マチルドが記憶を取り戻した。詳しくは合流してから話すが、彼は元々そこに居て逃げてきたようだ。マークスという男に助けられたと言っていたが……』

 その名前がまさかレオの口から出てくるとは思わず、千尋は思わずマークスを見る。

「今彼と一緒にいます。それに失踪中だったライリーも」

 向こう側のレオは何か考えるように一瞬黙り込むが、すぐにまた話し始めた。

『フレッドとニコール達の隊を私が率いてそちらに向かう。千尋は脱出に備えておいてくれ。その場所の正確な位置は分かるか?』
「マークス、この場所の位置は分かりますか」

 千尋との会話からレオが来ることを予想できたのか、マークスは困った顔をしてライリーを見やった。

「僕は生まれてからこの場所を出たことがないんだ。ライリーは分かるだろう?」

 マークスに促され、ライリーは千尋に詳しい場所を話す。それはネックガードのマイクを通してレオの耳に届けられた。

『そこなら準備が出来次第、明日突入できる。千尋達は脱出に備えておいてくれ」
「分かりました。……ですがフレッドとニコールがある部隊ですよね? その、彼らは大丈夫でしょうか」

 彼らの精神状態を考えれば千尋が心配になるのは当然のことだった。
 だがレオは一度喉の奥で笑っうようにしてから、彼らもプロだから大丈夫だと言い切る。
 声音の中に含まれていた不穏さを感じ取ってしまうには十分だった。
 アーヴィングのこともある。かつての仲間をこれ以上レオ自身の手をかけるようなことはして欲しくない。
 そう伝えたとしても、いざとなればレオは躊躇わないのだろうがーー

「パパがここに来るの?」

 千尋がレオへの返答に困っていれば、聞き覚えのない声が不意に聞こえてきた。
 驚いて振り返れば、ライリーが隠れていた屋根裏から一人の少女が降りてくる。
 その少女には見覚えがあった。

「アイリス……?」
「パパが、パパが来てくれるの? 本当に?」

 目から涙を溢れさせ、喜びから静かに泣きじゃくる彼女にライリーが寄り添う。
 まさかこの場所にアイリスまでいようとは。

『どうした千尋』

 ある意味で、心を擦り減らした彼女達にとってはここが本当の楽園のように聞こえていたのだろう。
 心が痛んだが、それを振り払うように軽く頭を振ると、千尋はレオにアイリスがいることを伝えた。

『そうか、これでフレッド達はいつも以上に仕事をしてくれるはずだな』

 どこか安堵したような声音のレオに苦笑しながらも通信を終えた千尋は、マークス達に脱出の目処が立ったことを話したのだった。





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