73 / 98
第二部-失意の先の楽園
57. 希望の光
しおりを挟む
「千尋?」
レオからの通信を告げるネックガードに気を取られていれば、それに目敏く気が付いたマークスが千尋に問うてきた。
マークスが居るこの場でレオと連絡を取り合ってもいいか千尋は判断に困る。
「……マークス何故、そんなに彼女を。ライリーを助けたいんですか」
本当に味方なのだろうかと疑念を滲ませながらマークスに問えば、僅かにその瞳が揺らいだのが分かった。
「何故疑うの千尋! 彼はここまで親切にしてくれているのに」
「落ち着いてライリー」
「でもっ」
ライリーを落ち着かせるように何度かポンポンと背を叩いたマークスが、その場を離れ千尋の目の前まで歩いてくるとそっと小声で話してきた。
「僕も君と同じ力を持ってる。それに彼女は……」
そう言ったマークスは、ごく微量のフェロモンをふわりと漂わせた。
それは一瞬で消える程のもので、けれども千尋が彼のフェロモンから運命の番を見るには充分なものだった。
まさかフェロモンを自在に操れる者がいるとは思いもよらず、またそれと同時に見えた運命に千尋は驚愕し目を見開く。
「分かってくれる……?」
どこか悲しそうな表情で眉を下げながら聞いてきたマークスに、千尋は何故彼がライリーを助けたいのか理解した。
頭がぐらりと一度揺れるような感覚に襲われ、不快感が体を舐める。
顔を僅かに顰め千尋が口を開こうとした途端、彼女には内緒にしてくれと小声で懇願された。
「……分かりました」
「よかった!」
「彼女と離れてからそのことで話をしたいのですが」
「そう、だよね。うん、きちんと貴方に話すよ」
心の底から安堵したように笑みを零したマークスに演技をしている様子は見受けられない。
ライリーの元に再び戻ったマークスは目に見えて表情が柔らかく、心から彼女のことを想っていることが見て取れた。
今はマークスを信用するしかないだろうと千尋はネックガードを取り出すと、静かにするようにジェスチャーしてから通話ボタンを押す。
「レオですか?」
『千尋っ! 繋がって良かった、無事か?』
「えぇ、なんとか。レオは?」
『こちらも何ともない。アロンは捕らえてある。千尋、今いる場所は森の中にある集落のような場所か?』
「そう……ですけど、どうやって……」
『マチルドが記憶を取り戻した。詳しくは合流してから話すが、彼は元々そこに居て逃げてきたようだ。マークスという男に助けられたと言っていたが……』
その名前がまさかレオの口から出てくるとは思わず、千尋は思わずマークスを見る。
「今彼と一緒にいます。それに失踪中だったライリーも」
向こう側のレオは何か考えるように一瞬黙り込むが、すぐにまた話し始めた。
『フレッドとニコール達の隊を私が率いてそちらに向かう。千尋は脱出に備えておいてくれ。その場所の正確な位置は分かるか?』
「マークス、この場所の位置は分かりますか」
千尋との会話からレオが来ることを予想できたのか、マークスは困った顔をしてライリーを見やった。
「僕は生まれてからこの場所を出たことがないんだ。ライリーは分かるだろう?」
マークスに促され、ライリーは千尋に詳しい場所を話す。それはネックガードのマイクを通してレオの耳に届けられた。
『そこなら準備が出来次第、明日突入できる。千尋達は脱出に備えておいてくれ」
「分かりました。……ですがフレッドとニコールがある部隊ですよね? その、彼らは大丈夫でしょうか」
彼らの精神状態を考えれば千尋が心配になるのは当然のことだった。
だがレオは一度喉の奥で笑っうようにしてから、彼らもプロだから大丈夫だと言い切る。
声音の中に含まれていた不穏さを感じ取ってしまうには十分だった。
アーヴィングのこともある。かつての仲間をこれ以上レオ自身の手をかけるようなことはして欲しくない。
そう伝えたとしても、いざとなればレオは躊躇わないのだろうがーー
「パパがここに来るの?」
千尋がレオへの返答に困っていれば、聞き覚えのない声が不意に聞こえてきた。
驚いて振り返れば、ライリーが隠れていた屋根裏から一人の少女が降りてくる。
その少女には見覚えがあった。
「アイリス……?」
「パパが、パパが来てくれるの? 本当に?」
目から涙を溢れさせ、喜びから静かに泣きじゃくる彼女にライリーが寄り添う。
まさかこの場所にアイリスまでいようとは。
『どうした千尋』
ある意味で、心を擦り減らした彼女達にとってはここが本当の楽園のように聞こえていたのだろう。
心が痛んだが、それを振り払うように軽く頭を振ると、千尋はレオにアイリスがいることを伝えた。
『そうか、これでフレッド達はいつも以上に仕事をしてくれるはずだな』
どこか安堵したような声音のレオに苦笑しながらも通信を終えた千尋は、マークス達に脱出の目処が立ったことを話したのだった。
レオからの通信を告げるネックガードに気を取られていれば、それに目敏く気が付いたマークスが千尋に問うてきた。
マークスが居るこの場でレオと連絡を取り合ってもいいか千尋は判断に困る。
「……マークス何故、そんなに彼女を。ライリーを助けたいんですか」
本当に味方なのだろうかと疑念を滲ませながらマークスに問えば、僅かにその瞳が揺らいだのが分かった。
「何故疑うの千尋! 彼はここまで親切にしてくれているのに」
「落ち着いてライリー」
「でもっ」
ライリーを落ち着かせるように何度かポンポンと背を叩いたマークスが、その場を離れ千尋の目の前まで歩いてくるとそっと小声で話してきた。
「僕も君と同じ力を持ってる。それに彼女は……」
そう言ったマークスは、ごく微量のフェロモンをふわりと漂わせた。
それは一瞬で消える程のもので、けれども千尋が彼のフェロモンから運命の番を見るには充分なものだった。
まさかフェロモンを自在に操れる者がいるとは思いもよらず、またそれと同時に見えた運命に千尋は驚愕し目を見開く。
「分かってくれる……?」
どこか悲しそうな表情で眉を下げながら聞いてきたマークスに、千尋は何故彼がライリーを助けたいのか理解した。
頭がぐらりと一度揺れるような感覚に襲われ、不快感が体を舐める。
顔を僅かに顰め千尋が口を開こうとした途端、彼女には内緒にしてくれと小声で懇願された。
「……分かりました」
「よかった!」
「彼女と離れてからそのことで話をしたいのですが」
「そう、だよね。うん、きちんと貴方に話すよ」
心の底から安堵したように笑みを零したマークスに演技をしている様子は見受けられない。
ライリーの元に再び戻ったマークスは目に見えて表情が柔らかく、心から彼女のことを想っていることが見て取れた。
今はマークスを信用するしかないだろうと千尋はネックガードを取り出すと、静かにするようにジェスチャーしてから通話ボタンを押す。
「レオですか?」
『千尋っ! 繋がって良かった、無事か?』
「えぇ、なんとか。レオは?」
『こちらも何ともない。アロンは捕らえてある。千尋、今いる場所は森の中にある集落のような場所か?』
「そう……ですけど、どうやって……」
『マチルドが記憶を取り戻した。詳しくは合流してから話すが、彼は元々そこに居て逃げてきたようだ。マークスという男に助けられたと言っていたが……』
その名前がまさかレオの口から出てくるとは思わず、千尋は思わずマークスを見る。
「今彼と一緒にいます。それに失踪中だったライリーも」
向こう側のレオは何か考えるように一瞬黙り込むが、すぐにまた話し始めた。
『フレッドとニコール達の隊を私が率いてそちらに向かう。千尋は脱出に備えておいてくれ。その場所の正確な位置は分かるか?』
「マークス、この場所の位置は分かりますか」
千尋との会話からレオが来ることを予想できたのか、マークスは困った顔をしてライリーを見やった。
「僕は生まれてからこの場所を出たことがないんだ。ライリーは分かるだろう?」
マークスに促され、ライリーは千尋に詳しい場所を話す。それはネックガードのマイクを通してレオの耳に届けられた。
『そこなら準備が出来次第、明日突入できる。千尋達は脱出に備えておいてくれ」
「分かりました。……ですがフレッドとニコールがある部隊ですよね? その、彼らは大丈夫でしょうか」
彼らの精神状態を考えれば千尋が心配になるのは当然のことだった。
だがレオは一度喉の奥で笑っうようにしてから、彼らもプロだから大丈夫だと言い切る。
声音の中に含まれていた不穏さを感じ取ってしまうには十分だった。
アーヴィングのこともある。かつての仲間をこれ以上レオ自身の手をかけるようなことはして欲しくない。
そう伝えたとしても、いざとなればレオは躊躇わないのだろうがーー
「パパがここに来るの?」
千尋がレオへの返答に困っていれば、聞き覚えのない声が不意に聞こえてきた。
驚いて振り返れば、ライリーが隠れていた屋根裏から一人の少女が降りてくる。
その少女には見覚えがあった。
「アイリス……?」
「パパが、パパが来てくれるの? 本当に?」
目から涙を溢れさせ、喜びから静かに泣きじゃくる彼女にライリーが寄り添う。
まさかこの場所にアイリスまでいようとは。
『どうした千尋』
ある意味で、心を擦り減らした彼女達にとってはここが本当の楽園のように聞こえていたのだろう。
心が痛んだが、それを振り払うように軽く頭を振ると、千尋はレオにアイリスがいることを伝えた。
『そうか、これでフレッド達はいつも以上に仕事をしてくれるはずだな』
どこか安堵したような声音のレオに苦笑しながらも通信を終えた千尋は、マークス達に脱出の目処が立ったことを話したのだった。
1
お気に入りに追加
1,636
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
事故つがいの夫は僕を愛さない ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】
カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました!
美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活
(登場人物)
高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。
高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。
(あらすじ)*自己設定ありオメガバース
「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」
ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。
天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。
理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。
天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。
しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。
ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。
表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。