運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

54. 千尋の行方

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 時間は少し遡る。
 アロンと対峙したレオだったが、勝敗はあっけないものだった。
 レオ一人であれば余裕で捉えることができると踏んでいたのだろうが、そこは実戦経験の差が如実に表れた。
 広い会場内、迫りくる敵をハンドガン一つで迎え撃ち、倒れた敵からすぐにサブマシンガンを奪えばあっという間っだ。
 テーブルをひっくり返して敵の足止めし、躊躇いなく銃弾を撃ち込んでいけば、室内は硝煙と血の匂いに包まれていく。

 手薄になったアロンの足も抜かりなく撃ち抜けば、どこに逃げることもできず後ずさるばかり。
 辺りに散らばる残骸を踏みつけながらアロンの元に辿り着けば、先程まで檀上で笑みを浮かべていたアロンの表情は青ざめたものに変わっている。

 レオはそこでスマホを取り出し、漸く千尋の位置情報を確認しようとした。
 だが画面に取得不可の文言が表示され、一気に神経が逆だつ。
 GPSが役に立たないということは、千尋のネックガードが壊されたことを意味しているからだ。

「千尋をどこにやった」

 地を這うような怒りを多分に含む声でレオが問いかければ、アロンは体を分かりやすくガタガタと震えさせた。
 サブマシンガンの銃口を突き付け話すように促すが、口を引き結び必死の形相で首を左右に僅かに振るばかりだ。

「何を考えてこんなことをしでかした? 誰かに脅されてるならまだ救いようがあるが……」

 ちらりと伺えば、アロンが恐怖しながらも僅かに口の端を上げているのが見て取れた。
 ということはこれはアロンの意思で実行されたということ。しかしレオにはアロンだけで計画したものとは思えなかった。
 彼はαの中でも取り分け競争心が薄いタイプだからだ。

「……お前が主犯ではないんだろう? 早く言ったほうが身のためだと思うが?」

 怒りで腑が煮えくり返り、冷静さを欠きそうになるのを必死に抑えながら問いかける。
 だがアロンは怯えながらも、千尋の居場所も黒幕も答えようとはしない。

「大事な娘をお前の目の前で甚振って欲しいのか?」

 一度わざとらしく大きな息を吐いたレオは、煽るように口端を上げてアロンを挑発した。
 漸く幸せを手に入れたというΩの愛娘が危険に晒されれば、否が応でも口を割るはず。
 そう考えアロンに問いかけたが、目の前の男は自信あり気に笑う。

「娘は安全なところに居る。見つかるはずがないんだ。勿論彼の居場所も教えるつもりはない!」
「本当にそう思うか? 千尋が攫われてるんだ、どれだけの人間が彼を救うために動くと思ってる」
「それでも見つかるわけがない」

 妙に確信めいたアロンの言葉に、レオは眉を跳ね上げ首を傾げた。
 ここまで言い切り、尚且つ千尋のネックガードが壊されていることと鑑みるに、アロンと手を組んでいるのは上流社会にいるα達が居るのだろう。

 だがレオには関係ないことだ。
 誰が誰と手を組もうが、最終的に千尋を奪還しゴミ処理はブライアンにでも千尋の狂信者達に任せればいいだけ。
 今は兎に角、千尋を見つけ出すことが最優先事項である。

「ではお前がどれだけ耐えられるか試してみよう」

 一度銃口を下ろしたレオは、撃ち抜いていたアロンの足を体重をかけて勢いよく踏みつけた。

「ぎゃっあ゛ぁ!!」

 踏みつけられた足からは、みしりと骨が軋み折れる音が聞こえてくる。
 だがレオは痛みに藻掻き苦しむアロンが逃げないようにと足を外すことはしない。
 痛みで叫けぶアロンの口の端からは唾液が溢れているが、これだけでは口を割らなかった。

「千尋を攫ってどうするつもりだ? 目的はなんだ」

 そう問いかけながら、レオはアロンの手を目掛けてサブマシンガンの銃床を振り下ろす。
 手の骨は鈍い音をたて砕け、より強い叫び声をアロンが上げた。

「今ならまだ間に合う。今ならな。話せばお前と娘だけは助けてやれるように取り計らうぞ」

 意識を飛ばすギリギリの所を彷徨うアロンに、レオは畳み掛けるように囁いた。

「彼の方は、娘だけじゃない。……Ωの希望だ。それこそ、αに千尋が居るように……Ωには彼の方が必要で……」

 途切れながらも吐き出すように紡がれたアロンの言葉に、レオは盛大に眉を顰めた。
 アロンのような状態の人間を見ることは多い。
 何故なら千尋を崇拝しすぎる狂信者達が見せる物と同じ雰囲気を纏っているからだ。

「そいつは誰だ?」

ーータチが悪い。そう思いながらも問いかけるが、アロンは力無く、そしてレオを嘲笑うように言葉を発する。

「言え、ない……娘の幸せ、が……彼がいれば、千尋もいずれ……必要なくなる」

 ペンダントを掴みながら意識を失ったアロンに盛大に舌打ちしたレオは、掴んでいた体を離す。
 その弾みに握っていたペンダントが外れ、レオの足元に落ちてきた。
 ふと視線を向ければ、ペンダントトップに描かれているマークに既視感を覚えるる。
 レオはその直感を信じ、スマホですぐに目当ての番号を押した。
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