運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

47. そのパーティーは

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 あっという間に千尋の周りには人だかりが出来上がり、口々に千尋を褒め称えた。
 そしてそれと呼応するように、護衛でしかないレオの元にも人が群がってくる。
 それは最近では珍しくなくなった光景でもあった。

「レオくん、どうだねうちの護衛として雇われてみるというのは」
「千尋の護衛は基本的に君一人だと聞いた。勤務形態が流石におかしいだろう?」
「給料も待遇も今より良いものを提供しよう」
「なんの、こちらはΩの子を沢山用意することもできるぞ」

 レオに遠慮なく群がる彼らは、酷く愚かしい提案をしてきて品性の欠片もない者ばかり。
 フェロモンアタックを恐れてレオをどうにか千尋から引き離そうとする者達は日増しに増えていた。
 呆れて言い返したくもなるが、何かをきっかけに揚げ足を取り千尋に相応しくないと言われかねないのでレオはただただ無難に流すのみに留めていた。

 そもそもそんなことを露骨に提案してくるのは階層の低いαばかりで、レオが彼らに靡かなくとも問題は何もないのだが。
 彼らのような人間からどんな好条件を出されようとも、レオには何ら魅力を感じない。
 千尋の傍に一番に侍れる価値がそれらと全く釣り合わないからだ。

 金銭にも元々そこまでの執着はないし、性処理用の人間を当てがうと言われたとて嬉しくも何ともなく、なんなら不快さしかない。
 千尋の体温、レオと成瀬以外知らないあの特殊なフェロモンに魅入られ、千尋という人間に堕とされてしまったレオにはーー

 視線の先には常に千尋を留めていたレオだが、ジリジリとその距離を離されているのを感じ取った。
 千尋に群がる人々が自然とレオから引き離し、レオ取り囲む人々がレオの動きを止めているようだった。
 彼らは一体何を企んでいるのか。レオをモノにしようと企む傍らで、もしや千尋にも手を出そうとしているのではないのか。

 その考えがレオの頭を過ったその時、千尋の周りにいるアロンを含めたα達が、フェロモンの濃さを強くしていることに気がついた。
 ぴきりとレオの額は青筋をたてる。
 ここに居るα達も、千尋がΩだと知りながら平気で千尋を物として扱おうとしていて、そのことに腹が立たないわけがなかった。

 周りに纏わりつく者達から離れ、すぐそこにいる千尋の元へ行こうと足を踏み出したその時。
 狙い澄ましたように、給仕の男が持っていたトレーをひっくり返し、背後からレオにワインを浴びせたのだった。

「す、すみませ……すみませんっ!!」

 僅かに振り返れば、顔を青ざめさせガタガタと震え腰が抜けたようにへたり込む給仕の男。
 だがそんなことに構っている暇はないと再び視線を前に向けた瞬間、会場内の照明が一斉に落とされ視界が闇に染まる。

「くそッ! 千尋! 千尋居るか!?」

 最後に姿を見た方向に声を張り上げるが、当然のように千尋からの応えはない。
 盛大に舌打ちしたレオはワインで重くなったジャケットを脱ぐと、懐から素早く銃を引き抜き周りを警戒した。
 ただの照明トラブルならば良いが、レオの勘がそうではないと告げている。
 警告音が脳内で鳴り響き、全身の毛穴が逆立ちぴりぴりとした緊張感が肌を刺す。
 暫く平穏の中に身を置いていたせいで勘が酷く鈍ってしまったのだろうかと内心首を傾げたレオだが、すぐにそうではないと首を振る。
 レオと千尋を手に入れたいという欲望は感じていたが、それはいつも感じているものと変わらなかったし、そこに敵意は少しも感じなかった。
 起きてしまった事態に盛大に眉を顰めつつ、レオは光ひとつない暗闇の中、周りにあったテーブルや椅子に躓かないように進捗に足を進めていく。
 会場の配置はこの場に入ってすぐに頭に入れてある。それを思い出しながら音を立てずに壁紙まで辿り着くと、今度は壁伝いに慎重に移動した。
 
 周りの気配を読めば、既に会場には誰もいないように感じた。微かな物音一つしないのだ。
 不気味に沈み返った会場内で、毛足の長いカーペットを踏むレオの足音がやけに大きく聞こえる。
 敵意を感じはしなかったが、これは明らかに仕組まれたものだと嫌でもわかる。
 漸く壁伝いに扉の場所まで辿り着き、ドアノブに手を掛け音が出ないようにゆっくりと開けようとするが鍵が締まっていた。
 そうだろうなと妙な納得をしたレオがどうやって会場から出ようか考え始めた瞬間、会場内の照明が突如として戻り眩しい光が目を潰しそうになる。

 僅かに目を閉じ、光にくらみそうになるのを抑えたレオが見たのは、設置されていた檀上の上に立ち柔和な笑みを浮かべるアロンと、その前に立つ武装した男達だった。
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