運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

45. レオの憂鬱と怒り

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 短い仮眠から起きたレオは、凭れ掛かり小さな寝息をたてる千尋をそのままソファに寝かせ、朝のルーティンを始めた。

 軽く体を動かしたあとは、千尋が眠るソファが見える位置で道具を広げ、音をあまり立てないように銃のメンテナンスをおこなう。

 広げたマットの上にバラした部品を並べながら、レオは昨夜の出来事を思い出していた。
 ニコールをあの場で撃ち殺さなかった自分を褒めてやりたいほど、フェロモンが故意に撒き散らされたあの瞬間、怒りが湧き立ったのだ。

 Ωである千尋にあの過剰なまでのαのフェロモンをぶつけるなど正気の沙汰ではない。
 千尋はそこまで気にしていないようだが、ニコールが撒き散らしたレベルのフェロモンの濃さと量は、普通のΩであれば精神を錯乱させるレベルのものだった。
 それほどに危険なものだったのだ。

 常にαに囲まれ、数多のフェロモンに慣れ、そしてαとしての強さを持つレオのフェロモンに慣れていなければ、千尋とてどうなっていたかわからない。

 精神負荷を掛ける訓練を受けているとは思えない行動は、理性を失った動物と同じだ。
 気持ちが悪すぎて、以前と同じようにかつての仲間を思えそうになかった。
 未だ出会ってすらいないのというの、運命の番だというだけで見せるあの執着の異常さに、レオはさらに嫌悪感を募らせる。
 運命の番同士が出会った瞬間を初めて見た時と同じ、身の内から鳥肌が立つような感覚が不快で仕方がない。

 なによりも、千尋を道具のように扱ったかつての仲間に余計に腹が立った。
 一番信頼を置いて、命すらも預けた仲間達。
 だからこそ、レオが何に置いても大事にして自らの主と仰ぎ、全てを捧げる千尋に大して取った行動が許しがたかった。
 彼らに千尋との関係を教えているわけではない。悟らせるようなこともしない。
 故に彼らが千尋をその他大勢のα達と同じように、千尋を運命の女神だといいつつも、都合の良い道具としてみていることが気に食わない。

ーーいっそあの場で殺してしまえば良かったか。

 再び組み立てた銃を手の中で遊ばせながらそう考えてしまう。
   いつかは出会っていたかもしれない。だが贖罪のためだとしてもニコールに運命の番をあてがったのは紛れもなく千尋だというのに。

 その幸運に目が眩み、感謝も忘れ、理性的な考えをも放棄するとは。
 閉じていた目を開き、手にしていたハンドガンにマガジンを入れる。
 できればかつての仲間を手に掛けたくはないが、彼らがこれ以上下手な動きをしたらその時は容赦はしないと、レオは懐のホルスターにハンドガンをしまいながら考えた。

 テーブルの上を片付けルームサービスで軽食を頼んでから、レオは眠る千尋の様子を確かめた。
 目元に薄っすらと隈を作っている千尋は、眉を僅かに寄せ額には薄っすらと汗をかいている。
 また悪夢を見ているのだろう。
 忌まわしいアーヴィングの亡霊に思わず舌打ちしそうになるのをグッと堪えた。

 時間が許す限り眠っていて欲しいが、悪夢を見て余計に疲れてしまうよりは良いだろうと、千尋を起こすことにした。





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