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第二部-失意の先の楽園
44 かつての戦友と今2
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気が動転した状態では碌に話ができないだろうと、レオが早々にこの場を離れることを決め、滞在先のホテルへ戻ることになった。
部屋を出る際、フレッドとニコールに縋るような目で見られたが、レオを通して再度連絡することを言い含めて外へ出る。
帰りの車内は行きとは違った重苦しさがあり、千尋とレオは心底疲れ切っていた。
いつの間にか上った朝日が、ビルの窓ガラスに反射してちらちらと光る。
ホテルに帰れば疲労と寝不足からそのまま寝てしまいたいのを我慢して、二人は手早くシャワーを済ませた。
ニコールの濃いフェロモンは時間と共に薄らぎはしたが、洗い流しクリアにした方が体には良いし、何よりもレオ以外の香りを纏いたいとも思わない。
レオが早々に帰宅を促してくれてよかったと独り言ちていれば、眠気覚ましのコーヒーを入れたレオが簡易キッチンから戻って来て、隣に座った。
「ニコールがすまなかった」
レオが申し訳なさそうに謝るが、咎める気持ちは欠片もない。
千尋の手を取ったレオが脈拍や熱を測り、フェロモンの影響が出ていないかを簡易的に調べていく。
首筋に当てられた手を取り自身の頬を摺り寄せれば、レオの手が僅かに跳ねた。
そのまま甘えるように身を委ねれば、レオに引き寄せられた。。
「……アイリスの居場所は見えたのか?」
「いいえ、見えませんでした」
ハッキリとそう言えば、レオの目が僅かに見開かれた。最悪の事態を考えてしまったのだろうが、そうではない。
「安心してくださいレオ、彼女は亡くなってはいませんよ。ただニコールのフェロモンが強すぎて、他の運命の番の映像が強く見えてしまって。彼女の居場所が霞んでしまったんです」
その時のことを思い出そうとすれば、急に脳が熱を持つ感覚してズキリと頭が痛んだ。僅かに眉根を寄せただけだったが、どうやらレオには伝わってしまったらしい。
「痛むのか?」
「大分ましになりましたけど、まだ少し」
一気に流れ込んでくる情報の嵐は、頭で処理できる限界を超えることがある。
大統領襲撃事件の時は犯人がΩであったため、影響はあれども強くは今回のように強くはなかった。
今回の場合は、ニコールが自身の番を守るために発したフェロモンだ。通常の物とはまた違う強さがあった。
「まさかニコールが千尋を探知機のように扱うとは」
「ふふふ、こんな使い方をされたのは初めてですね」
「笑いごとではないだろう」
「そうですけど、私は彼女を責めるつもりはありませんよ」
千尋は寧ろ、ニコールの発想の良さに舌を巻いたほどだった。使える物は使えという軍人らしい考え方があるからこその判断だったのだろう。
「アイリスのことはどうする」
「探しますよ、でも……」
「ニコールと会うのは暫くは危険だろう」
「仕事の日程もありますしね……どうしましょうか」
考えだそうとすれば、レオの手がそっと目元を覆う。
「今考えるのはよそう。少しでも寝ないと体調を崩すぞ千尋」
すっかりと朝日が顔を出しカーテンの隙間から煌めく日差しを差し込んでくる。
だがレオの大きな手で覆われた千尋の目には、心地よい暗闇しか見えない。じんわりと温かい体温で、疲れ切った体は眠りを求めて瞼を重く落としていった。
*新作「ハッピーライフのその先は。」公開してます!
こちらも合わせてよろしくお願いします!
部屋を出る際、フレッドとニコールに縋るような目で見られたが、レオを通して再度連絡することを言い含めて外へ出る。
帰りの車内は行きとは違った重苦しさがあり、千尋とレオは心底疲れ切っていた。
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「ニコールがすまなかった」
レオが申し訳なさそうに謝るが、咎める気持ちは欠片もない。
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首筋に当てられた手を取り自身の頬を摺り寄せれば、レオの手が僅かに跳ねた。
そのまま甘えるように身を委ねれば、レオに引き寄せられた。。
「……アイリスの居場所は見えたのか?」
「いいえ、見えませんでした」
ハッキリとそう言えば、レオの目が僅かに見開かれた。最悪の事態を考えてしまったのだろうが、そうではない。
「安心してくださいレオ、彼女は亡くなってはいませんよ。ただニコールのフェロモンが強すぎて、他の運命の番の映像が強く見えてしまって。彼女の居場所が霞んでしまったんです」
その時のことを思い出そうとすれば、急に脳が熱を持つ感覚してズキリと頭が痛んだ。僅かに眉根を寄せただけだったが、どうやらレオには伝わってしまったらしい。
「痛むのか?」
「大分ましになりましたけど、まだ少し」
一気に流れ込んでくる情報の嵐は、頭で処理できる限界を超えることがある。
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今回の場合は、ニコールが自身の番を守るために発したフェロモンだ。通常の物とはまた違う強さがあった。
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「ふふふ、こんな使い方をされたのは初めてですね」
「笑いごとではないだろう」
「そうですけど、私は彼女を責めるつもりはありませんよ」
千尋は寧ろ、ニコールの発想の良さに舌を巻いたほどだった。使える物は使えという軍人らしい考え方があるからこその判断だったのだろう。
「アイリスのことはどうする」
「探しますよ、でも……」
「ニコールと会うのは暫くは危険だろう」
「仕事の日程もありますしね……どうしましょうか」
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すっかりと朝日が顔を出しカーテンの隙間から煌めく日差しを差し込んでくる。
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