運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

42 新たな行方不明者

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 先にリビングへ戻った千尋だったが、時間が掛かるかと思ったフレッドとの電話はすぐに終わったようで、レオも暫くしてから戻ってきた。
 しかしその表情は険しさを増している。

「フレッドに何かあったんですか?」
「今から出てもいいか、千尋」

 レオが個人的な用事で動くことなど普段ありはしない。何かが起こっていることは明白だった。
 無言のまま手早く外出着に着替え外に出ると、待機していた他の護衛達が怪訝そうな顔をした。それはそうだろう、今日の予定はこれ以上ないはずだったのだから。
 だが彼らも普段はセレブや要人達に付いている者達だ。急な外出にも慣れたもので、手早く準備を整えてくれた。

 車に乗り込み、煌びやかな光を放つビル群の谷間を進む。車内は妙な緊張感に包まれていて、千尋とレオの口数は少なかった。
 レオの元に齎された連絡は、フレッドの娘であるアイリスが書置きを残して行方不明になってしまったと言うものだった。
 警察にも届けは出され既に捜索が開始されているが、手掛かりはどこにもないという。
 マチルドの両親が言っていたことと似たような状況に、千尋もレオも言い知れぬ不安を抱いていた。

 ハイウェイをひた走り、元居た街からさらに離れた場所にある街に向かった。
 月は真上に輝き、大きな街であっても人通りは少なくなっている。
 待ち合わせ場所のホテルに到着すれば、既にフレッドは部屋に居るようだった。
 護衛達を部屋の外に待機させ部屋の中に入れば、そこには憔悴しきったフレッドと、今にもこの部屋から飛び出していきそうな勢いのニコールが待っていた。

 千尋とレオが姿を見せた途端、目を血走らせたニコールが千尋目掛けて突進してくる。
伸ばされたその手が届く前にレオが難なく動きを阻止したのだが、あまりの剣幕に千尋は一歩後ずさってしまう。

「あの子が……アイリスが居なくなった!! 千尋、今すぐ私のフェロモンから彼女を……私の番を探して!!」

 そう叫んだ次の瞬間、ニコールから大量のフェロモンが撒き散らされた。
 室内に充満したその強烈な臭いに、脳が揺さぶられ頭が痛くなる。

「落ち着けニコールッ!!」

 一気に浴びた強烈なフェロモンに酔い思わず床に崩れ落ちれば、レオがニコールを容赦なく締め上げる。

「冷静になれ、ニコール! お前らしくもない」
「貴方に何が分かるの!! 番が居なくなったのよ!?」
「まだ出会ってすらいないだろう!?」
「それでも彼女は私の運命の番じゃない!! そうでしょう千尋!?」

 ぐしゃりと歪めた顔で、目から大粒の涙を滂沱の如く流し始めたニコールを見て、レオが珍しく驚いている。
 運命の番のことで取り乱す身内を見ることになるとは、思いもしなかっただろう。 今まで見てきたものは所詮、仕事上の関係の者達だ。
 しかもニコールは特殊部隊に所属する現役の軍人であり、余程のことがあったとしてもレオ同様に取り乱すことがないように訓練されている。
 それがここまで取り乱すとは。

 ニコールは未だ興奮を落ち着けることが難しいようで、レオが仕方なく後ろ手に拘束し椅子に固定していた。
 それでも日頃から訓練を受けているニコールからすれば簡単に抜け出せる。だがそうしないということは、多少なりとも理性を保てているということだろう。

 床に手を着きぐらつく体を支えていれば、レオが千尋をフレッドの真正面の席に座らせてくれた。
 手渡された水を飲めば多少は気分が晴れる。

 閉め切られていた大きな窓がレオによって全て開け放たれ、夜の風が流れ込みニコールが放ったフェロモンを外に運んでくれた。
 その香りが薄まり、千尋が落ち着くまでフレッドは身じろぎ一つせず、床に視線を落としたまま口を開かない。
 ニコール同様、千尋に詰め寄りたいのを相当我慢しているのだろう。握りしめた手は真っ赤に染まり震えているのが見えていた。

 レオから話す許可が下りたのはそれから一時間程経ってからだ。
 その頃にはニコールも大分落ち着きを取り戻していたが、本人の希望で拘束されたまま話をすることになった。
 レオがフレッドの肩を促すように叩けば、ハッと我に返ったように顔を上げて千尋を見てきた。
 その顔はまるで迷子の子供のように不安が全面に押し出されていて、基地で会った時の毅然とした態度の彼とは随分と印象が異なっている。
 娘が行方不明になっているのだ、取り乱さない親など一部を除いていはしない。

 千尋は縋るような視線を向けるフレッドに視線を合わせ、詳しく事情を話すように促した。
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