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第二部-失意の先の楽園
41 動乱の世の中
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大統領襲撃事件後も、世間を賑わす話題が大きく変わることはなかった。
有名人や要人相手の気味の悪いフェロモンアタックは、左程開かない間隔で世間を賑わせている。
新たに分かったのは、ブライアンを襲撃したΩ達が服用していた薬が、やはり新種のものだと言うこと。
大元となるフェロモンの香りが増幅し、人が持つ固有の香りを消しさってしまう。極度の興奮状態に陥り、力の加減も効かなくなり、痛みも感じなくなるようだ。
その薬の力に驚いたα達は、尚のこと警戒心を持ったのは言うまでもない。
既に運命の番を手にしている者達は番との強い結びつきを信じ、フェロモンアタックなどで効きはしないなどと高を括るものが多かった。
その反面、その絆が壊されるかもしれない恐怖に怯える者も当然いる。
今はデジタル社会、当然外に出なくとも仕事はできる。
しかし彼らは権力者。そしてαだ。故に引き籠り、怯える姿を見せることができない者が多かった。
そんな中フェロモンアタックは波及していく。新種の薬を使う以外のごく一般的なものまで起こるようになってしまったのだ。
そうなってしまえば、権力者以外のαが運悪くフェロモンアタックの魔の手にかかってしまうことも増えていくのは当然だった。
それを受けてレオを連れ歩く千尋には余計に仕事が舞い込むようになる。
今までよりも更に呼ばれるようになった理由は、レオをフェロモンアタックの抑止力として使いたいがため。
休む間が無くなろうとも千尋が仕事を拒否することはなかった。
例え自身が死の衝動に襲われようとも、悪夢に魘され睡眠時間が上手く確保できなくとも、できる限り仕事を受け自身の影響力が下がらないようにと務めるしかなかった。
日に何度もある仕事を忙しなくこなし、疲れ切ってホテルに戻るとレオが準備してくれた湯船に肩までじっくり浸かる。
「疲れた……」
湯船に張った熱いお湯の中、淵に頭を預けて千尋はポツリと言葉を漏らす。僅かに身じろげば、水面に漂う花弁が合わせて揺れた。
気分を少しでも変えられるようにと、レオが気を利かせたのだろう。
その気遣いに心が温かくなる。一枚指で摘み香りを嗅げば、程よい甘さが鼻をくすぐった。
疲れ切った体から力をできるだけ抜き、リラックスするように心がける。
染み込むように広がる熱が体を包み込み、疲れを少しだけ溶かしていった。
世間の騒がしさは収まりを見せる気配がない。そんな中、仕事で浴びる視線は厳しくなっていた。
まるで肉食獣のような視線を千尋に向け、レオを我が物にできないかと虎視眈々とα達が狙うのだ。
そんな視線の中に長時間、毎日晒されれば気疲れもするというもの。
レオも千尋同様に疲れの色を見せていて、早くこの状況が静まればいいのにと思わずにはいられない。
風呂から出ればレオが珍しくソファに座り、うたた寝をしていた。
起こさないようにそっと近づき、隣に腰を下ろしても起きる気配がない。珍しく深く寝入っているようだった。
珍しいこともあるものだと、少し乱れたレオの髪を軽く撫でる。
規則正しい静かな寝息を聞きながら、眠るレオに体を預けチカチカと通知を知らせ光るスマホを手に取ると、千尋は届いているメールを開いていった。
どれもこれもレオ目当てのものばかり。
呆れるように見ていけばふと視線が止まり、気づけば千尋は微笑んでいた。
「すまない、寝てしまっていたな……何を見てたんだ?」
まだ意識が完全に覚醒していないレオが、目を瞬かせながらスマホの画面を覗き込んできた。
「アーロンからのメールですよ」
相変わらずの惚気話が満載のメールを見て微笑む千尋につられるようにして、レオも笑みを浮かべた。
千尋達の置かれている状況を理解しているアーロンは、レオを取り込もうという気持ちは少しもないのだと、大統領襲撃事件の直後世間が揺れている時に真っ先に宣言してきたのだ。
定期的に送られてくるメールにはアーロンが知りえた情報も添えられていて、警戒するべき人間が分かりやすかった。
ここまで協力的であるのは直近で運命の番を手に入れたことに加え、マチルドの命を救ったことが大きい。
そうでなければ惚気ということもあれど、こうして気遣うメールを定期的に送ってきたりはしないだろう。
犬と戯れ満面の笑みを浮かべるマチルドの写真を眺めながら、千尋は心が緩んでいくのが分かった。
最近の数少ない楽しみ兼癒しが彼らだ。
一時の休息を終えた千尋は、レオが浴室へ向かっている間に気の重たいメールの返信に励む。
日に何十通と送られてくるメールを見ていくのだけでも一苦労だというのに、その内容が内容なだけに疲れが増してしまう。
目の疲れを取るために目元を緩く揉んでいれば、レオのスマホが珍しく着信を告げていた。
画面を見れば、相手はレオの元上司に当たるフレッドからだ。
一度着信は途絶えたが、またすぐにスマホが音を鳴らす。その違和感に千尋がレオに伝えに行けば、レオは険しい表情で電話に出ていた。
有名人や要人相手の気味の悪いフェロモンアタックは、左程開かない間隔で世間を賑わせている。
新たに分かったのは、ブライアンを襲撃したΩ達が服用していた薬が、やはり新種のものだと言うこと。
大元となるフェロモンの香りが増幅し、人が持つ固有の香りを消しさってしまう。極度の興奮状態に陥り、力の加減も効かなくなり、痛みも感じなくなるようだ。
その薬の力に驚いたα達は、尚のこと警戒心を持ったのは言うまでもない。
既に運命の番を手にしている者達は番との強い結びつきを信じ、フェロモンアタックなどで効きはしないなどと高を括るものが多かった。
その反面、その絆が壊されるかもしれない恐怖に怯える者も当然いる。
今はデジタル社会、当然外に出なくとも仕事はできる。
しかし彼らは権力者。そしてαだ。故に引き籠り、怯える姿を見せることができない者が多かった。
そんな中フェロモンアタックは波及していく。新種の薬を使う以外のごく一般的なものまで起こるようになってしまったのだ。
そうなってしまえば、権力者以外のαが運悪くフェロモンアタックの魔の手にかかってしまうことも増えていくのは当然だった。
それを受けてレオを連れ歩く千尋には余計に仕事が舞い込むようになる。
今までよりも更に呼ばれるようになった理由は、レオをフェロモンアタックの抑止力として使いたいがため。
休む間が無くなろうとも千尋が仕事を拒否することはなかった。
例え自身が死の衝動に襲われようとも、悪夢に魘され睡眠時間が上手く確保できなくとも、できる限り仕事を受け自身の影響力が下がらないようにと務めるしかなかった。
日に何度もある仕事を忙しなくこなし、疲れ切ってホテルに戻るとレオが準備してくれた湯船に肩までじっくり浸かる。
「疲れた……」
湯船に張った熱いお湯の中、淵に頭を預けて千尋はポツリと言葉を漏らす。僅かに身じろげば、水面に漂う花弁が合わせて揺れた。
気分を少しでも変えられるようにと、レオが気を利かせたのだろう。
その気遣いに心が温かくなる。一枚指で摘み香りを嗅げば、程よい甘さが鼻をくすぐった。
疲れ切った体から力をできるだけ抜き、リラックスするように心がける。
染み込むように広がる熱が体を包み込み、疲れを少しだけ溶かしていった。
世間の騒がしさは収まりを見せる気配がない。そんな中、仕事で浴びる視線は厳しくなっていた。
まるで肉食獣のような視線を千尋に向け、レオを我が物にできないかと虎視眈々とα達が狙うのだ。
そんな視線の中に長時間、毎日晒されれば気疲れもするというもの。
レオも千尋同様に疲れの色を見せていて、早くこの状況が静まればいいのにと思わずにはいられない。
風呂から出ればレオが珍しくソファに座り、うたた寝をしていた。
起こさないようにそっと近づき、隣に腰を下ろしても起きる気配がない。珍しく深く寝入っているようだった。
珍しいこともあるものだと、少し乱れたレオの髪を軽く撫でる。
規則正しい静かな寝息を聞きながら、眠るレオに体を預けチカチカと通知を知らせ光るスマホを手に取ると、千尋は届いているメールを開いていった。
どれもこれもレオ目当てのものばかり。
呆れるように見ていけばふと視線が止まり、気づけば千尋は微笑んでいた。
「すまない、寝てしまっていたな……何を見てたんだ?」
まだ意識が完全に覚醒していないレオが、目を瞬かせながらスマホの画面を覗き込んできた。
「アーロンからのメールですよ」
相変わらずの惚気話が満載のメールを見て微笑む千尋につられるようにして、レオも笑みを浮かべた。
千尋達の置かれている状況を理解しているアーロンは、レオを取り込もうという気持ちは少しもないのだと、大統領襲撃事件の直後世間が揺れている時に真っ先に宣言してきたのだ。
定期的に送られてくるメールにはアーロンが知りえた情報も添えられていて、警戒するべき人間が分かりやすかった。
ここまで協力的であるのは直近で運命の番を手に入れたことに加え、マチルドの命を救ったことが大きい。
そうでなければ惚気ということもあれど、こうして気遣うメールを定期的に送ってきたりはしないだろう。
犬と戯れ満面の笑みを浮かべるマチルドの写真を眺めながら、千尋は心が緩んでいくのが分かった。
最近の数少ない楽しみ兼癒しが彼らだ。
一時の休息を終えた千尋は、レオが浴室へ向かっている間に気の重たいメールの返信に励む。
日に何十通と送られてくるメールを見ていくのだけでも一苦労だというのに、その内容が内容なだけに疲れが増してしまう。
目の疲れを取るために目元を緩く揉んでいれば、レオのスマホが珍しく着信を告げていた。
画面を見れば、相手はレオの元上司に当たるフレッドからだ。
一度着信は途絶えたが、またすぐにスマホが音を鳴らす。その違和感に千尋がレオに伝えに行けば、レオは険しい表情で電話に出ていた。
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