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第二部-失意の先の楽園
34 ネックガード
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目を覚ませば既に日は高く昇っていた。顔を横に向ければ、カーテンの隙間から漏れた光に眩しそうに眉を顰めながら、小さく寝息を立て千尋が眠っている。
光に照らされた体は白く、今だ晒されたままの項には、レオが噛めない代わりに執拗に付けた痕が項を覆うように広がっている。
ーー流石にやり過ぎた。そう思って項垂れるくらいには酷い有様なのだ。
いつもであれば、ここまでの痕を残すことはない。いくら休暇の始まりだとしても、レオは行儀良く弁えていたのだ。
激しくすることがあったとしても、色濃く痕を、それも項を覆うほどつけることはなかった。
それほど肝が冷えていた、と言えばそれまでなのだが、そうだとしてもやはりやり過ぎたとこにはかわりない。
レオが自責の念に駆られながら、それでも満足気に付けた痕をなぞっていれば、千尋が小さく身じろぎをして目を覚ました。
「おはようございます、レオ」
「おはよう千尋。すまない、やりすぎた」
項に触れて言外に示せば、千尋がくすくすと声をたてて笑う。気にしていないとばかりに首に腕を回され引き寄せられれば、啄むような口づけを交わした。
穏やかな空気をそのままベッドの上で享受していれば、大きな音を立ててインターホンが来客を告げる。誰が来たかなど考えるまでもない。
「もうそんな時間ですか?」
「昼を過ぎているからな。起きられるか?」
「えぇ。その前にレオ、着けてくれますか?」
差し出されたのは昨夜外したネックガードだ。受け取って千尋の首に一度着けてみるが、細めのネックガードはレオが付けた痕を隠すのに心元なかった。
千尋は項が隠れるくらい後ろ髪が長いのだが、それでも露わにならないとも限らない。レオが逡巡していれば、千尋がどうしたのかと不思議そうに振り返ってきた。
「どうしました?」
「いや、このままだと痕が見えてしまうなと……」
レオをその場に留めた千尋がベッドから降り、ウォークインクローゼットにある姿見で項を確認する。少し悩む素振りを見せてから棚の中から別のネックガードを持って戻ってきた。
「二~三日はなる君も居ますから家からは出ませんし、気にしなくても良いと思いますけど」
「いや、成瀬になんて言われるか分からないだろう」
「隠していても言われますよ」
「それはそうだろうが……気分の問題だ」
手渡されたネックガードは先ほどの物より幅が広かった。
普通であれば息苦しさすら感じそうな幅の物だが、チタンで作られた細かな細工のネックガードは、千尋曰く着け心地は悪くないらしい。
こうして毎朝レオは千尋の服装に合わせてネックガードを付け外しをしていた。これもレオだけに許されたことの一つだ。
本来であれば、番となった伴侶にだけに許されるこの行為を許されている幸福感は、表現に困るほどレオを悦楽に酔いしれさせる。
ほっそりとした首に再度きつく痕を残してから新たなネックガードを着けた。レオは満足そうに微笑みながら、千尋に支度するように言い残してリビングへ向かうのだった。
遅めの朝食の準備に取り掛かろうとした丁度その時、ガチャリと玄関の扉が開かれる。
合鍵を使って入ってきた成瀬は疲れ切った顔のまま、レオに対して一瞥をくれただけで慣れたようにソファに腰を深く下した。
今回も帰国が伸びたせいで、成瀬の精神状態も限界が近いのだろう。レオとは違い、ずっと千尋の側に居れない成瀬の精神負荷は大きい。
眠気覚ましに入れた濃い目のコーヒーを成瀬の分も入れてテーブルに置けば、一気にカップの半分を飲み干しぼうっとテレビを眺めている。
その様子を流し見つつ朝食の準備を進めていれば、
シャワーから出た千尋がリビングに入ってきた。
その姿を認めた成瀬が途端に顔を綻ばせれば、千尋もそれに応えるようにふわりと笑う。
ソファに千尋を座らせ、肩にかけられていたタオルを取ると、成瀬は上機嫌に千尋の濡れた髪を乾かし始めたのだがーー
「レオ、これはどう言うことかな」
一気に機嫌を急降下させた成瀬が低い声音でレオに問いかけてくる。
オーバーサイズのシャツの襟首からは、ネックガードから覗くレオが付けた痕が見えていた。
「やり過ぎたとは思ってる」
「ほう?」
片眉を跳ね上げ目を細める成瀬に、後で殴られる覚悟はしておこうとレオはそれ以上何も言わなかった。
どうせ千尋抜きでの話し合いをするのだから、今でなくてはいけない理由はない。
まぁまぁ、と嗜める千尋に心底気分が悪いといった様子を隠すこともなく、成瀬は文句を言いながら手を動かし続けていた。
光に照らされた体は白く、今だ晒されたままの項には、レオが噛めない代わりに執拗に付けた痕が項を覆うように広がっている。
ーー流石にやり過ぎた。そう思って項垂れるくらいには酷い有様なのだ。
いつもであれば、ここまでの痕を残すことはない。いくら休暇の始まりだとしても、レオは行儀良く弁えていたのだ。
激しくすることがあったとしても、色濃く痕を、それも項を覆うほどつけることはなかった。
それほど肝が冷えていた、と言えばそれまでなのだが、そうだとしてもやはりやり過ぎたとこにはかわりない。
レオが自責の念に駆られながら、それでも満足気に付けた痕をなぞっていれば、千尋が小さく身じろぎをして目を覚ました。
「おはようございます、レオ」
「おはよう千尋。すまない、やりすぎた」
項に触れて言外に示せば、千尋がくすくすと声をたてて笑う。気にしていないとばかりに首に腕を回され引き寄せられれば、啄むような口づけを交わした。
穏やかな空気をそのままベッドの上で享受していれば、大きな音を立ててインターホンが来客を告げる。誰が来たかなど考えるまでもない。
「もうそんな時間ですか?」
「昼を過ぎているからな。起きられるか?」
「えぇ。その前にレオ、着けてくれますか?」
差し出されたのは昨夜外したネックガードだ。受け取って千尋の首に一度着けてみるが、細めのネックガードはレオが付けた痕を隠すのに心元なかった。
千尋は項が隠れるくらい後ろ髪が長いのだが、それでも露わにならないとも限らない。レオが逡巡していれば、千尋がどうしたのかと不思議そうに振り返ってきた。
「どうしました?」
「いや、このままだと痕が見えてしまうなと……」
レオをその場に留めた千尋がベッドから降り、ウォークインクローゼットにある姿見で項を確認する。少し悩む素振りを見せてから棚の中から別のネックガードを持って戻ってきた。
「二~三日はなる君も居ますから家からは出ませんし、気にしなくても良いと思いますけど」
「いや、成瀬になんて言われるか分からないだろう」
「隠していても言われますよ」
「それはそうだろうが……気分の問題だ」
手渡されたネックガードは先ほどの物より幅が広かった。
普通であれば息苦しさすら感じそうな幅の物だが、チタンで作られた細かな細工のネックガードは、千尋曰く着け心地は悪くないらしい。
こうして毎朝レオは千尋の服装に合わせてネックガードを付け外しをしていた。これもレオだけに許されたことの一つだ。
本来であれば、番となった伴侶にだけに許されるこの行為を許されている幸福感は、表現に困るほどレオを悦楽に酔いしれさせる。
ほっそりとした首に再度きつく痕を残してから新たなネックガードを着けた。レオは満足そうに微笑みながら、千尋に支度するように言い残してリビングへ向かうのだった。
遅めの朝食の準備に取り掛かろうとした丁度その時、ガチャリと玄関の扉が開かれる。
合鍵を使って入ってきた成瀬は疲れ切った顔のまま、レオに対して一瞥をくれただけで慣れたようにソファに腰を深く下した。
今回も帰国が伸びたせいで、成瀬の精神状態も限界が近いのだろう。レオとは違い、ずっと千尋の側に居れない成瀬の精神負荷は大きい。
眠気覚ましに入れた濃い目のコーヒーを成瀬の分も入れてテーブルに置けば、一気にカップの半分を飲み干しぼうっとテレビを眺めている。
その様子を流し見つつ朝食の準備を進めていれば、
シャワーから出た千尋がリビングに入ってきた。
その姿を認めた成瀬が途端に顔を綻ばせれば、千尋もそれに応えるようにふわりと笑う。
ソファに千尋を座らせ、肩にかけられていたタオルを取ると、成瀬は上機嫌に千尋の濡れた髪を乾かし始めたのだがーー
「レオ、これはどう言うことかな」
一気に機嫌を急降下させた成瀬が低い声音でレオに問いかけてくる。
オーバーサイズのシャツの襟首からは、ネックガードから覗くレオが付けた痕が見えていた。
「やり過ぎたとは思ってる」
「ほう?」
片眉を跳ね上げ目を細める成瀬に、後で殴られる覚悟はしておこうとレオはそれ以上何も言わなかった。
どうせ千尋抜きでの話し合いをするのだから、今でなくてはいけない理由はない。
まぁまぁ、と嗜める千尋に心底気分が悪いといった様子を隠すこともなく、成瀬は文句を言いながら手を動かし続けていた。
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