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第二部-失意の先の楽園
29 変わった運命
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翌日。気持ちを切り替えた千尋は、昨夜のα達も参加する昼食会に出席していた。新しくオープンした白を基調とした高級レストランの一室では、和やかな談笑があちらこちらから聞こえてくる。
運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、他愛もない会話をそつなくこなしていく。
できれば今日の予定も早めに切り上げてしまいたいが、立て続けに予定を変更することはできない。
なるべく他のことを考えないようにしながら昼食会を終えた千尋は、休む間もなく今度はアーロンとの約束のために急いだ。
アーロンは貿易会社のCEOで、容易く時間を取れる相手ではない。昨夜連絡を入れてすぐさまこうして時間を取れたのも、偏に千尋からの要請と言うのも勿論あるが、運命の番絡みだと伝えたことが大きいだろう。
千尋が自身滞在先のホテルへ戻ると、そのままホテルの上階にあるビル群が一望できる眺めのいいラウンジへ向かう。入口のスタッフに声を掛ければ、用意されている個室に通された。
一面には大きな窓が嵌められていて、その前にテーブルと椅子が置かれている。ゆったりとした落ち着きのある部屋には既にアーロンが到着しており、緊張した面持ちで椅子から立ち上がった。
「急に呼び出してしまってすみません」
「何か、問題が……?」
対面に腰を下ろした千尋は、不安に揺れるアーロンの言葉にすぐには答えず、ゆっくりと瞼を閉じた。
張り詰めた空気は重苦しく、店内に流れるBGMだけが優雅に流れ、その音だけが室内を満たしていた。
戸惑うアーロンをよそに、千尋はゆっくりとアーロンから漏れるフェロモンを吸い込んだ。途端に鮮明に見えだす複数の運命の番達。
その中で、アーロンにとって最高位の運命はやはりマチルドだった。
やはり運命は変わってしまったのかと、じわりと汗が滲み出る。確定してしまったことで恐怖が沸き上がるが、組んだ手をキツク握ることでそれを耐えた。
「アーロン。実は貴方の運命の番が昨日、命の危機に瀕していました」
「なッ!? なんだって!?」
ガタリと勢いよく立ち上がったアーロンの顔は、これでもかと言うほどに顔色が悪い。勢いよく千尋の元に駆け寄ってきたアーロンを止めようとレオが動こうとしたが、千尋はそれを止めた。
「私の、私の運命は!?」
千尋の両肩を強く掴み、必死の形相で迫るアーロンを落ち着かせるように千尋はゆっくりと笑みを向ける。
「命に別状はありません。今は入院していますが、夜には意識が戻ったと連絡が」
「よ、よかった……私の運命は、消えなかったのか……よかった……」
ほっとしたのだろう、アーロンは力が抜けたようにその場にへたり込む。再びパートナーになる者を、それも運命の番を亡くしたかもしれない事実に恐怖したのだろう。
僅かに震えているアーロンの肩に千尋は慰めるように手を置いた。
「意識は戻っていますが状態が良いとは言えません。アーロン、貴方は彼がどんな状態でも運命の番を愛せますか?」
勢いよく顔を上げたアーロンの目は涙で濡れていたが、その目は真剣そのもので、強い意思を感じるには充分だった。
「勿論です。妻を亡くしてから、彼女の後を追うことだけを考えてきました。でも、私のような者には大きな責任がある。だから、もう私には運命に縋るしか道がないんです……」
苦し気に語るアーロンには嘘偽りは無いように感じる。確かにこういった過去とそれに伴った感情を抱えるアーロンであれば、マチルドを大切にしてくれるだろう。
運命が切り替わり、マチルドが彼の一番良い運命になったのが良く分かる。
「本来であれば、貴方と運命を合わせるのはもう少し先ですが、状況が状況ですし早めようと思います」
「本当かい!? あ、いやしかし……私が順番を抜かしてしまって大丈夫だろうか」
「私が判断しているのですから問題はありませんよ。これもまた、一つの運命です」
運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、他愛もない会話をそつなくこなしていく。
できれば今日の予定も早めに切り上げてしまいたいが、立て続けに予定を変更することはできない。
なるべく他のことを考えないようにしながら昼食会を終えた千尋は、休む間もなく今度はアーロンとの約束のために急いだ。
アーロンは貿易会社のCEOで、容易く時間を取れる相手ではない。昨夜連絡を入れてすぐさまこうして時間を取れたのも、偏に千尋からの要請と言うのも勿論あるが、運命の番絡みだと伝えたことが大きいだろう。
千尋が自身滞在先のホテルへ戻ると、そのままホテルの上階にあるビル群が一望できる眺めのいいラウンジへ向かう。入口のスタッフに声を掛ければ、用意されている個室に通された。
一面には大きな窓が嵌められていて、その前にテーブルと椅子が置かれている。ゆったりとした落ち着きのある部屋には既にアーロンが到着しており、緊張した面持ちで椅子から立ち上がった。
「急に呼び出してしまってすみません」
「何か、問題が……?」
対面に腰を下ろした千尋は、不安に揺れるアーロンの言葉にすぐには答えず、ゆっくりと瞼を閉じた。
張り詰めた空気は重苦しく、店内に流れるBGMだけが優雅に流れ、その音だけが室内を満たしていた。
戸惑うアーロンをよそに、千尋はゆっくりとアーロンから漏れるフェロモンを吸い込んだ。途端に鮮明に見えだす複数の運命の番達。
その中で、アーロンにとって最高位の運命はやはりマチルドだった。
やはり運命は変わってしまったのかと、じわりと汗が滲み出る。確定してしまったことで恐怖が沸き上がるが、組んだ手をキツク握ることでそれを耐えた。
「アーロン。実は貴方の運命の番が昨日、命の危機に瀕していました」
「なッ!? なんだって!?」
ガタリと勢いよく立ち上がったアーロンの顔は、これでもかと言うほどに顔色が悪い。勢いよく千尋の元に駆け寄ってきたアーロンを止めようとレオが動こうとしたが、千尋はそれを止めた。
「私の、私の運命は!?」
千尋の両肩を強く掴み、必死の形相で迫るアーロンを落ち着かせるように千尋はゆっくりと笑みを向ける。
「命に別状はありません。今は入院していますが、夜には意識が戻ったと連絡が」
「よ、よかった……私の運命は、消えなかったのか……よかった……」
ほっとしたのだろう、アーロンは力が抜けたようにその場にへたり込む。再びパートナーになる者を、それも運命の番を亡くしたかもしれない事実に恐怖したのだろう。
僅かに震えているアーロンの肩に千尋は慰めるように手を置いた。
「意識は戻っていますが状態が良いとは言えません。アーロン、貴方は彼がどんな状態でも運命の番を愛せますか?」
勢いよく顔を上げたアーロンの目は涙で濡れていたが、その目は真剣そのもので、強い意思を感じるには充分だった。
「勿論です。妻を亡くしてから、彼女の後を追うことだけを考えてきました。でも、私のような者には大きな責任がある。だから、もう私には運命に縋るしか道がないんです……」
苦し気に語るアーロンには嘘偽りは無いように感じる。確かにこういった過去とそれに伴った感情を抱えるアーロンであれば、マチルドを大切にしてくれるだろう。
運命が切り替わり、マチルドが彼の一番良い運命になったのが良く分かる。
「本来であれば、貴方と運命を合わせるのはもう少し先ですが、状況が状況ですし早めようと思います」
「本当かい!? あ、いやしかし……私が順番を抜かしてしまって大丈夫だろうか」
「私が判断しているのですから問題はありませんよ。これもまた、一つの運命です」
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