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第二部-失意の先の楽園
28 強まる本能
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バスルームを出れば、千尋と入れ違いでレオがシャワーへ向かう。
髪を乾かしながらソファに腰を落ち着ければ、目の前のテーブルには湯気が立つ蜂蜜入りのミルクティーが置かれていた。
自然と笑みを零した千尋はカップを手に取ると、それを口に含み飲み込めば仄かに広がる甘さと温かさが体内を巡る。
ゆっくりとそれを味わっていれば、レオはすぐにバスルームから出てきたようだった。
手には千尋とレオの汚れてしまった衣服が入った袋を持っている。
「血がついてしまっている服は処分してしまっても大丈夫か?」
「えぇ構いませんよ」
血がついてしまった範囲は少ないが、処分してしまった方が良い。綺麗に汚れは落ちるかもしれないが、どの道そのような服をどこかに着ていけるはしない。
幸い服はシーズン毎に各所から大量に送られてくるので、腐るほどある。一着処分してしまったところで困ることはないのだ。
外で待機する護衛に処分を任せたレオが戻ってくれば、千尋の横に慣れたように腰を下ろす。
「疲れたな」
珍しく重たい溜息を吐いたレオに、千尋は小さく同意する。
そこでふと、レオの家がそのままになっていることを千尋は思い出した。現状の確認は粗方済んでいたが、取られた物が無いかなどの細かな確認は終わっていない。
「あの家の確認が済んでいませんね。別の日に見に行きましょう」
「現状確認は済ませてあるし、そこまでしなくとも大丈夫だ。元々あの家には必要最低限の物しか置いていないしな」
大事なものは全て軍に預けてあるとレオは言う。ハンドガンだけは回収しなければならなかったが、他は何か取られていても支障はないのだそうだ。
置かれていた写真などもデータは残っている。そもそも家を買ったはいいがあまりにも殺風景すぎて同僚達が勝手に置いていった物だと言うのだ。
「あの家も都合が良いというだけで買ったものだから、特別思い入れがあるわけでもない。清掃業者を入れてから不動産屋に任せて手放すつもりだ」
そう言ったレオが千尋の僅かに濡れていた首元を拭い、そのまま愛おしそうにレオの目が細められた。
「それに、私の帰る場所は千尋のあの家だからな。家は、二つも要らないだろう?」
軍に預けている荷物もどうせなら引き上げてしまおうと言うレオの言葉に、千尋は思わずはにかんだ。
レオが唯一帰る場所に自ら千尋の家を選んでくれていることが心の底から嬉しくて堪らない。
その喜びを伝えるべく手を伸ばしてレオの顔に添えると、そのまま唇を合わせる。
軽い口づけだがそれでも幸福感が溢れ、そのままレオの大きな体に抱きしめられれば、更に安心感が得られた。
「……まだ臭うな」
僅かに漏れたレオの言葉は、密着している体勢もあり千尋の耳にしっかりと届いていた。体を少し離してレオを見れば、若干の不機嫌さをその顔に出していた。
「大方楽しんだ後なんだろうが、全く。千尋にまで……」
「流石に私もあれはキツかったですね」
フロントに居たα達のフェロモンの香りは大分落とせたと思っていたのだが、微かに残っている。
このぐらいの香りならば許容範囲であるのだが、どうやらレオはそれが気に食わないようで、被せるようにしてフェロモンを出す。
まるでマーキングだ。しかしそれが嫌ではない。
本能的な行動ではあるが、これだけは別だった。
遺伝子に深く刻まれているαとΩとしての互いのバース性を求めてしまう本能は、レオが堕ち切ったことで強さを増していた。
こうしたレオのマーキングならまだ良い。理性が働いていて本来αが行うものよりもずっと弱いものだからだ。
だが、ヒート時に千尋がレオを求めてしまいそうになったり、体を重ねる時にはレオが千尋の項を噛みたそうにしたりと、理性が働かない本能による衝動的な物があり、それをお互いに嫌悪していた。
もしそれが実行されたらどうなるか分からない二人ではない。
何も考えずに、普通に生きることができれば楽であっただろうに、何とも難儀な人生だと千尋は内心苦笑する。
だがそのお陰で、理解してくれるレオの存在価値を余計に高めてくれるのだ。
「臭いは消えました?」
「あぁ、これで安心して眠むれる」
お互いに笑い合っていれば、レオの光連絡が入る。画面を覗き込めばマチルドが入院している病院からだった。
「意識が戻ったようだ」
「そうですか……レオ、アーロンとすぐに会うために調整してもらえますか? 早めに確かめた方が良い」
「そうだな。忙しくなるだろうが平気か?」
「えぇ、私も早く確かめたいですから」
頷いたレオを見た千尋は自身のスマホを手に取ると、早速アーロンへ連絡を入れたのだった。
髪を乾かしながらソファに腰を落ち着ければ、目の前のテーブルには湯気が立つ蜂蜜入りのミルクティーが置かれていた。
自然と笑みを零した千尋はカップを手に取ると、それを口に含み飲み込めば仄かに広がる甘さと温かさが体内を巡る。
ゆっくりとそれを味わっていれば、レオはすぐにバスルームから出てきたようだった。
手には千尋とレオの汚れてしまった衣服が入った袋を持っている。
「血がついてしまっている服は処分してしまっても大丈夫か?」
「えぇ構いませんよ」
血がついてしまった範囲は少ないが、処分してしまった方が良い。綺麗に汚れは落ちるかもしれないが、どの道そのような服をどこかに着ていけるはしない。
幸い服はシーズン毎に各所から大量に送られてくるので、腐るほどある。一着処分してしまったところで困ることはないのだ。
外で待機する護衛に処分を任せたレオが戻ってくれば、千尋の横に慣れたように腰を下ろす。
「疲れたな」
珍しく重たい溜息を吐いたレオに、千尋は小さく同意する。
そこでふと、レオの家がそのままになっていることを千尋は思い出した。現状の確認は粗方済んでいたが、取られた物が無いかなどの細かな確認は終わっていない。
「あの家の確認が済んでいませんね。別の日に見に行きましょう」
「現状確認は済ませてあるし、そこまでしなくとも大丈夫だ。元々あの家には必要最低限の物しか置いていないしな」
大事なものは全て軍に預けてあるとレオは言う。ハンドガンだけは回収しなければならなかったが、他は何か取られていても支障はないのだそうだ。
置かれていた写真などもデータは残っている。そもそも家を買ったはいいがあまりにも殺風景すぎて同僚達が勝手に置いていった物だと言うのだ。
「あの家も都合が良いというだけで買ったものだから、特別思い入れがあるわけでもない。清掃業者を入れてから不動産屋に任せて手放すつもりだ」
そう言ったレオが千尋の僅かに濡れていた首元を拭い、そのまま愛おしそうにレオの目が細められた。
「それに、私の帰る場所は千尋のあの家だからな。家は、二つも要らないだろう?」
軍に預けている荷物もどうせなら引き上げてしまおうと言うレオの言葉に、千尋は思わずはにかんだ。
レオが唯一帰る場所に自ら千尋の家を選んでくれていることが心の底から嬉しくて堪らない。
その喜びを伝えるべく手を伸ばしてレオの顔に添えると、そのまま唇を合わせる。
軽い口づけだがそれでも幸福感が溢れ、そのままレオの大きな体に抱きしめられれば、更に安心感が得られた。
「……まだ臭うな」
僅かに漏れたレオの言葉は、密着している体勢もあり千尋の耳にしっかりと届いていた。体を少し離してレオを見れば、若干の不機嫌さをその顔に出していた。
「大方楽しんだ後なんだろうが、全く。千尋にまで……」
「流石に私もあれはキツかったですね」
フロントに居たα達のフェロモンの香りは大分落とせたと思っていたのだが、微かに残っている。
このぐらいの香りならば許容範囲であるのだが、どうやらレオはそれが気に食わないようで、被せるようにしてフェロモンを出す。
まるでマーキングだ。しかしそれが嫌ではない。
本能的な行動ではあるが、これだけは別だった。
遺伝子に深く刻まれているαとΩとしての互いのバース性を求めてしまう本能は、レオが堕ち切ったことで強さを増していた。
こうしたレオのマーキングならまだ良い。理性が働いていて本来αが行うものよりもずっと弱いものだからだ。
だが、ヒート時に千尋がレオを求めてしまいそうになったり、体を重ねる時にはレオが千尋の項を噛みたそうにしたりと、理性が働かない本能による衝動的な物があり、それをお互いに嫌悪していた。
もしそれが実行されたらどうなるか分からない二人ではない。
何も考えずに、普通に生きることができれば楽であっただろうに、何とも難儀な人生だと千尋は内心苦笑する。
だがそのお陰で、理解してくれるレオの存在価値を余計に高めてくれるのだ。
「臭いは消えました?」
「あぁ、これで安心して眠むれる」
お互いに笑い合っていれば、レオの光連絡が入る。画面を覗き込めばマチルドが入院している病院からだった。
「意識が戻ったようだ」
「そうですか……レオ、アーロンとすぐに会うために調整してもらえますか? 早めに確かめた方が良い」
「そうだな。忙しくなるだろうが平気か?」
「えぇ、私も早く確かめたいですから」
頷いたレオを見た千尋は自身のスマホを手に取ると、早速アーロンへ連絡を入れたのだった。
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