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第二部-失意の先の楽園
26 青年の両親
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どれくらい時間が経っただろうか。外から入る光が白からオレンジ色に変わり始めていた。
千尋がレオの手を握りしめたまま、どうしようもない不安と恐怖を抑え込む努力をしていれば扉が二回、小さく叩かれる。
青年の手術はどうやら無事に成功し、一命を取り留めたようだった。
助かると確信していても、やはり実際に無事だという知らせは千尋に安堵を齎す。
面会室を出て、病院独特の空気が漂う廊下を知らせに来た看護師に先導され、青年の居る病室へ向かう。
千尋の後ろにはレオと、体格のいい護衛が二人。千尋が仕事ではないため皆私服姿ではあるが、病院内には似つかわしくない雰囲気を纏う彼らは異質で、先々で視線を集めてしまう。
院内を進み案内された先の病室は個室で、扉のネームプレートにはマチルド・スコットと記入されていた。
病室には既に人影があり、泣きはらした顔でマチルドに寄り添う姿から、彼の両親だということが分かる。
彼らは突然現れた千尋達の姿を見て最初は訝しんだが、看護師からマチルドを発見し助けた人だと教えられると、今度は勢いよく手を取られた。
「貴方方が居なければ、この子はきっと今頃……本当になんとお礼を言ったらいいか」
千尋の手を握りながら額に押し付け滂沱の如く涙を流す母親を、千尋は心の奥がちくりと刺された感覚を味わう。それを表に出すことなく、彼らから発せられる感謝の言葉を受け止めた。
彼らの話を聞けば、どうやらこのマチルドという青年は半年ほど前から行方不明になっていたらしいのだ。
彼らはすぐに警察に届け、街中でビラを配ったりしながらマチルドのことを探していたのだが、手掛かりが一切つかめなかったという。
命に関わる大怪我をしてしまっているが、こうして見つかったことがとても嬉しいのだとマチルドの両親が涙ながらに語る。
「もう、警察からも諦めろと言われていて。それでも探してくれてはいたんですが、息子はΩだから、その……もうどこか遠くに売られてしまっているかもしれないからと」
その言葉に、ふとΩのブローカーと会った時のことを思い出してしまう。千尋は運良くその背後に居る裏の者達と繋がりがあったため何も起こらなかった。
その繋がりがなくとも、レオも居れば千尋を崇拝している狂信者達やパトロン達が黙っていない。
不安に思うことなど何処にもなかったし、心配してくれるような家族も皆無だった。寧ろその家族が千尋をΩのブローカーに売ろうとしていたのだ。
目の前で息子の無事を泣いて喜ぶ彼らとは大違である。
目を腫らしながら、喜びを全身で表す彼らを見て、千尋はマチルドという青年がとても愛されているのだと感じた。
だがそれと同時に、何故マチルドが行方不明になったのか疑問が浮かぶ。
「彼はどうして行方不明に?」
「居なくなる数か月前に、新しくΩの友達ができたんです。それから少しずつどこか遠くを見たり、悩んだりするような素振りを見せるようになって」
「学校から、連絡が来たんです。登校していないと。車もなくなっていて……」
「新しくできたお友達も一緒に行方不明になっていて……」
「恋人とかそういった方だったんですか?」
「いいえ! ただの友達だと……お互いにΩだから悩みが話しやすいみたいでした。とても仲が良かったし、一緒に行方不明になっていたから一緒に探そうとしたんです。でもその子の親は、自分達の娘が居なくなったというのにッ!」
当時を思い出したのか、しまいには泣き崩れてしまった母親を父親が肩を抱きながら、ゆっくりと椅子に座らせる。
話すのが難しい程にしゃくりあげる母親を、寄り添い宥める父親が彼女の言葉を引き継ぐように話しを続けた。
「彼らはこう言ったんです。『漸くお荷物が居なくなって清々した』と……私達は例え息子がΩだろうと、可愛い子供には違いないんです。そんな考えを持つ彼えらが信じられなくて」
そのときに散々な言われようをしたのだとマチルドの両親は語る。
もっと早く居なくなれば、ブローカーに攫われるくらないならば、早く売ってしまえば良かった。貴方達も大金が手に入らなくて残念だから、息子を探すのでしょう?と。
「酷い人間だ思われてもいい。私達はマチルドだけでも戻ってきてくれたことが嬉しくて仕方ないんです」
千尋がレオの手を握りしめたまま、どうしようもない不安と恐怖を抑え込む努力をしていれば扉が二回、小さく叩かれる。
青年の手術はどうやら無事に成功し、一命を取り留めたようだった。
助かると確信していても、やはり実際に無事だという知らせは千尋に安堵を齎す。
面会室を出て、病院独特の空気が漂う廊下を知らせに来た看護師に先導され、青年の居る病室へ向かう。
千尋の後ろにはレオと、体格のいい護衛が二人。千尋が仕事ではないため皆私服姿ではあるが、病院内には似つかわしくない雰囲気を纏う彼らは異質で、先々で視線を集めてしまう。
院内を進み案内された先の病室は個室で、扉のネームプレートにはマチルド・スコットと記入されていた。
病室には既に人影があり、泣きはらした顔でマチルドに寄り添う姿から、彼の両親だということが分かる。
彼らは突然現れた千尋達の姿を見て最初は訝しんだが、看護師からマチルドを発見し助けた人だと教えられると、今度は勢いよく手を取られた。
「貴方方が居なければ、この子はきっと今頃……本当になんとお礼を言ったらいいか」
千尋の手を握りながら額に押し付け滂沱の如く涙を流す母親を、千尋は心の奥がちくりと刺された感覚を味わう。それを表に出すことなく、彼らから発せられる感謝の言葉を受け止めた。
彼らの話を聞けば、どうやらこのマチルドという青年は半年ほど前から行方不明になっていたらしいのだ。
彼らはすぐに警察に届け、街中でビラを配ったりしながらマチルドのことを探していたのだが、手掛かりが一切つかめなかったという。
命に関わる大怪我をしてしまっているが、こうして見つかったことがとても嬉しいのだとマチルドの両親が涙ながらに語る。
「もう、警察からも諦めろと言われていて。それでも探してくれてはいたんですが、息子はΩだから、その……もうどこか遠くに売られてしまっているかもしれないからと」
その言葉に、ふとΩのブローカーと会った時のことを思い出してしまう。千尋は運良くその背後に居る裏の者達と繋がりがあったため何も起こらなかった。
その繋がりがなくとも、レオも居れば千尋を崇拝している狂信者達やパトロン達が黙っていない。
不安に思うことなど何処にもなかったし、心配してくれるような家族も皆無だった。寧ろその家族が千尋をΩのブローカーに売ろうとしていたのだ。
目の前で息子の無事を泣いて喜ぶ彼らとは大違である。
目を腫らしながら、喜びを全身で表す彼らを見て、千尋はマチルドという青年がとても愛されているのだと感じた。
だがそれと同時に、何故マチルドが行方不明になったのか疑問が浮かぶ。
「彼はどうして行方不明に?」
「居なくなる数か月前に、新しくΩの友達ができたんです。それから少しずつどこか遠くを見たり、悩んだりするような素振りを見せるようになって」
「学校から、連絡が来たんです。登校していないと。車もなくなっていて……」
「新しくできたお友達も一緒に行方不明になっていて……」
「恋人とかそういった方だったんですか?」
「いいえ! ただの友達だと……お互いにΩだから悩みが話しやすいみたいでした。とても仲が良かったし、一緒に行方不明になっていたから一緒に探そうとしたんです。でもその子の親は、自分達の娘が居なくなったというのにッ!」
当時を思い出したのか、しまいには泣き崩れてしまった母親を父親が肩を抱きながら、ゆっくりと椅子に座らせる。
話すのが難しい程にしゃくりあげる母親を、寄り添い宥める父親が彼女の言葉を引き継ぐように話しを続けた。
「彼らはこう言ったんです。『漸くお荷物が居なくなって清々した』と……私達は例え息子がΩだろうと、可愛い子供には違いないんです。そんな考えを持つ彼えらが信じられなくて」
そのときに散々な言われようをしたのだとマチルドの両親は語る。
もっと早く居なくなれば、ブローカーに攫われるくらないならば、早く売ってしまえば良かった。貴方達も大金が手に入らなくて残念だから、息子を探すのでしょう?と。
「酷い人間だ思われてもいい。私達はマチルドだけでも戻ってきてくれたことが嬉しくて仕方ないんです」
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