運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

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 ファビアン達の元で暫く話し込んでいれば、会場へ戻るようにと千尋に声が掛かった。にこやかに別れの挨拶をファビアン達と済ませ部屋を出る。
 しかしその足取りは重い。すぐに足を止めたレオが、千尋の様子を確かめ会場へ戻る前に休憩室へ誘導してくれた。

 こぢんまりとした休憩室でレオと二人きりになり緊張の糸を解いた千尋は、どさりと大きな一人掛けのソファへ腰を下ろす。

「窓を、開けてください」

 そう言いながらひじ掛けに肘をつき、自身の手で目を隠すようにして呼吸を整えることに務める。
 簡易的な暗闇の中で、徐々に痛みと熱は引いていき落ち着きを取り戻していった。ただの頭痛ではないこの痛みはなんだろうかと考えながら、千尋は更に体から力を抜いて背凭れに寄りかかる。
 レオは何も言わずに傍に控えてくれていた。
 開けられた窓からは心地の良い夜風が部屋に吹き込み、外の喧騒も徐々に正確に聞こえてくる。
 漸く千尋が落ち着きを取り戻したころには、休憩室に入ってから三十分の時間が経っていた。

「はぁ、すみませんレオ。飲み物を……」

 漸く顔を上げれば、レオが素早く動き程よく冷えたミネラルウォーターのボトルを手渡してくれる。
 数口飲んで喉を潤せば、完全とはいかないまでも気分が晴れた。

「すっかり時間を押してしまいましたね……主要な方には一通り挨拶は済ませたと思うんですけど、どうです?」
「飛び入りがなければ、招待客のリストの上の方は網羅している。呼ばれはしたが、もう暫くここで休んでいても大丈夫だろう」

 レオが千尋の額に手を当て熱を測ってくる。その温かさと心地よさに千尋が思わずすり寄れば、レオは何も言わずにそのまま好きなようにさせてくれた。
 ごつごつとした大きく武骨な手は、千尋にいつも安心感を与えてくれる。

「あと一時間ぐらいで退席しても大丈夫だと思うが。無理そうならこのまま帰るか?」
「だいぶ落ち着いたのでそこまでではないですよ」

 心配だとばかりに眉を下げるレオに、千尋は安心させるように微笑んだ。
 痛みと熱が引けば仕事を投げ出すほどでもない。それに残りの時間を考えれば疲労感はあれど、耐えられないほどではないと経験から分かるのだ。

「ただの体調不良か? それとも、さっきの部屋で何かあったのか?」

 そう問われた千尋は真剣に見つめてくるレオの手に自身の手を重ね、感じた違和感を漏らす。

「いつもよりΩのフェロモンの匂いが強く感じてしまって……レオは感じましたか?」
「いつもと同じように感じたが」
「……そうですか」
「あの人数のΩが一部屋に集まるのは珍しいからな。もしかしたらそのせいかもしれないが……何か気になることでもあるのか?」

 フェロモンの香りに充てられることは今までなかったわけではない。αの強すぎる匂いが混ざり合い気分がすぐれなくなることも少なくないのだ。
 今までΩにはそういうものを感じなかったのだが、あれだけの人数が居ればレオの言う通り仕方ないのかもしれない。

「大丈夫ですよ。ただ会場が思ったよりも熱かったせいもありますし、ブライアンに威圧もされましたしね」

 くすくすと笑う千尋に、レオは漸く少し安心したように息を吐いた。
 窓の外に目を向ければ、夜の街は誘うようにきらきらと煌めいていて、このまま抜け出しても良いのではないかと頭をよぎる。

 そんなことを考えていればふと視線に気が付き、僅かに目元を緩めているレオに首を傾げた。

「どうしましたレオ?」
「いや、目に毒だなと思っていただけだ」
「そうですか?」

 僅かに開いたシャツで気怠げにソファに凭れ掛かっているのが扇状的だとレオは言う。

 じっと目を合わせ微笑めば、誘われるがまま、レオは軽く千尋の唇に自身の唇を合わせてきた。
 今この場に二人だけしか居ないからできない口づけは十分な甘さを含んでいた。

「これ以上熱くなったら困るのは千尋だと思うが?」
「ふふ、流石に弁えていますよ。それより……取らなくていいんですか、それ」

 レオのジャケットのポケットの中で震え続けているスマホに気づいた千尋がレオを促せば、レオは不機嫌そうに眉を顰めて仕方がないとばかりにスマホを取り出した。

「ブライアン?」

 画面に映し出されていた相手はブライアンだ。どうやら休憩時間もここまでらしい。
 元より呼び出し直後にこの部屋に来ているので、だいぶ待たせている状況なのだが。
 二人は目を合わせ、再び軽く口付けてから離れた。
 立ち上がりサッと身支度を整えた千尋は、気持ちを切り替えてパーティー会場へ戻るのだった。







*この話から数話、以前上げていた「レオの家」を改稿したもの組み込んでいきます。



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