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第二部-失意の先の楽園
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会場入りしてから二時間。千尋が一通り挨拶を終え一息ついていれば、人並みを掻き分けブライアンが千尋の前に姿を現した。
「やぁ千尋」
沢山の護衛に囲まれてやってきたブライアンは人好きする笑みを浮かべている。
そのまま慣れたように壁側に誘導されれば、ブライアンが指示を出した。それに従い、すぐさま屈強な護衛達が千尋とブライアンの前に壁を作る。
簡易的に人払いがされた状態になり、千尋は困ったようにブライアンを見た。
護衛達が千尋達に背を向ける中、レオだけは当然のように千尋の斜め後ろにいて、傍を離れることはない。
千尋とレオの視線を受けたブライアンは、にこにこしながら陽気に話だす。
「ニコールとフレッドの娘の調査が丁度終わってね。すぐに聞きたいだろう?」
声を顰めて言われた言葉に、千尋は意外と早く終わったのだなと思い、ブライアンにその先を視線だけで促す。
「どちらも今はフリーのようだよ? しかしこんな身近に運命が居ても今まで出会わなかったとは、不思議だね?」
「そうですね、しかし彼らの親密さなら私が導かなくてもいずれは出会っていたと思いますけど」
「千尋が導いたという付加価値が大事なのさ。分かるだろう?」
目を細め笑うブライアンの笑みはしかし、支配者たる獰猛さを宿していた。
「強力な手駒が千尋のお陰でまた増えた。私の地盤は千尋が居る限り揺るがないだろうね」
「……そうでしょうか?」
「そうだとも! 本当に有難いことだよ。けれど、あまり仕事外で運命を繋げるのは感心しないね」
たらりと一筋の冷や汗が千尋の背を伝い落ちていく。ブライアンから感じる威圧感は流石大国の長に相応しいものだ。
千尋は努めて冷静に、ブライアンを見てゆったりとした笑みを形作る。
「いけませんでしたか?」
そう問い掛ければ、ブライアンの眉の端が途端にピクリと跳ね上がる。
普通のΩであれば、目の前のブライアンからの威圧は耐えられないだろう。
上流社会の表裏関係なく、長くα達の間で生きてきたからこそ耐えられているようなもの。今のように威圧されることも珍しくはないのだ。
暫く互いに笑みを交わしていれば、先に折れたのはブライアンだった。
「今回は特別に許すさ。事情が事情だからね。けれど似たようなことが続けば、周りが黙ってないことくらい、賢い君なら分かるだろう?」
α達は常にα同士の戦いに身を置いている。手駒を増やしたいのはそうだが、下手なαが運命の番を手に入れ能力が飛躍し、彼らの地位を脅かすことを恐れているのだ。
アーヴィングの件を唯一知っているからこそ、今回のことは多めに見てくれるが次はどうだろうか。
周りの目がある分、下手な手出しはしないだろうが、これがブライアンだけではなく、他の者達も同じように考えだしたらどうなるだろう。
命を狙われることはないだろうが、どこかに監禁されて飼い殺しにはされることはあるかもしれない。
そして何よりも今、千尋が恐れるのはレオと引き離されることだった。
レオと共にあるには、千尋が女神としての有用性を常に彼らへ見せていなければらない。一度手に入れた光が無くなることが千尋は怖くて仕方がないのだ。
「ブライアンは心配性ですね。私がそんなへまをするとでも?」
幸せを手に入れた分、人は憶病になる。それは目の前のブライアンも他のα達も、そして千尋にも同じといえた。
だからと言って、千尋は彼らに遜る態度を取ることはない。
彼らとは常に対等な立場でいなければ、この世界は渡り歩いてはいけないからだ。
「まさか! 慈悲深い女神の慈善活動は調査次第でもあるけれど、多少であれば目を瞑るつもりだよ? これは我々の総意でもある」
その発言に千尋が笑みを深めていれば、ブライアンは苦笑しながらも降参したとばかりに両手を上げて肩を竦めてみせた。
「分かって貰えてなによりですよ。行きましょうレオ」
「あぁ、待ってくれ千尋」
「まだ何か?」
「そう怖い顔しないで欲しいな! 今夜は妻も来ていてね。勿論他の婦人達も一緒で、別の部屋でお茶会をしてるのさ」
失踪事件が未解決なので、α達は妻であるΩを自宅から出さないとばかり思っていたがどうやら違ってたようだった。
「皆、君に会いたがっているからね。是非顔を出してやって欲しい」
「分かりました、どちらに?」
「案内させるよ」
案内役に先導され千尋がブライアンの傍を離れれば、ひらひらと手を振られる。
先ほどまでの威圧感はとっくに消え去っていた。
「大丈夫か千尋」
冷や汗で少し冷えた体を擦れば、すぐにレオが声を掛けてくる。それに大丈夫だと答えながら、千尋はパーティー会場から離れ、Ωの妻達が待つ部屋へと向かうのだった。
「やぁ千尋」
沢山の護衛に囲まれてやってきたブライアンは人好きする笑みを浮かべている。
そのまま慣れたように壁側に誘導されれば、ブライアンが指示を出した。それに従い、すぐさま屈強な護衛達が千尋とブライアンの前に壁を作る。
簡易的に人払いがされた状態になり、千尋は困ったようにブライアンを見た。
護衛達が千尋達に背を向ける中、レオだけは当然のように千尋の斜め後ろにいて、傍を離れることはない。
千尋とレオの視線を受けたブライアンは、にこにこしながら陽気に話だす。
「ニコールとフレッドの娘の調査が丁度終わってね。すぐに聞きたいだろう?」
声を顰めて言われた言葉に、千尋は意外と早く終わったのだなと思い、ブライアンにその先を視線だけで促す。
「どちらも今はフリーのようだよ? しかしこんな身近に運命が居ても今まで出会わなかったとは、不思議だね?」
「そうですね、しかし彼らの親密さなら私が導かなくてもいずれは出会っていたと思いますけど」
「千尋が導いたという付加価値が大事なのさ。分かるだろう?」
目を細め笑うブライアンの笑みはしかし、支配者たる獰猛さを宿していた。
「強力な手駒が千尋のお陰でまた増えた。私の地盤は千尋が居る限り揺るがないだろうね」
「……そうでしょうか?」
「そうだとも! 本当に有難いことだよ。けれど、あまり仕事外で運命を繋げるのは感心しないね」
たらりと一筋の冷や汗が千尋の背を伝い落ちていく。ブライアンから感じる威圧感は流石大国の長に相応しいものだ。
千尋は努めて冷静に、ブライアンを見てゆったりとした笑みを形作る。
「いけませんでしたか?」
そう問い掛ければ、ブライアンの眉の端が途端にピクリと跳ね上がる。
普通のΩであれば、目の前のブライアンからの威圧は耐えられないだろう。
上流社会の表裏関係なく、長くα達の間で生きてきたからこそ耐えられているようなもの。今のように威圧されることも珍しくはないのだ。
暫く互いに笑みを交わしていれば、先に折れたのはブライアンだった。
「今回は特別に許すさ。事情が事情だからね。けれど似たようなことが続けば、周りが黙ってないことくらい、賢い君なら分かるだろう?」
α達は常にα同士の戦いに身を置いている。手駒を増やしたいのはそうだが、下手なαが運命の番を手に入れ能力が飛躍し、彼らの地位を脅かすことを恐れているのだ。
アーヴィングの件を唯一知っているからこそ、今回のことは多めに見てくれるが次はどうだろうか。
周りの目がある分、下手な手出しはしないだろうが、これがブライアンだけではなく、他の者達も同じように考えだしたらどうなるだろう。
命を狙われることはないだろうが、どこかに監禁されて飼い殺しにはされることはあるかもしれない。
そして何よりも今、千尋が恐れるのはレオと引き離されることだった。
レオと共にあるには、千尋が女神としての有用性を常に彼らへ見せていなければらない。一度手に入れた光が無くなることが千尋は怖くて仕方がないのだ。
「ブライアンは心配性ですね。私がそんなへまをするとでも?」
幸せを手に入れた分、人は憶病になる。それは目の前のブライアンも他のα達も、そして千尋にも同じといえた。
だからと言って、千尋は彼らに遜る態度を取ることはない。
彼らとは常に対等な立場でいなければ、この世界は渡り歩いてはいけないからだ。
「まさか! 慈悲深い女神の慈善活動は調査次第でもあるけれど、多少であれば目を瞑るつもりだよ? これは我々の総意でもある」
その発言に千尋が笑みを深めていれば、ブライアンは苦笑しながらも降参したとばかりに両手を上げて肩を竦めてみせた。
「分かって貰えてなによりですよ。行きましょうレオ」
「あぁ、待ってくれ千尋」
「まだ何か?」
「そう怖い顔しないで欲しいな! 今夜は妻も来ていてね。勿論他の婦人達も一緒で、別の部屋でお茶会をしてるのさ」
失踪事件が未解決なので、α達は妻であるΩを自宅から出さないとばかり思っていたがどうやら違ってたようだった。
「皆、君に会いたがっているからね。是非顔を出してやって欲しい」
「分かりました、どちらに?」
「案内させるよ」
案内役に先導され千尋がブライアンの傍を離れれば、ひらひらと手を振られる。
先ほどまでの威圧感はとっくに消え去っていた。
「大丈夫か千尋」
冷や汗で少し冷えた体を擦れば、すぐにレオが声を掛けてくる。それに大丈夫だと答えながら、千尋はパーティー会場から離れ、Ωの妻達が待つ部屋へと向かうのだった。
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