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第二部-失意の先の楽園
16 偽善的な善行
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「ニコールに、運命の番を充てがおうと思うんです」
千尋の言葉にレオは目を見開き、真意はなんだと探るように千尋を見た。
そんなレオをよそに千尋が「これはただの自己満足でしかない」と前置きし、その考えをゆっくりと吐露しはじめる。
ニコールから直にアーヴィングとの深い関係性を聞き、またそこからレオとの関係性も聞くことで、千尋はアーヴィングと言う人間の存在が彼らにとってとても大きかったのだと改めて思ったのだという。
レオはあの事件があってから、敢えてアーヴィングの話題を避けていた。それは千尋も同様だ。
ただでさえ悪夢に囚われるのだから、起きている間まで思い出させることなどできるはずもない。
過去にあったアーヴィングとのやり取りの話題を避けたのは、こうなるだろうと予測していたからでもある。
「私に敢えて話してきたのだから彼らはまだ、彼を亡くしたことに捕らわれているのでしょう。次に進むためには、大きな幸運が訪れるしかない」
ニコールへ幸運を授けることで同時に、彼らへの贖罪にもなると力なく笑む千尋に、レオはなにも言えなかった。
心の空白を埋めるには、新たな幸せでしか埋めることができない。それをレオは身をもって知っているからだ。
「彼らのことを気にかけてくれるのは嬉しいが……」
千尋は悪戯に運命の番同士を引き合わせることはしない。それが例え仕事以外であったとしてもだ。
かつての仲間を気にかけてもらえるのは単純に嬉しくはある。だが常にない千尋の行動はレオを困惑させた。
そんなレオの感情を感じ取っているのだろう千尋は、くすくすと困ったように笑う。
「いつもであればこんなことしようとしないから、レオは不思議なのでしょう?」
軽く頷けば、どこか悪戯をたくらむように千尋は笑むと、次に衝撃的なことを口にした。
「ニコールの運命の番が、フレッドの娘なんです」
「まさか、そんな近くに……?」
「びっくりするでしょう?」
驚きと同時に、なんるほどこれで彼らは二人とも幸運を手に入れるのだと思い、レオは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「私がなにもしなくてもいずれは出会うかもしれないですけど……私が引き合わせたことで少しでも、自分の心が軽くなればって……軽蔑しますか?」
そう問われてレオはまさかと首を振る。そんなことで軽蔑することは全くない。
たった今レオが感じた心の軽さを、千尋も味わうべきなのだ。
自分の心を守るのは人間の防衛本能の一つ。それに隊長と隊員という間柄だが仲が良いニコールが、フレッドの娘と運命で繋がっていると分かれば、彼らも喜ばしいだろう。
「寧ろとてもいい案だと思う。彼らの絆が深まることもそうだが、彼らには私もだいぶ助けられた。それなのに千尋の手を取ったのは私だ。彼らに幸せが訪れれば、私の罪悪感も薄れる」
レオが安心させるようにそう言えば、千尋は安堵の息を漏らす。
「……後悔していませんか?」
「本当ならするべきなんだろうが、私はあの時の選択を後悔することはない。千尋はどうだ? あのまま運命の番と一緒になった方が良かったと思うのか?」
「まさか! 別の道があったはずとは思いますけど、レオを選んだことに後悔はありませんよ」
そう言われ、体の奥底から仄暗い歓喜が沸き上がるのをレオは感じていた。
どの道千尋の居る世界は、綺麗ごとだけでは生きていけない。ある程度の諦めと、割り切りが必要不可欠だ。
そうして摩耗していく中で、偽善的な善行をしながら時折自身の心を守るようにしていけばいい。
それを咎められる者は誰もいない。
女神であれと望むのはこの世界に君臨する人々なのだから。
「きっと私たちは碌な死に方をしないでしょうし、天国にも行けませんね」
「例えそうだとしても、私は千尋と離れることはない」
「ふふ、私もレオを置いてどこかに行く気はないですよ」
微笑み合い、気を取り戻した千尋はすっかりと冷めきったコーヒーの残りを一気に飲み干すと、レオの分も纏めて綺麗に重ねた皿を持ちキッチンへと向かう。
千尋が後片付けをしている間に、レオはタブレットとスマホを取り出すと休暇明けのスケジュールを確認した。
「千尋、念のためニコールとフレッドの娘の調査を頼んでおくか?」
「そうですね、お願いします。こちらの都合でもっと引っ掻き回すのは流石にどうかと思いますし」
「フレッドは間違いなく喜ぶと思うがな。彼は千尋がどんな存在か知っている。自分の娘に訪れないはずだった幸運が訪れるんだ。彼は間違いなく泣いて喜ぶだろう」
「ニコールはどうです?」
「千尋はただの要人だとしか思ってないだろうが、パートナーさえいなければフレッドと同じだ」
それを聞いた千尋は、どこかほっとしたように息を吐いていた。
千尋の言葉にレオは目を見開き、真意はなんだと探るように千尋を見た。
そんなレオをよそに千尋が「これはただの自己満足でしかない」と前置きし、その考えをゆっくりと吐露しはじめる。
ニコールから直にアーヴィングとの深い関係性を聞き、またそこからレオとの関係性も聞くことで、千尋はアーヴィングと言う人間の存在が彼らにとってとても大きかったのだと改めて思ったのだという。
レオはあの事件があってから、敢えてアーヴィングの話題を避けていた。それは千尋も同様だ。
ただでさえ悪夢に囚われるのだから、起きている間まで思い出させることなどできるはずもない。
過去にあったアーヴィングとのやり取りの話題を避けたのは、こうなるだろうと予測していたからでもある。
「私に敢えて話してきたのだから彼らはまだ、彼を亡くしたことに捕らわれているのでしょう。次に進むためには、大きな幸運が訪れるしかない」
ニコールへ幸運を授けることで同時に、彼らへの贖罪にもなると力なく笑む千尋に、レオはなにも言えなかった。
心の空白を埋めるには、新たな幸せでしか埋めることができない。それをレオは身をもって知っているからだ。
「彼らのことを気にかけてくれるのは嬉しいが……」
千尋は悪戯に運命の番同士を引き合わせることはしない。それが例え仕事以外であったとしてもだ。
かつての仲間を気にかけてもらえるのは単純に嬉しくはある。だが常にない千尋の行動はレオを困惑させた。
そんなレオの感情を感じ取っているのだろう千尋は、くすくすと困ったように笑う。
「いつもであればこんなことしようとしないから、レオは不思議なのでしょう?」
軽く頷けば、どこか悪戯をたくらむように千尋は笑むと、次に衝撃的なことを口にした。
「ニコールの運命の番が、フレッドの娘なんです」
「まさか、そんな近くに……?」
「びっくりするでしょう?」
驚きと同時に、なんるほどこれで彼らは二人とも幸運を手に入れるのだと思い、レオは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「私がなにもしなくてもいずれは出会うかもしれないですけど……私が引き合わせたことで少しでも、自分の心が軽くなればって……軽蔑しますか?」
そう問われてレオはまさかと首を振る。そんなことで軽蔑することは全くない。
たった今レオが感じた心の軽さを、千尋も味わうべきなのだ。
自分の心を守るのは人間の防衛本能の一つ。それに隊長と隊員という間柄だが仲が良いニコールが、フレッドの娘と運命で繋がっていると分かれば、彼らも喜ばしいだろう。
「寧ろとてもいい案だと思う。彼らの絆が深まることもそうだが、彼らには私もだいぶ助けられた。それなのに千尋の手を取ったのは私だ。彼らに幸せが訪れれば、私の罪悪感も薄れる」
レオが安心させるようにそう言えば、千尋は安堵の息を漏らす。
「……後悔していませんか?」
「本当ならするべきなんだろうが、私はあの時の選択を後悔することはない。千尋はどうだ? あのまま運命の番と一緒になった方が良かったと思うのか?」
「まさか! 別の道があったはずとは思いますけど、レオを選んだことに後悔はありませんよ」
そう言われ、体の奥底から仄暗い歓喜が沸き上がるのをレオは感じていた。
どの道千尋の居る世界は、綺麗ごとだけでは生きていけない。ある程度の諦めと、割り切りが必要不可欠だ。
そうして摩耗していく中で、偽善的な善行をしながら時折自身の心を守るようにしていけばいい。
それを咎められる者は誰もいない。
女神であれと望むのはこの世界に君臨する人々なのだから。
「きっと私たちは碌な死に方をしないでしょうし、天国にも行けませんね」
「例えそうだとしても、私は千尋と離れることはない」
「ふふ、私もレオを置いてどこかに行く気はないですよ」
微笑み合い、気を取り戻した千尋はすっかりと冷めきったコーヒーの残りを一気に飲み干すと、レオの分も纏めて綺麗に重ねた皿を持ちキッチンへと向かう。
千尋が後片付けをしている間に、レオはタブレットとスマホを取り出すと休暇明けのスケジュールを確認した。
「千尋、念のためニコールとフレッドの娘の調査を頼んでおくか?」
「そうですね、お願いします。こちらの都合でもっと引っ掻き回すのは流石にどうかと思いますし」
「フレッドは間違いなく喜ぶと思うがな。彼は千尋がどんな存在か知っている。自分の娘に訪れないはずだった幸運が訪れるんだ。彼は間違いなく泣いて喜ぶだろう」
「ニコールはどうです?」
「千尋はただの要人だとしか思ってないだろうが、パートナーさえいなければフレッドと同じだ」
それを聞いた千尋は、どこかほっとしたように息を吐いていた。
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