運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

13 訓練

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「レオ! 久しぶりじゃない!」

 日に焼けた顔で快活に、しかし綺麗な笑みを向ける女性はどうやらレオと知り合いのようだった。
 親しげにレオと抱擁を交わした彼女は、レオに促されすぐに千尋へと向き直ると、踵を鳴らして手本のような敬礼をする。

「貴方がレオの護衛対象ね? 初めまして、レオの元同僚のニコール・ビセットよ」

 元同僚と聞き、千尋の脳裏に一瞬だけアーヴィングの影がチラつく。それをすぐさま追いやると、千尋はニコールの差し出した手を握り返した。

「過酷な任務が多いとレオに聞いていたんですが、ニコールのような女性も隊員にいるんですね。少し驚きました」
「見た目はこうだが、ニコールの中身はかなりの戦闘狂だぞ」
「これでも成績は部隊でトップなのよ」

 ぱちりと茶目っ気たっぷりに片目を閉じるニコールに、千尋はレオの所属していた部隊が考えていたよりも、かなり隊員同士の仲が良かったのだと思い至る。

 ムードメーカーのように明るいニコールを新たに加え、再びフレッドに先導され基地内を進む。途中で外に出て車に乗り込むと、広い敷地内を更に移動し演習場へと向かった。
 車内ではニコールとフレッドが思い出話に花を咲かせ、そこに時折レオも混ざる。
 終始穏やかな会話なのだが、話している内容は特殊任務のものばかりなので中々に物騒だ。
 千尋が同乗しているため、詳細や場所などが省かれて話しているのだが、彼らは抽象的な物言いでも通じるようで、話は続けられていく。
 レオに馴染みのある隊員はまだまだ現役の者達が多いようで、出てくる名前に僅かに目元を緩め、レオが懐かしんでいることが分かった。

 ブライアンに呼び出され、千尋個人の護衛として突然仕事内容が様変わりしているレオは当初、ブライアンからの命令だから仕方なくといった風に千尋の元へとやって来た。
 元の仕事への未練もあっただろう。ふとレオを見れば視線が交わる。かつての仲間の話を聞く時よりも微かな甘さを含み緩んだ視線を向けられ、千尋はそれに答えるように微笑んだ。

「きっと彼もこの場に居たらもっと楽しかったでしょうね」
「そうだろうね。君たちの掛け合いはいつも微笑ましかったからなぁ」
「貴方もそう思うでしょ、レオ。彼は貴方に懐いてた」
「……そうだな」

 フレッドもニコールも、どこか懐かしむように声のトーンを落として遠くを見る。しかしレオは無表情で瞼を閉じていた。

 演習所に着けば、さっそくとばかりにフレッドによって揃えられた装備をレオが身に着けていく。
 先ほど選んでいた銃と弾薬を身に着ければ準備が完了したようで、レオが一人スタート地点に立つ。
 千尋はニコールを護衛としてつけながら、その様子を建物の二階部分から見ていた。
 演習場を一望できるようになっている建物の窓は全て防弾で、万が一にも千尋に銃弾が当たることはない。
 室内に並ぶモニターには各所に設置されたカメラからの映像が映し出されていた。
 そのモニターに映るレオの眼光はいつもより鋭さが増している。

「スタンバイ、レディッ!」

 フレッドの合図とともにブザーが鳴れば、レオが即座にハンドガンをホルスターから引き抜き、素早く動きながら的に銃弾を撃ち込んでいく。
 弾が無くなれば素早くマガジンを交換し、止まることなく撃ち続けていた。

「腕は訛ってないようだなレオ。そのままもう一度!!」

 間髪入れずに二週目が始まる。再びブザーが鳴れば、今度は先ほどより大きな銃声が聞こえてきた。
 モニターに映し出されるレオの表情はいつも見ているものではない。護衛として付き従っている時ですらここまでの険しい表情は見たことがなかった。
 その鋭さに、千尋はレオに初めて出会った時を思い出す。あの時、千尋という未知の存在に警戒心を抱いていたレオの表情に近い気がした。

「レオはやっぱり格が違うわね」
「そんなに違うものなんですか?」
「私もαだけれど、彼は別格よ。動きに隙も無駄も一切ない。ルートは最短距離だし、反応速度も速すぎる。彼以上の存在を見たことがないわ。今は私が一番だけれど、彼が居たころ私は彼に勝ったことなんてなかったもの。それに何度も彼のお陰で死なずに済んだ」

 苦笑しながら言うニコールに、千尋はどこか誇らしさを覚える。そんな凄い人物が今や千尋ただ一人を守り、運命にすら抗い千尋だけを求める。自分だけの、唯一の光。

「――でもそうね。彼のようになりえる存在はいたわ」

 ニコールが遠くに投げていた視線を、ゆっくりと隣に並ぶ千尋へと向けてくる。

「アーヴィング・ロッド。彼を、知っているでしょう?」

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