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第二部-失意の先の楽園
07 ライリー
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表情をそぎ落とし顔面を蒼白にさせたライリーは、レオに伴われて千尋の対面に腰を下ろす。
ライリーからはアルコールの臭いが強く漂い、ここには感情的になって来たのであろうことが明白だった。
そうでなければこんな状態で千尋の元を訪れる者などいない。
「こんな夜更けにどうしたんですか? レオ、彼女に飲み物を」
千尋に促されたレオは渋々、酔い覚ましの水と温かいコーヒーをライリーの前に置く。彼女はコーヒーのカップを手に取ると、一言も発さないまま口をつけた。
ライリーの状態は普通ではない。レオが最大限に気を張り巡らせていれば、途端に千尋に視線で制された。
思わず寄りそうになる眉間をとどめ、千尋の後ろに控えればこそりと耳打ちされる。
「レオ、なにがあっても手出しは無用です」
「だが千尋、彼女の様子は普通ではーー」
「ダメですよレオ」
念を押してくる千尋の眼には力が込められている。
意志は強く変わりそうにないことを悟ったレオは、万が一のためにすぐに動ける距離に陣取ると、目の前のライリーに全神経を集中させた。
手出し無用と言われたが、それは場合によりけりだ。もし千尋を害そうものなら、それが誰であれ容赦はしない。
レオにはそれを実行できるだけの力と、権力者達からのお墨付きがある。
仮にこの場でライリーを殺したとしても、多少の小言はあれど、お咎めは一切ないだろう。
千尋はそんなレオの行動に苦笑しながらも全て分かっているのだろうに、困った様に笑みを浮かべながらライリーが話し出すのをゆっくりと待っていた。
「ライリー?」
刺激しないように殊更優しく発せられた千尋の言葉に、ライリーは僅かに下げていた頭を上げた。
乱れた前髪から除くその目には、明確な敵意が見て取れる。
「……どうして貴方は、貴方さえいなければっ」
掠れるようにして紡がれたライリーの言葉で、彼女がこの場に来た理由に思い至り、やはりそうかとレオは内心溜息を吐くしかなかった。
「なんで、私は、私は何年も彼をっ!」
「愛していた?」
「そうよ、ずっと私は彼だけを見ていたのに! 貴方さえいなければ私が! 私が彼の隣にいれたかもしれないのにっ!!」
目から滂沱と落ちる涙は止まることはない。堰を切ったように激しく語られるライリーの想いも、レオからしてみればそんなに想うならば自ら動けば良かったではないかと呆れてしまうものだった。
千尋が現れなくても、トマスと言う男にはいずれ隣に立つ者が現れたはずだ。
それを阻止したかったのならば、なりふり構わず行動を起こすしか道はない。
「運命の番なんて、別れることなんてないじゃない……チャンスも何もないじゃない! 次はって私は、彼が恋人と別れるのを待ってたのに!!」
興奮して過呼吸気味になりだしたライリーに、千尋は悲痛な表情を浮かべてその隣に腰かける。
恋人がいるトマスには当然、普段は気弱なライリーが想いを伝えることなどできるはずもなかった。
やっと恋人が途切れたと思っていた矢先に選抜され、運命の元に導かれてしまったようだ。
次々と投げられる鋭い言葉の刃は、千尋を傷付けるには充分なものだった。無言で優しくライリーの背を撫でながら、千尋は唇を噛みしめているのに何故気が付かないのか。
千尋は好き好んで、遊び半分で運命の番を見つけているわけではない。
あくまでビジネスでしかないのだから、文句があるならばトマスを選抜した自身の母へ言えばいいだろうに。
呆れるばかりのレオだが、千尋は反対にライリーに寄り添っていた。
暫くして呼吸が落ち着いてくれば、今度は絶望に似た笑みを浮かべたライリーが怒りを極限にまで灯した瞳で千尋の手を振り払った。
「何が女神よっ! Ωの癖に!! 貴方はΩの敵よ!」
振り払った拍子にライリーの手は千尋の頬を勢いよく叩く。
動きそうになる体はしかし、千尋に制されたままでレオは動けない。
ライリーはどこか満足したような笑みを浮かべると、次の瞬間には大声を上げて笑った。それはきっと悲壮感からくるものだ。
「貴方なんて大嫌いよ!!」
手近にあったコップを投げようとテーブルに手を伸ばしたライリーの背後に素早く回ったレオは、手刀を叩き込みライリーの意識を一瞬にして刈り取った。
手出し無用とは言われたが、これ以上は黙っていられない。
手が出されただけでも腹立たしいと言うのに、更に千尋に危害を加えようとするとは。
煮え始めるような怒りを嗜めながら深く息を吐いたレオが冷たい視線をライリーに向けていれば、千尋がゆっくりと口を開いた。
「……手出し無用だと言ったでしょう?」
「だが流石にこれ以上は許容できない。私は千尋の護衛だぞ? 顔を見せてみろ千尋」
「いっ……!」
「口の中を切ったか。頬も赤くなってるな、今冷やすものを持ってくる」
状態を確認したレオが移動しようとすれば、服の端を千尋に掴まれ動きを封じられた。
「千尋……」
「レオ、駄目ですよ。ライリーは今夜ここには来たけれどすぐに帰った。この場では何も起こってはいない。いいですね?」
懇願するように、しかし強い口調の千尋にレオは眉根を寄せる。ここであったことが表沙汰になれば、ライリーは間違いなく権力者や狂信者達に消されることだろう。
クレアも運命の番を手に入れたショーンも、ただでは済まない。そのことを千尋は危惧しているのだ。
「口止めするくらいなら最初から優しさを見せるべきではないぞ」
「……分かってはいるんですけどね」
「はぁ、仕方ない。それならなおさら早く冷やすべきだ。腫れたら困るだろう?」
「ありがとう、レオ」
「全く困った主だ」
少し赤くなっている千尋の頬を指の背で軽く撫でたレオは、千尋の額に唇を落とすと望みを叶えるべく行動するのだった。
*本日13日、ついに書籍の出荷日となりました!
店舗には2~4日後に到着予定とのこと。
是非ともお手に取っていただければと思います!
特典情報や、取り扱い店舗等、ツイッターでお知らせしております。
よろしければご確認ください!
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そうでなければこんな状態で千尋の元を訪れる者などいない。
「こんな夜更けにどうしたんですか? レオ、彼女に飲み物を」
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ライリーの状態は普通ではない。レオが最大限に気を張り巡らせていれば、途端に千尋に視線で制された。
思わず寄りそうになる眉間をとどめ、千尋の後ろに控えればこそりと耳打ちされる。
「レオ、なにがあっても手出しは無用です」
「だが千尋、彼女の様子は普通ではーー」
「ダメですよレオ」
念を押してくる千尋の眼には力が込められている。
意志は強く変わりそうにないことを悟ったレオは、万が一のためにすぐに動ける距離に陣取ると、目の前のライリーに全神経を集中させた。
手出し無用と言われたが、それは場合によりけりだ。もし千尋を害そうものなら、それが誰であれ容赦はしない。
レオにはそれを実行できるだけの力と、権力者達からのお墨付きがある。
仮にこの場でライリーを殺したとしても、多少の小言はあれど、お咎めは一切ないだろう。
千尋はそんなレオの行動に苦笑しながらも全て分かっているのだろうに、困った様に笑みを浮かべながらライリーが話し出すのをゆっくりと待っていた。
「ライリー?」
刺激しないように殊更優しく発せられた千尋の言葉に、ライリーは僅かに下げていた頭を上げた。
乱れた前髪から除くその目には、明確な敵意が見て取れる。
「……どうして貴方は、貴方さえいなければっ」
掠れるようにして紡がれたライリーの言葉で、彼女がこの場に来た理由に思い至り、やはりそうかとレオは内心溜息を吐くしかなかった。
「なんで、私は、私は何年も彼をっ!」
「愛していた?」
「そうよ、ずっと私は彼だけを見ていたのに! 貴方さえいなければ私が! 私が彼の隣にいれたかもしれないのにっ!!」
目から滂沱と落ちる涙は止まることはない。堰を切ったように激しく語られるライリーの想いも、レオからしてみればそんなに想うならば自ら動けば良かったではないかと呆れてしまうものだった。
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興奮して過呼吸気味になりだしたライリーに、千尋は悲痛な表情を浮かべてその隣に腰かける。
恋人がいるトマスには当然、普段は気弱なライリーが想いを伝えることなどできるはずもなかった。
やっと恋人が途切れたと思っていた矢先に選抜され、運命の元に導かれてしまったようだ。
次々と投げられる鋭い言葉の刃は、千尋を傷付けるには充分なものだった。無言で優しくライリーの背を撫でながら、千尋は唇を噛みしめているのに何故気が付かないのか。
千尋は好き好んで、遊び半分で運命の番を見つけているわけではない。
あくまでビジネスでしかないのだから、文句があるならばトマスを選抜した自身の母へ言えばいいだろうに。
呆れるばかりのレオだが、千尋は反対にライリーに寄り添っていた。
暫くして呼吸が落ち着いてくれば、今度は絶望に似た笑みを浮かべたライリーが怒りを極限にまで灯した瞳で千尋の手を振り払った。
「何が女神よっ! Ωの癖に!! 貴方はΩの敵よ!」
振り払った拍子にライリーの手は千尋の頬を勢いよく叩く。
動きそうになる体はしかし、千尋に制されたままでレオは動けない。
ライリーはどこか満足したような笑みを浮かべると、次の瞬間には大声を上げて笑った。それはきっと悲壮感からくるものだ。
「貴方なんて大嫌いよ!!」
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煮え始めるような怒りを嗜めながら深く息を吐いたレオが冷たい視線をライリーに向けていれば、千尋がゆっくりと口を開いた。
「……手出し無用だと言ったでしょう?」
「だが流石にこれ以上は許容できない。私は千尋の護衛だぞ? 顔を見せてみろ千尋」
「いっ……!」
「口の中を切ったか。頬も赤くなってるな、今冷やすものを持ってくる」
状態を確認したレオが移動しようとすれば、服の端を千尋に掴まれ動きを封じられた。
「千尋……」
「レオ、駄目ですよ。ライリーは今夜ここには来たけれどすぐに帰った。この場では何も起こってはいない。いいですね?」
懇願するように、しかし強い口調の千尋にレオは眉根を寄せる。ここであったことが表沙汰になれば、ライリーは間違いなく権力者や狂信者達に消されることだろう。
クレアも運命の番を手に入れたショーンも、ただでは済まない。そのことを千尋は危惧しているのだ。
「口止めするくらいなら最初から優しさを見せるべきではないぞ」
「……分かってはいるんですけどね」
「はぁ、仕方ない。それならなおさら早く冷やすべきだ。腫れたら困るだろう?」
「ありがとう、レオ」
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少し赤くなっている千尋の頬を指の背で軽く撫でたレオは、千尋の額に唇を落とすと望みを叶えるべく行動するのだった。
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