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第二部-失意の先の楽園
06 レオの憂い
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盛大に催されたイベントが幕を閉じ、レオと千尋は宛がわれたホテルの一室で寛いでいた。
だが千尋はライリーの様子が気になるようで、心から落ち着けているわけではない様子だ。
ソファに腰掛けたレオは、そんな千尋を気遣うようにゆっくりと頭を撫でる。細くさらりと流れる千尋の髪の毛は手触りが良い。
何度か撫でていれば漸く千尋の肩から力が抜け、レオに凭れ掛かってきた。寄りかかる重さはいつもより軽くレオを不安にさせるには十分だ。
この三ヵ月は多忙を極めた。あらゆる国へ飛び、選抜された若者に会い、それぞれの運命の番の元へと導く。
その間も空いた時間で社交を熟し、また次の場所へと向かう。ゆっくりと体を、そして精神を休める時間が千尋にもレオにもなかった。
それと同時に千尋は悪夢に魘され、体力は削られていく一方。
レオが千尋の体調を見ながらスケジュールの調整をしてはいたが、回復が追いつくはずもない。
レオもまた千尋同様に、漸くまとまった休みが取れることに安堵していた。
だがここにきて千尋は更に精神を摩耗させていた。理由は明白。ライリーのことが気にかかるからだ。
仕事をしていく上での弊害として、時折こういった問題が現れては千尋を苦しめる。そのことについて千尋は自身に与えられた罰のようなものだと受け入れていた。
しかし受け入れているからと言って、平気なわけではない。
ただでさえ重荷を背負っているというのに、更に負荷がかかることにレオは内心腹が立っていた。
誰もかれもが千尋を完璧な女神として見ているし、そうであるようにと望む。能力故に、その立場故に仕方のないことではあるのだが、時折千尋が一人の人間であるということを忘れているのではないかとレオは思うのだ。
女神だと崇拝する狂信者達も、そうでない者達も。千尋という稀有な存在をとても大事に扱ってはいるが、それだけだ。
精神的な負担を知っているわけではないし、理解しているわけではない。
そのおかげでレオが千尋の傍を独占できているという事実があるわけだがしかし、それはそれ、これはこれである。
レオが千尋の元に訪れるまで一体、どれだけの苦悩を一人で背負ってきたことだろう。
だが今は成瀬と共にレオも居る。堕ちた先にあるのは歪な愛情だが、それが愛おしくて仕方がなかった。
千尋が背負えないものは全て己が背負えばいいのだとレオは思っているが、そう簡単なものではない。
レオには強靭な精神と肉体があるが、千尋のような能力も繊細さも持ち得てはいないからだ。
さてどうしたものかとレオが物思いに耽っていれば、千尋がスルリと頭をレオの胸元に擦り付け甘えてくる。
こうしてを身を委ねられていることに、レオは言い知れぬ優越感と、独占欲と、そして千尋を取り巻く人々への嫌悪感を常に抱くのだった。
「レオ、怖い顔をしてますよ」
千尋がレオの腕の中で反転し、深く皺を寄せた眉間を優しく指で撫でてくる。
それが心地良くてレオは目を細めた。じっと見つめていれば、千尋が徐に顔を近づけレオの唇を軽く食む。
それが酷く心地よく、じんわりと脳の奥から溶かされてしまいそうだった。
そのまま戯れるようにして、鼻先や眉間、頬に千尋の薄い唇が当てられていく。
しかしそれで満足するかと言われれば、今日はそうではなかった。
この三ヵ月、軽いスキンシップはしてきたが深く触れあってはいない。欲が溜まっていくのは仕方がなかった。
それは千尋も同じだろう。視線を合わせれば瞳の奥にはありありと熱が見て取れた。磁石が引き合うように唇が合わされば、深く深くお互いを求めてしまう。
角度を変えながら、舌を貪るように絡め合わせる。
お互いの息が上がるほど激しい口づけはお互いの隙間を埋めていくようだった。
どれぐらいた経っただろうか。二人の欲が更に高まろうとしたその時、ふいにチャイムが鳴らされる。
レオは思わず眉を顰め、反射的に舌打ちをしていた。
「はぁ……今何時だと思っているんだ」
時計の針は既に深夜を示している。通常この時間帯に千尋の元を訪れる者など居ないというのに。
「レオ、怒っては駄目ですよ」
残念そうに、けれどもレオの剝き出しの感情が面白いのか、ころころと笑う千尋を膝の上からどかすと、レオは素早く身支度してからドア越しに外の護衛に話しかけた。
「こんな時間に一体なんだ」
「ライリー・オブライエン様が千尋に用があると……」
怪訝そうに顔を顰めたレオは、再び舌打ちしそうになるのを寸前で堪え、千尋に許可を取ってからライリーを部屋へと招き入れるのだった。
だが千尋はライリーの様子が気になるようで、心から落ち着けているわけではない様子だ。
ソファに腰掛けたレオは、そんな千尋を気遣うようにゆっくりと頭を撫でる。細くさらりと流れる千尋の髪の毛は手触りが良い。
何度か撫でていれば漸く千尋の肩から力が抜け、レオに凭れ掛かってきた。寄りかかる重さはいつもより軽くレオを不安にさせるには十分だ。
この三ヵ月は多忙を極めた。あらゆる国へ飛び、選抜された若者に会い、それぞれの運命の番の元へと導く。
その間も空いた時間で社交を熟し、また次の場所へと向かう。ゆっくりと体を、そして精神を休める時間が千尋にもレオにもなかった。
それと同時に千尋は悪夢に魘され、体力は削られていく一方。
レオが千尋の体調を見ながらスケジュールの調整をしてはいたが、回復が追いつくはずもない。
レオもまた千尋同様に、漸くまとまった休みが取れることに安堵していた。
だがここにきて千尋は更に精神を摩耗させていた。理由は明白。ライリーのことが気にかかるからだ。
仕事をしていく上での弊害として、時折こういった問題が現れては千尋を苦しめる。そのことについて千尋は自身に与えられた罰のようなものだと受け入れていた。
しかし受け入れているからと言って、平気なわけではない。
ただでさえ重荷を背負っているというのに、更に負荷がかかることにレオは内心腹が立っていた。
誰もかれもが千尋を完璧な女神として見ているし、そうであるようにと望む。能力故に、その立場故に仕方のないことではあるのだが、時折千尋が一人の人間であるということを忘れているのではないかとレオは思うのだ。
女神だと崇拝する狂信者達も、そうでない者達も。千尋という稀有な存在をとても大事に扱ってはいるが、それだけだ。
精神的な負担を知っているわけではないし、理解しているわけではない。
そのおかげでレオが千尋の傍を独占できているという事実があるわけだがしかし、それはそれ、これはこれである。
レオが千尋の元に訪れるまで一体、どれだけの苦悩を一人で背負ってきたことだろう。
だが今は成瀬と共にレオも居る。堕ちた先にあるのは歪な愛情だが、それが愛おしくて仕方がなかった。
千尋が背負えないものは全て己が背負えばいいのだとレオは思っているが、そう簡単なものではない。
レオには強靭な精神と肉体があるが、千尋のような能力も繊細さも持ち得てはいないからだ。
さてどうしたものかとレオが物思いに耽っていれば、千尋がスルリと頭をレオの胸元に擦り付け甘えてくる。
こうしてを身を委ねられていることに、レオは言い知れぬ優越感と、独占欲と、そして千尋を取り巻く人々への嫌悪感を常に抱くのだった。
「レオ、怖い顔をしてますよ」
千尋がレオの腕の中で反転し、深く皺を寄せた眉間を優しく指で撫でてくる。
それが心地良くてレオは目を細めた。じっと見つめていれば、千尋が徐に顔を近づけレオの唇を軽く食む。
それが酷く心地よく、じんわりと脳の奥から溶かされてしまいそうだった。
そのまま戯れるようにして、鼻先や眉間、頬に千尋の薄い唇が当てられていく。
しかしそれで満足するかと言われれば、今日はそうではなかった。
この三ヵ月、軽いスキンシップはしてきたが深く触れあってはいない。欲が溜まっていくのは仕方がなかった。
それは千尋も同じだろう。視線を合わせれば瞳の奥にはありありと熱が見て取れた。磁石が引き合うように唇が合わされば、深く深くお互いを求めてしまう。
角度を変えながら、舌を貪るように絡め合わせる。
お互いの息が上がるほど激しい口づけはお互いの隙間を埋めていくようだった。
どれぐらいた経っただろうか。二人の欲が更に高まろうとしたその時、ふいにチャイムが鳴らされる。
レオは思わず眉を顰め、反射的に舌打ちをしていた。
「はぁ……今何時だと思っているんだ」
時計の針は既に深夜を示している。通常この時間帯に千尋の元を訪れる者など居ないというのに。
「レオ、怒っては駄目ですよ」
残念そうに、けれどもレオの剝き出しの感情が面白いのか、ころころと笑う千尋を膝の上からどかすと、レオは素早く身支度してからドア越しに外の護衛に話しかけた。
「こんな時間に一体なんだ」
「ライリー・オブライエン様が千尋に用があると……」
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