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第二部-失意の先の楽園
05 輝かしい若者達
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ホテルを丸まると貸し切りにした盛大なデビュタントは、例年にはない熱気と共に開催される運びとなった。
約三ヶ月。これまで以上の多忙を極めた千尋は、これでやっと纏まった休みが取れると安堵と、解放感への期待を僅かに膨らませる。
総勢十五人の若者は皆無事に運命の番と引き合わされたことにより、輝かしい未来を約束されたように自信に満ち溢れていた。
会場となるホールには、そんな彼らを見ようと大勢の上流社会の大人たちが今か今かと待ち構えている。
主催であるクレアと席を共にする千尋の周りには彼らの両親達が囲み、皆これからの繁栄に興奮の色を抑えられないようだった。
「それでは皆さまお待たせいたしました。未来ある彼らに登場してもらいましょう」
熱気が最高潮まで高まったのを確認したクレアが宣言すれば、盛大な拍手がホール内を満たす。
大きく開け放たれたドアから、一組、また一組とゆっくりと若者たちが入場すれば、会場の視線が一気に彼らに集まった。
性別も年齢もバラバラな運命の番を伴いながら、会場の中へと胸を張って進む。運命の番を見る目には熱がこもり、更に元々もつ若者特有の輝きとは別の輝きを放っていた。
千尋はその光景を眩しく見ていた。大勢から祝福される彼らは、自身の持つ可能性が無限であると信じているのだろう。
怖いものは何もないのだと言わんばかりの無垢な輝きが眩しく、そして痛かった。
だがそれと同時に羨ましくもなる。これは仕事を熟す度に湧き上がる感情で、消しようがないものだった。
それはレオを手に入れたからとて変わらない。
無垢な光は千尋には強すぎる。しかしそれを見る度に、まだ己の可能性を信じて幸せを求めていたかつての自分を思い出してしまうのだ。
どうにも振り切れない過去は、こうして何度も思い出される。
自分とは違う光はまるで誘蛾灯のようだった。
「貴方のお陰で娘はこの上ない幸せを手に入れることができたわ。ありがとう千尋」
隣り合う席の夫人から声を掛けられれば、それに同意するように他の親達からも礼を言われる。
「彼らにも、そして貴方方にも、多くの幸せが訪れますよう」
千尋は全ての感情を心の奥に沈め、殊更ゆっくりと微笑んだ。
若者とその番達のお披露目が終われば会場内には優雅な曲がかかり、彼らがハニカミながらも慣れないように踊りだす。
その拙さも、まるで初恋であるかのような甘酸っぱさもすべてが微笑ましく、会場内の人々からは温かい眼差しが向けられる。
千尋はそんな彼らから視線を離し、クレアの横に座るライリーを見る。
そこには笑みを貼り付け微笑む彼女がいた。グラスを持つ手は微かに震え、この状況を耐えているのは明らかだ。
しかしそれに気が付けるのは、彼女の想いを知っているクレアと、そして千尋だけだ。テーブルの上に乗せられるライリーの手には、彼女を励ますようにクレアの手がそっと重ねられていた。
優雅とは言えないが気持ちが大いに籠ったダンスが終われば、彼らは会場に散らばり社交を始める。
早くから繋がりを持ちたい大人達も、祝いの言葉を携え彼らを囲んだ。
暫くすれば、一人また一人と運命の番と共に順番に千尋の元にやってくる。
彼らからの最大の感謝を受け取る中で、ライリーの想い人でもあるトマスも運命の番を連れてやってきた。
「千尋、今回は本当にありがとうございました。僕は本当に運がいい。ショーンの親友じゃなければこの場には居なかっただろうし、彼女ともきっと出会うのがもっと先になっていました」
トマスの熱い視線を受け、目元を朱に染め照れながらも微笑み返す彼の運命の番は、この上なく幸せそうだった。
「これからお互いを支えあい、素晴らしい未来を築いてくださいね」
頭を深く下げたトマス達が、今度はショーンを交えて談笑を始める。ライリーもその輪に加わっているのだが、その顔は笑みを作っているが苦しそうにしか千尋には見えない。
如何に運命の番が素晴らしく、それを手に入れられた幸運がどれほどかと、ショーンとトマスは幸せそうに彼女に語る。
隠すことを選び想いを告げていないのだから、目の前にいる彼女の想い人はそれに気が付かない。
弟であるショーンは知っているはずなのだが、浮かれてしまっているのだろう。姉を気遣うということが完全に頭から抜け落ちているようだった。
その状況にライリーは耐えられなかったのだろう。
無理矢理笑みを作ったライリーは彼らに祝いの言葉を送ってから、体調が悪いからと逃げるようにして会場の外へと出ていく。
千尋はその後姿を眺めることしかできなかった。
約三ヶ月。これまで以上の多忙を極めた千尋は、これでやっと纏まった休みが取れると安堵と、解放感への期待を僅かに膨らませる。
総勢十五人の若者は皆無事に運命の番と引き合わされたことにより、輝かしい未来を約束されたように自信に満ち溢れていた。
会場となるホールには、そんな彼らを見ようと大勢の上流社会の大人たちが今か今かと待ち構えている。
主催であるクレアと席を共にする千尋の周りには彼らの両親達が囲み、皆これからの繁栄に興奮の色を抑えられないようだった。
「それでは皆さまお待たせいたしました。未来ある彼らに登場してもらいましょう」
熱気が最高潮まで高まったのを確認したクレアが宣言すれば、盛大な拍手がホール内を満たす。
大きく開け放たれたドアから、一組、また一組とゆっくりと若者たちが入場すれば、会場の視線が一気に彼らに集まった。
性別も年齢もバラバラな運命の番を伴いながら、会場の中へと胸を張って進む。運命の番を見る目には熱がこもり、更に元々もつ若者特有の輝きとは別の輝きを放っていた。
千尋はその光景を眩しく見ていた。大勢から祝福される彼らは、自身の持つ可能性が無限であると信じているのだろう。
怖いものは何もないのだと言わんばかりの無垢な輝きが眩しく、そして痛かった。
だがそれと同時に羨ましくもなる。これは仕事を熟す度に湧き上がる感情で、消しようがないものだった。
それはレオを手に入れたからとて変わらない。
無垢な光は千尋には強すぎる。しかしそれを見る度に、まだ己の可能性を信じて幸せを求めていたかつての自分を思い出してしまうのだ。
どうにも振り切れない過去は、こうして何度も思い出される。
自分とは違う光はまるで誘蛾灯のようだった。
「貴方のお陰で娘はこの上ない幸せを手に入れることができたわ。ありがとう千尋」
隣り合う席の夫人から声を掛けられれば、それに同意するように他の親達からも礼を言われる。
「彼らにも、そして貴方方にも、多くの幸せが訪れますよう」
千尋は全ての感情を心の奥に沈め、殊更ゆっくりと微笑んだ。
若者とその番達のお披露目が終われば会場内には優雅な曲がかかり、彼らがハニカミながらも慣れないように踊りだす。
その拙さも、まるで初恋であるかのような甘酸っぱさもすべてが微笑ましく、会場内の人々からは温かい眼差しが向けられる。
千尋はそんな彼らから視線を離し、クレアの横に座るライリーを見る。
そこには笑みを貼り付け微笑む彼女がいた。グラスを持つ手は微かに震え、この状況を耐えているのは明らかだ。
しかしそれに気が付けるのは、彼女の想いを知っているクレアと、そして千尋だけだ。テーブルの上に乗せられるライリーの手には、彼女を励ますようにクレアの手がそっと重ねられていた。
優雅とは言えないが気持ちが大いに籠ったダンスが終われば、彼らは会場に散らばり社交を始める。
早くから繋がりを持ちたい大人達も、祝いの言葉を携え彼らを囲んだ。
暫くすれば、一人また一人と運命の番と共に順番に千尋の元にやってくる。
彼らからの最大の感謝を受け取る中で、ライリーの想い人でもあるトマスも運命の番を連れてやってきた。
「千尋、今回は本当にありがとうございました。僕は本当に運がいい。ショーンの親友じゃなければこの場には居なかっただろうし、彼女ともきっと出会うのがもっと先になっていました」
トマスの熱い視線を受け、目元を朱に染め照れながらも微笑み返す彼の運命の番は、この上なく幸せそうだった。
「これからお互いを支えあい、素晴らしい未来を築いてくださいね」
頭を深く下げたトマス達が、今度はショーンを交えて談笑を始める。ライリーもその輪に加わっているのだが、その顔は笑みを作っているが苦しそうにしか千尋には見えない。
如何に運命の番が素晴らしく、それを手に入れられた幸運がどれほどかと、ショーンとトマスは幸せそうに彼女に語る。
隠すことを選び想いを告げていないのだから、目の前にいる彼女の想い人はそれに気が付かない。
弟であるショーンは知っているはずなのだが、浮かれてしまっているのだろう。姉を気遣うということが完全に頭から抜け落ちているようだった。
その状況にライリーは耐えられなかったのだろう。
無理矢理笑みを作ったライリーは彼らに祝いの言葉を送ってから、体調が悪いからと逃げるようにして会場の外へと出ていく。
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