97 / 98
【 番外編 SS 】
バレンタイン
しおりを挟む
寒さが一段と増した一月下旬。空には薄いグレーの雲が一面にかかり、都心でも雪が降るのではと予感させる。
千尋とレオは寒さが厳しい外とは対照的な自宅で、ゆったりと穏やかな休日を過ごしていた。
テレビでは正月の賑やかさが引き、次のイベントごとへと話題が移っている。
千尋がソファに座りながらぼんやりとテレビを眺めていれば、レオが飲み物を二人分持ってきて千尋の横へ腰を下ろし、不思議そうに首を傾けた。
「チョコレートの特集? 最近この手の話題が多いな」
「来月はバレンタインがあるでしょう? だからですよ」
あぁ、と納得したレオがカップに口をつけながら特集を観ている。クリスマスの習慣がなかったレオは、同じくバレンタインの習慣もなかったようだ。
珍しそうにテレビを眺めるレオの様子がなんだか可笑しく、千尋は緩く目を細めた。
「クリスマスもそうですけど、バレンタインで意中の人に告白する人も多いですから。この時期大変な人は多いでしょうね。なる君も毎年大変そうですよ」
「彼はモテるからな」
以前見かけた同僚達に迫られる成瀬の姿を思い出し、千尋とレオは互いに顔を見合わせ苦笑する。
「学生時代はもっと大変だったんですよ? 学校に行くと机にチョコの箱が山積みになっていたりして」
「千尋はどうだったんだ?」
「私ですか? 私もそれなりに貰いましたね」
「その頃の千尋に会ってみたいものだ」
不意に抱き寄せられた千尋は、ぽすりとレオの厚い胸板に抱き込まれる。ふわりと香ってきたレオのフェロモンがさり気なく独占欲を見せていることに気が付き、千尋はくすぐったい気持ちになった。
「ふふふ、告白してくる人はいなかったですよ? それにチョコは、全てなる君に取り上げられていましたしね」
「どういうことだ?」
成瀬が小さい頃に貰った手作りであろうチョコの中に、髪の毛が細かく刻んで入っていたらしいのだ。口に入れてはいなかったが、その気持ち悪さにそれから成瀬は貰う食べ物は食べないで処分するようにしていた。
そして千尋を弟として見るようになってから、千尋にもそのルールは適用されている。
「実際処分前に開けた箱から変な臭いがするものもありましたし、それに――」
家に持って帰って千景に嫉妬から怒鳴られても嫌ですし、と事も無げに苦笑している千尋にレオは溜息を吐いていた。
「成瀬は本当に良く千尋を守っているな」
「自慢の兄ですよ……と、そうだ。チョコの手配をしないと」
「なぜだ?」
「なる君が受け取るのは私からのチョコだけですからね。毎年贈りあってるので、今年も渡さないと」
千尋がそう答えると、体が一瞬浮遊感を感じ、次の瞬間には背中がソファに当たる。押し倒された体勢の千尋は、上から覗き込むレオと視線を合わせた。
「どうしたんですかレオ」
「……私にはないのか?」
じっと見つめてくるレオの顔に手を伸ばした千尋は、くすくすと小さな笑い声を漏らしながらその頬をゆっくりと撫でた。
「それ以上のものを貰っているのに?」
ゆったりと笑みを浮かべた千尋が軽く手に力を入れれば、レオはゆっくりと誘われるまま引き寄せられた。
千尋の薄い唇にレオの唇が軽く合わされば、お互いに啄ばむようにキスをする。それは徐々に深さを増して、奥まで侵入してくるレオの舌に千尋は満足そうに微笑むと、首に腕を巻き付け更にレオを引き寄せた。
「はぁ……千尋、これ以上は我慢できなくなる。成瀬が夜に来るんだろう?」
名残惜しそうに離れ額に軽く口づけてきたレオに、千尋が意地悪そうに後を追う。
「レオはどうだったんです? 当然モテたでしょうから、この時期は贈り物が多かったんじゃないですか?」
「私か? 基本的に仕事で忙しかったからな、なにもないぞ?」
「本当に?」
「本当に」
実際はどうであろうが、レオの答えに満足した千尋はレオの耳に着けられたピアスに触れる。
「ちゃんとレオの分もありますから、安心してくださいね」
笑みを深めた二人は密着させた体を離すと、先程の雰囲気がなかったかのように、お互いの仕事に取り掛かる。
そんなやり取りも忘れてしまったバレンタイン当日。
いつの間に調達したのか、レオがチョコの箱を千尋に差し出してきたのだ。
ソファに並んで座ると、すぐに金色のリボンが巻かれた箱を開ける。どれから食べようかと悩む千尋をよそに、レオは箱の中からチョコを一粒取ると、当然のように千尋の口元へと持ってきた。
差し出されたチョコをレオの指ごと口に含めば、少し苦みのある味が広がり、千尋はそのまま指を舐め上げ、今度は唇を合わせる。
互いの熱で溶けたチョコがお互いの唾液で更に味を広め、香りが鼻から抜ける。
「今までで一番のバレンタインです」
「千尋といると一番のものが増えていくな。次はどれが良い?」
その後もレオから与えられるチョコを食べながら、熱く蕩けるような夜を過ごす。
二人の中で新たに忘れられない思い出が増えたのだった。
【お知らせ】
運命に抗えがなんと!
3月中旬、書籍発売決定致しましたー!!
とっても素敵なイラストレーター様にキャラクターを描いていただける幸せ……
そして、読んでくださる読者の皆様へ書籍という形でお届けできる幸せ……
ここまで走って来られたのも、皆様のおかげでありす!!
本当に本当に、沢山の応援ありがとうございます!
予約情報、特典情報、皆が気になる書影などなど……
Twitterでは最速でお知らせしておりますので、良かったらフォローしていただけると嬉しいです!
@seki_takachika
【第二部について】
3月1日から第二部、開始予定です!
まだまだ書き溜めが出来ていない状態なので、必死に書いています……第二部もお楽しみに!
それに伴い、以前上げていた「レオの家」のSSを第二部に改稿して組み込むため、2月下旬で下げさせて頂きます。
しおりを挟んでいる方は、しおりの移動をお願いしますー!
以上、関鷹親でした✨
千尋とレオは寒さが厳しい外とは対照的な自宅で、ゆったりと穏やかな休日を過ごしていた。
テレビでは正月の賑やかさが引き、次のイベントごとへと話題が移っている。
千尋がソファに座りながらぼんやりとテレビを眺めていれば、レオが飲み物を二人分持ってきて千尋の横へ腰を下ろし、不思議そうに首を傾けた。
「チョコレートの特集? 最近この手の話題が多いな」
「来月はバレンタインがあるでしょう? だからですよ」
あぁ、と納得したレオがカップに口をつけながら特集を観ている。クリスマスの習慣がなかったレオは、同じくバレンタインの習慣もなかったようだ。
珍しそうにテレビを眺めるレオの様子がなんだか可笑しく、千尋は緩く目を細めた。
「クリスマスもそうですけど、バレンタインで意中の人に告白する人も多いですから。この時期大変な人は多いでしょうね。なる君も毎年大変そうですよ」
「彼はモテるからな」
以前見かけた同僚達に迫られる成瀬の姿を思い出し、千尋とレオは互いに顔を見合わせ苦笑する。
「学生時代はもっと大変だったんですよ? 学校に行くと机にチョコの箱が山積みになっていたりして」
「千尋はどうだったんだ?」
「私ですか? 私もそれなりに貰いましたね」
「その頃の千尋に会ってみたいものだ」
不意に抱き寄せられた千尋は、ぽすりとレオの厚い胸板に抱き込まれる。ふわりと香ってきたレオのフェロモンがさり気なく独占欲を見せていることに気が付き、千尋はくすぐったい気持ちになった。
「ふふふ、告白してくる人はいなかったですよ? それにチョコは、全てなる君に取り上げられていましたしね」
「どういうことだ?」
成瀬が小さい頃に貰った手作りであろうチョコの中に、髪の毛が細かく刻んで入っていたらしいのだ。口に入れてはいなかったが、その気持ち悪さにそれから成瀬は貰う食べ物は食べないで処分するようにしていた。
そして千尋を弟として見るようになってから、千尋にもそのルールは適用されている。
「実際処分前に開けた箱から変な臭いがするものもありましたし、それに――」
家に持って帰って千景に嫉妬から怒鳴られても嫌ですし、と事も無げに苦笑している千尋にレオは溜息を吐いていた。
「成瀬は本当に良く千尋を守っているな」
「自慢の兄ですよ……と、そうだ。チョコの手配をしないと」
「なぜだ?」
「なる君が受け取るのは私からのチョコだけですからね。毎年贈りあってるので、今年も渡さないと」
千尋がそう答えると、体が一瞬浮遊感を感じ、次の瞬間には背中がソファに当たる。押し倒された体勢の千尋は、上から覗き込むレオと視線を合わせた。
「どうしたんですかレオ」
「……私にはないのか?」
じっと見つめてくるレオの顔に手を伸ばした千尋は、くすくすと小さな笑い声を漏らしながらその頬をゆっくりと撫でた。
「それ以上のものを貰っているのに?」
ゆったりと笑みを浮かべた千尋が軽く手に力を入れれば、レオはゆっくりと誘われるまま引き寄せられた。
千尋の薄い唇にレオの唇が軽く合わされば、お互いに啄ばむようにキスをする。それは徐々に深さを増して、奥まで侵入してくるレオの舌に千尋は満足そうに微笑むと、首に腕を巻き付け更にレオを引き寄せた。
「はぁ……千尋、これ以上は我慢できなくなる。成瀬が夜に来るんだろう?」
名残惜しそうに離れ額に軽く口づけてきたレオに、千尋が意地悪そうに後を追う。
「レオはどうだったんです? 当然モテたでしょうから、この時期は贈り物が多かったんじゃないですか?」
「私か? 基本的に仕事で忙しかったからな、なにもないぞ?」
「本当に?」
「本当に」
実際はどうであろうが、レオの答えに満足した千尋はレオの耳に着けられたピアスに触れる。
「ちゃんとレオの分もありますから、安心してくださいね」
笑みを深めた二人は密着させた体を離すと、先程の雰囲気がなかったかのように、お互いの仕事に取り掛かる。
そんなやり取りも忘れてしまったバレンタイン当日。
いつの間に調達したのか、レオがチョコの箱を千尋に差し出してきたのだ。
ソファに並んで座ると、すぐに金色のリボンが巻かれた箱を開ける。どれから食べようかと悩む千尋をよそに、レオは箱の中からチョコを一粒取ると、当然のように千尋の口元へと持ってきた。
差し出されたチョコをレオの指ごと口に含めば、少し苦みのある味が広がり、千尋はそのまま指を舐め上げ、今度は唇を合わせる。
互いの熱で溶けたチョコがお互いの唾液で更に味を広め、香りが鼻から抜ける。
「今までで一番のバレンタインです」
「千尋といると一番のものが増えていくな。次はどれが良い?」
その後もレオから与えられるチョコを食べながら、熱く蕩けるような夜を過ごす。
二人の中で新たに忘れられない思い出が増えたのだった。
【お知らせ】
運命に抗えがなんと!
3月中旬、書籍発売決定致しましたー!!
とっても素敵なイラストレーター様にキャラクターを描いていただける幸せ……
そして、読んでくださる読者の皆様へ書籍という形でお届けできる幸せ……
ここまで走って来られたのも、皆様のおかげでありす!!
本当に本当に、沢山の応援ありがとうございます!
予約情報、特典情報、皆が気になる書影などなど……
Twitterでは最速でお知らせしておりますので、良かったらフォローしていただけると嬉しいです!
@seki_takachika
【第二部について】
3月1日から第二部、開始予定です!
まだまだ書き溜めが出来ていない状態なので、必死に書いています……第二部もお楽しみに!
それに伴い、以前上げていた「レオの家」のSSを第二部に改稿して組み込むため、2月下旬で下げさせて頂きます。
しおりを挟んでいる方は、しおりの移動をお願いしますー!
以上、関鷹親でした✨
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,640
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。