運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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【 番外編 SS 】

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*26話後のモブパパラッチと女神崇拝者達がわちゃついて千尋に怒られるお話です。












「さぁその写真をよこしなさい!」

 屈強なボディーガードの男達に囲まれたパパラッチの前に仁王立ちしたジュリアは、早くしろと目でパパラッチである男に手を突き出した。

 男は元々、ジュリアの追っかけ……と言うよりストーカーであったが、一度SNSで上げたジュリアの写真が高額で売れた事からパパラッチへと転身したと言う経歴の人物であった。
 鋭く吊り上がったジュリアの視線に見下ろされたパパラッチの男はゾクゾクとする気持ちとは別に、屈強な男達に囲まれると言う恐怖心に縮み上がっていた。

 取り上げられたカメラの中身をボディーガードの男がパソコンで素早くデータを確認していく。

「うわっジュリアさん、こいつ変態ですよ!!」

 ボディーガードと共に写真を確認していたマネージャーがそう声を上げるので、ジュリアも訝し気に画面を覗く。そこにはどうやって忍び込んだのか、プールサイドで横たわりリラックスした状態のジュリアの写真がアップで何枚も際どい部分を捉えていたのだ。

「本当に最低だわっ!!」

 思わず手近にあったクッションを男に投げつけ見事顔面にヒットさせるが、男はにやけた顔をジュリアに向け気味の悪い笑い声を漏らすだけだった。
 その様子に全身をぞわわと寒気が走り、鳥肌が立ったジュリアは腕を摩りながら男から視線を外した。

「ありましたよジュリアさん!」
「どれどれ?……きゃー!! やだ、とっても素敵だわ……!! これは皆に自慢しないと!」

 画面を見たジュリアは先程の男への嫌悪感はどこへやら、一気にテンションが上がりその場でぴょんぴょんと飛び跳ねると、自身のスマホを取り出しあちこちに連絡を飛ばしていく。

「ジュリア様、こいつはどうします?」
「あぁそれ? もう必要ないから綺麗に始末しておいて! さぁパーティーの準備よー! 皆急いで!」

 パパラッチの男はボディーガードに引きずられる様にしてどこかへと連れられて行ったが、その後パパラッチ業界ではその男の話はタブーとなっていて、その男がどうなったのか誰も知らなかった。



「おぉ……これは素晴らしい! 祭壇にぜひ飾らせてもらおう!」
「くっ……本来であれば真正面からの美しい女神の御姿が良いのだが……」
「そんな事千尋が許すわけないでしょう? あの子は写真に取られるの嫌がるじゃない」
「こんな写真なんかより私の方がより神々しさと尊さを引き出せるのにっ! こんな低レベルなパパラッチの写真なんかを祭壇に飾らねばならないとは……」

 千尋を女神として崇拝する人達を集めたジュリアは、彼等にパパラッチから取り上げた写真を渡す。崇拝者達からよくやったと褒められ、気分は最高潮だった。
 ジュリアが態々パパラッチをパーティーに入れ込ませたのもこれが目的だった。千尋は写真に撮られる事を嫌うので、崇拝者達は常にヤキモキしていたのだ。
 ジュリアはそこまで千尋を崇拝している訳ではないが、見目が美しく初恋の相手である千尋の写真は欲しかった。利害が一致した者達による計画であったが、千尋にそれを気が付かれる事は無かったのだ。

 しかしやはりどこからか話は漏れる物で、数か月後千尋に呼び出されたジュリアはにこにこと微笑む千尋を前に引き攣った笑みを浮かべていた。

「ジュリア? 私が写真に撮られる事が嫌いなのは、知っていますよね?」
「……あの千尋、これは……」
「それに祭壇にまで飾ってる人が居るとか? 一体何人に渡したんですか?」
「わ、わからないなぁ……あはは……」
「レオ」

 差し出された紙に二度とこんな事はしないと書かされたジュリアは、それから必死に千尋に謝り倒し、何とか千尋に許してもらえたのだった。

「何もあそこまで怒る事は無かったんじゃないのか?」

 部屋に二人だけとなったレオは、先程までの千尋の怒り様に呆れた様に笑いながら問いかけた。

「祭壇ですよ? 全くただの人間を勝手に神格化するだなんて気が知れませんね」
「まぁ確かにそうだが、千尋は女神様だからな。ある程度は仕方ないんじゃないのか?」
「……諦めている部分はありますけどね。完全に私にわからない様にして欲しいんですよ」

 はぁと重たい溜息を吐いた千尋はソファにぐったりと背を預ける。

「変な写真じゃなくて良かったと思うけれどな。ほらこれなんかよく撮れてる」
「レオ、早くそれを処分してください」
「成瀬にもう送ると連絡してしまったんだが」
「なっ!!」
「それに俺も千尋の写真は欲しい」
「……四六時中一緒なのに要りますか?」
「あぁ実物が一番だが、これはまた別物だ」

 甘さを含んだままに耳元で囁かれた言葉にグッと言葉を詰まらせた千尋は、レオの手元にある写真を取り上げると二枚だけ抜き取り一枚をレオに戻した。

「……特別ですからね。他はちゃんと処分してください」

 ソファから立ち上がった千尋はレオを残しスタスタとシャワールームへと向かって行った。
 残されたレオは口元に微かな笑みを浮かべると、戻された写真を大事そうにそっと財布の中に閉まったのだった。
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