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【 番外編 SS 】
トレーニング
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「ねぇ千尋」
ソファの上で千尋を膝に乗せ抱き込んでいた成瀬は、眉根を僅かに寄せ幾分か低い声音で千尋を呼んだ。その呼び掛けに千尋は少し驚きながら、成瀬に顔を向ける。
「な、なに?」
目を合わせてきた千尋に成瀬は口を少しばかりもごつかせると、意を決したように口を開いた。
「もしかして千尋……少し太ったんじゃない?」
「なっ……!!」
成瀬の発言にビックリとした後、顔を赤くさせた千尋に追い打ちをかけるように、リビングへと戻って来たレオが神妙な顔をしながら成瀬に話しかけた。
「やはり成瀬もそう思うか? 私そうじゃないかと思ってたんだが」
「去年は色々あったせいでいつもより痩せすぎで心配していたんだけど……いきなり増えすぎるのは良くないからね。 千尋は気が付かなかった?」
赤くなる顔を成瀬とレオに覗き込まれた千尋は、ぐぅ……と眉を寄せる。己の体だ、気が付かないわけがない。風呂に入った時や、少しばかりきつさがある様に感じるスラックスを毎日履いていれば、嫌でもその事が頭を過っていた。
しかし自分で気が付くのと指摘されるのとでは話は別で、言わずにはいられない程に増えてしまったのかと千尋は羞恥に包まれ、成瀬とレオを八つ当たりの様に睨んでしまう。
「そうかなとは思ってたけど、二人に言われるぐらいまでとは……」
「どんな姿でも私は好きだけれどね、あんまり増えるときっと仕事的には困るだろう?」
そう言われ確かにこのまま増えて行けば”女神”としての姿を讃えているα達からの受けは良くは無いだろうと思い至った。それに加え、近しい二人に指摘されただけでも羞恥心が大変な事になっていると言うのに、他人から言われでもしたら居た堪れないどころではない。
表立って指摘してくる者達など居ないとは思うが、千尋の服を一から仕立てているミシェイル辺りに知られれば、いつの間にか周りに広まり、送られてくる服のサイズが変わっていたりすれば、直接指摘されるよりも居た堪れなさは倍増するに違いないのだ。
眉間に皺を寄せ考え込んでしまった千尋に、成瀬は頭を撫でながら落ち着かせるように背をポンポンと叩く。レオは新しく入れた紅茶を千尋に差し出した。
その紅茶を受け取りながら千尋ははたと何かに思い至った様にレオに視線を向ける。
「レオは私と同じ生活をしていますけど、変わってないですよね?」
確認するようにレオの体を見ながら、夜ベッドの上で千尋と裸で睦み合うレオの体を思い出すも、やはり変わらず鍛え上げられていて、弛む事が無い体であった事を思い出す。
同じ食生活で、寧ろ食べる量などはレオの方が多いと言うのにこの差は一体何なのだろうかと千尋はレオを見ながら首を傾げた。
「トレーニングを欠かしてないからな」
「そんな事いつしてるんですか? 見た事ないですけど」
「千尋が寝た後だな」
「何それずるい……」
千尋の思わず漏れた言葉に堪らずレオと成瀬はくつくつと笑い出す。
「これでも千尋の護衛だからな、いざと言う時に動けない護衛なんて職務怠慢だ。気になるなら千尋もこれからは一緒にやればいい。 何なら今からやるか?」
そう言ったレオに千尋は気合を入れた顔をして、成瀬の膝から降りた。千尋が離れた為にムッとした成瀬を見たレオは、どうせならと成瀬も巻き込み三人で運動をする事になった。
連れられるままレオの部屋に向かえば、そこにはランニングマシーンや見ただけでも重いだろうとわかるダンベル等が置いてあり、どうやらレオはそれを使い毎日鍛えているようだった。
「レオがやってるトレーニングはどんなものなんですか?」
見た方が早いだろうと、レオは徐にダンベルを床に並べそれを掴み逆立ちすると、そのまま腕立て伏せを始めた。ビックリと目を丸くする二人をよそに、レオは十回程やると体を元に戻し、今度は近くにあった踏み台を飛び越えたあと腕立て伏せをすると言う動きを繰り返し、それが終わればすぐにダンベルを太腿に挟むと懸垂をしだす。
それからおよそ普通の人は出来ないであろう動作を涼しい顔でやってのけていく。一通りの動きを終えたレオが二人を見れば、あからさまに引き攣った顔を向けられた。
「まさかこれを千尋にやらせる気じゃないだろうね?」
「これは私が居た部隊がやってたトレーニングの一つだから千尋には向かないだろう」
「よ、よかった……」
ほっとした表情を見せた千尋にレオは苦笑する。
千尋と成瀬にはそれから短時間やるだけでも体に負荷が掛かる様な筋トレを教えていった。しかし運動不足の二人には軽いそれでも随分と疲れたらしく、すぐに息が上がり床の上に体を投げだしてしまう。
「……身に染みて運動不足を痛感した……こんなに体が動かなくなってるだなんて……ショックだな」
元々運動が得意な成瀬は自身の体の変化に驚き項垂れた、歳のせいもあるだろうがレオの方が成瀬より年が上である為、単なる運動不足であるのは明白だった。
そんな成瀬の横で既に体が悲鳴を上げている千尋は、涼しい顔をしているレオがいかに毎日トレーニングを欠かしていないか、その凄さに舌を巻いた。
レオの様子をキラキラした目で見る千尋に、成瀬は面白くないと内心で独り言ちた。ただでさえレオに千尋を取られて面白くないと言うのに、このまま体が衰えていき、千尋にレオと比べられたら立ち直れないだろう。
「決めた、俺は明日からジムに行く。」
「えっなる君が行くなら僕も行こうかな……」
既に筋トレに対して心が折れそうになっていた千尋は、成瀬がジム通いを宣言した為に、成瀬と一緒であるならば続けられそうな気がしてしまった。
「千尋も一緒に通ってくれるなら嬉しいな、そうだ! お揃いのウェアでも買おうか?」
「わぁ! すごく楽しそう!」
盛り上がり始めた二人を見てレオは微笑ましく思う。
「レオも勿論お揃いにしましょうね?」
「あぁ、揃えたら楽しそうだな?」
「千尋!? 流石にレオともお揃いは嫌なんだけど……」
おろおろと千尋を見る成瀬に、千尋はころころと可愛らしい笑い声を上げた。
久しぶりに番外編SSを上げれましたー!
エントリーしていたBL大賞では大賞候補8作品に残る事ができ、結果奨励賞を頂く事が出来ました。読んで頂いた皆様、投票していただいた皆様、本当にありがとうございました!
これからもSSは上げたいと思いますので、引き続き楽しんで頂けたらと思います。
そして新作ですが、今月中には公開出来たらいいなぁと思っておりますので、その際はそちらも楽しんで頂けたら嬉しいです。
ソファの上で千尋を膝に乗せ抱き込んでいた成瀬は、眉根を僅かに寄せ幾分か低い声音で千尋を呼んだ。その呼び掛けに千尋は少し驚きながら、成瀬に顔を向ける。
「な、なに?」
目を合わせてきた千尋に成瀬は口を少しばかりもごつかせると、意を決したように口を開いた。
「もしかして千尋……少し太ったんじゃない?」
「なっ……!!」
成瀬の発言にビックリとした後、顔を赤くさせた千尋に追い打ちをかけるように、リビングへと戻って来たレオが神妙な顔をしながら成瀬に話しかけた。
「やはり成瀬もそう思うか? 私そうじゃないかと思ってたんだが」
「去年は色々あったせいでいつもより痩せすぎで心配していたんだけど……いきなり増えすぎるのは良くないからね。 千尋は気が付かなかった?」
赤くなる顔を成瀬とレオに覗き込まれた千尋は、ぐぅ……と眉を寄せる。己の体だ、気が付かないわけがない。風呂に入った時や、少しばかりきつさがある様に感じるスラックスを毎日履いていれば、嫌でもその事が頭を過っていた。
しかし自分で気が付くのと指摘されるのとでは話は別で、言わずにはいられない程に増えてしまったのかと千尋は羞恥に包まれ、成瀬とレオを八つ当たりの様に睨んでしまう。
「そうかなとは思ってたけど、二人に言われるぐらいまでとは……」
「どんな姿でも私は好きだけれどね、あんまり増えるときっと仕事的には困るだろう?」
そう言われ確かにこのまま増えて行けば”女神”としての姿を讃えているα達からの受けは良くは無いだろうと思い至った。それに加え、近しい二人に指摘されただけでも羞恥心が大変な事になっていると言うのに、他人から言われでもしたら居た堪れないどころではない。
表立って指摘してくる者達など居ないとは思うが、千尋の服を一から仕立てているミシェイル辺りに知られれば、いつの間にか周りに広まり、送られてくる服のサイズが変わっていたりすれば、直接指摘されるよりも居た堪れなさは倍増するに違いないのだ。
眉間に皺を寄せ考え込んでしまった千尋に、成瀬は頭を撫でながら落ち着かせるように背をポンポンと叩く。レオは新しく入れた紅茶を千尋に差し出した。
その紅茶を受け取りながら千尋ははたと何かに思い至った様にレオに視線を向ける。
「レオは私と同じ生活をしていますけど、変わってないですよね?」
確認するようにレオの体を見ながら、夜ベッドの上で千尋と裸で睦み合うレオの体を思い出すも、やはり変わらず鍛え上げられていて、弛む事が無い体であった事を思い出す。
同じ食生活で、寧ろ食べる量などはレオの方が多いと言うのにこの差は一体何なのだろうかと千尋はレオを見ながら首を傾げた。
「トレーニングを欠かしてないからな」
「そんな事いつしてるんですか? 見た事ないですけど」
「千尋が寝た後だな」
「何それずるい……」
千尋の思わず漏れた言葉に堪らずレオと成瀬はくつくつと笑い出す。
「これでも千尋の護衛だからな、いざと言う時に動けない護衛なんて職務怠慢だ。気になるなら千尋もこれからは一緒にやればいい。 何なら今からやるか?」
そう言ったレオに千尋は気合を入れた顔をして、成瀬の膝から降りた。千尋が離れた為にムッとした成瀬を見たレオは、どうせならと成瀬も巻き込み三人で運動をする事になった。
連れられるままレオの部屋に向かえば、そこにはランニングマシーンや見ただけでも重いだろうとわかるダンベル等が置いてあり、どうやらレオはそれを使い毎日鍛えているようだった。
「レオがやってるトレーニングはどんなものなんですか?」
見た方が早いだろうと、レオは徐にダンベルを床に並べそれを掴み逆立ちすると、そのまま腕立て伏せを始めた。ビックリと目を丸くする二人をよそに、レオは十回程やると体を元に戻し、今度は近くにあった踏み台を飛び越えたあと腕立て伏せをすると言う動きを繰り返し、それが終わればすぐにダンベルを太腿に挟むと懸垂をしだす。
それからおよそ普通の人は出来ないであろう動作を涼しい顔でやってのけていく。一通りの動きを終えたレオが二人を見れば、あからさまに引き攣った顔を向けられた。
「まさかこれを千尋にやらせる気じゃないだろうね?」
「これは私が居た部隊がやってたトレーニングの一つだから千尋には向かないだろう」
「よ、よかった……」
ほっとした表情を見せた千尋にレオは苦笑する。
千尋と成瀬にはそれから短時間やるだけでも体に負荷が掛かる様な筋トレを教えていった。しかし運動不足の二人には軽いそれでも随分と疲れたらしく、すぐに息が上がり床の上に体を投げだしてしまう。
「……身に染みて運動不足を痛感した……こんなに体が動かなくなってるだなんて……ショックだな」
元々運動が得意な成瀬は自身の体の変化に驚き項垂れた、歳のせいもあるだろうがレオの方が成瀬より年が上である為、単なる運動不足であるのは明白だった。
そんな成瀬の横で既に体が悲鳴を上げている千尋は、涼しい顔をしているレオがいかに毎日トレーニングを欠かしていないか、その凄さに舌を巻いた。
レオの様子をキラキラした目で見る千尋に、成瀬は面白くないと内心で独り言ちた。ただでさえレオに千尋を取られて面白くないと言うのに、このまま体が衰えていき、千尋にレオと比べられたら立ち直れないだろう。
「決めた、俺は明日からジムに行く。」
「えっなる君が行くなら僕も行こうかな……」
既に筋トレに対して心が折れそうになっていた千尋は、成瀬がジム通いを宣言した為に、成瀬と一緒であるならば続けられそうな気がしてしまった。
「千尋も一緒に通ってくれるなら嬉しいな、そうだ! お揃いのウェアでも買おうか?」
「わぁ! すごく楽しそう!」
盛り上がり始めた二人を見てレオは微笑ましく思う。
「レオも勿論お揃いにしましょうね?」
「あぁ、揃えたら楽しそうだな?」
「千尋!? 流石にレオともお揃いは嫌なんだけど……」
おろおろと千尋を見る成瀬に、千尋はころころと可愛らしい笑い声を上げた。
久しぶりに番外編SSを上げれましたー!
エントリーしていたBL大賞では大賞候補8作品に残る事ができ、結果奨励賞を頂く事が出来ました。読んで頂いた皆様、投票していただいた皆様、本当にありがとうございました!
これからもSSは上げたいと思いますので、引き続き楽しんで頂けたらと思います。
そして新作ですが、今月中には公開出来たらいいなぁと思っておりますので、その際はそちらも楽しんで頂けたら嬉しいです。
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