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86 舞踏会
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出来上がった新しい揃いの衣装を身に着けさせられたフェリチアーノとテオドールは、二人の出来に満足そうに笑むミリアに連れられ、ミリアの友人が主催する舞踏会へと足を運んでいた。
「この前の観劇は失敗したもの、今夜は沢山楽しみましょうね」
「俺達より姉上の方が楽しそうだ。なぁフェリ」
「ミリア姉様が楽しいなら僕も楽しいですよ?」
「んふふ、ほら見なさい! 今夜はテオドールとだけではなくて、私とも踊って頂戴ねフェリちゃん。貴方達の仲の良さを知らしめる為でもあるけれど、私も新しい弟を自慢したいもの。発表はまだ出来ないからこれくらいはね?」
「はいミリア姉上、頑張ってリードさせてもらいますね?」
「楽しみだわ! いやだわテオドール、そんなに睨まないでよ」
本当の姉と弟の様に二人で仲良く話す姿に、良くないとわかっていても微かに嫉妬心が燻るテオドールの表情はいつの間にかしかめっ面になっていて、その事をミリアに指摘される。
心底可笑しそうに笑うミリアにバツが悪そうな視線を向け、テオドールは自身の器の小ささに少しばかりうなだれた。
今まで閉じた世界しかなかったフェリチアーノが、自身の世界を広げる事は良い事である。ミリアを姉の様にしたい家族の情を深めるのも、心から喜ばしく思うし大いに賛成なのだが、やはり自分以外と楽しそうにしている姿を見るとどうしても嫉妬心が疼くのだ。
その度にテオドールは自身の情けない部分に呆れてしまうし、このままではダメだと思うのだが、どうしてもそれを消し去る事は出来なかった。
会場に辿り着けば辺りから一斉に視線が突き刺さる。この場に参加している貴族達は流石ミリアの友人が主催であると言うだけに、テオドール達に友好的な視線を向けて来た。
中にはフェリチアーノに熱い視線を送る者がちらちらと見え、テオドールの中の独占欲が掻き立てられる。
ミリアに磨き上げられ、益々美しくなっていくフェリチアーノを自慢したい気持ちは勿論あるのだが、それと同時に誰にも見られたくないとも思ってしまう。
今夜は舞踏会だ。きっとフェリチアーノにダンスの相手を申し込もうとする人間は、男女問わず後を絶たないのではないのだろうかと思われた。
モヤモヤとする気持ちのまま、フェリチアーノの腰を引き寄せると、どうしたのかと顔を上げ首を傾げるフェリチアーノの耳元にそっとテオドールは囁いた。
「今夜は舞踏会だろう? きっとフェリには沢山ダンスの申し込みがあると思うんだ。俺は俺以外とフェリチアーノが躍る姿は見たくない」
耳元で囁かれたテオドールの言葉に、一瞬目を見開いたフェリチアーノは次の瞬間には綻ぶような笑みをテオドールに向けていた。
「先に言われてしまいましてね、僕もテオが他の人と踊っているのは見たくないです。……嫉妬深いでしょうか?」
「多分俺の方が嫉妬深いと思うぞ? さっきの姉上に指摘されてるのを見ただろう?」
「そうでしたね、あぁでもミリア姉様とは踊ってもいいですか?」
「姉上だけだぞ? 他はダメだ」
二人がお互いの嫉妬心を確認して安心していると、ミリアから呆れた様な溜息が吐かれた。二人の世界にすぐに入ってしまうのも、二人が恋人となってからまだ数か月しかたっていないので致し方ない事だが、舞踏会に来ていると言う事を忘れてしまっては困る。
一曲目が緩やかに始まり出すのを見計らって二人に声を掛けたミリアは、そのままダンスホールへと二人を送り出したのだった。
二人の周りは僅かに空いており、周りで踊る人々も踊らない人々も皆がテオドールとフェリチアーノに注目していた。
お互いしか目に入らないのだとばかりに見つめ合い、時折笑みを深め楽しそうに踊る二人はとても幸せそうだ。
「もっと近づいてフェリ」
「これでは上手く踊れませんよ?」
「周りに牽制は必要だろう?」
お互いの鼻がくっつきそうな程顔を寄せながら言うテオドールの言葉にフェリチアーノが横目でチラリと周りを見れば、人々の視線と熱は確かに自分達に向いている事がわかった。
「視線は外さないでくれ」
「曲がもう終わりますよ?」
「続けて踊ればいいさ」
一曲目が終わり礼をお互いに取れば、テオドールやフェリチアーノと踊りたそうにする人々が近寄って来るが、二人はそれを気にする事なく曲が再び鳴り出せば、互いに手を取り踊り始めた。
その様子を微笑まし気に見守るミリアは、仲の良い友人が一人足早に来るのに気が付いた。周りに気が付かれないようにこそりと耳打ちしてきた。
「ミリア様、シャロン嬢がいらしているみたいですよ」
「まぁ……どうやって紛れ込んだのかしら」
視線を会場内に巡らせれば、奥まった場所からダンスホールを睨みつける様にしているシャロンの姿を見つける事が出来た。
彼女が何やら動こうとしている事は掴んでいるが、まだ具体的に事を起こしそうには無いと報告を受けていた。
それでも楽観視は良くないだろうと、さり気無く見張る様にと伝えれば心得たとばかりに友人は他の婦人達の元へとミリアからの指示を伝えに離れて行った。
二番目の曲が終われば、辺りから拍手が響き渡る。ダンスホールの中央から離脱したフェリチアーノとテオドールは、そのままミリアの元に歩みを進めた。
その際に周りからは二人を祝福する声が掛けられる。今まで遠巻きにされて来た態度とは違い、皆笑顔でフェリチアーノを受け入れている様だった。
態度の違いに戸惑わない訳ではないが、それでも以前の様に扱われなくなった事に、フェリチアーノは少しばかり安堵していた。
*お待たせしました!今日から毎日更新再開です。
完結を22日(金)に予定しております。最後までお付き合い頂けたら幸いです!
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「楽しみだわ! いやだわテオドール、そんなに睨まないでよ」
本当の姉と弟の様に二人で仲良く話す姿に、良くないとわかっていても微かに嫉妬心が燻るテオドールの表情はいつの間にかしかめっ面になっていて、その事をミリアに指摘される。
心底可笑しそうに笑うミリアにバツが悪そうな視線を向け、テオドールは自身の器の小ささに少しばかりうなだれた。
今まで閉じた世界しかなかったフェリチアーノが、自身の世界を広げる事は良い事である。ミリアを姉の様にしたい家族の情を深めるのも、心から喜ばしく思うし大いに賛成なのだが、やはり自分以外と楽しそうにしている姿を見るとどうしても嫉妬心が疼くのだ。
その度にテオドールは自身の情けない部分に呆れてしまうし、このままではダメだと思うのだが、どうしてもそれを消し去る事は出来なかった。
会場に辿り着けば辺りから一斉に視線が突き刺さる。この場に参加している貴族達は流石ミリアの友人が主催であると言うだけに、テオドール達に友好的な視線を向けて来た。
中にはフェリチアーノに熱い視線を送る者がちらちらと見え、テオドールの中の独占欲が掻き立てられる。
ミリアに磨き上げられ、益々美しくなっていくフェリチアーノを自慢したい気持ちは勿論あるのだが、それと同時に誰にも見られたくないとも思ってしまう。
今夜は舞踏会だ。きっとフェリチアーノにダンスの相手を申し込もうとする人間は、男女問わず後を絶たないのではないのだろうかと思われた。
モヤモヤとする気持ちのまま、フェリチアーノの腰を引き寄せると、どうしたのかと顔を上げ首を傾げるフェリチアーノの耳元にそっとテオドールは囁いた。
「今夜は舞踏会だろう? きっとフェリには沢山ダンスの申し込みがあると思うんだ。俺は俺以外とフェリチアーノが躍る姿は見たくない」
耳元で囁かれたテオドールの言葉に、一瞬目を見開いたフェリチアーノは次の瞬間には綻ぶような笑みをテオドールに向けていた。
「先に言われてしまいましてね、僕もテオが他の人と踊っているのは見たくないです。……嫉妬深いでしょうか?」
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一曲目が緩やかに始まり出すのを見計らって二人に声を掛けたミリアは、そのままダンスホールへと二人を送り出したのだった。
二人の周りは僅かに空いており、周りで踊る人々も踊らない人々も皆がテオドールとフェリチアーノに注目していた。
お互いしか目に入らないのだとばかりに見つめ合い、時折笑みを深め楽しそうに踊る二人はとても幸せそうだ。
「もっと近づいてフェリ」
「これでは上手く踊れませんよ?」
「周りに牽制は必要だろう?」
お互いの鼻がくっつきそうな程顔を寄せながら言うテオドールの言葉にフェリチアーノが横目でチラリと周りを見れば、人々の視線と熱は確かに自分達に向いている事がわかった。
「視線は外さないでくれ」
「曲がもう終わりますよ?」
「続けて踊ればいいさ」
一曲目が終わり礼をお互いに取れば、テオドールやフェリチアーノと踊りたそうにする人々が近寄って来るが、二人はそれを気にする事なく曲が再び鳴り出せば、互いに手を取り踊り始めた。
その様子を微笑まし気に見守るミリアは、仲の良い友人が一人足早に来るのに気が付いた。周りに気が付かれないようにこそりと耳打ちしてきた。
「ミリア様、シャロン嬢がいらしているみたいですよ」
「まぁ……どうやって紛れ込んだのかしら」
視線を会場内に巡らせれば、奥まった場所からダンスホールを睨みつける様にしているシャロンの姿を見つける事が出来た。
彼女が何やら動こうとしている事は掴んでいるが、まだ具体的に事を起こしそうには無いと報告を受けていた。
それでも楽観視は良くないだろうと、さり気無く見張る様にと伝えれば心得たとばかりに友人は他の婦人達の元へとミリアからの指示を伝えに離れて行った。
二番目の曲が終われば、辺りから拍手が響き渡る。ダンスホールの中央から離脱したフェリチアーノとテオドールは、そのままミリアの元に歩みを進めた。
その際に周りからは二人を祝福する声が掛けられる。今まで遠巻きにされて来た態度とは違い、皆笑顔でフェリチアーノを受け入れている様だった。
態度の違いに戸惑わない訳ではないが、それでも以前の様に扱われなくなった事に、フェリチアーノは少しばかり安堵していた。
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