【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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82 逃走準備

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 社交界ではすぐ様夜会での出来事が出回った。愚かなデュシャン家は更に注目を集めることになる。
 主人達が面白おかしく話し、そして対象的に話されるフェリチアーノの話はなんとも魅力的だったからか、階下の人々にまでその話は広まり始めた。

 広まり続ける話題の中で、シルヴァンは焦りを滲ませ始めた。家令と言う立場に着きまわりの態度は変わったが、ここに来てそれが真逆に転じたからだ。
 よくよく耳を澄ませていれば聞こえてくるのはデュシャン家の醜聞とフェリチアーノへの同情の声だった。
 荒れるマティアスに、これまた部屋に篭り切りになったアガットにと、何かがあった事は明白であったが、まさか彼等が元凶で何かが起こっているとは思っていなかったのだ。
 只々虫の居所が悪い日もあるのだろうとそう思い込んでいたし、上手くアンベールを動かし地位と金があれば良かったシルヴァンにとって、デュシャン家の人達への気遣いなどそもそも持ち合わせてもいなければ、セザールのように忠誠を誓っている訳でもない。

――不味い、とシルヴァンは悟った。

 マティアスとアガットがとった行動は不敬も良いところだ。それにテオドールが堂々とフェリチアーノを庇った事、最近のより仲睦まじいとされる話、そして何よりも夜会でデュシャン家が嫌いだと言い放ったフェリチアーノの事を考えると、シルヴァンは焦りを覚えた。

 アンベール達が行ってきた事は決して良い行いでは無い。今まであればフェリチアーノが反抗する事もなく、不満を言うことも無かった為に良い様に扱って来た。金の卵を産む従順なガチョウだったのだ。
 だがそれは崩れ去った。フェリチアーノが反抗心を見せた今、デュシャン家は安全とは言えなくなってしまった。
 フェリチアーノがテオドールに今までの事を全て話せば、溺愛していると噂のテオドールはきっとデュシャン家を許しはしないだろう。

 目論んでいた金も当然ながら手元にくるはずもない。デュシャン家は遠からず何かしらの罰が降るのは間違なく、その時にデュシャン家に居れば巻き込まれる事だろう。
 何よりアンベールはシルヴァンと協力し、前伯爵と夫人を葬り、フェリチアーノにも手をかけていた。その事をアンベールが話さないわけがない。

 共倒れなどするつもりも無いシルヴァンは、もっと早くに気が付いていればと焦りを滲ませながらも、逃亡資金を稼ぐ為にデュシャン家の家財を気がつかれない様に売り払い始めた。



 シルヴァンがその様な行動にで始めた頃、カサンドラもまたデュシャン家から逃亡する為に準備を始めていた。
 テオドールに協力している為、罰せられる可能性は低いと考えていたが、しかし不安は募った。
 身の安全を考えるならばやはりデュシャン家から早々に脱する他ない。
 逃げる際は我が子達も共にと考えていたカサンドラだが、その考えは等に捨て去っていた。
 問題を自ら犯し、撒き散らした者など足手纏いであるし、何より彼等はテオドールに睨まれた。

「仕方ないわ、だってあの子達が悪い子なんだから」

 愛情がない訳では無いが、カサンドラの中での優先順位は何を置いても自分自身だ。いくら腹を痛め可愛がって来た我が子達であっても、自分可愛さには勝るはずも無い。
 シルヴァン同様、屋敷の中の物をカサンドラも売り払い始め、いつでも出ていける様に荷物をまとめ資金と共に隠した。
 本来であれば次の寄生先を見つけてからが良かったのだが、そうは言ってはいられない状況だ。田舎へ行くか、他国に行ってからで良いだろ。

 今やデュシャンの邸で事の次第を知らないのは、能天気に酒に浸り享楽に耽るアンベールと、怒を抑え込めず荒れるマティアス、そして外に出る事が出来なくなってしまったアガットだけであった。
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