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67 考えつかない
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リンドベルは翌日には魔道具を仕上げて見せた。テオドールが渡していたデザイン画通りのフェリチアーノに似合う繊細な作りのブレスレットは、どこをどう見ても魔道具だとは思えない品だった。
毎日欠かさず飲むディッシャー特製の滋養強壮飲料と、薬、それに加え新たに加わったリンドベルの魔道具で、フェリチアーノの体調はグレイス家に来た当初より随分と良くなっていた。
以前の様な体の重さは少なくなり、咳も血を吐く事も少なくなった。食事量も増え、毎日欠かさない散歩のお陰で今では健康的な肌の白さだ。
徐々に本来のフェリチアーノの姿を取り戻しつつあるフェリチアーノを、テオドールは満足そうに見つめる。
テオドールはなるべく外で起こるデュシャン家の出来事をフェリチアーノに話したがらなかった。折角安心して穏やかに暮らしているフェリチアーノの日常に水を差したくなかったからだ。
しかしそうも言っていられなくなってきた。デュシャン家の面々から絶えず届く手紙の事はフェリチアーノに簡潔に話していたのだが、痺れを切らした彼等の手紙はどんどんと過激になり、そして時折城前でテオドールの出入りを隠れて待ち伏せするようになった。
当然そんなわかりやすい待ち伏せなどにテオドールが捕まる訳も無く、だからと言って永遠に放っておく事も出来ないのが現状だった。
談話室に集まった面々は、テオドールからデュシャン家の現状を聞く事となり、皆一様に呆れ返っていた。
「はぁ……あの人達は本当に何をやっているのか……」
「フェリちゃんが居なくなってから慌て出すなんて、今更だわ」
「フェリちゃんの家族はなかなかに愉快なんだねぇ」
「アレを愉快だと言えるのはお前だけだと思うぞ、リンドベル」
呆れた様に軽口を返すテオドールだが、フェリチアーノがこの話を聞いてどういう反応をするか、気が気でなかった。だが当のフェリチアーノは話を聞いても呆れかえるばかりで、特段精神的にダメージを受けているようには見えない。
テオドールは大丈夫だろうかと不安そうにフェリチアーノの手を握るが、困った様に笑いながらフェリチアーノは手を握り返した。
「そろそろ、どうにかしないと。いつまでも隠れている訳には行きませんし」
「それはそうだけど」
「まぁまぁテオドール、囲うだけじゃダメよ? フェリちゃんも男の子だもの、それに戦う時は戦わなきゃだわ。貴方の隣にずっと置くなら尚更よ」
ミリアにそう言われ、テオドールはわかってはいる事なのだが過保護さが先行し、今迄はどうしても踏ん切りがつかなかったのだ。
「それで、あの人達をどうするのかしら?」
「道化に相応しい最後を、とミネルヴァ夫人から念をおされているし、俺も普通に罰を受けさせるのでは足りないと思うからそうしようと思うけど……フェリはどうしたい?」
そう問われフェリチアーノはどうしたいか考える。苦しめられて来た記憶は確かにある。祖父も母も、セザールすらも殺されたのだから許せない気持ちも確かに心の中にある。
しかしどう罰を与えるかと聞かれれば思いつかない物で、それをそのまま談話室に居る人達に話した。
それはテオドールも同じだった。ただ罰を与えるのであれば司法の手に委ねれば良いだけだ。爵位偽証だけでも牢獄送りには出来るのだ。しかしそれはアンベールだけに与えられる罰だ。毒殺に関してはシルヴァンとアンベールのみ、カサンドラ、マティアス、アガットの窃盗は身内の事であまり罪には問われない物だ。
しかしそれでテオドールの怒りが収まり納得出来るかと言われれば出来るはずもなく、寧ろそれだけでは足りないと思うのだ。
けれども今まで制裁と言う物を考えた事が無かったテオドールには、どうすればミネルヴァの言う通りの“道化に相応しい最後”を作ればいいのかと言う思考が存在しなかった。
難しい顔をしながら一生懸命考え込むテオドールに、ミリアはそれも仕方ない事だろうと思った。
テオドールは王族の中であるにも関わらずのびのびと優しい青年に育ってきた。そんなテオドールに、陰湿さや残虐さがある罰を考えろと言うのは、その様な思考回路を持たないのだから考えつかないに決まっているのだ。
フェリチアーノもまた然り。あの様な家族に囲まれても尚、心根までは腐らず優しいのだ。陰湿さも残虐さも持たないそんな二人に、道化に相応しい最後など思い付けるはずもない。
「私としては、フェリちゃんの家族にフェリちゃんが幸せな姿を見せる事も彼等に精神的な苦痛を与える事になると思うわ。でもそれだけじゃ納得しないものね?」
「ミリア姉上のそれには賛成ですけど……」
「相応しい罰を考えるなら、フェルナンドお兄様とお母様に相談したらいいわ」
「兄上達にですか?」
ミリアの提案にテオドールは思わず眉を寄せ、怪訝そうな表情を作った。王太子であるフェルナンドはフェリチアーノを生きた教材にした人物の一人で、例え兄であってもそれを相談して協力してくれる保証は無いし、何よりフェルナンドの印象はフェリチアーノの件があり今はあまり良くない。
「大丈夫よ、お兄様ならいい様に考えてくれるし素敵な助言をきっとくれるもの。勿論お母様もね。いいから相談してみなさい。幸せな姿はそうね、フェリちゃんの体調を見てだけど、夜会に一緒に行きましょう。二人が踊る姿を見たいし、彼らも悔しがるし一石二鳥だわ!」
楽しそうにそう提案するミリアに、自分だけで考えてもどの道埒があかないと考えたテオドールは、すぐにフェルナンド達に相談する事に決めた。
新作「かつて勇者だった者」を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
タグから色々お察しください。こちらより内容がハードです。
ストックが無いので向こうはゆっくり更新になります。多分。
毎日欠かさず飲むディッシャー特製の滋養強壮飲料と、薬、それに加え新たに加わったリンドベルの魔道具で、フェリチアーノの体調はグレイス家に来た当初より随分と良くなっていた。
以前の様な体の重さは少なくなり、咳も血を吐く事も少なくなった。食事量も増え、毎日欠かさない散歩のお陰で今では健康的な肌の白さだ。
徐々に本来のフェリチアーノの姿を取り戻しつつあるフェリチアーノを、テオドールは満足そうに見つめる。
テオドールはなるべく外で起こるデュシャン家の出来事をフェリチアーノに話したがらなかった。折角安心して穏やかに暮らしているフェリチアーノの日常に水を差したくなかったからだ。
しかしそうも言っていられなくなってきた。デュシャン家の面々から絶えず届く手紙の事はフェリチアーノに簡潔に話していたのだが、痺れを切らした彼等の手紙はどんどんと過激になり、そして時折城前でテオドールの出入りを隠れて待ち伏せするようになった。
当然そんなわかりやすい待ち伏せなどにテオドールが捕まる訳も無く、だからと言って永遠に放っておく事も出来ないのが現状だった。
談話室に集まった面々は、テオドールからデュシャン家の現状を聞く事となり、皆一様に呆れ返っていた。
「はぁ……あの人達は本当に何をやっているのか……」
「フェリちゃんが居なくなってから慌て出すなんて、今更だわ」
「フェリちゃんの家族はなかなかに愉快なんだねぇ」
「アレを愉快だと言えるのはお前だけだと思うぞ、リンドベル」
呆れた様に軽口を返すテオドールだが、フェリチアーノがこの話を聞いてどういう反応をするか、気が気でなかった。だが当のフェリチアーノは話を聞いても呆れかえるばかりで、特段精神的にダメージを受けているようには見えない。
テオドールは大丈夫だろうかと不安そうにフェリチアーノの手を握るが、困った様に笑いながらフェリチアーノは手を握り返した。
「そろそろ、どうにかしないと。いつまでも隠れている訳には行きませんし」
「それはそうだけど」
「まぁまぁテオドール、囲うだけじゃダメよ? フェリちゃんも男の子だもの、それに戦う時は戦わなきゃだわ。貴方の隣にずっと置くなら尚更よ」
ミリアにそう言われ、テオドールはわかってはいる事なのだが過保護さが先行し、今迄はどうしても踏ん切りがつかなかったのだ。
「それで、あの人達をどうするのかしら?」
「道化に相応しい最後を、とミネルヴァ夫人から念をおされているし、俺も普通に罰を受けさせるのでは足りないと思うからそうしようと思うけど……フェリはどうしたい?」
そう問われフェリチアーノはどうしたいか考える。苦しめられて来た記憶は確かにある。祖父も母も、セザールすらも殺されたのだから許せない気持ちも確かに心の中にある。
しかしどう罰を与えるかと聞かれれば思いつかない物で、それをそのまま談話室に居る人達に話した。
それはテオドールも同じだった。ただ罰を与えるのであれば司法の手に委ねれば良いだけだ。爵位偽証だけでも牢獄送りには出来るのだ。しかしそれはアンベールだけに与えられる罰だ。毒殺に関してはシルヴァンとアンベールのみ、カサンドラ、マティアス、アガットの窃盗は身内の事であまり罪には問われない物だ。
しかしそれでテオドールの怒りが収まり納得出来るかと言われれば出来るはずもなく、寧ろそれだけでは足りないと思うのだ。
けれども今まで制裁と言う物を考えた事が無かったテオドールには、どうすればミネルヴァの言う通りの“道化に相応しい最後”を作ればいいのかと言う思考が存在しなかった。
難しい顔をしながら一生懸命考え込むテオドールに、ミリアはそれも仕方ない事だろうと思った。
テオドールは王族の中であるにも関わらずのびのびと優しい青年に育ってきた。そんなテオドールに、陰湿さや残虐さがある罰を考えろと言うのは、その様な思考回路を持たないのだから考えつかないに決まっているのだ。
フェリチアーノもまた然り。あの様な家族に囲まれても尚、心根までは腐らず優しいのだ。陰湿さも残虐さも持たないそんな二人に、道化に相応しい最後など思い付けるはずもない。
「私としては、フェリちゃんの家族にフェリちゃんが幸せな姿を見せる事も彼等に精神的な苦痛を与える事になると思うわ。でもそれだけじゃ納得しないものね?」
「ミリア姉上のそれには賛成ですけど……」
「相応しい罰を考えるなら、フェルナンドお兄様とお母様に相談したらいいわ」
「兄上達にですか?」
ミリアの提案にテオドールは思わず眉を寄せ、怪訝そうな表情を作った。王太子であるフェルナンドはフェリチアーノを生きた教材にした人物の一人で、例え兄であってもそれを相談して協力してくれる保証は無いし、何よりフェルナンドの印象はフェリチアーノの件があり今はあまり良くない。
「大丈夫よ、お兄様ならいい様に考えてくれるし素敵な助言をきっとくれるもの。勿論お母様もね。いいから相談してみなさい。幸せな姿はそうね、フェリちゃんの体調を見てだけど、夜会に一緒に行きましょう。二人が踊る姿を見たいし、彼らも悔しがるし一石二鳥だわ!」
楽しそうにそう提案するミリアに、自分だけで考えてもどの道埒があかないと考えたテオドールは、すぐにフェルナンド達に相談する事に決めた。
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