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65 魔術師リンドベル
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夏も終わり秋に差し掛かり始めた頃、漸くテオドールが呼び寄せていた魔術師リンドベル・カーネンがグレイス邸へと訪れた。
「遅いぞリンドベル! もっと早く来れただろう!?」
「テオドール君酷いなぁ、僕は凄腕の魔術師様だよ? これでも早く来た方なのに!」
「こっちは緊急事態なんだ! お前が作ってた転移何とかってのがあればすぐに来れただろ!?」
「あーあれね! それがさぁ、あれ小さい物なら大丈夫なんだけど、大きくなると途中で迷子になっちゃって、出て来なくなるんだよねぇ! 人が使ったら大変だよぉ~」
軽快に言い合う二人をミリアと、共に見ていたフェリチアーノは、魔術師と言われて想像していた人物像と全く異なる人物に目を丸くして驚いていた。
魔術師は魔道具を作る専門職であり、リンドベルはそんな魔術師の中でもトップレベルの人物であった。彼が開発した魔道具は数知れず、各国の王室や高位貴族達が多額の金を積み上げ彼に製作依頼を出すのだ。
フェリチアーノはそんな人物だからこそ、老人の様な厳格で気難し人を想像していたのだが、実際のリンドベルは年のころはテオドールと変わらない様に見えるし、口調も王族に対してではなく、まるで対等な友人と話す様な話し方をしており、そのやり取りに違和感を感じない。
フェリチアーノがあっけに取られていると業を煮やしたミリアが強く咳ばらいをした。テオドールはバツが悪そうにフェリチアーノの横に座り直し、一方でリンドベルはへらへらと特に悪びれる様子もなくティーカップに手を伸ばすのだった。
「それで、この天才魔術師様を呼び出して君は一体何を作らせるつもりなのかな?」
「フェリチアーノの体にある毒を取り除く魔道具が欲しいんだ。リンドベルなら作れるだろ?」
「フェリチアーノ??」
その存在に今初めて気が付いたとばかりに目を見開き、テオドールの横に座るフェリチアーノを見た。
「フェリチアーノ・デュシャンと申します」
「はぁぁぁ~なんて美人さんなんだろう! 僕はね、リンドベル・カーネンって言うんだ、よろしくねぇ~フェリちゃん!」
机から身を乗り出し手を差し出して来たリンドベルに、フェリチアーノは慌てて席を立ち握手をかわそうとするが、腰に回されたテオドールの手でそれを阻止され、リンドベルが差し出したままになっている手は、空いているテオドールの手によって叩き落とされた。
「いったぁ! なにするんだよテオドール君、酷いじゃないかっ」
「お前がフェリに触ろうとするからだ! 言っておくがフェリは俺の恋人だからな!! 余計なちょっかい出すなら追い出すぞ!?」
恋人だと言われたフェリチアーノは途端に顔を赤くさせ、恥ずかしそうに微笑んだ。それを見たリンドベルは心底残念そうな声を上げた後、何かを思い出したようにハッとなり、テオドールの顔を凝視した。
「君、君はっ僕との約束を破ったな!? 恋人居ない同盟はどうなるんだ!」
「だったらお前も恋人位作ればいいだろう!」
「そんな事無理なのは君が良く知ってるじゃないかぁ! なんて薄情な奴なんだ! はっもしかしてもしかするのかい!? 大人の階段も上ってしまったのかい!? 僕を置いて!? なんてことだ!!」
再び始まった戯れあいにミリアはとうとう匙を投げ、フェリチアーノは困った様にロイズに視線を向けた。深く溜息をついたロイズは、こうなったら暫く放って置くしかないのだと呆れた様に首を振り肩を落とした。
「んんっごめんねぇ、それで毒を体から出す魔道具だっけ? 勿論作れるよ~と言うか、この前どこぞの王族に作ったばかりなんだ!」
「出来ればそれが魔道具だとバレない物だと嬉しい。それと、主治医はフェリの体が毒に侵され過ぎていて、一気に毒を消せないって言ってるんだが……」
「取り敢えずその主治医さんにフェリちゃんの体の状況を聞いてから、それに合わせて作るねぇ~」
その後部屋に呼ばれたディッシャーは、ガラリと雰囲気を変えたリンドベルと共にあれこれと意見を出し合い始め、二人を残しフェリチアーノ達は部屋を出た。
少し肌寒さが出始めた庭へと歩みを進めたテオドールは、そとに出る前にフェリチアーノにしっかりと厚手のストールをかけた。
「心配しすぎですよテオ」
「ダメだ、しっかり防寒しないと体が冷えたら大変だろ?」
「だいぶ体も健康になったと思うんですけどね……」
「ディッシャーはそんな事言ってないからダメだ」
テオドールの大きな手に引かれながら、随分と過保護が加速した物だとフェリチアーノは苦笑しつつも、それが嬉しくて堪らなかった。ニコニコとその嬉しさのまま笑っていれば、テオドールが少しむっとした表情をする。
「俺はフェリが心配で言ってるんだからな?」
「わかってますよテオ、ありがとうございます」
少し背伸びをしてテオドールの頬に口付ければ、すぐに唇を奪われる。しかしそれも長いものでは無く、すぐ離れていってしまい物足りなさを感じ、テオドールを見てしまう。
「はぁぁあ……そんな目で見てもダメだからなフェリ。俺も我慢してるんだから、フェリも我慢して」
「……はしたないですか?」
「そうじゃなくて……無理させたくないんだよ」
困った様に眉を下げるテオドールに、仕方ないとフェリチアーノは体をテオドールに預ける事で我慢をする。
フェリチアーノの体調が分かってから、テオドールは治るまではと体を繋げる事をしようとはしない。それはフェリチアーノを大切にしているからに他ならないのだが、物足りなさをどうしても感じてしまう。それはテオドールも同じで度々辛くなる事もあるが、頑張って耐えていた。
「早く元気になってフェリ」
「ふふ、頑張りますね」
穏やかな日々は変わらない。テオドールに包まれ、グレイス家で過ごすうちにフェリチアーノの中には既に死への恐怖は無くなっていた。
「遅いぞリンドベル! もっと早く来れただろう!?」
「テオドール君酷いなぁ、僕は凄腕の魔術師様だよ? これでも早く来た方なのに!」
「こっちは緊急事態なんだ! お前が作ってた転移何とかってのがあればすぐに来れただろ!?」
「あーあれね! それがさぁ、あれ小さい物なら大丈夫なんだけど、大きくなると途中で迷子になっちゃって、出て来なくなるんだよねぇ! 人が使ったら大変だよぉ~」
軽快に言い合う二人をミリアと、共に見ていたフェリチアーノは、魔術師と言われて想像していた人物像と全く異なる人物に目を丸くして驚いていた。
魔術師は魔道具を作る専門職であり、リンドベルはそんな魔術師の中でもトップレベルの人物であった。彼が開発した魔道具は数知れず、各国の王室や高位貴族達が多額の金を積み上げ彼に製作依頼を出すのだ。
フェリチアーノはそんな人物だからこそ、老人の様な厳格で気難し人を想像していたのだが、実際のリンドベルは年のころはテオドールと変わらない様に見えるし、口調も王族に対してではなく、まるで対等な友人と話す様な話し方をしており、そのやり取りに違和感を感じない。
フェリチアーノがあっけに取られていると業を煮やしたミリアが強く咳ばらいをした。テオドールはバツが悪そうにフェリチアーノの横に座り直し、一方でリンドベルはへらへらと特に悪びれる様子もなくティーカップに手を伸ばすのだった。
「それで、この天才魔術師様を呼び出して君は一体何を作らせるつもりなのかな?」
「フェリチアーノの体にある毒を取り除く魔道具が欲しいんだ。リンドベルなら作れるだろ?」
「フェリチアーノ??」
その存在に今初めて気が付いたとばかりに目を見開き、テオドールの横に座るフェリチアーノを見た。
「フェリチアーノ・デュシャンと申します」
「はぁぁぁ~なんて美人さんなんだろう! 僕はね、リンドベル・カーネンって言うんだ、よろしくねぇ~フェリちゃん!」
机から身を乗り出し手を差し出して来たリンドベルに、フェリチアーノは慌てて席を立ち握手をかわそうとするが、腰に回されたテオドールの手でそれを阻止され、リンドベルが差し出したままになっている手は、空いているテオドールの手によって叩き落とされた。
「いったぁ! なにするんだよテオドール君、酷いじゃないかっ」
「お前がフェリに触ろうとするからだ! 言っておくがフェリは俺の恋人だからな!! 余計なちょっかい出すなら追い出すぞ!?」
恋人だと言われたフェリチアーノは途端に顔を赤くさせ、恥ずかしそうに微笑んだ。それを見たリンドベルは心底残念そうな声を上げた後、何かを思い出したようにハッとなり、テオドールの顔を凝視した。
「君、君はっ僕との約束を破ったな!? 恋人居ない同盟はどうなるんだ!」
「だったらお前も恋人位作ればいいだろう!」
「そんな事無理なのは君が良く知ってるじゃないかぁ! なんて薄情な奴なんだ! はっもしかしてもしかするのかい!? 大人の階段も上ってしまったのかい!? 僕を置いて!? なんてことだ!!」
再び始まった戯れあいにミリアはとうとう匙を投げ、フェリチアーノは困った様にロイズに視線を向けた。深く溜息をついたロイズは、こうなったら暫く放って置くしかないのだと呆れた様に首を振り肩を落とした。
「んんっごめんねぇ、それで毒を体から出す魔道具だっけ? 勿論作れるよ~と言うか、この前どこぞの王族に作ったばかりなんだ!」
「出来ればそれが魔道具だとバレない物だと嬉しい。それと、主治医はフェリの体が毒に侵され過ぎていて、一気に毒を消せないって言ってるんだが……」
「取り敢えずその主治医さんにフェリちゃんの体の状況を聞いてから、それに合わせて作るねぇ~」
その後部屋に呼ばれたディッシャーは、ガラリと雰囲気を変えたリンドベルと共にあれこれと意見を出し合い始め、二人を残しフェリチアーノ達は部屋を出た。
少し肌寒さが出始めた庭へと歩みを進めたテオドールは、そとに出る前にフェリチアーノにしっかりと厚手のストールをかけた。
「心配しすぎですよテオ」
「ダメだ、しっかり防寒しないと体が冷えたら大変だろ?」
「だいぶ体も健康になったと思うんですけどね……」
「ディッシャーはそんな事言ってないからダメだ」
テオドールの大きな手に引かれながら、随分と過保護が加速した物だとフェリチアーノは苦笑しつつも、それが嬉しくて堪らなかった。ニコニコとその嬉しさのまま笑っていれば、テオドールが少しむっとした表情をする。
「俺はフェリが心配で言ってるんだからな?」
「わかってますよテオ、ありがとうございます」
少し背伸びをしてテオドールの頬に口付ければ、すぐに唇を奪われる。しかしそれも長いものでは無く、すぐ離れていってしまい物足りなさを感じ、テオドールを見てしまう。
「はぁぁあ……そんな目で見てもダメだからなフェリ。俺も我慢してるんだから、フェリも我慢して」
「……はしたないですか?」
「そうじゃなくて……無理させたくないんだよ」
困った様に眉を下げるテオドールに、仕方ないとフェリチアーノは体をテオドールに預ける事で我慢をする。
フェリチアーノの体調が分かってから、テオドールは治るまではと体を繋げる事をしようとはしない。それはフェリチアーノを大切にしているからに他ならないのだが、物足りなさをどうしても感じてしまう。それはテオドールも同じで度々辛くなる事もあるが、頑張って耐えていた。
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