【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

文字の大きさ
上 下
59 / 95

59 真実を知る

しおりを挟む
 テオドールから“協力するなら報酬を弾む”と言われたカサンドラは、嬉々としてその話に乗り、フェリチアーノに会わせろと言う事もなく、そしてセザールの遺体を引き取るとも言い出さずに離宮を去って行った。

 静まり返る部屋の中、テオドールは頭を抱えながら考え込んでいた。フェリチアーノのデュシャン家での扱いがどの様であったか、想像するのと実際そう扱って来た人物から話を聞くのでは訳が違う。
 王族であれば確かに毒に晒される機会はある。しかし言ってしまえばデュシャン家はただの伯爵家だ。そんな家でまさか命を狙われようとは。そして実際に家令であるセザールは命を落としている。
 フェリチアーノはそんな強欲な者達の中でそんな危機に晒され、どれだけ心細かっただろうか。

 そこでふと、フェリチアーノは毒に侵されていることを知っているのかと疑問が浮かぶ。アレだけ体調を崩しているのだし、医者にかかることもあっただろう。カサンドラが言うように、本当に死期が近いと言うのならば、嫌でも体の不調に気がつく筈だ。

「……なぁロイズ、フェリは毒の事を知っていたと思うか?」

 突然の問いかけに僅かに反応してしまったロイズを、テオドールは見逃さなかった。

「何か知ってるな?」
「殿下、私は……」
「ロイズ!!」

 珍しく言い淀むロイズを、テオドールは睨みつけ言い募った。その様子に驚いたように目を見開いたロイズであったがそれも一瞬の事で漸く真実をテオドールに伝えられると、やっと一つ肩の荷が降りる安堵に、ロイズは口を開いた。

「先程の夫人の話は真実でしょう。事実毒の事をフェリチアーノ様は、最初から知っておりました」
「最初から……」
「……陛下と王太子殿下もご存じです」
「なんだって?」
「そのお陰でごっこ遊びを承諾されたのです」

 ロイズはテオドールに見せられた誓約の内容は真実では無く、実際にフェリチアーノと国王サライアスとの間に交わされた誓約は別の物であるのだと言う。
 その事実にテオドールは愕然とする。最初からフェリチアーノが自身の死期を悟っていた事もそれを隠されていた事もショックだが、それとは別にテオドール以外が真実を知り隠されていた事に苛立ちを覚える。
 テオドールだけは何も知らず、のうのうと恋に溺れ楽しんでいたのだ。それはどれだけ滑稽な姿であろうか。

 最も苛立たしさを覚えるのは自分自身ではあるのだが、それと同じ位に父と兄に対して怒りを覚える。生きた教材にフェリチアーノを使おうなどととんでもない事だ。
 ギリギリと拳を握り締め、己の能天気さと不甲斐なさに怒りが募る。
 考えろ、考えろと怒りに飲み込まれそうな理性を必死に止め、テオドールは歯を食いしばった。

 カサンドラが密告してきた事、フェリチアーノの置かれている状況と、それに紐付いてテオドール自身の置かれている状況を知る事が出来た。
 これは幸運な事だ。もし知らずにいればフェリチアーノを王家の道具にしたままみすみす見殺しにしてしまう所だったのだ。
 大切で愛おしいと心から思うフェリチアーノを、そんな風に失うなど考えただけでも寒気がする。既にテオドールの中でフェリチアーノが隣に居ない未来など考えられなかった。
 フェリチアーノが何を思い、テオドールにその事実を隠していたかは知らないが、例えフェリチアーノが離れて行こうとも手放す気など更々無い。

 その未来を掴む為に何より先に、フェリチアーノの体から毒を出し切り体を丈夫にして死期を遠ざけねばならない。その為に必要なのは優秀な医者だろう。それ以外に何が出来るだろうかと考え、そこで留学していた時に出会った優秀な魔術師の友人を思い出す。
 数々の魔道具を作り出す優秀過ぎる彼ならば、フェリチアーノの体の負担を減らせる魔道具を造れるのではないだろうか。
 テオドールは魔道具の事は何もわからないが、何か少しでも光があるのなら掴んでいたかったのだ。使える物は何でも使わなければ、フェリチアーノとの幸せの未来は待ってはいない。

「ロイズ、夜には城に戻る。急いで準備しろ」

 未だ体調が優れないフェリチアーノを移動させる事は躊躇われたが、ここに居るより王宮に居る方が何かと便利だ。
 ロイズの的確な指示により夕方には離宮を出発したテオドールは、未だ眠るフェリチアーノを大事そうに抱えながら、絶対に助けるのだと自身に言い続けた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする

葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』 騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。 平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。 しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。 ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

名もなき花は愛されて

朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。 太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。 姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。 火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。 断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。 そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく…… 全三話完結済+番外編 18禁シーンは予告なしで入ります。 ムーンライトノベルズでも同時投稿 1/30 番外編追加

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

処理中です...