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57 企み
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「おぉぉ、お前は!! 一体何をやってるんだ!!」
離宮から届けられた手紙を読んだアンベールはその中身を読み、次に中身を読んだシルヴァンがほくそ笑んだのを見逃さなかった。
「旦那様もセザールを疎ましがられていたではありませんか。それに中々毒で死なない事にも憤っていたでしょう? だから手を回したんですよ」
事も無げに言い放つシルヴァンに驚愕の目を向ける。
「だが、だが、アイツ等が向かった先は王家の離宮だぞ?」
「バレはしませんよ。大体いつも護衛を雇わないフェリチアーノ様の自業自得で片付けられますよ」
「……それもそうだが」
「元よりセザールは消すつもりだったのですから、それが前倒しになっただけの事。これで家令は私になりますからね。殿下からの支度金やら何やら、全て管理できる事になりますから、旦那様方にとってはいい事でしょう?」
そう言われたアンベールは、確かにそれもそうかと、余りに唐突に起こった事態に慌てふためいた自身を落ち着ける様に椅子へと腰を下ろした。
「今回フェリチアーノ様へは手出しはさせていませんし、もしかしたら護衛を配備するお金を貰えるかもしれませんよ」
「ふむ、それなら言う事無しだな。あのしぶとい死にぞこないも役に立つと言う物だ。しかしアレが殿下と恋仲になるとわかっていれば毒なぞ盛らなかったと言うのに……」
セザール同様、口煩く節制を口にするフェリチアーノは確かに金の卵を産むガチョウではあるのだが、目障りな事には変わり無かった。
溜め込んでいるであろう物を取り上げる為にシルヴァンと画策し、前伯爵と前妻と同様に毒を摂取させていたわけだが、大きな金蔓を引き当てると知っていればそんな事をしなかったはずだ。
「……アレも直に死ぬだろうが……はぁ、惜しい事をしたな。万が一にも殿下には毒などを飲まされている等わからぬだろうな?」
「あの茶葉とフェリチアーノ様がお好きなジャムとの組み合わせで初めて毒となる物ですし、調べられてもわかりますまい。それにお優しいと評判の殿下ですから、弔慰金も弾んでくださるでしょう。あぁ! 遺書などこちらで用意しておけばよいのですよ」
前の時もそうだったでしょう? シルヴァンに言われ、医者にかかっても病死だと診断されていた前伯爵と前妻の事を思い出し、それもそうかとアンベールは納得した。
テオドールの心を掴んでいる今、フェリチアーノが死ねばそれはどれ程痛ましいだろうか。そこにフェリチアーノから“遺した家族が心配だ”と同情を存分に誘うような遺書でも涙ながらに渡せば、相手は心優しい王家の人間だ。他の貴族より格段に多い弔慰金をくれるに違いない。
「お前は本当に賢いな、シルヴァン」
「これも全ては旦那様、ひいてはデュシャン家の為でございますから」
「よしよし、そんなお前には特別な報酬をやろう!」
気分を良くしたアンベールと、上手く転がっていく事にほくそ笑むシルヴァンの二人は声を上げて笑いあっていた。
「なんてこと、なんてことなの!!」
フェリチアーノが居ない為アンベールに新しい宝飾品を強請ろうと部屋のドアに手を掛けたカサンドラは、中から聞こえて来る不穏な会話を耳にし、息を殺して二人の会話に聞き耳を立てていた。
セザールが死んだ事も、フェリチアーノに毒が盛られていると言う事も、カサンドラはこの時初めて知ったのだ。
自室に戻ったカサンドラは、部屋の中を爪をガリガリと噛みながら落ち着きがない様子で歩き回る。
カサンドラは自身の夫がとんでもない無能だと知っている。そしてフェリチアーノが祖父や実母に似て優秀な事も知っている。
故にカサンドラはフェリチアーノは飼い殺しの状態にしている事が一番良いと言う事も理解していたので、排除しようとは考えても居なかった。
確かに口煩く目障りな時もあるが、領地経営や管理を全て引き受けているフェリチアーノが居るからこそ、贅沢が出来ている。
それに今までそんな事をやった事も無いアンベールが、フェリチアーノの死後その仕事を任されたからと言って、出来る筈がない。
それはカサンドラもそうだし、アガットもマティアスもそんな教育は受けてはいないので出来る筈も無いのだ。
確かに弔慰金を沢山貰えるかもしれないが、それなど一時的な物に過ぎず、長期的に見ればフェリチアーノを生かしておいた方が良いに決まっているのだ。
何せ口煩く言いはするが、この家を守る為ならフェリチアーノは大概の事に目を瞑る。そしていつの間にかお金が用立てられているのだ。
だが愚かなアンベールとシルヴァンはそんな事には気づかない。
「直に死ぬと言っていたわ、簡単に死なれては困るのよ……あぁどうしたら!!」
ギリギリと音が鳴る程噛まれた爪は次第に痛んでいく。いつも爪の先まで気にするカサンドラはこの時そんな事まで気が回ろうはずもなかった。
彼女の頭の中ではどうフェリチアーノの死を回避させるかにかかっている。
「そうよ、王家であるなら優秀な医者など沢山いる筈だわ! フェリチアーノが毒に冒されていると殿下に伝えれば……」
しかしそこまで考えてハタと気が付く。きっとそうなれば誰が毒を盛ったのかと言う話になる。それがアンベールとシルヴァンだと知れたら、どんな咎があるかわからない。
「困ったわね……」
普段使わない頭をこれでもかと使い、カサンドラは一人どうやってこの状況を乗り切るかに頭を悩ませ続けた。
離宮から届けられた手紙を読んだアンベールはその中身を読み、次に中身を読んだシルヴァンがほくそ笑んだのを見逃さなかった。
「旦那様もセザールを疎ましがられていたではありませんか。それに中々毒で死なない事にも憤っていたでしょう? だから手を回したんですよ」
事も無げに言い放つシルヴァンに驚愕の目を向ける。
「だが、だが、アイツ等が向かった先は王家の離宮だぞ?」
「バレはしませんよ。大体いつも護衛を雇わないフェリチアーノ様の自業自得で片付けられますよ」
「……それもそうだが」
「元よりセザールは消すつもりだったのですから、それが前倒しになっただけの事。これで家令は私になりますからね。殿下からの支度金やら何やら、全て管理できる事になりますから、旦那様方にとってはいい事でしょう?」
そう言われたアンベールは、確かにそれもそうかと、余りに唐突に起こった事態に慌てふためいた自身を落ち着ける様に椅子へと腰を下ろした。
「今回フェリチアーノ様へは手出しはさせていませんし、もしかしたら護衛を配備するお金を貰えるかもしれませんよ」
「ふむ、それなら言う事無しだな。あのしぶとい死にぞこないも役に立つと言う物だ。しかしアレが殿下と恋仲になるとわかっていれば毒なぞ盛らなかったと言うのに……」
セザール同様、口煩く節制を口にするフェリチアーノは確かに金の卵を産むガチョウではあるのだが、目障りな事には変わり無かった。
溜め込んでいるであろう物を取り上げる為にシルヴァンと画策し、前伯爵と前妻と同様に毒を摂取させていたわけだが、大きな金蔓を引き当てると知っていればそんな事をしなかったはずだ。
「……アレも直に死ぬだろうが……はぁ、惜しい事をしたな。万が一にも殿下には毒などを飲まされている等わからぬだろうな?」
「あの茶葉とフェリチアーノ様がお好きなジャムとの組み合わせで初めて毒となる物ですし、調べられてもわかりますまい。それにお優しいと評判の殿下ですから、弔慰金も弾んでくださるでしょう。あぁ! 遺書などこちらで用意しておけばよいのですよ」
前の時もそうだったでしょう? シルヴァンに言われ、医者にかかっても病死だと診断されていた前伯爵と前妻の事を思い出し、それもそうかとアンベールは納得した。
テオドールの心を掴んでいる今、フェリチアーノが死ねばそれはどれ程痛ましいだろうか。そこにフェリチアーノから“遺した家族が心配だ”と同情を存分に誘うような遺書でも涙ながらに渡せば、相手は心優しい王家の人間だ。他の貴族より格段に多い弔慰金をくれるに違いない。
「お前は本当に賢いな、シルヴァン」
「これも全ては旦那様、ひいてはデュシャン家の為でございますから」
「よしよし、そんなお前には特別な報酬をやろう!」
気分を良くしたアンベールと、上手く転がっていく事にほくそ笑むシルヴァンの二人は声を上げて笑いあっていた。
「なんてこと、なんてことなの!!」
フェリチアーノが居ない為アンベールに新しい宝飾品を強請ろうと部屋のドアに手を掛けたカサンドラは、中から聞こえて来る不穏な会話を耳にし、息を殺して二人の会話に聞き耳を立てていた。
セザールが死んだ事も、フェリチアーノに毒が盛られていると言う事も、カサンドラはこの時初めて知ったのだ。
自室に戻ったカサンドラは、部屋の中を爪をガリガリと噛みながら落ち着きがない様子で歩き回る。
カサンドラは自身の夫がとんでもない無能だと知っている。そしてフェリチアーノが祖父や実母に似て優秀な事も知っている。
故にカサンドラはフェリチアーノは飼い殺しの状態にしている事が一番良いと言う事も理解していたので、排除しようとは考えても居なかった。
確かに口煩く目障りな時もあるが、領地経営や管理を全て引き受けているフェリチアーノが居るからこそ、贅沢が出来ている。
それに今までそんな事をやった事も無いアンベールが、フェリチアーノの死後その仕事を任されたからと言って、出来る筈がない。
それはカサンドラもそうだし、アガットもマティアスもそんな教育は受けてはいないので出来る筈も無いのだ。
確かに弔慰金を沢山貰えるかもしれないが、それなど一時的な物に過ぎず、長期的に見ればフェリチアーノを生かしておいた方が良いに決まっているのだ。
何せ口煩く言いはするが、この家を守る為ならフェリチアーノは大概の事に目を瞑る。そしていつの間にかお金が用立てられているのだ。
だが愚かなアンベールとシルヴァンはそんな事には気づかない。
「直に死ぬと言っていたわ、簡単に死なれては困るのよ……あぁどうしたら!!」
ギリギリと音が鳴る程噛まれた爪は次第に痛んでいく。いつも爪の先まで気にするカサンドラはこの時そんな事まで気が回ろうはずもなかった。
彼女の頭の中ではどうフェリチアーノの死を回避させるかにかかっている。
「そうよ、王家であるなら優秀な医者など沢山いる筈だわ! フェリチアーノが毒に冒されていると殿下に伝えれば……」
しかしそこまで考えてハタと気が付く。きっとそうなれば誰が毒を盛ったのかと言う話になる。それがアンベールとシルヴァンだと知れたら、どんな咎があるかわからない。
「困ったわね……」
普段使わない頭をこれでもかと使い、カサンドラは一人どうやってこの状況を乗り切るかに頭を悩ませ続けた。
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