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52 シルヴァン
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馬車の音がし階下から様子を伺えば、フェチリアーノがどうやら帰宅した様だった。シルヴァンが明かり取りの為の小さな窓からチラリと外を覗けば、豪華な馬車から明らかに高貴であろう男性と共に降りて来るフェリチアーノの姿があった。
アレが第四王子かと思い至ったシルヴァンは、顔を覚えてもらおうと外へ出ようとするが、そこで自分の今の服装が高貴な人物の前に出るには相応しい物では無いと気がつき、盛大に舌打ちした。
ブツくされたまま小窓をそっと開け、少しでもいい話の種は無いかと聞き耳を立てた。
するとどうやらフェリチアーノは避暑に行く予定が出来、それに伴い準備金を貰った様だった。
以前フェリチアーノが留守の時に二重帳簿を作りちょろまかしていた残りの金を賭博で消してしまい、どうしようかと考えていた所だったのだ。
王子からの準備金というのだから、それだけで少なく無い金額を貰ったのだろうと想像に容易い。
シルヴァンはさてその金をどうやってくすねるかを考え始めた。
デュシャン家が落ちぶれてからと言う物、給金は全盛期より落とされた。その為扱い易いアンベールに着き甘い汁を啜っているわけだが、しかし年老いた家令のセザールがいつも邪魔していたのだ。
幼いフェリチアーノを正しく導き、アンベールの様に堕落させる事はなかった。それが今迄の贅沢に繋がっているので良かったといえばそうなのだが、アンベールの様な扱い易さが無い為に目の上のたんこぶと行った所だった。
フェリチアーノは百歩譲って、アンベールが言う様に金の卵を産むガチョウだが、セザールはシルヴァンにとって一番邪魔な存在だった。
とうに家令という職から辞してもいい年齢であると言うのに今だにその地位に居座り続け、シルヴァンがその地位に就ける事は無かった。
セザールが居なければ王宮へ赴くのもシルヴァンの役目だった筈だ。使用人仲間や、ギャンブル仲間、娼館の女達から羨望の眼差しを受けるのは己である筈だったのにと最近は憤っているのだ。
イライラとした様子で煙草を消したシルヴァンは、フェリチアーノが屋敷に入るのを確認すると出迎える為に玄関ホールへと急いだ。
しかしそこには既に忌々しいセザールが出迎えており、彼はシルヴァンから漂うキツい煙草の匂いに眉を一瞬顰めるとフェリチアーノを部屋へと促した。
「セザールさん、フェリチアーノ様はいつ避暑に行かれるんです?」
「盗み聞きとは感心しませんね」
「人聞きの悪い! 偶然聞いてしまっただけですよ」
ヘラヘラと笑い長ら悪びれもなく言ってくるシルヴァンに、セザールは呆れた様に溜息をつく。
一体何処からこんな風になってしまったのだと痛む頭を緩く振りながら、セザールは先程フェリチアーノから聞いた日程をシルヴァンに伝えた。
「二週間後から半月程、湖畔にある離宮でお世話になるそうだ。その準備の為に暫くは忙しくなるな」
「でしたら私が色々と手配をしますよ。あぁお供はどうなりますか? 出来れば私がフェリチアーノ様に同行したいんですけど」
伺う様にセザールを見ればコツコツと机を叩きながら険しい表情を作っており、シルヴァンは慌てて口を閉じた。
「すっかり腑抜けたお前では殿下にお目通りするには不十分だ。何より向こうに滞在中は殿下の従者であるロイズ様が全てを執り仕切る。コチラからの従者は一切不要だと言われているから、そもそも私達が足を運ぶ事はない。わかれば仕事に戻れ」
鋭く睨まれ手で追いやる様に示されれば、カッと怒りが込み上げ何とかそれを押し込めながらシルヴァンは部屋を出た。
「腑抜けただと? ふざけるなよ老害がッ!」
言われた通り仕事に戻りもせず、苛立たしさのまま足元にある木箱を蹴り上げると、シルヴァンはポケットからシガレットケースを取り出し吹かしながらガシガシと口に含んだ部分を噛んだ。
苦味が口全体に広がりそれもまた苛立たしさを増長させる。一本、二本と吸っていきその吸い殻を地面に落としていく。
そうしていくうちにとてもいい事をまるで天啓の様に思いつき、シルヴァンはにやりと口端を上げると深く煙を吸い込んだ。
アレが第四王子かと思い至ったシルヴァンは、顔を覚えてもらおうと外へ出ようとするが、そこで自分の今の服装が高貴な人物の前に出るには相応しい物では無いと気がつき、盛大に舌打ちした。
ブツくされたまま小窓をそっと開け、少しでもいい話の種は無いかと聞き耳を立てた。
するとどうやらフェリチアーノは避暑に行く予定が出来、それに伴い準備金を貰った様だった。
以前フェリチアーノが留守の時に二重帳簿を作りちょろまかしていた残りの金を賭博で消してしまい、どうしようかと考えていた所だったのだ。
王子からの準備金というのだから、それだけで少なく無い金額を貰ったのだろうと想像に容易い。
シルヴァンはさてその金をどうやってくすねるかを考え始めた。
デュシャン家が落ちぶれてからと言う物、給金は全盛期より落とされた。その為扱い易いアンベールに着き甘い汁を啜っているわけだが、しかし年老いた家令のセザールがいつも邪魔していたのだ。
幼いフェリチアーノを正しく導き、アンベールの様に堕落させる事はなかった。それが今迄の贅沢に繋がっているので良かったといえばそうなのだが、アンベールの様な扱い易さが無い為に目の上のたんこぶと行った所だった。
フェリチアーノは百歩譲って、アンベールが言う様に金の卵を産むガチョウだが、セザールはシルヴァンにとって一番邪魔な存在だった。
とうに家令という職から辞してもいい年齢であると言うのに今だにその地位に居座り続け、シルヴァンがその地位に就ける事は無かった。
セザールが居なければ王宮へ赴くのもシルヴァンの役目だった筈だ。使用人仲間や、ギャンブル仲間、娼館の女達から羨望の眼差しを受けるのは己である筈だったのにと最近は憤っているのだ。
イライラとした様子で煙草を消したシルヴァンは、フェリチアーノが屋敷に入るのを確認すると出迎える為に玄関ホールへと急いだ。
しかしそこには既に忌々しいセザールが出迎えており、彼はシルヴァンから漂うキツい煙草の匂いに眉を一瞬顰めるとフェリチアーノを部屋へと促した。
「セザールさん、フェリチアーノ様はいつ避暑に行かれるんです?」
「盗み聞きとは感心しませんね」
「人聞きの悪い! 偶然聞いてしまっただけですよ」
ヘラヘラと笑い長ら悪びれもなく言ってくるシルヴァンに、セザールは呆れた様に溜息をつく。
一体何処からこんな風になってしまったのだと痛む頭を緩く振りながら、セザールは先程フェリチアーノから聞いた日程をシルヴァンに伝えた。
「二週間後から半月程、湖畔にある離宮でお世話になるそうだ。その準備の為に暫くは忙しくなるな」
「でしたら私が色々と手配をしますよ。あぁお供はどうなりますか? 出来れば私がフェリチアーノ様に同行したいんですけど」
伺う様にセザールを見ればコツコツと机を叩きながら険しい表情を作っており、シルヴァンは慌てて口を閉じた。
「すっかり腑抜けたお前では殿下にお目通りするには不十分だ。何より向こうに滞在中は殿下の従者であるロイズ様が全てを執り仕切る。コチラからの従者は一切不要だと言われているから、そもそも私達が足を運ぶ事はない。わかれば仕事に戻れ」
鋭く睨まれ手で追いやる様に示されれば、カッと怒りが込み上げ何とかそれを押し込めながらシルヴァンは部屋を出た。
「腑抜けただと? ふざけるなよ老害がッ!」
言われた通り仕事に戻りもせず、苛立たしさのまま足元にある木箱を蹴り上げると、シルヴァンはポケットからシガレットケースを取り出し吹かしながらガシガシと口に含んだ部分を噛んだ。
苦味が口全体に広がりそれもまた苛立たしさを増長させる。一本、二本と吸っていきその吸い殻を地面に落としていく。
そうしていくうちにとてもいい事をまるで天啓の様に思いつき、シルヴァンはにやりと口端を上げると深く煙を吸い込んだ。
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