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43 愚者

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 茶会へ行く為に着飾ったアガットは、意気揚々と馬車を降りた。
 この日呼ばれた茶会は、男爵や子爵令嬢たちばかりの茶会だった為、アガットは先日フェリチアーノの部屋から盗み出した大ぶりのブローチを胸元の目立つ位置にこれ見よがしに付けていた。
 きっとこれを見れば皆羨ましがり、アガットを褒め称えるに違いないとほくそ笑む。
 部屋に入れば既に全員が揃っていて、1番最後に現れたアガットに視線が集まった。

「遅れてしまったみたいでごめんなさい?」

 爵位が下の者達だとわかっているので高圧的な態度で見渡し嫌らしい笑みを浮かべると、主催者である令嬢に挨拶もせずに空いている席へと腰掛けた。
 そんなアガットの態度に皆一様に眉を顰めたが誰も咎めはしなかった。
 流行りの菓子や刺繍に本、どの男性が素敵か等当たり障りのない話が続いていく中、意気揚々と身に付けてきたブローチに誰もが気がつく様子が無く、アガットはこの茶会は失敗だったと悟る。

 アガットから見ればこの茶会は何とも貧相な物に見えていた。

 茶器に描かれた柄も控えめでとても客に出す様な物には見えないし、通された部屋も飾り立てられている訳でも無く一言で言ってしまえば貧乏臭い。
 そう言う思いがアガットの言動の端々に現れ、無自覚に茶会への不満を漏らし貶める発言を繰り返す。
 実際は茶器は高価な物であり部屋の内装も洗礼された落ち着きのある物なのだが、目利きも出来なければ派手好きで見た目の華美さにしか目が行かないアガットにはわかるはずもなかった。

 アガットにとって退屈な時間がある程度過ぎた頃、メイドが先導し数人の令嬢が部屋へと入ってきた。それを確認した令嬢達はホッとした表情をし、席を立って簡単な挨拶をする。
 アガットは彼女達が誰か分からず周りに従い同じ様に挨拶をした。

「遅れてしまって申し訳ないわ、お詫びにお菓子を持ってきたから皆様で頂いてくださいな」

 おっとりとした雰囲気を纏いながらも優雅に微笑んだ令嬢は、アガットの隣に作られた席に取り巻き達を引き連れ腰を下ろした。

「貴女は初めて見るお顔ですわね、シャロン・ボーモン公爵令嬢よ、仲良く致しましょうね?」
「公爵令嬢とお近づきになれるなんて嬉しいですわ! 私はアガット・デュシャン伯爵令嬢と申します」
「まぁ、今や時の人のフェリチアーノ様の姉君でしたのね? 沢山お話を聞きたいわ、それにしても素敵なブローチだこと、ねぇ皆さんも見てちょうだい」

 シャロンがブローチに目をやり、やっと話題に出された事でアガットの気分は高揚する。
 やはり高位貴族は見る目があるのだと鼻高々にアガットはブローチに手をやり、見せつけるかの様に胸を逸らした。

「こちらはテオドール殿下からお近づきの印にと頂いた物ですの」
「まぁ、あの殿下から!」

 シャロンが目を輝かせ褒め称えれば、アガットは更に胸を張り自慢げにあり得もしない作り話をさも本当の事のように話した。
 実際はフェリチアーノの物で、テオドールにはミネルヴァの茶会で遠目に見ただけで話した事など無いのだが、そんな事などお構いなしにさも自分と親しいのだと話を作り上げていく。

「とても高価な物を頂ける程仲が良いなんて羨ましいわぁ」

 そう言うシャロンにアガットの虚栄心は満たされていく。高位貴族たるシャロンに羨ましがられる程の物を身に付けている自分が誇らしかった。

 そんなシャロンとアガットのやり取りを令嬢達は互いにアイコンタクトを取り合い、扇子の下で口元を歪めアガットを嘲笑っていた。
 今日の茶会は初めからアガットの道化を楽しむ為の物だ。ブローチには皆気が付いていたが、シャロン達が来るまで敢えて触れはしなかった。
 明らかな安物でとても王族からの贈り物に見えないブローチをこれ見よがしに見せ付ける様は何とも滑稽で、皆笑いを堪えるのに必死で肩を震わせながら耐えていたのだが、アガットにはそれが悔しくて憤っている様に見えて嘲笑っていた。
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