【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

文字の大きさ
上 下
43 / 95

43 愚者

しおりを挟む
 茶会へ行く為に着飾ったアガットは、意気揚々と馬車を降りた。
 この日呼ばれた茶会は、男爵や子爵令嬢たちばかりの茶会だった為、アガットは先日フェリチアーノの部屋から盗み出した大ぶりのブローチを胸元の目立つ位置にこれ見よがしに付けていた。
 きっとこれを見れば皆羨ましがり、アガットを褒め称えるに違いないとほくそ笑む。
 部屋に入れば既に全員が揃っていて、1番最後に現れたアガットに視線が集まった。

「遅れてしまったみたいでごめんなさい?」

 爵位が下の者達だとわかっているので高圧的な態度で見渡し嫌らしい笑みを浮かべると、主催者である令嬢に挨拶もせずに空いている席へと腰掛けた。
 そんなアガットの態度に皆一様に眉を顰めたが誰も咎めはしなかった。
 流行りの菓子や刺繍に本、どの男性が素敵か等当たり障りのない話が続いていく中、意気揚々と身に付けてきたブローチに誰もが気がつく様子が無く、アガットはこの茶会は失敗だったと悟る。

 アガットから見ればこの茶会は何とも貧相な物に見えていた。

 茶器に描かれた柄も控えめでとても客に出す様な物には見えないし、通された部屋も飾り立てられている訳でも無く一言で言ってしまえば貧乏臭い。
 そう言う思いがアガットの言動の端々に現れ、無自覚に茶会への不満を漏らし貶める発言を繰り返す。
 実際は茶器は高価な物であり部屋の内装も洗礼された落ち着きのある物なのだが、目利きも出来なければ派手好きで見た目の華美さにしか目が行かないアガットにはわかるはずもなかった。

 アガットにとって退屈な時間がある程度過ぎた頃、メイドが先導し数人の令嬢が部屋へと入ってきた。それを確認した令嬢達はホッとした表情をし、席を立って簡単な挨拶をする。
 アガットは彼女達が誰か分からず周りに従い同じ様に挨拶をした。

「遅れてしまって申し訳ないわ、お詫びにお菓子を持ってきたから皆様で頂いてくださいな」

 おっとりとした雰囲気を纏いながらも優雅に微笑んだ令嬢は、アガットの隣に作られた席に取り巻き達を引き連れ腰を下ろした。

「貴女は初めて見るお顔ですわね、シャロン・ボーモン公爵令嬢よ、仲良く致しましょうね?」
「公爵令嬢とお近づきになれるなんて嬉しいですわ! 私はアガット・デュシャン伯爵令嬢と申します」
「まぁ、今や時の人のフェリチアーノ様の姉君でしたのね? 沢山お話を聞きたいわ、それにしても素敵なブローチだこと、ねぇ皆さんも見てちょうだい」

 シャロンがブローチに目をやり、やっと話題に出された事でアガットの気分は高揚する。
 やはり高位貴族は見る目があるのだと鼻高々にアガットはブローチに手をやり、見せつけるかの様に胸を逸らした。

「こちらはテオドール殿下からお近づきの印にと頂いた物ですの」
「まぁ、あの殿下から!」

 シャロンが目を輝かせ褒め称えれば、アガットは更に胸を張り自慢げにあり得もしない作り話をさも本当の事のように話した。
 実際はフェリチアーノの物で、テオドールにはミネルヴァの茶会で遠目に見ただけで話した事など無いのだが、そんな事などお構いなしにさも自分と親しいのだと話を作り上げていく。

「とても高価な物を頂ける程仲が良いなんて羨ましいわぁ」

 そう言うシャロンにアガットの虚栄心は満たされていく。高位貴族たるシャロンに羨ましがられる程の物を身に付けている自分が誇らしかった。

 そんなシャロンとアガットのやり取りを令嬢達は互いにアイコンタクトを取り合い、扇子の下で口元を歪めアガットを嘲笑っていた。
 今日の茶会は初めからアガットの道化を楽しむ為の物だ。ブローチには皆気が付いていたが、シャロン達が来るまで敢えて触れはしなかった。
 明らかな安物でとても王族からの贈り物に見えないブローチをこれ見よがしに見せ付ける様は何とも滑稽で、皆笑いを堪えるのに必死で肩を震わせながら耐えていたのだが、アガットにはそれが悔しくて憤っている様に見えて嘲笑っていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

処理中です...