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36 自覚2

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 茶会で一通り話を終えるとミネルヴァの提案に従い、終わる前にテオドールとフェリチアーノはデュシャン家の面々に気づかれないように会場を後にした。
 フェリチアーノはテオドールに家族を紹介しなくて良かったとほっと胸を撫で下ろす。
 下手に彼等にテオドールを引き合わせても碌な事がないのは目に見えているので、例えそれがテオドールに挨拶ができなかったと嘆く面々を見たいが為であってもその配慮をしてくれたミネルヴァ達には感謝しかない。

 馬車に乗り込みそのまま城へと向かうが、その間テオドールは隣に座りニコニコと上機嫌にフェリチアーノの手を握っていた。
 そのいつもとは変わった様に思う甘やかな雰囲気に、フェリチアーノは何故だか落ち着かなかった。ガタガタと馬車が走る音だけが聞こえる中、会話が無い事に耐え切れずにフェリチアーノは口を開く。

「今日は本当にビックリしました。ミネルヴァ様には感謝しなくては」
「サプライズが成功出来て嬉しいよ、あぁそれにフェリとキスが出来た」
「あっあれは、御令嬢方を牽制する為ですから。テオも気を付けてくださいね、今までどうやって躱してきたんですか」
「大抵はロイズが捌いてたかな。後は適当に話を合わせて終わりだよ」
「ロイズさんが大変な事が良くわかりました」

 少し呆れを含ませたフェリチアーノの言葉に、テオドールはむっとするがそこで一つの可能性に思い至った。
 確かに今までは全てロイズに面倒な事を任せてしまっていた。これからパートナーが必須の物にはフェリチアーノを伴おうと決めているテオドールだが、そこでロイズに今まで通りに丸投げしてしまうと格好がつかないどころではない。
 恋人ごっこを提案された日にフェリチアーノを令嬢達からの風よけにと考えていた事もあったが、それは好きな人に対してどうなのだろうか。
 それに情けない姿を今までフェリチアーノに見せて来てしまったが、恋心を自覚してしまった今、フェリチアーノには出来る限り格好良く見られたいと思ってしまう。
 ではどうすればいいだろうか。答えは至極簡単で、テオドール自身が回りの令嬢達を牽制すればいいのだ。

 うんうんと唸りながら何やら考え込んでいたテオドールを不思議そうにフェリチアーノは見ていたが、その様子に気が付いたテオドールは小首を傾げて己を見て来るフェリチアーノに堪らず湧き上がる欲を押さえる事が出来ずに、気がつけばそのままフェリチアーノの唇を奪っていた。
 思わず目を見開いたフェリチアーノだがそのまま抱き込まれてしまえば為す術はなく、テオドールが満足するまでそれに付き合った。
 求められる事は嫌ではない、それがテオドールであれば尚更だ。
 愛人として扱われていた頃に感じていた不快感も嫌悪感も、テオドールには微塵も感じ無いし、寧ろ本物の恋人の様に扱われる今の状況にフェリチアーノは満足すら覚えていた。

 漸く解かれた口付けに少し息が上がったフェリチアーノは、しかし何故いきなりここまでスキンシップが増えたのかと疑問に思う。
 元から距離感がおかしかったテオドールだが、牽制の為にした口付けで箍が外れてしまったのだろうかと考えれば妙に納得がいってしまった。

「これからもしても良いか?」
「終わった後に聞かなくても……ふふ、テオが望むなら」
「フェリは優しいな」

 初めての恋に浮かれている自覚は大いにある。そして嫌な顔もせずに求めに応じてくれるフェリチアーノに対して大いに甘えている自覚もテオドールにはあった。
 だがそれでも、フェリチアーノに触れて居られる事が今のテオドールにはこの上なく幸せである事に違いなかった。

 王宮に着いてもテオドールの甘やかな雰囲気が鳴りを潜める訳もなく、出迎えたロイズは主人のあまりの変わりように驚いたが、できる従者はテオドールに聞かずとも察する事ができてしまった。
 その後もテオドールはいつも以上にフェリチアーノから離れようとはせず、気がつけば夜になっていた。

「フェリもう少し一緒に居たい、ダメか?」
「その、明日は今日できなかった仕事をしないといけないので……流石に帰らないと」

 寂しそうにするテオドールにそう言えば更に眉が垂れ下がる。その表情に危うく了承しそうになるが、流石に王宮に泊り過ぎるのもいかがなものかとフェリチアーノは思うのだ。

「帰ったらあの家族達が居るだろう? そんなところには帰したくない」
「そうは言っても流石に無理ですよ、ロイズさんからもそう言ってください」

 堪らずロイズに助けを求めれば、呆れた様子のロイズがテオドールを宥めに掛かる。

「殿下も執務がおありでしょうに。少しはフェリチアーノ様を見習ってくださいませ」

 面白くないと言わんばかりにすねた表情をするテオドールに、困った様に微笑むフェリチアーノを見たテオドールは、はぁ……と重苦しく溜息を吐いてフェリチアーノの唇に口付けると、名残惜しそうにしながらも漸くフェリチアーノを解放したのだった。
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