上 下
36 / 95

36 自覚2

しおりを挟む
 茶会で一通り話を終えるとミネルヴァの提案に従い、終わる前にテオドールとフェリチアーノはデュシャン家の面々に気づかれないように会場を後にした。
 フェリチアーノはテオドールに家族を紹介しなくて良かったとほっと胸を撫で下ろす。
 下手に彼等にテオドールを引き合わせても碌な事がないのは目に見えているので、例えそれがテオドールに挨拶ができなかったと嘆く面々を見たいが為であってもその配慮をしてくれたミネルヴァ達には感謝しかない。

 馬車に乗り込みそのまま城へと向かうが、その間テオドールは隣に座りニコニコと上機嫌にフェリチアーノの手を握っていた。
 そのいつもとは変わった様に思う甘やかな雰囲気に、フェリチアーノは何故だか落ち着かなかった。ガタガタと馬車が走る音だけが聞こえる中、会話が無い事に耐え切れずにフェリチアーノは口を開く。

「今日は本当にビックリしました。ミネルヴァ様には感謝しなくては」
「サプライズが成功出来て嬉しいよ、あぁそれにフェリとキスが出来た」
「あっあれは、御令嬢方を牽制する為ですから。テオも気を付けてくださいね、今までどうやって躱してきたんですか」
「大抵はロイズが捌いてたかな。後は適当に話を合わせて終わりだよ」
「ロイズさんが大変な事が良くわかりました」

 少し呆れを含ませたフェリチアーノの言葉に、テオドールはむっとするがそこで一つの可能性に思い至った。
 確かに今までは全てロイズに面倒な事を任せてしまっていた。これからパートナーが必須の物にはフェリチアーノを伴おうと決めているテオドールだが、そこでロイズに今まで通りに丸投げしてしまうと格好がつかないどころではない。
 恋人ごっこを提案された日にフェリチアーノを令嬢達からの風よけにと考えていた事もあったが、それは好きな人に対してどうなのだろうか。
 それに情けない姿を今までフェリチアーノに見せて来てしまったが、恋心を自覚してしまった今、フェリチアーノには出来る限り格好良く見られたいと思ってしまう。
 ではどうすればいいだろうか。答えは至極簡単で、テオドール自身が回りの令嬢達を牽制すればいいのだ。

 うんうんと唸りながら何やら考え込んでいたテオドールを不思議そうにフェリチアーノは見ていたが、その様子に気が付いたテオドールは小首を傾げて己を見て来るフェリチアーノに堪らず湧き上がる欲を押さえる事が出来ずに、気がつけばそのままフェリチアーノの唇を奪っていた。
 思わず目を見開いたフェリチアーノだがそのまま抱き込まれてしまえば為す術はなく、テオドールが満足するまでそれに付き合った。
 求められる事は嫌ではない、それがテオドールであれば尚更だ。
 愛人として扱われていた頃に感じていた不快感も嫌悪感も、テオドールには微塵も感じ無いし、寧ろ本物の恋人の様に扱われる今の状況にフェリチアーノは満足すら覚えていた。

 漸く解かれた口付けに少し息が上がったフェリチアーノは、しかし何故いきなりここまでスキンシップが増えたのかと疑問に思う。
 元から距離感がおかしかったテオドールだが、牽制の為にした口付けで箍が外れてしまったのだろうかと考えれば妙に納得がいってしまった。

「これからもしても良いか?」
「終わった後に聞かなくても……ふふ、テオが望むなら」
「フェリは優しいな」

 初めての恋に浮かれている自覚は大いにある。そして嫌な顔もせずに求めに応じてくれるフェリチアーノに対して大いに甘えている自覚もテオドールにはあった。
 だがそれでも、フェリチアーノに触れて居られる事が今のテオドールにはこの上なく幸せである事に違いなかった。

 王宮に着いてもテオドールの甘やかな雰囲気が鳴りを潜める訳もなく、出迎えたロイズは主人のあまりの変わりように驚いたが、できる従者はテオドールに聞かずとも察する事ができてしまった。
 その後もテオドールはいつも以上にフェリチアーノから離れようとはせず、気がつけば夜になっていた。

「フェリもう少し一緒に居たい、ダメか?」
「その、明日は今日できなかった仕事をしないといけないので……流石に帰らないと」

 寂しそうにするテオドールにそう言えば更に眉が垂れ下がる。その表情に危うく了承しそうになるが、流石に王宮に泊り過ぎるのもいかがなものかとフェリチアーノは思うのだ。

「帰ったらあの家族達が居るだろう? そんなところには帰したくない」
「そうは言っても流石に無理ですよ、ロイズさんからもそう言ってください」

 堪らずロイズに助けを求めれば、呆れた様子のロイズがテオドールを宥めに掛かる。

「殿下も執務がおありでしょうに。少しはフェリチアーノ様を見習ってくださいませ」

 面白くないと言わんばかりにすねた表情をするテオドールに、困った様に微笑むフェリチアーノを見たテオドールは、はぁ……と重苦しく溜息を吐いてフェリチアーノの唇に口付けると、名残惜しそうにしながらも漸くフェリチアーノを解放したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる

カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」 そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか? 殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。 サクッとエロ&軽めざまぁ。 全10話+番外編(別視点)数話 本編約二万文字、完結しました。 ※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます! ※本作の数年後のココルとキールを描いた、 『訳ありオメガは罪の証を愛している』 も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

運命の番は姉の婚約者

riiko
BL
オメガの爽はある日偶然、運命のアルファを見つけてしまった。 しかし彼は姉の婚約者だったことがわかり、運命に自分の存在を知られる前に、運命を諦める決意をする。 結婚式で彼と対面したら、大好きな姉を前にその場で「運命の男」に発情する未来しか見えない。婚約者に「運命の番」がいることを知らずに、ベータの姉にはただ幸せな花嫁になってもらいたい。 運命と出会っても発情しない方法を探る中、ある男に出会い、策略の中に翻弄されていく爽。最後にはいったい…どんな結末が。 姉の幸せを願うがために取る対処法は、様々な人を巻き込みながらも運命と対峙して、無事に幸せを掴むまでのそんなお話です。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

大好きだった本の世界に迷い込んだようですが読了していないので展開がわかりません!

大波小波
BL
 相羽 倫(あいば りん)は、18歳のオメガ少年だ。  両親を相次いで亡くし、悲しみに暮れて雨に濡れた墓石の前に膝をついていた。  そのはずだったが、気が付くと温かなそよ風の吹く場所にいる。  しかも、冬だった季節が春に代わっているだけでなく、見知らぬ人間が次から次へと現れるのだ。  奇妙なことに、彼らは姓を持たずに名だけで暮らしている。  姓は、上級国民にしか与えられていない、この世界。  知らずに姓名を名乗った彼は、没落貴族の御曹司と決めつけられてしまう。  ハーブガーデンで働くことになった倫は、園長・和生(かずお)に世話になる。  和生と共に、領主へ挨拶に向かう倫。  北白川 怜士(きたしらかわ れいじ)と名乗るそのアルファ男性に、倫にある記憶を呼び覚ます。 (北白川 怜士、って。僕が大好きだった本の、登場人物だ!)  僕、もしかして、本の中に迷い込んじゃったの!?  怜士と倫、二人の軌道が交わり、不思議な物語が始まる……。

僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…

夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。 僕は運命の番と夫婦なのに… 手を伸ばせば届く距離にいるのに… 僕の運命の番は 僕ではないオメガと不倫を続けている。 僕はこれ以上君に嫌われたくなくて 不倫に対して理解のある妻を演じる。 僕の心は随分と前から血を流し続けて そろそろ限界を迎えそうだ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定) ━━━━━━━━━━━━━━━ 夢見 歩の初のBL執筆作品です。 不憫受けをどうしても書きたくなって 衝動的に書き始めました。 途中で修正などが入る可能性が高いので 完璧な物語を読まれたい方には あまりオススメできません。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

ざまぁされた小悪党の俺が、主人公様と過ごす溺愛スローライフ!?

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
わんこ系執着攻めヒーロー×卑屈な小悪党転生者、凸凹溺愛スローライフ!? やり込んでいたゲームそっくりの世界に異世界転生して、自分こそがチート主人公だとイキリまくっていた男、セイン……こと本名・佐出征時。 しかし彼は、この世界の『真の主人公』である青年ヒイロと出会い、彼に嫉妬するあまり殺害計画を企て、犯罪者として追放されてしまう。 自分がいわゆる『ざまぁされる悪役』ポジションだと気付いたセインは絶望し、孤独に野垂れ死ぬ……はずが!! 『真の主人公』であるヒイロは彼を助けて、おまけに、「僕は君に惚れている」と告げてきて!? 山奥の小屋で二人きり、始まるのは奇妙な溺愛スローライフ。 しかしどうやら、ヒイロの溺愛にはワケがありそうで……? 凸凹コンビな二人の繰り広げるラブコメディです。R18要素はラストにちょこっとだけ予定。 完結まで執筆済み、毎日投稿予定。

処理中です...