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33 茶会2
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天幕の下、フェリチアーノの話に耳を傾けていたミネルヴァの元に、侍女が近寄りこそりと耳打ちをすれば、それを聞いたミネルヴァは目を細めて楽しそうに笑い、フェリチアーノに庭の端にある薔薇園を見ていらっしゃいと意味ありげに言ってきた。
御婦人方の視線を背中に受けながら、聞いた場所まで近づけばキャッキャと可愛らしい令嬢達のはしゃぐ声が聞こえる。
この先に一体何があるのかとそのまま足を進め、角を曲がった瞬間飛び込んできた光景に足が止まった。
そこには居る筈がないテオドールが居て、御令嬢方に取り囲まれていたのだ。それだけではない。テオドールの腕に絡まったり、はしたなくも胸を押し付け甘ったるい声でテオドールにしな垂れかかったりしていた。
当のテオドールは強く拒否が出来ないらしく、困った表情を見せながらも追い払えない令嬢達を渋々相手にしている。
その光景を見て何故かフェリチアーノの心がザワつき苛ついてしまう。アレぐらいサラリと躱すのが貴族であり王族ではないのか。
何故いつまでもアレを許しているのか、そもそもロイズの姿が見当たらないのは何故だ。彼が居ればこんな光景など見なくても済んだと言うのに。
モヤモヤと渦巻く不快な気分がフェリチアーノを満たしていく。
仮にも恋人はフェリチアーノの筈だ。確かにごっこ遊びだが、世間には本物の恋人として浸透していると言うのに。
あのままではその真偽が疑われてしまうではないかとフェリチアーノは軽く舌打ちし、服の上から刺青の場所を一撫ですると、颯爽とテオドールの元へと足を進ませた。
「テオ! まさかここに来るなんて思いませんでした」
殊更明るい声を出し、顔には極上の笑みを浮かべたフェリチアーノの姿を見とめたテオドールは、心底ほっとしたような顔をすると、するっと令嬢達の中から抜け出し小走りにフェリチアーノに近づいた。
「フェリ! 会えてよかった、公爵夫人にサプライズで呼ばれていたんだけど到着が遅れてしまったから、もしかしたら会えないかと思った」
抱き着いたフェリチアーノに小声で助かったと言いながら、この場に何故いるのかを教えてくれる。
チラリと令嬢達を窺えば淑女にあるまじき顔をし、突如現れたフェリチアーノを睨んでいた。
全く面倒な事だと思いながらフェリチアーノはテオドールから少し離れ体勢を変えると、令嬢達に挨拶をする。勿論テオドールに腕を絡ませ、体を密着させたままだ。
本来であればそんな状態での挨拶など以ての外ではあるが、フェリチアーノ自体先程から令嬢達に対して苛ついて仕方がなかったし、テオドールは再び彼女等に捕まりたくは無いのだと言わんばかりの雰囲気で、フェリチアーノが例え離れようとしても逃がしはしなかっただろう。
「まぁ、貴方が噂の殿方ね。でも少し殿下に近づきすぎではなくて?」
「そうでしょうか? これくらい普通では? 先程の貴女方の方がどうかと思いますよ?」
「まぁ、嫌だわ。何の事かしら?」
お互いにこにことしながら言い合うが、向こうは引く気が無いらしく、このままでは面倒くさいだけだとテオドールを促しその場を離れ、薔薇のアーチが続く場所へと足を向けた。
「フェリが来てくれて助かった。こっそり入ってこいと言われたからそうしたって言うのにいきなり囲まれるし、中々離してもらえないしで困り果ててたんだ」
「あぁ言う時は上手く躱せなければこれから先もっと困る事になりますよ? 特に今は僕と恋人でしょう? あの状態で誰かに見られればよからぬ噂を立てられます」
「ごめん、フェリにはいつも格好悪いとこばかり見られている気がする」
「ではこの期間中に頑張って成長してください」
「あぁ。勿論協力してくれるんだろう?」
「えぇ勿論」
しばし二人の時間を楽しんでいたが、刺す様な視線が中々消えなかった。気づかれない様に様子を窺えば、先程テオドールを囲んでいた御令嬢方の数人が少し離れた所からギリギリと嫉妬の視線をフェリチアーノに向けてきていた。
その視線に煩わしさを覚えながらもふと、彼女らを牽制しておかなければいけないのではないかと思い至る。
テオドールは婚約者が公には決まっていない。現在フェリチアーノが恋人として注目を集めているが、何せ評判が頗る悪い家の子息に過ぎない。
王子に嫁がせたい貴族は多いだろうし、傍目から見ても偉丈夫であるテオドールは御令嬢達から沢山の好意を寄せられる事だろう。
となれば、フェリチアーノをどうにかしようとしてくるに違いないわけだが、さてどうした物かと考える。
二人で寄り添い、あからさまにテオドールがフェリチアーノを恋人の様に扱っていてもこの視線だ。
まだこれだけでは足りないと言う事だろう。そう、もっとお互いが離れがたい存在なのだと印象付ける必要がある。
「フェリ? 急に黙り込んでどうした?」
顔を覗き込んできたテオドールにゆっくりと視線を合わせたフェリチアーノは、僅かに眉を下げる。
「フェリ?」
また具合でも悪くなってしまったのかと焦り出したテオドールに、フェリチアーノは僅かに背を伸ばし、次の瞬間にはテオドールの唇を奪っていた。
御婦人方の視線を背中に受けながら、聞いた場所まで近づけばキャッキャと可愛らしい令嬢達のはしゃぐ声が聞こえる。
この先に一体何があるのかとそのまま足を進め、角を曲がった瞬間飛び込んできた光景に足が止まった。
そこには居る筈がないテオドールが居て、御令嬢方に取り囲まれていたのだ。それだけではない。テオドールの腕に絡まったり、はしたなくも胸を押し付け甘ったるい声でテオドールにしな垂れかかったりしていた。
当のテオドールは強く拒否が出来ないらしく、困った表情を見せながらも追い払えない令嬢達を渋々相手にしている。
その光景を見て何故かフェリチアーノの心がザワつき苛ついてしまう。アレぐらいサラリと躱すのが貴族であり王族ではないのか。
何故いつまでもアレを許しているのか、そもそもロイズの姿が見当たらないのは何故だ。彼が居ればこんな光景など見なくても済んだと言うのに。
モヤモヤと渦巻く不快な気分がフェリチアーノを満たしていく。
仮にも恋人はフェリチアーノの筈だ。確かにごっこ遊びだが、世間には本物の恋人として浸透していると言うのに。
あのままではその真偽が疑われてしまうではないかとフェリチアーノは軽く舌打ちし、服の上から刺青の場所を一撫ですると、颯爽とテオドールの元へと足を進ませた。
「テオ! まさかここに来るなんて思いませんでした」
殊更明るい声を出し、顔には極上の笑みを浮かべたフェリチアーノの姿を見とめたテオドールは、心底ほっとしたような顔をすると、するっと令嬢達の中から抜け出し小走りにフェリチアーノに近づいた。
「フェリ! 会えてよかった、公爵夫人にサプライズで呼ばれていたんだけど到着が遅れてしまったから、もしかしたら会えないかと思った」
抱き着いたフェリチアーノに小声で助かったと言いながら、この場に何故いるのかを教えてくれる。
チラリと令嬢達を窺えば淑女にあるまじき顔をし、突如現れたフェリチアーノを睨んでいた。
全く面倒な事だと思いながらフェリチアーノはテオドールから少し離れ体勢を変えると、令嬢達に挨拶をする。勿論テオドールに腕を絡ませ、体を密着させたままだ。
本来であればそんな状態での挨拶など以ての外ではあるが、フェリチアーノ自体先程から令嬢達に対して苛ついて仕方がなかったし、テオドールは再び彼女等に捕まりたくは無いのだと言わんばかりの雰囲気で、フェリチアーノが例え離れようとしても逃がしはしなかっただろう。
「まぁ、貴方が噂の殿方ね。でも少し殿下に近づきすぎではなくて?」
「そうでしょうか? これくらい普通では? 先程の貴女方の方がどうかと思いますよ?」
「まぁ、嫌だわ。何の事かしら?」
お互いにこにことしながら言い合うが、向こうは引く気が無いらしく、このままでは面倒くさいだけだとテオドールを促しその場を離れ、薔薇のアーチが続く場所へと足を向けた。
「フェリが来てくれて助かった。こっそり入ってこいと言われたからそうしたって言うのにいきなり囲まれるし、中々離してもらえないしで困り果ててたんだ」
「あぁ言う時は上手く躱せなければこれから先もっと困る事になりますよ? 特に今は僕と恋人でしょう? あの状態で誰かに見られればよからぬ噂を立てられます」
「ごめん、フェリにはいつも格好悪いとこばかり見られている気がする」
「ではこの期間中に頑張って成長してください」
「あぁ。勿論協力してくれるんだろう?」
「えぇ勿論」
しばし二人の時間を楽しんでいたが、刺す様な視線が中々消えなかった。気づかれない様に様子を窺えば、先程テオドールを囲んでいた御令嬢方の数人が少し離れた所からギリギリと嫉妬の視線をフェリチアーノに向けてきていた。
その視線に煩わしさを覚えながらもふと、彼女らを牽制しておかなければいけないのではないかと思い至る。
テオドールは婚約者が公には決まっていない。現在フェリチアーノが恋人として注目を集めているが、何せ評判が頗る悪い家の子息に過ぎない。
王子に嫁がせたい貴族は多いだろうし、傍目から見ても偉丈夫であるテオドールは御令嬢達から沢山の好意を寄せられる事だろう。
となれば、フェリチアーノをどうにかしようとしてくるに違いないわけだが、さてどうした物かと考える。
二人で寄り添い、あからさまにテオドールがフェリチアーノを恋人の様に扱っていてもこの視線だ。
まだこれだけでは足りないと言う事だろう。そう、もっとお互いが離れがたい存在なのだと印象付ける必要がある。
「フェリ? 急に黙り込んでどうした?」
顔を覗き込んできたテオドールにゆっくりと視線を合わせたフェリチアーノは、僅かに眉を下げる。
「フェリ?」
また具合でも悪くなってしまったのかと焦り出したテオドールに、フェリチアーノは僅かに背を伸ばし、次の瞬間にはテオドールの唇を奪っていた。
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