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25 帰宅2

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 翌朝、気が重いながらも自室を出て食堂に顔を出せば、いつもは遅くまで寝ている彼等が待ってましたと言わんばかりに待ち構えていた。
 久しぶりに彼等を見れば、その姿に一瞬眉を顰めそうになるがそれを何とか堪えた。夜会でもあるまいに、朝からこれでもかと宝石を身に着け、露出の多い服を着るカサンドラとアガットには眩暈がしそうになる。

 ガチャガチャと鳴る食器の音、煩く響く声、何もかもが昨日までの王宮での生活とは違っていた。
 今までと変わらない筈なのに、あれもこれもと嫌な部分が目についてしまう。
 比較対象が今まで居なかったせいもあるし、それを見て見ぬふりするように心を殺すようにと努めていたからだろうが、今この空間で例え短時間でも彼等と共に過ごす事すら今のフェリチアーノには苦痛に感じてしまっていた。

「お前が殿下と恋仲になるとは大したものだ。私達も鼻が高い」
「えぇそうですとも、そのお陰で高貴な方々から連日茶会への招待が後を絶たないのよ?」

 嬉しそうに誰それからの招待を受けただの、どの茶会に行くか迷うだのと話す彼等に、フェリチアーノは同情を通り越し呆れてしまう。
 “高貴な方々”が突然彼等を呼ぶようになる事に、何故少しも疑問を抱かないのか。まるで自分達が王家に連なる者にでもなったような発言が見え隠れする会話に耳を傾け、当たり障りのない返事をしていく。
 今まで彼等を遠ざけていた人々が、態々茶会に呼ぶなど彼等を“ある種の見世物”として楽しんでいるのだと何故わからないのだろうか。

 舞い上がりおかしな言動をする彼等は、彼等が言う高貴な方々からすれば良い道化だ。
 知らないと言う事はある意味幸せなのだろうなと思いながらも、今朝も当然のように出されている紅茶を口に含み、不快感と共に流し込んだ。



 根掘り葉掘りと出会いから、王宮での生活を聞かれ、内心うんざりしながらも簡潔に答えていく。
 テオドールとは事前に擦り合わせをしており、ごっこ遊びだと言うこと以外はそのままの出会いを騙る事にしていた。
 普段は人の話など聞く耳を持たない彼等が、今日に限ってはフェリチアーノの話を一語一句逃すまいと真剣に聞いている。
 大方これから向かうであろう茶会で散々言いふらすのだろう。

 憂鬱な時間が終わったフェリチアーノは一人、執務室へと向かう。
 机の上は変わらずに整頓されていたが、書類を置くケースに積まれた書類を見てフェリチアーノは深く溜息をついた。

「セザール、これはなんだい」

 ケースの中の書類を見ていけば、隠される様に請求書が姿を現したのだ。金額は言わずもがなだが、しかしそれは普段よりも回数も多く、又店の数も多かった。

「シルヴァンが王族の恋人が我が家から出たとなれば、その親族もそれなりの格好を整えなければならないのではと……旦那様達はそれを当然だとばかりに仰いましてな」
「僕が居ないからと好き勝手やってくれる」

 ばさりとほおった請求書の束には、普段であれば彼等に扉を開きたがらないような店からの請求書も含まれており、王族の恋人の親族と言う肩書が存分に使われている事実に頭が痛くなる。
 新聞記事が出てからというものこの王都ではフェリチアーノは時の人であり、デュシャン家は良くも悪くも注目の的だった。
 貴族連中も商人達も、はたまた階下の人間達すらも、フェリチアーノ達の動向に注目している。
 貴族達は道化の喜劇を楽しみ、商人達はいかに金を引き出そうかと思案し、階下の者達はそれらを面白おかしく話し合う。

 帰宅して早々の煩わしさに、フェリチアーノは書類を捌く気が起きずに、楽しかったひと時を何度も思い出しながらぼんやりと窓の外を眺め続けた。
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