24 / 95
24 帰宅
しおりを挟む
乗った事も無い程の豪華な馬車がゆっくりと街道を進んでいく。上質な椅子に腰かけ外を眺めるフェリチアーノは一人、屋敷への帰路へと就いていた。
誓約魔法を施された後、そのまま帰ろうとしたフェリチアーノをテオドールが強く引き止め、結局当初予定していた日よりも一週間ばかりが経っていた。
滞在期間中、テオドールに王宮内をあちこち連れまわされかと思えば、仕立て屋を呼ばれ採寸をされたり、宝飾品を贈られそうにもなった。
嬉々としてそれらをやるテオドールに呆れはしたものの、何故だか少しも悪い気はしなかった。寧ろ今まででの一夜の愛人などの時より楽しんでいる自分がいたほどだ。
手ずから菓子をフェリチアーノの口元へと差し出して来たり、すぐに腰を抱き寄せ密着してきてきたりと、スキンシップもかなりの物で、それに対して戸惑いはするもののやはり嫌な気分にはならない。
キラキラと輝く目で嬉しそうにフェリチアーノに構うテオドールは、心の底からこの恋人ごっこを楽しんでいる事が分かったからだろう。
まるで見えない尻尾をはち切れんばかりに振っている大型犬の様な有様を思い出し、フェリチアーノはクスリと口元を緩めた。
誓約魔法が施された手首は、テオドールが作らせた新たな服の袖でキッチリと隠され他人がそれを見る事は無い。
罪人以外が刻まれる事がない刺青を見たテオドールが、フェリチアーノに見せた気遣いの一つであった。
楽しそうに横で笑う仮の恋人、静かにゆっくりと流れる時間、上質な物で揃えられた空間と食事。
それらはまるで夢の中に居る様なひと時で、フェリチアーノの心をゆっくりと癒していた。しかしその夢の中にずっと浸る事は許されない。
いつまでも王宮に居るわけにはいかないのだ。長く家を空ければそれだけ家族が煩くなるだけだ。
その証拠に、日に日にフェリチアーノに届く家族からの手紙はその量と回数を増していった。いつ戻るのか、早く戻り詳細を話せと。そして早く自分達をテオドール、ひいては他の王族達に紹介しろと、そういう内容ばかりだ。
セザールには苦労をかけるが、領主としての仕事もある為に王宮と屋敷を往復して貰っていた。その際に渡される手紙がどれ程煩わしかった事か。
どうあっても現実を忘れさせてはくれない手紙は軽く目だけ通してはすぐに燃やしていたが、それでも心の中にその燃えカスが灰となって沈殿していくのだった。
「お帰りなさいませ坊ちゃま」
にこやかに出迎えたセザールに、疲れた様に微笑みながらフェリチアーノはすぐさま自身の部屋へと入っていく。
家族が今まであまり呼ばれなかった茶会へ嬉々として出かけている隙に態々帰って来たのだが、それでも気が重たい事には変わりがない。
暫くすればシルヴァンがいつもと変わらない様子で、ティーワゴンを運んでくる。ロイズに鑑定を頼んだが、結果この紅茶には毒が仕込まれていない事が分かった。
だからと言って、溢れ出した不信感が消えて無くなる事は無い。
それにやはり、この紅茶を飲まなかった間体はいつもより調子が良かったのだから何かがあると疑ってしまうのは仕方が無いだろう。
「セザールさんから聞いてはいましたが、殿下とは大変仲睦まじくお過ごしだったとか。旦那様方も早くフェリチアーノ様からお話を聞きたいと、それはもうご帰宅されるのを楽しみにしていましたよ」
「そうか、父上達の戻りはいつになるかな」
「晩餐までには帰られるかと、早めに戻る様にと連絡なさいますか?」
「いやいい、流石に慣れない王宮生活で疲れてしまったからね。少し休みたいんだ」
会話をしつつも手に持ったカップになかなか口が着けれなかった。しかしこれを飲まなければ不審がられてしまう事だろう。そう思いゆっくりと慣れ親しんだはずの紅茶を飲み込んで行った。
その後フェリチアーノは晩餐すら取らずに自室に引きこもった。
慣れ親しんだ自身の部屋で、ゆっくりと体を休めようと努めるが、家族と同じ屋根の下に居ると言う事実が今のフェリチアーノには些か耐え難った。
それ程までに王宮でのひと時は、テオドールと過ごす時間は素晴らしかったのだ。
誓約魔法を施された後、そのまま帰ろうとしたフェリチアーノをテオドールが強く引き止め、結局当初予定していた日よりも一週間ばかりが経っていた。
滞在期間中、テオドールに王宮内をあちこち連れまわされかと思えば、仕立て屋を呼ばれ採寸をされたり、宝飾品を贈られそうにもなった。
嬉々としてそれらをやるテオドールに呆れはしたものの、何故だか少しも悪い気はしなかった。寧ろ今まででの一夜の愛人などの時より楽しんでいる自分がいたほどだ。
手ずから菓子をフェリチアーノの口元へと差し出して来たり、すぐに腰を抱き寄せ密着してきてきたりと、スキンシップもかなりの物で、それに対して戸惑いはするもののやはり嫌な気分にはならない。
キラキラと輝く目で嬉しそうにフェリチアーノに構うテオドールは、心の底からこの恋人ごっこを楽しんでいる事が分かったからだろう。
まるで見えない尻尾をはち切れんばかりに振っている大型犬の様な有様を思い出し、フェリチアーノはクスリと口元を緩めた。
誓約魔法が施された手首は、テオドールが作らせた新たな服の袖でキッチリと隠され他人がそれを見る事は無い。
罪人以外が刻まれる事がない刺青を見たテオドールが、フェリチアーノに見せた気遣いの一つであった。
楽しそうに横で笑う仮の恋人、静かにゆっくりと流れる時間、上質な物で揃えられた空間と食事。
それらはまるで夢の中に居る様なひと時で、フェリチアーノの心をゆっくりと癒していた。しかしその夢の中にずっと浸る事は許されない。
いつまでも王宮に居るわけにはいかないのだ。長く家を空ければそれだけ家族が煩くなるだけだ。
その証拠に、日に日にフェリチアーノに届く家族からの手紙はその量と回数を増していった。いつ戻るのか、早く戻り詳細を話せと。そして早く自分達をテオドール、ひいては他の王族達に紹介しろと、そういう内容ばかりだ。
セザールには苦労をかけるが、領主としての仕事もある為に王宮と屋敷を往復して貰っていた。その際に渡される手紙がどれ程煩わしかった事か。
どうあっても現実を忘れさせてはくれない手紙は軽く目だけ通してはすぐに燃やしていたが、それでも心の中にその燃えカスが灰となって沈殿していくのだった。
「お帰りなさいませ坊ちゃま」
にこやかに出迎えたセザールに、疲れた様に微笑みながらフェリチアーノはすぐさま自身の部屋へと入っていく。
家族が今まであまり呼ばれなかった茶会へ嬉々として出かけている隙に態々帰って来たのだが、それでも気が重たい事には変わりがない。
暫くすればシルヴァンがいつもと変わらない様子で、ティーワゴンを運んでくる。ロイズに鑑定を頼んだが、結果この紅茶には毒が仕込まれていない事が分かった。
だからと言って、溢れ出した不信感が消えて無くなる事は無い。
それにやはり、この紅茶を飲まなかった間体はいつもより調子が良かったのだから何かがあると疑ってしまうのは仕方が無いだろう。
「セザールさんから聞いてはいましたが、殿下とは大変仲睦まじくお過ごしだったとか。旦那様方も早くフェリチアーノ様からお話を聞きたいと、それはもうご帰宅されるのを楽しみにしていましたよ」
「そうか、父上達の戻りはいつになるかな」
「晩餐までには帰られるかと、早めに戻る様にと連絡なさいますか?」
「いやいい、流石に慣れない王宮生活で疲れてしまったからね。少し休みたいんだ」
会話をしつつも手に持ったカップになかなか口が着けれなかった。しかしこれを飲まなければ不審がられてしまう事だろう。そう思いゆっくりと慣れ親しんだはずの紅茶を飲み込んで行った。
その後フェリチアーノは晩餐すら取らずに自室に引きこもった。
慣れ親しんだ自身の部屋で、ゆっくりと体を休めようと努めるが、家族と同じ屋根の下に居ると言う事実が今のフェリチアーノには些か耐え難った。
それ程までに王宮でのひと時は、テオドールと過ごす時間は素晴らしかったのだ。
27
お気に入りに追加
986
あなたにおすすめの小説
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる
葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。
王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。
国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。
異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。
召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。
皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。
威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。
なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。
召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前
全38話
こちらは個人サイトにも掲載されています。
胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?
一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう)
湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」
なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。
そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」
え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか?
戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。
DKの青春BL✨️
2万弱の短編です。よろしくお願いします。
ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜
葉月
BL
《あらすじ》
カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。
カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。
愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。
《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》
番になったレオとサイモン。
エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。
数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。
ずっとくっついていたい2人は……。
エチで甘々な数日間。
ー登場人物紹介ー
ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー
長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。
カトラレル家の次期城主。
性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。
外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。
体質:健康体
ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー
オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。
レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。
性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。
外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。
乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。
BL大賞参加作品です。
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士
倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。
フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。
しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。
そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。
ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。
夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。
一人称。
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる