【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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23 誓約魔法3

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 それから二日後、漸く誓約魔法に盛り込む内容が出来上がったと報告を受けたフェリチアーノとテオドールは、国王の執務室へと足を運んでいた。

 中にはフェリチアーノが尋問を受けた際に同席していた者達に加えて、新たに一人司法のトップである首席判事、ザカリーが神経質そうに眉間に深く皺を刻みながら控えていた。
 誓約魔法の行使は首席判事の裁決と王の認証があって初めて行われる物であり、通常は罪人以外にそれを使う事は無い。
 だが今回は王家からの願いにより、特例としてフェリチアーノに誓約魔法を行使する事になった。ザカリーは最初馬鹿げた事だと断ろうとしたが、王命によりそれは許されなかった。
 罪人でもない、ただ家に問題があると言うだけの青年に課すにはとても重たい物であり、厳格さを掲げて来たザカリーにとっては、罪人ではない者に行使する事は自身のポリシーにも十分に反していたからだ。
 デュシャン家の事を知らないわけではない。下らない噂話は嫌でも耳に入っていた。だから王家が警戒するのも頷ける訳だが。

 ソファに座ったフェリチアーノとテオドールを確認したサライアスは、誓約書を側近から受け取ると、それを読む様に促す。
 内容はフェリチアーノが予想をしていた通り……では無かった。訝し気に誓約書を見るフェリチアーノとは対照的に、テオドールはフェリチアーノの手元を覗き込み、以外にも事項が少なく、且つ厳しい物ではなかった事に満足そうに頷いた。

 そんなテオドールを呆れた様子で見ていたサライアスは小さな溜息をつくと、テオドールに別室で待機するようにと命じて部屋から追い出してしまう。

「全くテオドールめ、少しは疑う事を覚えて欲しいものだ」

 先程とは違った誓約書がフェリチアーノの前に出された。それに目を通せば、先程感じた違和感の正体に納得がいった。

「こちらが本物ですね、陛下」
「その通りだ。君には悪いが、生きた教材としてテオドールの成長を促してもらいたい。君なら既にわかっているとは思うが、アレは些か王族としての心構えがなっていないのだ。甘やかして来たこちらも悪いが、口で言うよりも実戦で学ばせた方が早いだろうと言う結論に我々は達した」

 誓約書の中身を簡潔に言うならこうだ。
 誓約期間中、フェリチアーノは生きた教材として”恋人役”を全うする事。采配の全てをテオドールに一任し、起こり得る事象、それに伴うフェリチアーノの不利益を王家は関知はしても一切の余程の事が無い限り手出しはしない。そしてその期間中、フェリチアーノの行動や言動も制限はしない。

 いっそ清々しいまでの事項に、フェリチアーノ自体は回りくどく書かれていない、裏を複雑に読まなければならないような事柄では無かった為に逆に安心していた。
 テオドールに全てを託されると言う事は、余程の事がない限り口を出されないと言う事だ。それはそれでやりやすさは十二分にあるだろう。
 だが逆にそれは、フェリチアーノが何かしらの危機に陥った時、それにテオドールが気が付かなければどうなるかわからないし、最悪命の保証は無いと言う事だ。
 フェリチアーノ自身の行動が制限されない事もまた、テオドールの成長を促す為の物である。

 普通であれば生きた教材として、生贄の様に使われる事を良しとする人間など居ないだろう。
 しかしフェリチアーノ自体それはそれで構わなかった。終わりが見えている命が誰かの役に、しかも王家の人間の役に立つのだから。

 一方サライアスは、これほど明確に使い潰すと宣言されているにも拘らず、誓約書を見ながら笑みすら浮かべるフェリチアーノに対しても呆れを含んだ視線を向けていた。
 余命幾ばくも無いと言うのに、こんな物を出されて動揺すらしないその様は、最早異常だと言ってもいい物だ。
 どうしてそこまで身を投げうてるのか、それは家庭環境のせいなのか、はたまた死を目前にし諦めの境地に至ったせいなのか。サライアスには到底理解が及ばなかった。



 誓約魔法に使われる魔道具を、ザカリ―が起動させそこに本物の誓約書を翳す。青白い炎に包まれ燃えた誓約書は魔法文字に変わり、フェリチアーノの伸ばした手首にまとわりつき、白い腕にはっきりと刺青の様な模様が刻まれた。
 刻まれる痛みに顔を少しばかり歪めたフェリチアーノだが、その痛みもすぐに消え去った。

 フェリチアーノは自身の手首に刻まれた模様を一撫でする。
 通常ある筈の罰則の項目は誓約書に記載されてはいなかった。ただ一言、王家にとって不要になった場合排除されるとあっただけだ。
 どうせ死ぬのだからと、王家は敢えてフェリチアーノに細かく罰則を付けなかった。フェリチアーノを自由に泳がせ、テオドールの成長を促す為でもある。
 ただいついかなる時も保険は必要だ。その為にいつでも切れる様にとフェリチアーノの命は王家に握られた事になる。

 しかしその事についても、特に感情は乱されずフェリチアーノの心はただただ凪いでいた。

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