【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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 ロイズはその夜調べられていた紅茶の缶と共に、サライアスの元を訪れた。
私室の一つである部屋で、王太子フェルナンドと共にゆったりとソファに座りながら、酒の入ったグラスを傾け寛いだ様子だった。

「さて、どうだったか聞こうかロイズ」

 フェルナンドに促されロイズは持って来た紅茶の缶をテーブルに置く。二人はそれを手には取らず、興味深そうに見るだけに留めていた。

「デュシャン家の家令が持ち込んだものですが、持たせたのは執事だとか。フェリチアーノ様は家令ではなく、執事が黒であると仰っていました。それと、こちらは調べさせましたが特に毒になるような物は入っていなかったとの事です。しかしフェリチアーノ様はこれを毎日頻繁に飲んでおられるとの事ですし、彼もコレに毒が入っていると思っていたようです」
「毒が入ってなかったとはいえ、テオドールが飲まなくて正解だったな」
「そこはこれを疑っていたフェリチアーノ様が機転を利かせて、缶を落として中身を零しましたので」
「彼は本当に頭が回るね、それに比べてテオドールは……」

 フェルナンドの言葉にサライアスもロイズも思わず苦笑してしまう。末っ子だからと甘やかして来た節がある為に、些か夢見がちな所と王族としての心構えが足りない部分があるのだ。
 そこがまた可愛らしい部分でもあるのだが、他国の姫君との政略結婚が決まってしまっている今、これまでの様にのびのびと過ごさせる訳にはいかないのだ。

 本来であれば、家に問題があるフェリチアーノの家令が物を持ち込んだ時点でその場で飲もうとはせず、一旦調べさせるなりの対処をしなければならない。
 だがテオドールは感情のままに動き、確認を怠ってしまった。もしアレに毒物が仕込まれていたら、もしフェリチアーノが気が付いていなかったら、今頃どうなっていた事か。

 王族は常に危険に晒される。その為に行動一つとっても常に気を付けねばならないのだが、テオドールはその部分が抜け落ちる事が多々あるのだ。それは心優しさからくる物でもありそこは彼の美徳ではあるが、やはりそのままではこの先やってはいけない。
 成人してから数年は立っているいい大人だ。そしてこの先、他国からの姫君の夫となり、姫君を守る立場になると言うのに、今の心の持ちようでは簡単に足元をすくわれてしまうのだ。
 城の中に居れば目の届く範囲に居るとするならば家族が守れはするが、それだって結婚してしまえばテオドール自身が対処しなければならない事は増えていく。子が出来ればそれは益々増えるばかりだ。
 小さな違和感にいかに早く気が付き、対処できるかに己の命も、家族の命もかかって来る。しかし今のテオドールにはそれに気がつけるだけの経験が何もない。

 そう考えていた所に現れたのがフェリチアーノと言う、特殊な家庭環境の令息だった。彼の家族は悪趣味な成金として社交界ではある意味有名である。
 そんな問題がある家の令息と恋人ごっこを始めたのは、正に王家にとっては飛んで火に居る夏の虫だった。
 きっと彼等はフェリチアーノを通し、テオドールや他の王族にも近づく事だろう。その対処を実践形式で学べるのだから、まさに生きた教材と言う訳だった。
 そして意外にもフェリチアーノが頭の回る人物だった事も、王家としては快く受け入れられた要因だ。
 フェリチアーノは自身の家族をよくわかっており、そして自身の身の置き方を熟知している。
 下手に王家に取り入ろうともしない。自身の死に関しても、縋ろうともしない辺りに気の毒さを感じてしまうが、それも含めて自身と王家の立ち位置を理解している事は有難かった。

 この生きた非常に使いどころのある教材を使えば、テオドールは短期間で色々な面で成長する事が出来るだろう。
 サライアスは何も同情や、我が子可愛さにこのごっこ遊びを許したわけではない。それを王妃であるシルフィアも、フェルナンドも理解していた。
 テオドールが守れる範囲に居る間に、たとえ強引にでも成長させねばならないのだ。これでもだいぶ遅くはあるが致し方のない事だ。
 そして本来であればデュシャン家の者を捉えても良いのだが、それを敢えてしていないのも全てはテオドールの成長を促すためだった。

「テオドールには彼が死にそうな事も内密なのですよね、父上」
「そうだ、それは彼からの提案でもある。本当に頭が回る良い子だよ」
「はぁ、それも含めて、早くあの子が気が付いてくれればいいですけどね」
「それに気が付かなければ、姫君は守れんだろう。ロイズよ、引き続き注意して見ておいてくれ」

 深く頭を下げてから部屋を辞したロイズは、サライアス達の言葉を反芻しながら自室へと戻る。
 フェリチアーノを使うと言う点では、自身でも考えた事でもあるので同意は出来た。しかしやはりそこは王族である彼等の考えの方が何倍にも冷酷だった。
 恋人として、伴侶にする様な気づかいを身に着けられれば、一時の夢を与えられればとしか考えていなかったロイズにとって、先程までのあの会話は肝が冷えた。
 言われてみれば、確かに納得できる部分もある。だがしかし、やはり上に立つ者達の様にフェリチアーノを生きた教材としては割り切れそうには無かった。
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