21 / 95
21 報告
しおりを挟む
ロイズはその夜調べられていた紅茶の缶と共に、サライアスの元を訪れた。
私室の一つである部屋で、王太子フェルナンドと共にゆったりとソファに座りながら、酒の入ったグラスを傾け寛いだ様子だった。
「さて、どうだったか聞こうかロイズ」
フェルナンドに促されロイズは持って来た紅茶の缶をテーブルに置く。二人はそれを手には取らず、興味深そうに見るだけに留めていた。
「デュシャン家の家令が持ち込んだものですが、持たせたのは執事だとか。フェリチアーノ様は家令ではなく、執事が黒であると仰っていました。それと、こちらは調べさせましたが特に毒になるような物は入っていなかったとの事です。しかしフェリチアーノ様はこれを毎日頻繁に飲んでおられるとの事ですし、彼もコレに毒が入っていると思っていたようです」
「毒が入ってなかったとはいえ、テオドールが飲まなくて正解だったな」
「そこはこれを疑っていたフェリチアーノ様が機転を利かせて、缶を落として中身を零しましたので」
「彼は本当に頭が回るね、それに比べてテオドールは……」
フェルナンドの言葉にサライアスもロイズも思わず苦笑してしまう。末っ子だからと甘やかして来た節がある為に、些か夢見がちな所と王族としての心構えが足りない部分があるのだ。
そこがまた可愛らしい部分でもあるのだが、他国の姫君との政略結婚が決まってしまっている今、これまでの様にのびのびと過ごさせる訳にはいかないのだ。
本来であれば、家に問題があるフェリチアーノの家令が物を持ち込んだ時点でその場で飲もうとはせず、一旦調べさせるなりの対処をしなければならない。
だがテオドールは感情のままに動き、確認を怠ってしまった。もしアレに毒物が仕込まれていたら、もしフェリチアーノが気が付いていなかったら、今頃どうなっていた事か。
王族は常に危険に晒される。その為に行動一つとっても常に気を付けねばならないのだが、テオドールはその部分が抜け落ちる事が多々あるのだ。それは心優しさからくる物でもありそこは彼の美徳ではあるが、やはりそのままではこの先やってはいけない。
成人してから数年は立っているいい大人だ。そしてこの先、他国からの姫君の夫となり、姫君を守る立場になると言うのに、今の心の持ちようでは簡単に足元をすくわれてしまうのだ。
城の中に居れば目の届く範囲に居るとするならば家族が守れはするが、それだって結婚してしまえばテオドール自身が対処しなければならない事は増えていく。子が出来ればそれは益々増えるばかりだ。
小さな違和感にいかに早く気が付き、対処できるかに己の命も、家族の命もかかって来る。しかし今のテオドールにはそれに気がつけるだけの経験が何もない。
そう考えていた所に現れたのがフェリチアーノと言う、特殊な家庭環境の令息だった。彼の家族は悪趣味な成金として社交界ではある意味有名である。
そんな問題がある家の令息と恋人ごっこを始めたのは、正に王家にとっては飛んで火に居る夏の虫だった。
きっと彼等はフェリチアーノを通し、テオドールや他の王族にも近づく事だろう。その対処を実践形式で学べるのだから、まさに生きた教材と言う訳だった。
そして意外にもフェリチアーノが頭の回る人物だった事も、王家としては快く受け入れられた要因だ。
フェリチアーノは自身の家族をよくわかっており、そして自身の身の置き方を熟知している。
下手に王家に取り入ろうともしない。自身の死に関しても、縋ろうともしない辺りに気の毒さを感じてしまうが、それも含めて自身と王家の立ち位置を理解している事は有難かった。
この生きた非常に使いどころのある教材を使えば、テオドールは短期間で色々な面で成長する事が出来るだろう。
サライアスは何も同情や、我が子可愛さにこのごっこ遊びを許したわけではない。それを王妃であるシルフィアも、フェルナンドも理解していた。
テオドールが守れる範囲に居る間に、たとえ強引にでも成長させねばならないのだ。これでもだいぶ遅くはあるが致し方のない事だ。
そして本来であればデュシャン家の者を捉えても良いのだが、それを敢えてしていないのも全てはテオドールの成長を促すためだった。
「テオドールには彼が死にそうな事も内密なのですよね、父上」
「そうだ、それは彼からの提案でもある。本当に頭が回る良い子だよ」
「はぁ、それも含めて、早くあの子が気が付いてくれればいいですけどね」
「それに気が付かなければ、姫君は守れんだろう。ロイズよ、引き続き注意して見ておいてくれ」
深く頭を下げてから部屋を辞したロイズは、サライアス達の言葉を反芻しながら自室へと戻る。
フェリチアーノを使うと言う点では、自身でも考えた事でもあるので同意は出来た。しかしやはりそこは王族である彼等の考えの方が何倍にも冷酷だった。
恋人として、伴侶にする様な気づかいを身に着けられれば、一時の夢を与えられればとしか考えていなかったロイズにとって、先程までのあの会話は肝が冷えた。
言われてみれば、確かに納得できる部分もある。だがしかし、やはり上に立つ者達の様にフェリチアーノを生きた教材としては割り切れそうには無かった。
私室の一つである部屋で、王太子フェルナンドと共にゆったりとソファに座りながら、酒の入ったグラスを傾け寛いだ様子だった。
「さて、どうだったか聞こうかロイズ」
フェルナンドに促されロイズは持って来た紅茶の缶をテーブルに置く。二人はそれを手には取らず、興味深そうに見るだけに留めていた。
「デュシャン家の家令が持ち込んだものですが、持たせたのは執事だとか。フェリチアーノ様は家令ではなく、執事が黒であると仰っていました。それと、こちらは調べさせましたが特に毒になるような物は入っていなかったとの事です。しかしフェリチアーノ様はこれを毎日頻繁に飲んでおられるとの事ですし、彼もコレに毒が入っていると思っていたようです」
「毒が入ってなかったとはいえ、テオドールが飲まなくて正解だったな」
「そこはこれを疑っていたフェリチアーノ様が機転を利かせて、缶を落として中身を零しましたので」
「彼は本当に頭が回るね、それに比べてテオドールは……」
フェルナンドの言葉にサライアスもロイズも思わず苦笑してしまう。末っ子だからと甘やかして来た節がある為に、些か夢見がちな所と王族としての心構えが足りない部分があるのだ。
そこがまた可愛らしい部分でもあるのだが、他国の姫君との政略結婚が決まってしまっている今、これまでの様にのびのびと過ごさせる訳にはいかないのだ。
本来であれば、家に問題があるフェリチアーノの家令が物を持ち込んだ時点でその場で飲もうとはせず、一旦調べさせるなりの対処をしなければならない。
だがテオドールは感情のままに動き、確認を怠ってしまった。もしアレに毒物が仕込まれていたら、もしフェリチアーノが気が付いていなかったら、今頃どうなっていた事か。
王族は常に危険に晒される。その為に行動一つとっても常に気を付けねばならないのだが、テオドールはその部分が抜け落ちる事が多々あるのだ。それは心優しさからくる物でもありそこは彼の美徳ではあるが、やはりそのままではこの先やってはいけない。
成人してから数年は立っているいい大人だ。そしてこの先、他国からの姫君の夫となり、姫君を守る立場になると言うのに、今の心の持ちようでは簡単に足元をすくわれてしまうのだ。
城の中に居れば目の届く範囲に居るとするならば家族が守れはするが、それだって結婚してしまえばテオドール自身が対処しなければならない事は増えていく。子が出来ればそれは益々増えるばかりだ。
小さな違和感にいかに早く気が付き、対処できるかに己の命も、家族の命もかかって来る。しかし今のテオドールにはそれに気がつけるだけの経験が何もない。
そう考えていた所に現れたのがフェリチアーノと言う、特殊な家庭環境の令息だった。彼の家族は悪趣味な成金として社交界ではある意味有名である。
そんな問題がある家の令息と恋人ごっこを始めたのは、正に王家にとっては飛んで火に居る夏の虫だった。
きっと彼等はフェリチアーノを通し、テオドールや他の王族にも近づく事だろう。その対処を実践形式で学べるのだから、まさに生きた教材と言う訳だった。
そして意外にもフェリチアーノが頭の回る人物だった事も、王家としては快く受け入れられた要因だ。
フェリチアーノは自身の家族をよくわかっており、そして自身の身の置き方を熟知している。
下手に王家に取り入ろうともしない。自身の死に関しても、縋ろうともしない辺りに気の毒さを感じてしまうが、それも含めて自身と王家の立ち位置を理解している事は有難かった。
この生きた非常に使いどころのある教材を使えば、テオドールは短期間で色々な面で成長する事が出来るだろう。
サライアスは何も同情や、我が子可愛さにこのごっこ遊びを許したわけではない。それを王妃であるシルフィアも、フェルナンドも理解していた。
テオドールが守れる範囲に居る間に、たとえ強引にでも成長させねばならないのだ。これでもだいぶ遅くはあるが致し方のない事だ。
そして本来であればデュシャン家の者を捉えても良いのだが、それを敢えてしていないのも全てはテオドールの成長を促すためだった。
「テオドールには彼が死にそうな事も内密なのですよね、父上」
「そうだ、それは彼からの提案でもある。本当に頭が回る良い子だよ」
「はぁ、それも含めて、早くあの子が気が付いてくれればいいですけどね」
「それに気が付かなければ、姫君は守れんだろう。ロイズよ、引き続き注意して見ておいてくれ」
深く頭を下げてから部屋を辞したロイズは、サライアス達の言葉を反芻しながら自室へと戻る。
フェリチアーノを使うと言う点では、自身でも考えた事でもあるので同意は出来た。しかしやはりそこは王族である彼等の考えの方が何倍にも冷酷だった。
恋人として、伴侶にする様な気づかいを身に着けられれば、一時の夢を与えられればとしか考えていなかったロイズにとって、先程までのあの会話は肝が冷えた。
言われてみれば、確かに納得できる部分もある。だがしかし、やはり上に立つ者達の様にフェリチアーノを生きた教材としては割り切れそうには無かった。
18
お気に入りに追加
975
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる
葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。
王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。
国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。
異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。
召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。
皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。
威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。
なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。
召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前
全38話
こちらは個人サイトにも掲載されています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる