【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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20 紅茶

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 毒入りの紅茶を飲ませる等出来よう筈も無い。しかしここで断るのもおかしな話だし、何故だと追及されて自身の死期を周りに知られるのは嫌だった。
 何より、もし仮にセザールが裏切って居なかった場合、ずっと慕ってきた彼に知られるのは嫌だと思ったのだ。

「では僕がテオの為に入れてあげましょうか」

 テオドールが好きそうな展開を予想し、そう発すれば案の定目を輝かせたテオドールがすぐに指示を出し、新しくティーセットを用意させた。

「殿下、坊ちゃまの入れられる紅茶はそれはそれは美味しいのです、きっと気に入りますよ」
「へぇ、フェリはそんな事まで出来るのか、恋人が淹れてくれたお茶を飲むのが夢だったから嬉しいよ」
「祖父と母に鍛えられていて良かったです、その度にセザールには練習台になってもらいましたしね」
「あの時は大変でしたなぁ」
「僕はこれにジャムを入れるのが好きなのですが、そのジャムが無いのが少し物足りないですね」
「それを失念しておりましたな」

 和やかに会話をしながら幼い頃を思い出す、幼い頃に早く美味しいお茶を祖父と母に飲んで貰いたくて、セザールと内緒で練習したのは懐かしい思い出だ。その度に何度もお茶を飲む羽目になったセザールは嫌がる事は無く、毎回練習に付き合ってくれていたのだ。
 そのお陰で上達も早く、家族が集まる茶の席ではフェリチアーノがお茶を入れるのが習慣になっていた。
 今では時折セザールと休憩時間に一緒に飲んで貰うくらいの物だ。そこでふと、その時のお茶も毎回この茶葉だったと思い出す。
 もしセザールが裏切り者であれば、この茶葉で淹れた茶など飲むだろうか? 頻繁ではないにしろ、毒だとわかりながら普段と変わらない様で飲むなど、普通の人が出来るだろうか?

 セザールが裏切り者ではないと言う証拠が欲しいが為に、フェリチアーノの頭は記憶をこれでもかと目まぐるしく掘り起こしていると、新しいティーセットを持ってメイドが戻って来た。

 フェリチアーノの腰に回していたテオドールの手からゆっくりと離れ、ワクワクとした表情で見上げて来るその顔に微笑みを返しながら、フェリチアーノは置かれたワゴンの元へと缶を持って行く。
 にこやかに会話しながら缶の蓋を開けようと力を込めるが、固く閉まった蓋はなかなか開かなかった。

「フェリ貸して、俺が開けるぞ?」
「いえもうちょっとで開きそうなので――」

 力一杯に蓋を開けた途端、勢い余って手が滑り缶を落としてしまい、中身が盛大に周りに散らばってしまう。
 缶は下にあったティーセットに直撃して、ガシャンと嫌な音を立てて綺麗なカップを割り、無残な姿に変えてしまった。

 唖然とする一同の中最初に我に返ったのはロイズで、駆け寄って来ると素早くフェリチアーノの無事を確かめていく。

「すいません、手が滑ってしまって」
「お気になさらず」
「それと……」

 フェリチアーノは予想外に派手にやってしまったが茶葉を散らばせた事に安堵しつつも、その茶葉を調べる様にこっそりとロイズに伝えた。僅かに反応を示したロイズはそれだけで察したらしく、片付け始めたメイドに茶葉を除けておくように指示を出した。

「彼が?」
「いえ、彼もアレを飲んでいますから多分違うかと……これを持たせた執事が黒だとは思いますが」

 チラリとセザールを見やったロイズに慌てて否定をする。サライアスに報告すると言われたフェリチアーノは軽く頷くと、心配そうにずっと見ているテオドールの隣に再び腰を下ろした。

「すみませんテオ、折角楽しみにしてくれていたのに」
「それはいいんだ、怪我は無いか?」

 フェリチアーノの手を取り、ひっくり返したりしながら怪我が無いかと確認していく。白く華奢な手のどこにも怪我はなく、テオドールはほっと胸を撫で下ろした。
 父や兄達であれば、あのような事があればすぐさま側に駆け寄り心配し周りに指示を出すのだが、当の自分はと言うと体が固まり咄嗟には動けず、ロイズが代わりに動いてくれた。
 その事にテオドールは情けなさを感じてしまう。頭ではどうすれば良かったか等わかっている事が、実際に目の前で起きた時には驚きが勝り動けないとは。

「ごめんなフェリ、俺は自分が情けないよ」

 突然項垂れ謝り出したテオドールに意味が解らずフェリチアーノは首を傾げる。その光景をテオドールの事をわかっているロイズは、苦笑しながら見守るのだった。
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