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13 誓約魔法

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 朝食は滞りなく終わり、フェリチアーノはテオドールと共に別室へ移動するように言われそれに従った。

 王宮の中を歩いている等信じられないと言う気持ちを抱きながら、子供の様にはしゃぐ気持ちを隠し、フェリチアーノは城の中にある重厚感溢れる一室へと通される。

 テオドールは隣の部屋で待機するように命じられ、目の前のテーブルに王の側近の男が何やら魔道具らしき物を置き、それを起動させた。
 この国の王であるサライアスとその側近と宰相、僅かな護衛だけを残したこの部屋で一体これから何が行われるのかと、フェリチアーノは背中に冷や汗を流した。

「これは裁判所でも使われる、嘘を暴く魔道具でな、君が一つでも嘘を吐けばコレが反応すると言う訳だ。その場合、君を即座に拘束する事になる。それを踏まえてこれからの質問に答えてくれ。フェリチアーノ・デュシャン、君はこのごっこ遊びに誓約魔法の行使を願い出たと聞いたが、その心に間違いは無いか?」

 眼光鋭く低い声でサライアスに問われたフェリチアーノは成る程、これはある意味尋問であるのだと理解した。
 四方八方から放たれる威圧に、蛇に睨まれた蛙の様な居心地の悪さを感じてしまうが、警戒するのも当然の事だろうと納得は出来るのだ。
 相手は王族、第四王子である。それに公表はされていないが政略結婚も控えている大事な身だ。そこに評判が悪い家の男が近寄ったとなればこの状況は致し方ない、寧ろまだ生ぬるいのではないかとさえ思えた。

「昨夜そのようにロイズ様に申し上げました。私の家の事を考えれば警戒されるのも頷けますから。殿下に邪な思いで近づいた訳では無いと信じて頂くのに、これ以上の証明の方法が思いつかなったのです」
「成る程な、最初に提案した段階ではお互いに素性を明かしていなかったと聞いたが?」
「殿下とは生垣越しに会話をしておりましたので、身分や私の家名のせいで話し辛くなるならばそのままで話しましょうと、私から提案しました」
「ごっこ遊びの提案も、君からだとか?」
「その通りです。お互いの心残りが一致しましたので」
「心残りとは何だね?」

 そう聞かれ、フェリチアーノは口元に手を当て恥ずかしそうに目線を下に落とした。ごっこ遊びの提案の事もそうだが、大の大人の乙女の様な心残りを国の最高権力者に話すなど、どんな羞恥だと言いたくなるが言わねばどうにもならないのだ。

「お互いに……恋を知らない事です。愛し愛される素晴らしさをお互いに知らないと知り、期限付きでそれに近しい事をすれば、多少なりとも後の後悔が減るだろうと」

 その言葉を聞き、サライアス達は思わず机の上に置かれた魔道具を確認したが、反応は一切していなかった。フェリチアーノの言葉に嘘偽りがない事が証明されていたのだ。
 事前にそうなった経緯はロイズから聞かされていたが、俄かには信じがたかった。そんな夢見る乙女の様な事を言う人間が偶然にも二人も居るものかと。
 実際、目の前の美しい青年は嘘をついてはいない。この美しさなら恋人等作り放題である筈だが、フェリチアーノの家の事を事前に聞いていたサライアス達は、家の事を考えれば誰も不用意にいくら美しいからと誰も近づきはしなかったのも頷けたのだった。

「テオドールの期限は解るが、君の期限とはなんだ?」
「私は家族を、家を捨てる決心が漸くついたのです。爵位も領地も国へお返ししようと思っております。その準備が整いそうなのが丁度殿下の期限と近いのですよ」
「貴族では無くなる覚悟があるのか?」
「もう疲れてしまったと言うのが正直な所なのです……ですので貴族でなくなる事は構いません。それにどのみち私が家族を捨てる事を悟られ、自分達に爵位が無いとわかればそれを物にしようと家族達が動くでしょう。もし彼等に渡ってしまったら領民が可哀想です。それに私には小さな領地を守るだけの力も、気力も、既に無いのです。でしたら早々に返上した方が得策だと考えました。」

 先程まで恥じらいに頬を染めていたと言うのに、今のフェリチアーノは微笑みを浮かべながらも悲壮感を漂わせた憂い顔になっていた。それだけフェリチアーノが家族からどういう扱いを受けていたかがわかると言う物だ。

「のちの事を案じているのでしたら、爵位の返上の件も誓約魔法に組み込んで頂いて構いません。他にも気になる事柄は全て盛り込んで頂いても私は構いません」
「誓約魔法を行使しそれを破ればどうなるか理解しているのか?」
「勿論でございます陛下」
「少しでも違えれば死ぬような物だぞ?」

 眉根に皺を刻み、たかだかごっこ遊びにここまでの提案を申し出るフェリチアーノが理解できないとばかりに見て来るサライアスに、フェリチアーノは殊更綺麗な笑みを浮かべながらハッキリとした口調でこう言い放った。

「元よりこの体はもう長くはないのですよ、陛下」
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