【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

文字の大きさ
上 下
13 / 95

13 誓約魔法

しおりを挟む
 朝食は滞りなく終わり、フェリチアーノはテオドールと共に別室へ移動するように言われそれに従った。

 王宮の中を歩いている等信じられないと言う気持ちを抱きながら、子供の様にはしゃぐ気持ちを隠し、フェリチアーノは城の中にある重厚感溢れる一室へと通される。

 テオドールは隣の部屋で待機するように命じられ、目の前のテーブルに王の側近の男が何やら魔道具らしき物を置き、それを起動させた。
 この国の王であるサライアスとその側近と宰相、僅かな護衛だけを残したこの部屋で一体これから何が行われるのかと、フェリチアーノは背中に冷や汗を流した。

「これは裁判所でも使われる、嘘を暴く魔道具でな、君が一つでも嘘を吐けばコレが反応すると言う訳だ。その場合、君を即座に拘束する事になる。それを踏まえてこれからの質問に答えてくれ。フェリチアーノ・デュシャン、君はこのごっこ遊びに誓約魔法の行使を願い出たと聞いたが、その心に間違いは無いか?」

 眼光鋭く低い声でサライアスに問われたフェリチアーノは成る程、これはある意味尋問であるのだと理解した。
 四方八方から放たれる威圧に、蛇に睨まれた蛙の様な居心地の悪さを感じてしまうが、警戒するのも当然の事だろうと納得は出来るのだ。
 相手は王族、第四王子である。それに公表はされていないが政略結婚も控えている大事な身だ。そこに評判が悪い家の男が近寄ったとなればこの状況は致し方ない、寧ろまだ生ぬるいのではないかとさえ思えた。

「昨夜そのようにロイズ様に申し上げました。私の家の事を考えれば警戒されるのも頷けますから。殿下に邪な思いで近づいた訳では無いと信じて頂くのに、これ以上の証明の方法が思いつかなったのです」
「成る程な、最初に提案した段階ではお互いに素性を明かしていなかったと聞いたが?」
「殿下とは生垣越しに会話をしておりましたので、身分や私の家名のせいで話し辛くなるならばそのままで話しましょうと、私から提案しました」
「ごっこ遊びの提案も、君からだとか?」
「その通りです。お互いの心残りが一致しましたので」
「心残りとは何だね?」

 そう聞かれ、フェリチアーノは口元に手を当て恥ずかしそうに目線を下に落とした。ごっこ遊びの提案の事もそうだが、大の大人の乙女の様な心残りを国の最高権力者に話すなど、どんな羞恥だと言いたくなるが言わねばどうにもならないのだ。

「お互いに……恋を知らない事です。愛し愛される素晴らしさをお互いに知らないと知り、期限付きでそれに近しい事をすれば、多少なりとも後の後悔が減るだろうと」

 その言葉を聞き、サライアス達は思わず机の上に置かれた魔道具を確認したが、反応は一切していなかった。フェリチアーノの言葉に嘘偽りがない事が証明されていたのだ。
 事前にそうなった経緯はロイズから聞かされていたが、俄かには信じがたかった。そんな夢見る乙女の様な事を言う人間が偶然にも二人も居るものかと。
 実際、目の前の美しい青年は嘘をついてはいない。この美しさなら恋人等作り放題である筈だが、フェリチアーノの家の事を事前に聞いていたサライアス達は、家の事を考えれば誰も不用意にいくら美しいからと誰も近づきはしなかったのも頷けたのだった。

「テオドールの期限は解るが、君の期限とはなんだ?」
「私は家族を、家を捨てる決心が漸くついたのです。爵位も領地も国へお返ししようと思っております。その準備が整いそうなのが丁度殿下の期限と近いのですよ」
「貴族では無くなる覚悟があるのか?」
「もう疲れてしまったと言うのが正直な所なのです……ですので貴族でなくなる事は構いません。それにどのみち私が家族を捨てる事を悟られ、自分達に爵位が無いとわかればそれを物にしようと家族達が動くでしょう。もし彼等に渡ってしまったら領民が可哀想です。それに私には小さな領地を守るだけの力も、気力も、既に無いのです。でしたら早々に返上した方が得策だと考えました。」

 先程まで恥じらいに頬を染めていたと言うのに、今のフェリチアーノは微笑みを浮かべながらも悲壮感を漂わせた憂い顔になっていた。それだけフェリチアーノが家族からどういう扱いを受けていたかがわかると言う物だ。

「のちの事を案じているのでしたら、爵位の返上の件も誓約魔法に組み込んで頂いて構いません。他にも気になる事柄は全て盛り込んで頂いても私は構いません」
「誓約魔法を行使しそれを破ればどうなるか理解しているのか?」
「勿論でございます陛下」
「少しでも違えれば死ぬような物だぞ?」

 眉根に皺を刻み、たかだかごっこ遊びにここまでの提案を申し出るフェリチアーノが理解できないとばかりに見て来るサライアスに、フェリチアーノは殊更綺麗な笑みを浮かべながらハッキリとした口調でこう言い放った。

「元よりこの体はもう長くはないのですよ、陛下」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする

葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』 騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。 平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。 しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。 ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

処理中です...