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08 対面

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 相手がフェリチアーノの元まで来てくれると言うので、少しばかり緊張したままフェリチアーノはベンチに座って待っていた。
 先程までは生垣越しに会話していた為に、相手の身分も気にする事なく気が楽であったが、いざ対面するとなると相手がわからないと言う事に多少の不安が過ったし、緊張もしてきてしまった。
 そわそわと落ち着かないまま待っていれば、一度遠ざかった足音が再び近づいて来た事に気が付いた。

「漸く会えたな」

 面白そうに言葉を掛けられ、ハッとして慌てて立ち上がれば、そこに居たのは背の高い偉丈夫で、その姿にフェリチアーノはさぁっと血の気が引いていく感覚を味わった。

「第四王子殿下っ!」

 とんでもない事態に混乱を極める頭に、喉の奥で発せられた自身の声で我に返り、慌てて臣下の礼を取ろうとすれば、その行動を制止されフェリチアーノはどうして良いか解らず、なんとも情けない表情をテオドールに向けてしまう。
 そんな状態のフェリチアーノに対して、まるで悪戯が成功したとでも言いたげな顔をするテオドールは、なんとも楽しそうだった。

「びっくりさせて悪かったよ、改めて、テオドール・ウルキアーガだ」

 そう言って差し出された手とテオドールの顔を未だに混乱する頭で交互に見てしまう。フェリチアーノの動揺がどうやら収まりそうに無いと感じたテオドールは、無理やりフェリチアーノの手を取り、しっかりと握手をした。
 その行動にピシリと固まってしまったフェリチアーノに、テオドールは人懐っこそうな笑みを浮かべ、小首を傾げながら返答を促した。

「申し訳ございません、フェリチアーノ・デュシャンと申します」

 テオドールの催促に慌てて名乗ったフェリチアーノの心臓は、これでもかと早鐘を打っていた。
 いくら先程まで相手が見えていなかったとは言えど、今目の前に居るのは紛れもない王族である。色々話し最終的には期間限定の恋人ごっこなどと言う、とんでもない事まで提案してしまったのだ。
 不敬罪で捕まったとしてもおかしくは無いのではないかと、考えてしまうのは仕方のない事だろう。

 先程までの楽しい雰囲気は何処へやら、今ではすっかりと怯え縮こまり、顔色を悪くするフェリチアーノに、テオドールは苦笑するほかなかった。

「まさかここまで驚かれるとは思わなかったな」
「あの、本当に何と言っていいのか……殿下に対してとんでもない御無礼の数々……申し訳ございません」
「いやいや、そんなに畏縮しないでくれよ。さっきまでの態度と違い過ぎてやり辛いったらない」
「あの、しかし先程までとは状況が……」
「なんだ、俺と恋人ごっこしてくれるんじゃなかったのか?」

 目線を忙しなく動かしていたフェリチアーノはその発言に再び硬直してしまう。

「いや、あの、それは本当に戯れが過ぎたと言いますか……」
「そうなのか? 俺は本気で楽しそうだと思ったからこうして出て来たんだけどな?」

 手を握られたままのフェリチアーノはその場から逃げ出す事も叶わず、テオドールの発言が本気なのかどうかも確認する勇気も出ずと、なんとも悲惨な状態に陥っていた。

「困ったなぁ、本当に俺はさっきの提案が面白いと思ったんだよ。元々側近には残り時間で恋人を作ればいいなんて言われていたけどさ、期限付きだなんて相手に失礼だろう? それにそう簡単に望むような恋人と巡り合えるわけがないしな。その点君は似たような経験があるって言うし、状況もお互い納得済みじゃないか。そんな巡り会わせなかなかないと思うんだよ」

 そう語るテオドールの言葉は、本当にこの話に乗ってくれているのだと思わせるには十分な熱量があった。

「……本当に、やってくださるのですか?」
「弱気だなぁ、それとも俺が相手じゃ不満だった? 好みじゃないとか?」
「いえ、そんな事ないですよ!? ただその、恐れ多いと言いますか……」
「じゃあ決まりだな、これから宜しくフェリチアーノ」

 垂れ気味の目じりを更に下げ、心の底から嬉しそうに微笑んだテオドールは、掴んでいたフェリチアーノの手の甲にキスを落とす。
 月光りの中、なんとも麗しい光景であったが、フェリチアーノの心の中は未だに混乱を極めるばかりだった。
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